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メアリー&マックス [映画感想−ま]

人形アニメと聞くと思わず「えっ何!?」と立ち上がってしまうほど、
この手のストップモーションアニメが大好きなので、
これもその存在を知った瞬間に必見!と思っていたわけですが、
これがまたどうして、なかなかに強力な作品でした。


メルボルン郊外に住む8歳の少女メアリーは、
仕事と趣味にばかり没頭している父親とアルコール依存症の母親との3人暮らし。
額にあるアザのせいで学校ではいじめに遭い、孤独な毎日を送っていた彼女は、
ある日ふとアメリカに住む誰かに手紙を出そうと思い立ち、
電話帳から変わった名前の人を探し出して手紙を送ります。
その相手はニューヨークに住む、人付き合いが苦手で、
同じく孤独な日々を送っていた44歳のマックス。
遠くオーストラリアから突然届いた一通の手紙に動揺しながらも、
彼はメアリーに返事を書きますが・・・。


ポンポン
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観る前になんとなく情報が耳に入って来てはいたので、
これが単なるカワイイとかファンタジーとかいうような人形アニメでないことは、
最初から覚悟してはいたのですが、いやはやここまでとは考えていませんでした。
登場人物ほぼ全員が何かしら悩みや問題を抱えています。
それは身体的なものだったり精神的なものだったりいろいろなのですが、
そのせいもあってか、家族や友人に恵まれず孤独に暮らしている人ばかりです。
そんなストーリーの重さや人形たちのハッキリ言って可愛くはない、
どこかしらちょっとグロテスクですらある様子から、
最初から気楽に観ることを許さないようなダークさを感じてはいたのですが、
そうは言っても人形の仕草や表情、細密なセットの作りなど、
それらはダークではあっても愛らしさも十分持ち合わせていて、
その動作のひとつひとつを、最初のうちは楽しんで観ていたのですが、
かなり早い段階からこれが人形アニメであることはどうでもよくなっていって、
というか人形アニメであることも忘れてしまって、
その重いストーリーの中にどっぷりハマりこんでしまいました。

例えば『ウォレスとグルミット』のような作品だと、
コマ撮りの素晴らしさや楽しさ、キャラクターの愛らしさなどを常に意識し、
ストップモーションの出来栄えに驚嘆しながら観ている気がするのですが、
今作に関しては、そのストーリー自体に心が持っていかれてしまった感じです。
でもこの重さをもし生身の人間が演じていたとしたら、
もっとヘビーでいたたまれないものになっていたかも知れないし、
この作品を十分に"楽しめ"たのはやはり人形アニメだったからなのかもという気もします。


赤ちゃんはどこから?
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額のアザ、いじめ、両親との関係など8歳の少女にとっては十分につらい現実の中、
それでもメアリーは明るく、前向きに生きています。
彼女が思いつきで始めた文通は遠い場所に暮らすマックスの生活も変えていきます。
アスペルガー症候群であるマックスは、そのことがもたらす悩みを抱えながらも、
それをきちんと受け止め、なんとかそれと付き合いながら都会の片隅で生きています。
二人は手紙のやり取りの中で、相手の文章に一喜一憂します。
特にマックスは、メアリーの8歳の少女らしい真っ直ぐな文章に喜び、驚き、
時にその驚きが彼を深く苦しめることもありますが、
それでもメアリーからの手紙を楽しみ、そして自分について語ります。
まったく見ず知らずの、遠い国に住む親子ほどに年の離れた二人が、
自分に出来る範囲で相手を思い、文章や贈り物を届け続けます。
そこに、人と人が付き合っていくことの楽しさや難しさがいくつも見えます。
メアリーは幼い子どもだし、マックスはアスペルガーという”病い”を抱えている。
そのことが、いわゆる普通の大人同士の付き合いとは違う、
ウソ偽りのない真っ直ぐな関係を育んでいきます。
おそらく今の自分がこういう関係を望んだとしても、
決して誰とも築くことが出来ないんじゃないかという寂しさを感じ、
二人がとても羨ましく思えました。

