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ファニー・ガール [映画感想−は]

子どもの頃に観たはずなのですが、ほとんど記憶になく初見に近い状況。
序曲やインターミッションもある150分の超大作!
実はドラマ『glee(グリー)』にすっかりハマっているもので、
だから観なくてはいけない作品だったのです!
その説明は後ほど。


下町のボードビルショーの踊り子ファニー・ブライス(バーブラ・ストライサンド)は、
なぜかいつも失敗ばかり。しかしある日この彼女の失敗が観客に大受けし、
彼女は劇場の看板スターとなります。
そんな彼女の前に現れたのはギャンブラーのニック(オマー・シャリフ)。
二人は惹かれ合いますが、互いに気持ちを表せないまま別れてしまいます。
そんな時、ブロードウェイの大興行師ジーグフェルド(ウォルター・ピジョン)が、
ファニーをスカウト、彼女は一躍トップスターとなりますが・・・。


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ドラマ『glee』で、ミュージカルスターを目指す女子高生レイチェルが、
この映画の中の1曲『パレードに雨を降らせないで(Don't Rain On My Parade)』
を歌うエピソードがあります。
この曲の入った『glee』のサントラを繰り返し聴いているので、
これはすっかりお馴染みの曲となっているのですが、
昨年のトニー賞でもレイチェルを演じるリア・ミシェルが、
ステージでこの曲を披露したりということもあって、
私の中ではすっかりレイチェルといえばコレ!という曲になっているのです。
ほかにもレイチェルは別のエピソードで『マイ・マン(My Man)』を歌ったり、
ライバル校グリー部の顧問シェルビー(イディナ・メンゼル)が、
『ファニー・ガール(Funny Girl)』を歌うエピソードがあったりと、
『glee』を楽しむためにこの作品は観ておいてソンはない作品と言えると思います。

オリジナルであるバーブラの歌うシーンはYouTubeで観たりもしていたのですが、
今回観ていて劇中でこの曲が始まるとさすがにぞくっと鳥肌が立ってしまい、
なるほどこういう展開でこの曲が歌われるのかあと感心というか感動に近いものがありました。
この作品は実在したミュージカルスター、ファニー・ブライスの生涯を題材にし、
バーブラのために書かれたブロードウェイ作品で、これはその映画化であり、
彼女の映画初出演作品でもあります。
モデルとなったファニー・ブライスのことはまったく知らないのですが、
この通りの人であったのだとしたらかなり個性的で勝ち気、歌の才能は言うまでもなく、
おそらくバーブラはまさに適役だったんだと思います。
実在の人物をモデルにしていながらも、物語としては確かにドラマチックで波瀾万丈。
・・・ですが、私はどうもお話自体にいまひとつ乗り切れませんでした。


funnygirl_2.jpg


というのも、この主人公ファニーの行動や性格がどうしても好きになれないのです。
まだ新人の立場でありながらステージでいきなり勝手なアドリブを加えてみたりして、
結果的に観客からは喝采を浴び、周囲は彼女を認めざるを得なくなるのですが、
いかにも映画的ありがちな展開ではありますが、何かスッキリしないものを感じてしまいました。
スターになってからも恋人のあとを追ってステージをキャンセルしたりと、
仕事より恋を選んだとかなんとか言えなくもないのですが、
周りからみたらたまったもんじゃないだろうなあとどうしても思ってしまったのでした。
まあステージ上のことは結果オーライだし、恋愛を優先するのもドラマとしてはアリですが、
それがなんかなあと思ってしまうのは、脚本や演出にミュージカル特有のあっけらかんさというか、
基本的な明るさとかいい意味の脳天気さのようなものが少なくて、
長尺のせいもあってかどこかテンポの悪さを感じてしまい、
前半はまあまだあれやこれやで明るくテンポ良く進みはするのですが、
後半になると、物語の暗い展開どおりに深刻になっていくのです。

一番のハマれないポイントは、だいたいあんな胡散臭い男を好きになってしまう時点で・・・と、
それを言ったらオシマイなことかも知れないのですが、どうもここに乗れない点があった気がします。
事実だから仕方ないのかも知れないし、イマイチな男に引っかかってしまったのならそれはそれで、
それでも彼女の芸の肥やしとなりそして彼女たちは舞台へ向かった・・・オシマイ、
でいいはずなのですが、中途半端に深刻な方向に持って行ってしまった感じだし、
ここはジーン・ケリーやダニー・ケイの作品のように、もう少し泣き笑いな感じで終えて欲しかったです。
あるいは、全体を短めにテンポ良くしてドラマチックさを減らしても良かったかも。
それと、ニックを演じているオマー・シャリフがどうも精彩に欠けるというのか、
何かひとつ物足りなさがあって、この人もう少し魅力的な人じゃなかったかなあ、
『ドクトル・ジバゴ』とかもうちょっとステキだった気がするんだけど、
なんてことも思ったりしました。