いろいろありながらも続いていく二人の文通。しかしマックスと違いメアリーは成長していきます。
年齢と共にさらに別の悩みも増え、しかし彼女は変わらず前向きに生きている。
やがて大学生となったメアリーは、マックスのためという"思い込み"である行動を取り、
その結果、マックスを深く傷つけてしまいます。
信頼しあっていた関係でも、ちょっとした気持ちのズレが取り返しのつかないことをしてしまう。
特にメアリーがとった行動は誰もが陥りやすい過ちで、だからこそメアリーの気持ちもわかるし、
そしてマックスの思いも、ここまで観て知った彼の様子から痛いほどわかってしまう。
そうなってしまった事実に本当に心が痛みます。


万引きダメ
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そしてメアリーもおそらく初めてと言っていい、深い挫折を味わうことになります。
彼女はおそらく憎しみはなくとも"自分はこうはならない"と思っていたであろう、
自分の母親と同じようにお酒に溺れ始めます。
それがどんどん彼女を不幸に追いやり、やがて絶望の末に彼女がとる行動。
そこで流れる曲が『ケ・セラ・セラ』。
"なるようになる"という楽天的なこの歌が使われる皮肉さに、
胸が押しつぶされそうなくらいの痛みをおぼえ、また唐突に、
『17歳のカルテ』でスキーター・デイヴィスの『The End Of The World』が、
同様なシーンのバックで流れていたことを思い出しました。
こちらは『ケ・セラ・セラ』とは違い文字通り悲しい曲ではあるのですが、
いずれも絶望のシーンに流れる美しい音楽という意味では、
私にとってこんなに意地の悪い演出はありません。
このあたりから本格的に決壊した私の涙腺は、そのままエンディングまで溢れ続け、
それでもその結末はハッピーエンドとは言えないかもしれないけれど、
ずっと続いていた胸の痛みがそこで「ああよかった」という、
シンプルでホッとする、安堵のような不思議な感情に変わり、
この美しいエンディングをいつまでも抱きしめていたい気持ちでいっぱいでした。

病とか恵まれない境遇といったものは確かに不幸なことなのかも知れません。
けれどそれが不幸であるか否かは他人が勝手に決めることなのかも知れないし、
大事なのは本人がどう思ってるかであり、他人にはどうすることも出来ないし、
してはいけないことなのかもと思いました。
相手のために良かれと思ったことが必ず良い結果になるとは限らない。
また、これが一番自分を幸せにすると思ったことも意外にも違う結果に終わったりもする。
シミ取り手術が成功しても幸福は訪れず、粉々になったチョコレートの贈り物が心を温めたりする。
人との付き合い方、そして「人を愛するにはまず自分を愛せよ」という、
誰もが知っているようでうっかり忘れてしまっていることを、
メアリーとマックスが優しく優しく教えてくれました。


Mary and Max(2009 オーストラリア)
監督 アダム・エリオット
声の出演 トニ・コレット フィリップ・シーモア・ホフマン エリック・バナ
     バリー・ハンフリーズ ベタニー・ホイットモア



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ガリバー旅行記 [映画感想−か]

タイトルのアタマに"ジャック・ブラックの"と絶対に付けるべき!
それぐらいこれは、まさにジャック・ブラックの映画!


ニューヨークの新聞社のメール室で働くレミュエル・ガリバー(ジャック・ブラック)は、
何をやってもダメ男。新聞記者になる夢もいつしか諦めダラダラとした毎日を送っています。
ある日彼は、何年も片思い中の新聞記者のダーシー(アマンダ・ピート)に、
成り行きで自分の書いた文章を読ませることを約束してしまいます。
しかし何を書けばいいのかまったく思いつかず困り果てたガリバーは、
ネットで拾った記事をまるパクリの紀行文を書きますが、そうとは知らないダーシーは、
ガリバーの文才に驚き、彼にバミューダトライアングルの取材を任せます。
意気揚々と一人ボートで海へ出るガリバー。しかし突然の嵐に巻き込まれてしまい、ある島へ漂着。
目覚めた彼は何故か浜辺で縛り付けられていて、その周囲にはとても小さな人々が。
そこは小人たちが住む"リリパット王国"だったのでした。


カラダもデカイが態度もデカイ
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本当に今作はジャック・ブラック以外のキャスティングが考えられない!
元々、ジャック・ブラック主演作品にはそういうのが多くて、
今作の主人公ガリバーも予想をまったく裏切らない、いつものジャック・ブラック。
仕事はいい加減、デブでサエない見た目を恥じるでもなく、プライドだけはやたら高い。
そして音楽的センスはなぜか良かったりするところもお約束。
それは『スクール・オブ・ロック』や『ハイ・フィデリティ』『テネイシャスD』
(それに『カンフー・パンダ』ですらも!)などなど、
彼がこれまで演じてきた役柄とまったく同じなのです。
でも、だからつまらないかというとそんなことはなくて、
(・・・あ、このジャック・ブラックのキャラが苦手だったらダメかもですが)
大好きな私のような者には「よっ、待ってました!」の世界なのでした。

ガリバー旅行記は子どもの頃に読んだはずですが、
全部読んだわけではないし、実は記憶もほとんどありません。
ガリバー旅行記と聞くと"小人の国"でガリバーが浜辺で縛り付けられてるといった、
いわゆる"ガリバー"という言葉でまず想起されるあの情景ぐらいしか思いつかないのですが、
今作でもまったくそのまんまのシーンが登場しますし、
パンフレットによるとストーリーも意外にもかなり原作に忠実なのだそうです。
大勢の小人たちがガリバーの背中の上を行進してマッサージしたりとか、
大砲の弾がガリバーの身体に命中したところでなんでもなかったりとか、
そういった小ネタはどれも楽しく、とてもバカバカしい。
どれもジャック・ブラックのだらしない身体を十分に活かしていて、
これが普通の体型の人ではこの可笑しさは物足りないだろうなあと思うし、
こういうところもやはりジャック・ブラックならではの映画だと思います。


ノッてます
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ガリバーと小人たちの縮尺の違いはCGによって、
まったく違和感なく描かれていて"怪獣映画"としても十分楽しめます。
ジャック・ブラックは映画『キング・コング』では、キング・コングを捕らえ、
孤島から都会へと連れて行き見せ物にしましたが、
今作での彼はそれとはまったく逆で、彼の方がまさにキング・コング状態。
ガリバーがメアリー王女(エミリー・ブラント)を手で掴んで助け出し、
そっと安全な場所に置く仕草は、どうしてもキング・コングを思い出さずにいられませんでした。
ただこれだけ巨大なものが動き回っていれば、何より振動とか、
風圧とかもスゴイことになって、小人たちなんて簡単に吹っ飛ばされるんじゃないの?
なんてこともつい思ったりしたんですが、まあ大きなお世話です。

ところでこの巨大な人間と小さい人間たちの対比というのはどうしても、
『ナイトミュージアム』でのベン・スティラーとローマ帝国軍やカウボーイらとの、
人間対ミニチュア人形を思い出させます。
今作はこの『ナイトミュージアム』と同じ製作スタッフが関わってるらしいし、
アイディアはアレから来たんだろうなあと容易に想像されるのですが、
というわけで『ナイトミュージアム』を楽しめた人は絶対楽しいはず!
(アレが好きって人、あんまりいないかもなあとも思うんですが・・・)


イザというと弱気
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物語ではさらにガリバーが"呪いの島"という、今度は大小が逆転した国に行き、
巨大かつものすごく乱暴な女の子にいたぶられるのですが、
ジャック・ブラックの女装というキワドさも併せてバカバカしくて面白かったです。
随所に散りばめられた『スター・ウォーズ』ネタも楽しいし、
ラストは意外な対ロボット合戦になったりもして、
とにかく盛りだくさんだった気がするのですが、驚くことに上映時間は85分!
お得意のロックで盛り上がろうぜー!なシーンもきちんと挟みつつ、
(エドウィン・スターの『War』で踊るエンディングとか!w)このまとめ方はお見事!
いや、これ以上長いとちょっと飽きちゃったかもなあとは正直思うんですが。