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歌われる曲はバーブラの歌唱力もあってどれも魅力的ではあるのですが、
特別印象的なものがあるかというと微妙な気もしました。
それこそ『glee』のことがなければ曲そのものにはあまり関心を寄せなかったかなと思います。
ただ『パレードに雨を降らせないで』は確かに前半のクライマックスで、
ロケ撮影も交えた映像はなかなか見応えはあります。
こんな風にドカンと見せるシーン、聴かせる曲がもうちょっとあると良かったかな。
こういう超大作ミュージカルは思いっきり夢を見せて、聴かせて欲しいと思うのです。
しかしバーブラの歌は本当に素晴らしいし、演技もルックスも若くてカワイイ。
今回観ていてつくづく思ったのは、彼女は本当にジェニファー・アニストンに似てるなあということ。
いや逆かな?ジェニファー・アニストンのコメディ演技は絶対にバーブラから来ていると確信。
しゃべり方や表情、身体の動きからヘアスタイルまで本当にそっくりで驚きました。


Funny Girl(1968 アメリカ)
監督 ウィリアム・ワイラー
出演 バーブラ・ストライサンド オマー・シャリフ アン・フランシス
   ウォルター・ピジョン


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ブルーバレンタイン [映画感想−は]

ポスターや予告編からはオシャレなラブストーリーのイメージを受けたんですが、
実際は全然違って、ものすごく現実的でシビアで残酷な作品。
これは観る人によって感じるところは相当違うのではないかと。


シンディ(ミシェル・ウィリアムズ)とディーン(ライアン・ゴズリング)の夫婦は、
娘のフランキー(フェイス・ウラディカ)と三人暮らし。
病院で看護師として忙しい日々を送るシンディと違い、
ディーンの仕事は朝からビールを飲みながらでも出来るペンキ塗り。
シンディはそんなディーンにもっときちんとした、やりがいのある仕事に就いて欲しいと思い、
そのため二人はことあるごとに言い争い、喧嘩になってしまうのでした。
ある朝、飼い犬の行方がわからなくなり、シンディはその犬が路上で死んでいるのを発見します。
深い悲しみに沈むシンディを慰めようと、ディーンは町外れにあるラブホテルへ行くことを提案。
気乗りしないシンディをなんとかなだめ、二人はホテルへと出発しますが・・・。


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物語は結婚して数年後の現在と、二人が出会って結婚へ至るまでの過去が交互に描かれ、
現在の冷め切ってしまった(少なくともシンディは)夫婦間の、
なにをやってもうまく行かない様子がとにかくどれもこれもイヤになるほどリアルで痛々しく描かれ、
観ていると本当につらいというかやるせない気持ちになってしまいます。
長年付き合ってるカップルだったら多かれ少なかれ経験しているような、
ああワカルワカルという話満載で、こんな話を見せられてもなあと、少々ウンザリ。
これは私が女でどうしてもシンディの側に立って観てしまうのかも知れませんが、
こんなディーンのような夫や彼氏だったらそりゃあこうなるよなあと思うことばかりだし、
ディーンのあまりの鈍感さを弁護できる人がいるなら出てきて欲しいぐらい。
これぐらい許してやれよと言うのなら、心の狭い女のままでいいなとすら思ってしまいます。
とにかくそれぐらいディーンには救いがなくて、彼を観て「ああ俺みたいだ」と思った男性は、
すぐにでも考えを改めること!と強く言いたくなります。

『(500)日のサマー』は恋に憧れる男トムと愛を信じない女サマー、という図式で、
主に(というか全編)トム側の主観だけで描かれ、その一方的な感じが今作で言うと、
ほとんどの問題はディーンが原因で、観ている側はどうしたってシンディに同情してしまうところが、
どことなく通じるような気がしました。かなり状況は違いますが。
しかしあちらはサマーを"得体の知れない存在"とすることで、
本当はトムのほうがどうしようもないヤツかも知れないとか、
やっぱりサマーはとんでもないビッチだったのだとか議論の余地もあり、
恋愛の美しさ残酷さを見た目も美しく愛らしく描くことで、
上質なラブコメディとして楽しめる作品になっていたと思うのですが、
今作を観るとそんなのはやっぱり夢物語なんだよとバッサリ言い渡されるような、
最初から最後まで、とにかく暗い暗い話になっています。
出会った頃はこんなヤツとは思わなかっただろうけど、
こんなディーンをシンディは選んでしまったのはどうしようもないことで、
そもそもシンディがあんなことにさえなってなければ・・・とか、
まあそんな風に、恋愛なんて始まりは美しくともキレイゴトのまま終わるわけはないという、
誰もが知っているのに気付かないふりをしているようなあれやこれやをドスンと提示して、
いったいこれを見せられた私はどうすればいいの?と、重い気持ちで劇場を後にしたのでした。