エミリー・ブラントとアマンダ・ピートの2人のヒロインはどちらもチャーミング。
何かとガリバーの助けになったり助けられたりのホレイショ役ジェイソン・シーゲルも、
エミリー・ブラントに合わせてここはもうちょっと若くて普通にイケメンな役者にしてもいいのに、
そうしないところが個人的にはすごく嬉しかったり。
(いや、あの界隈でジェイソン・シーゲルはまだ若くてイケメンな部類なのか?
・・・って、それはないな。)

ちなみに今作は3D作品として公開されたのですが、私は2D字幕版で鑑賞しました。
ガリバーの巨体や、矢や銃弾が飛び交うところとか3Dだと飛び出して来るのでしょうか?
オープニングのニューヨークの景色がチルトシフトな映像でミニチュアのように見えて、
一足先にガリバー気分を味わえる演出なのですが、これが3Dだと楽しかったかな?
と思ったりしましたが、2Dでも十分楽しめました。


Gulliver's Travels(2010 アメリカ)
監督 ロブ・レターマン
出演 ジャック・ブラック ジェイソン・シーゲル エミリー・ブラント
   アマンダ・ピート ビリー・コノリー クリス・オダウド T・J・ミラー



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Fight For Your Right – Revisited [music]

昨年12月頃にこの写真を初めて見て、
「何このなんちゃってビースティ・ボーイズ!プププ!」
と思わず笑ってしまったのですが、なんとこれが本当にビースティ・ボーイズだった!?


ナンダコリャ?
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ビースティ・ボーイズは今年4月にニューアルバムをリリース。
これに合わせてメンバーの1人、MCAことアダム・ヤウクが、
その名も『Fight for Your Right Revisited』というショートフィルムを監督、
この写真はその1シーンだったワケです。

このショートフィルムは、ビースティの大ヒット曲
『(You Gotta)Fight For Your Right (To Party!)』のPVの続編、
ということになっているのですが、特にストーリーらしいものはなくて、
イライジャ・ウッド(アドロック)、ダニー・マクブライド(MCA)、
そしてセス・ローゲン(マイクD)の"ビースティ・ボーイズ"が、
ニューヨークの路上で破壊や略奪などやりたい放題、大暴れしていると、
そこにウィル・フェレル(アドロック)、ジャック・ブラック(MCA)、
ジョン・C・ライリー(マイクD)の”ビースティ・ボーイズ”が未来(?)からやって来て、
そこでなぜか急遽新旧対決、ダンスバトルが始まる・・・という展開。

・・・まあ、この顔ぶれなんで、最後はしょーもない悪ふざけで終わるのですが、
何がスゴイってこれ、この上記新旧ビースティメンバーに扮した俳優たちのほかに、
登場する俳優陣がもうびっくりするぐらい豪華な顔ぶれ!

オリジナルビデオにも登場してた父親と母親役をそれぞれ、
スタンリー・トゥッチとスーザン・サランドンが演じてる!
さらにスティーヴ・ブシェミ、オーランド・ブルーム、ジェイソン・シュワルツマン、
キルスティン・ダンスト、クロエ・セヴィニー、アリシア・シルヴァーストーン、
ローラ・ダーン、メアリー・スティーンバージェンなどなど、有名どころがズラリ。
またウィル・アーネット、アダム・スコット、レイン・ウィルソン、エイミー・ポーラー、
マーヤ・ルドルフ、ラシダ・ジョーンズなどお馴染みアパトーギャングの面々も多数出演。
しかもそれがほんの一瞬だったり、あるいはとんでもない扮装で登場していたり。
こんなすごい顔ぶれが一堂に会する作品なんてめったにないし、
どこに誰が出ているか探しながら観るのも本当に楽しいです。
あ、ビースティのメンバーもちゃんと出演していますよ。


というわけでこちら。全編30分の超大作!




私はビースティ・ボーイズ自体にはそれほど特別な思い入れはないんですが(!)、
大好きなフラットパック&アパトーギャングの面々が次々登場してくれるのが、
心の底からウレシクて、思いがけない新作登場にかなーり興奮気味です。
特にオールド・ビースティ組の3人が良い味出しまくってるし、
ウィル・フェレルはほかの役でも登場して、なんとカウベルを聴かせてくれる!
(なんのこっちゃ?という方はウィル・フェレルと"カウベル""More Cowbell"
"ブルー・オイスター・カルト"とかでググってみてください!)


おやぢビースティ
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ちなみにこちらはオリジナル『(You Gotta) Fight For Your Right (To Party)』
1986年ですよ。びっくり!




それにしてもちゃんと俳優たちには出演料払ったんでしょうか・・・とんでもない額だろうなあ。



Hot Sauce Committee Pt. 2

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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Capitol
  • 発売日: 2011/05/03
  • メディア: CD


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ファンタスティック Mr.FOX [映画感想−は]

以前こんな記事こんな記事を書きましたが(日付を見ると2009年8月&11月!)、
その後も日本公開のニュースはまったく聞こえて来ず、諦めかけていたところ、急に公開決定!


Mr.FOX(ジョージ・クルーニー)は人間の農家からニワトリやアヒルを盗むプロ。
しかし妻Mrs.FOX(メリル・ストリープ)の妊娠を機に泥棒稼業から足を洗います。
それから2年後(キツネ年で12年後)、Mr.FOXは新聞記者として働き、
妻と(キツネ年で)12歳になる、ちょっと変わり者の息子アッシュ(ジェイソン・シュワルツマン)
と共に幸せな穴ぐら暮らしをしていましたが、42歳(キツネ年で)になったMr.FOXは、
日々の生活に物足りなさを感じ、アナグマ弁護士のバジャー(ビル・マーレイ)の反対も聞かず、
見晴らしの良い丘の上の家を購入します。
しかしこの丘は近くにとてつもなく強欲で意地悪な3人の農場主が住んでいる危険地帯。
ところがMr.FOXは妻や息子に内緒でこっそり泥棒稼業を復活させ・・・。


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ウェス・アンダーソンは本当にニガテというか相性が悪くて、
ビル・マーレイの魅力(?)とヘンリー・セリックが担当したアニメパートが素晴らしい、
『ライフ・アクアティック』はまあまあ"好き"だったんですが、そのほかは、
どんなにお気に入り俳優が登場しようとどうしてもハマれない監督でした。
というわけで今回も大袈裟じゃなくヒヤヒヤしながらの鑑賞で、
これでダメなら本当に彼の作品とは決別しよう!ぐらいの気持ちで挑んだわけですが、
・・・いやあ、これはよかった!

まあ、ストップモーションアニメというだけで点数は甘くなってしまうのですが、
『ライフ・アクアティック』の潜水艦断面図に通じる地中の横穴などが、
蟻の巣穴観察のような楽しさで、とにかくずっと観ていたいぐらい楽しい!
室内インテリアの細かさなどはリカちゃんハウスに夢中だった少女時代を思い出し、
こんなドールハウスが欲しい!と本気で思ってしまいました。
よくまあここまで凝ったものを作ったなと、そのこだわりぶりはウェス・アンダーソンらしい。
らしいといえば、彼の作品でよく使われている横移動撮影がここでも多用されていて、
それがなにか紙芝居的なものを感じさせ、雰囲気にすごく良く合っています。
それは意識してのものなのか、あるいは横移動=人形劇的なものが元々好きで、
だからこういう作品を作ろうと思い立ったのか、そのあたりはよくわかりませんが、
もうずっとこの路線で行ってくれていいよ!と見終わって心の中で叫んでしまいました。


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『チャーリーとチョコレート工場』(あるいは『夢のチョコレート工場』!)の原作、
『チョコレート工場の秘密』などを書いたイギリスの作家、ロアルド・ダールの、
『すばらしき父さん狐』が原作だそうで、これは残念ながら未読ですが、
それらしい手作り感たっぷりの可愛いぬいぐるみ的ルックスは確かに童話的で、
けれどもストーリーは程良くダーク。
キツネ対人間の戦いというか騙しあいはチョコレート工場に通じるブラックさがあり、
当然人間側が悪役となってしまうのは仕方ないのかも知れませんが、
キツネたちの行動も、そりゃあこれじゃ人間怒っちゃうよなあと思ったり。