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監督のデレク・シアンフランスが脚本を書き始めたのが1998年で、
映画の完成までに実に11年もかかり、その間60回以上も書き直しをして、
あまりにも書き直し過ぎたためウンザリしてしまった彼は、
撮影時には主役二人にプロットだけ告げてほとんどアドリブで演じさせたのだそうです。
そんなストーリー以上にハードなエピソードを聞くと、
二人はよくそんなことをやりきったものだと感心してしまうし、
だからこその生々しさ、リアリティなのかも知れないと思いました。
シアンフランス監督はびっくりするぐらいライアン・ゴズリングにそっくりで、
特に頭部は”現在のディーン"そのまま!なのは笑っていいのやらなのですが、
ということで、おそらくディーンは監督自身を相当投影しているのではないかと思うし、
だからこそ徹底して救いがない人物に描かれていたのかも知れません。

冷え切ってしまった現実とはまったく違い、出会った頃の二人はとにかく美しくハッピーで、
いろんな困難な出来事も二人の愛を強め、深めていくきっかけにしかなりません。
特に二人の心がぐんと近づいたと思われる、ディーンが歌いシンディが踊るシーン。
ディーンの歌はいいとして、シンディの恐ろしくヘタクソなダンスはけれども素朴で愛らしく、
こんなに美しく微笑ましいシーンは最近ちょっと無い、忘れがたい場面となっていました。
それに産婦人科のシーンのリアルさ(本物の医者を使っているのだそう)、
そこからのディーンの決意への流れには涙が止まりませんでした。


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そんな幸せな風景がヘビーな現実と交互に描かれるため、観ているこちら側は、
二人がいずれダメになってしまうことがわかってしまっているし、
だからこそその幸福な様子はあまりにも美しく痛々しく、現実との対比が残酷に感じられます。
いずれ不幸になるんだからその選択は間違いよ、と言ってあげることや、
現在の二人に幸せだったあの頃を思い出して!なんて言うことも出来ず、
こういうことは結局夫婦間で解決していくしかないものだし、
観ている我々もいつこんなことになるか、もうなりかかっているのかも知れないとか、
そこをどう乗り切るかをこの作品を観てそれぞれよく考えましょうということなのかもと思ったり。
まだこんな経験をしていない若い人たち、今がキラキラな状態の人たちには、
こんな未来にならないようにという忠告となるのかも知れません。
何にしても観る側に何かしら重たいものを押しつけて帰してくれる作品なので、
観たほうがいいよ、とも言えず、何というか自己責任で!としか言えない作品でした。

主役二人は、あらゆるシーンがアドリブだったと聞くと一層その凄さを感じてしまいますが、
とにかく素晴らしいの一言。
特にミシェル・ウィリアムズの体当たりぶりと、元々持っているあの暗く、
確実に重たいものを背負っているような表情がシンディをよりリアルな人物にしていました。
ライアン・ゴズリングはその時間の経過ぶりを頭髪で表していましたが、
ミシェル・ウィリアムズは見た目はほとんど変わっていないようで(増量はしたそうですが)、
生活に疲れきっている感じをどこをどうと言えないぐらいうまく醸し出していて驚かされます。
暗く生々しい内容で、それが悪いとは一概に言えないのですが、実も蓋もないというのか、
結局なるようにしかならない結末にまあそうだろうねという感想しか持てず。
それなのに、これはどうなのかな?と思ったのはエンドロールが始まる前、
二人のこれまでのあらゆるシーンが花火と共にフラッシュバックのように見せられるのですが、
ここが妙にオシャレでカッコ良すぎるファッションフォト風で、
この作品ってそんなカッコイイ話でも全体の作りでもなかったのに何を急に?と思ってしまって、
普通に暗転でジ・エンドにして欲しかったなあと、最後の最後はちょっと苦笑してしまいました。


Blue Valentine(2010 アメリカ)
監督 デレク・シアンフランス
出演 ミシェル・ウィリアムズ ライアン・ゴズリング
   フェイス・ウラディカ マイク・ヴォーゲル ベン・シェンクマン



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ブラック・スワン [映画感想−は]

ナタリー・ポートマンにオスカーはじめ各賞主演女優賞をもたらした本作。
いわゆる「感動しました!」CMが作られるぐらいの大ヒットとなってるようですが、
そんなに一般的に受け入れられるようなものかな?と疑問を持ってしまうほど、
かなりいびつな、ある一人のバレリーナの妄想に満ちた物語です。
ダーレン・アロノフスキー監督作としては前作『レスラー』のようだという意見もあるようですが、
それよりは『レクイエム・フォー・ドリーム』に近い緊張感や異様さで溢れていて、
どちらかというとひっそり単館上映されて、一部で熱い支持を受けるような作品なのでは、
と思ったのですが。


ニューヨークのバレエ団に所属するニナ(ナタリー・ポートマン)は、
元バレリーナである母親のエリカ(バーバラ・ハーシー)と共に、
バレエ一筋の生活を送っていました。
このバレエ団の次回公演作は「白鳥の湖」。舞台監督のトーマス(ヴァンサン・カッセル)は、
この公演でプリマバレリーナのベス(ウィノナ・ライダー)を起用せず、
新たな主役を選ぼうとしていました。
性格な技能を認められているニナは候補の一人でしたが、この作品では、
純真無垢な白鳥と邪悪で官能的な黒鳥の両方を一人が演じなくてはならず、
ニナの完璧な踊りと生真面目な性格は白鳥には向いていても、
黒鳥を演じる力がないとトーマスに指摘されニナは悩みます。
さらにそこに新しいバレリーナのリリー(ミラ・クニス)が現れ、
その自由奔放でまさに黒鳥そのものの姿にニナは動揺してしまうのでした。


自分がわからない
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アロノフスキー監督の作品は、取り上げる題材や映像に独特で特殊なものが多く、
けれどもその表現の仕方は意外にベタというか、これだったらコレ、という定石のようなものを、
臆面もなく、ドンッと正面に出してくるような印象を受けます。
『レクイエム・フォー・ドリーム』のドラッグを求める姿、
『レスラー』の浪花節的とも言えそうなドサ回りぶりやトレーラーハウスなどは、
語り口としてハマってしまえばとことん面白いのですが、考えたらかなりの直球ぶり。
そして今回は、バレエというテーマだからそう感じてしまうのかも知れませんが、
あまりに少女マンガ的でストーリーはあってないようなものだし、
もうちょっとヒネリが欲しかった気がしました。
(ちなみにアロノフスキー監督は今作と『レスラー』の脚本にはタッチしてないようなのですが)
周囲からのプレッシャーと、それに対処できず徐々に精神を病んでいく主人公が、
果たしてそれを克服するのか、それともそのまま身を滅ぼすのかというストーリーには、
正直なところ目新しさを感じられず、特に舞台監督のトーマスに、
「黒鳥をうまく演じられないのは男を知らないからだ」とかいう、
今どきそんな、少女マンガかレディスコミックかとつっこみたくなるような、
(と言ってもこのへんも詳しくないんで想像で言ってますが)
ベタな展開に心の中でまいったなあとつぶやくことしきりでした。

もちろんこの作品はすべてがニナの主観のみで描かれているので、
彼女の周囲の人々の言動は真実かどうかすらハッキリしません。
もしかしたらトーマスはそんなセクハラめいたことなど一言も言ってないのかも知れないし、
(実際、ニナが彼のアパートに行っても何もなくて帰されるのとか「?」と思ったり)
さらにそのセクシャルな"強迫観念"はリリーとの関係にまでおよび、
しかしリリーとの熱く刺激的な一夜もほとんどが実際にはなかったことだとわかります。
ここまで行くと、なにかそういう"セクシャルな妄想ぶり"をただ見せたいだけなんじゃないのかとか、
ひねくれた考えまで浮かんでしまい、いよいよ自分の心が離れていく気がしました。