Mr.FOXは一見クールでスマートなのですが、このまま普通の夫や父親でいたくなくて、
本来の仕事である泥棒稼業をこっそり再開します。
新聞記者でいろいろ理屈っぽいことを言ったりもするのに、
泥棒仕事の時はいかにも"ズルいキツネ"ぶり。
また、Mr.FOXの甥のクリストファソン(エリック・アンダーソン)が、
Mr.FOX家に居候することになるのですが、このクリストファソンが、
勉強もスポーツも何もかもソツなくこなすMr.FOXもビックリの知性派。
そんなクリストファソンやMr.FOXなど、一見クールな彼らがいざ食事となると、
野性味溢れる乱暴さでガツガツとそこらじゅうまき散らすように食べ散らかしたり、
何かあると「ガルルル・・・」と歯を見せて唸り声を上げたりして、
そのあたりのギャップがとにかくオカシイです。


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Mr.FOXのクールだけどいざとなると熱くなったりするキャラクターは、
声を担当しているジョージ・クルーニーが普段演じている役柄に微妙に重なるようで、
なかなか上手い起用だなあと感心しました。
冷静沈着だけどいざとなると・・・という妻がメリル・ストリープというのもなるほどだし、
イマイチ出来の悪い息子アッシュをジェイソン・シュワルツマンが演じるのもすごくピッタリ。
"アンダーソン組"のビル・マーレイやオーウェン・ウィルソン、
それにウィレム・デフォーの農場の用心棒ぶりとか本当に楽しい。
常連を(声のみなのに)使いながらいずれも適役というのは、
この作品がまったくいつもと変わらない、まぎれもないアンダーソン作品である、
ということなのかも知れないと思いました。
メインが父親と息子の関係という点もいかにも彼らしいし、
とにかくなんだかまるっきり私の苦手なアンダーソン・ワールド満開と言ってもいいのに、
こんなにすんなり受け入れられるのはなぜだろう?とずっと考えているのですが、
常に私が彼の作品から感じてしまってイヤな気分になっていた、
過剰なのに素っ気ない、いわゆるスノッブさのような彼の"スタイル"が、
人形アニメにすることで適度に薄まるのか、人形というフィルターがかかることで、
作り物くささがすんなり受け入れられるということなのかも、と思いました。
しつこく繰り返しますが、ずっとこの路線で行ってくれないかしら。


Fantastic Mr. Fox(2009 アメリカ)
監督 ウェス・アンダーソン
声の出演 ジョージ・クルーニー メリル・ストリープ ジェイソン・シュワルツマン
     ビル・マーレイ マイケル・ガンボン ウィレム・デフォー
     オーウェン・ウィルソン ジャーヴィス・コッカー



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すばらしき父さん狐 (ロアルド・ダールコレクション 4)

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  • 作者: ロアルド ダール
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 2006/02
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トゥルー・グリット [映画感想−た]

コーエン兄弟の新作はジョン・ウェイン主演『勇気ある追跡』('69年)のリメイク。
実は西部劇が苦手なので、このオリジナルも未見です。
コーエン兄弟と西部劇、ちょっと意外な組み合わせですが、
出演者も魅力的だし、頑張って観てきました。


父親を殺された14歳の少女マティ(ヘイリー・スタインフェルド)は、
その犯人であるトム・チェイニー(ジョシュ・ブローリン)に復讐するため、
連邦保安官コグバーン(ジェフ・ブリッジス)を雇い、チェイニーを探すことにします。
そこに同じくチェイニーを追うレンジャーのラビーフ(マット・デイモン)も加わり、
三人はチェイニーが逃げ込んだと言われる先住民居留地に入りますが・・・。


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私は西部劇(と戦争映画)が本当に苦手で、
実は今でもあまり積極的に観ようと思わないジャンルなのですが、
それでも"勉強のため"に観た『駅馬車』や『ワイルドバンチ』、
イーストウッド作品などは観たら観たで面白いと思うので、
なるべく観なくてはと思ってはいるのです。
ですが、砂埃舞う様子や女性がないがしろにされてる気がしたりなど、
やはり今もなかなか食指が動きません。
というわけで今作もかなり観るのにためらいがあったのですが、
結論から言うと、とてもとても面白く観ることが出来ました。

14歳の少女視点の物語というのがまず新鮮で面白かった。
最初の、マティと商人が繰り広げる交渉シーンは、
演じるヘイリー・スタインフェルドの巧さもあってとにかく見入ってしまいました。
コグバーンたちを追って馬のまま川に飛び込むシーンにはワクワクさせられたし、
かと思うとラビーフにお尻ペンペン(!)シーンのしつこさ、
コグバーンの宿敵ネッド・ペッパー(バリー・ペッパー)には、
地面に叩きつけられた上にブーツで顔を踏みつけられたりと、
男たちの、相手が少女であろうと容赦しない感じは、
マティをこの作品に於いてどう捉えればいいのか、
何も知らない子ども扱いなのか、大人になりかけの少女なのか、
そのあたりの微妙さも、何か不安定で不思議なものに感じられて、
そのずらし加減のようなものも面白かったです。


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高い木の上に吊された死体、熊の毛皮をかぶった歯医者など、
独特でシュールにも思える映像や暴力描写の容赦ない感じ、
ユーモラスさと冷たく苦い現実が冷静に平等に描かれているところなどは、
コーエン兄弟らしさを感じたし、西部劇知識の薄い私が言うのもなんですが、
やはりただの西部劇ではないのかなあと思いました。

中でも一番印象的だったのは、コグバーンがヘビに噛まれたマティを医者に診せるため、
マティの愛馬ブラッキーにマティと共に乗り疾走するシーン。
日が沈み、やがて降るような星空の下を走る彼らを延々カメラが追いますが、
この美しい夜のシーンが何かに似ているなと思い、
そうだ!『狩人の夜』でロバート・ミッチャムの手から逃れようと、
幼い兄妹がボートに乗って川を下るシーンだ!と思い当たりました。
帰宅してから調べてみるとそういう指摘をされている人がいてホッとしたのですが、
驚いたことに、今作でたびたび使われていた『Leaning On The Everlasting Arm』という曲が、
実は『狩人の夜』でロバート・ミッチャムとリリアン・ギッシュが、
劇中で歌う賛美歌だったと知りまたびっくり!
"悪"に追われる子ども、あるいは弱い存在と思われる老婆が決して"悪"に対して怯まないなど、
『狩人の夜』の登場人物たちがマティに重なって見え、今作とどこか通じるものがあるような気もして、
この意外な引用に驚きと、さらに喜びのようなものも感じてしまいました。


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飲んだくれでだらしないジェフ・ブリッジスはまったく意外性のないキャスティングですが、
それだけに、これを彼以外の人が演じるのも想像できないハマリぶり。
逆にヒゲと長いもみあげで一見彼とはわからないマット・デイモンは、
潔癖症だったり、どんなに痛めつけられてもめげない姿などユーモラス。
『ノーカントリー』とは逆に追われる悪人を演じたジョシュ・ブローリンも、
少ない出番ながら印象的な"小物ぶり"を見せるし、さらにもう一人、
これまた悪人でありながらほかのチンピラとは違う懐の深さのようなものをチラリと見せる、
バリー・ペッパーの化けっぷりもとても印象深かったです。
そして何より今作を魅力的にしているのは、マティを演じたヘイリー・スタインフェルド。
ほぼ役と同じ年齢で、どうしようもない大人たちを相手に一歩も怯まず、
マティというキャラクターを完璧に演じきっていました。
また一人、将来が楽しみな女優さんの登場でワクワクしています。


True Grit(2010 アメリカ)
監督 ジョエル・コーエン イーサン・コーエン
出演 ジェフ・ブリッジス ヘイリー・スタインフェルド マット・デイモン
   ジョシュ・ブローリン バリー・ペッパー



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