あなたがわからない
blackswan_2.jpg


ベタということでは観ている間、いろんな過去の作品をいろいろと思い出し、
そういう点でも新鮮さを感じられず不満が膨らんでいった気がします。
性的なことに拒否反応を起こしていく様子はあちこちで指摘されていますが、
ポランスキーの『反撥』を思い起こさせ、これがもうちょっと異常に突っ切ってくれたら、
ハネケの『ピアニスト』ぐらいになるのかも、なんてことも考えたりしましたが、
さすがに今回とっても頑張ってるナタリーとはいえあそこまでは行けないだろうしなあ、
なんてこともついつい考えながら観てしまっていました。
そう、とにかく今作のナタリー・ポートマンの頑張りは確かに素晴らしいものでした。
バレエは幼い頃に経験はあったそうですが、この作品のために1年ほど猛特訓したらしく、
素人の私からしたらかなり本物らしく見える出来栄え。
もちろんバレエシーンは本物のダンサーの代役を使用したみたいだし、
あまりにも彼女の顔のアップが多いのも、おそらく素人バレエを誤魔化すためだと思われるのですが、
けれどレッスンシーンや本番前のアップする時の身体の柔軟さなど、なかなか本物らしく見えました。
さらにヌードこそないもののかなりセクシャルなシーンを堂々と演じていて、
彼女のこれまで演じてきたキャラクターやプライベートの様子などから受ける、
どこか幼く、真面目な印象を覆す熱演で、この頑張りぶりに対しては主演女優賞は妥当だったと思うし、
その演技を堪能するという目的で観るぶんにはとても素晴らしい作品だと思います。

でもだからこそ、ナタリーのこの頑張りに対してもうちょっとストーリー自体に、
ガツンとした盛り上がりやもうひとつ深い何かが欲しかったです。
鏡を多用した映像やホラー的脅かし、徐々に"黒鳥"になっていく様子などのCG使いは、
なかなかどれも凝っていて見応えはありましたが、ニナが壊れていく状況はいろいろ描かれても、
なぜそうなるのかという内面的なことの具体的描写はなく、
それはもちろんニナ自身が自分で自分がわからなくなっているわけだし、
私たちが見せられているのはそんなニナの主観による映像だから、
おかしくなっていく様子や結果しか見えないのは当然なのかも知れません。
でも、何かもう1つ、こちらを芯から震えさせるような"真実"などを見せて欲しかったです。


何がいけないのかわからない
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例えばバレエの世界の競争の厳しさ、その中で彼女がどうやって今の位置を得たのか、
こんなに細い神経でどうしてここまで来れたのかや、母娘の確執、
ニナがこんな風に育ってしまったバックグラウンドなどはほとんど省略されていて、
彼女の言動や暮らしぶりなどで想像することしか出来ず、母親の過剰な過保護ぶりや、
それとは逆にあまりにも無神経な様子、少しだけ語られる母親自身の過去など、
いくつか提示されるものはあるのですが、もうちょっと決定的なこれ!というものが欲しかった。
さらにラストのオチというかケリの付け方も結局そうなるしかないのかなと思いながら、
抹殺すべきは母親では?とか、あるいはトーマスだったらなどいろんなヒネリも考えてしまい、
ニナをさらにとことん落とすか、逆に救いを与えても良かったのではないかと思いました。

ただ、純粋に怖い、そして痛い(本当に痛い!)映像の数々、
ささやきや悲鳴のような声が聞こえたりというホラー的演出はそれなりに面白く、
私は元々鏡に映る映像というのが大好きなので、合わせ鏡が延々と作り出すニナの姿とか、
その鏡の中のニナがフッと違う方向を向いたりといった映像はすごく楽しかったです。
感動作として観れば思いっきり拍子抜けというか裏切られてしまう感じなのですが、
(それでも最後は涙が止まらない!という人もたくさんいるようなのですが・・・う〜ん)
スリラーとかホラーだと思って観ると映像はとても見応えがあるし、
特にCGの使い方はあの『ファウンテン 永遠につづく愛』の、
これでもかという盛りだくさんぶりに比べたら(とは言っても結構スキでしたが)
徐々に黒鳥と化していく様子の自然さ、さりげなさが美しく薄気味悪く見応えがありました。
さすがに最後、黒鳥になりきっちゃうかのような大きな翼はいいとしても、
脚とか瞳とかはちょっとやりすぎかなあと思いましたが。

リリーを演じたミラ・クニスの自然なビッチぶりはとても良かったです。
彼女ももう少しうまく演出されていれば『17歳のカルテ』でのアンジェリーナ・ジョリーぐらいの、
強い印象を残すことも出来たかもしれないのにと思い、ちょっと残念。
なぜ急に『17歳のカルテ』?というのは、役柄的に今作でのミラ・クニスと、
アンジェリーナ・ジョリーに共通するものを感じたからというのと、
ミラ・クニスは『ジーア/悲劇のスーパーモデル』でアンジーの少女時代を演じていたこともあって、
世間的には"第二のアンジェリーナ・ジョリー"という紹介のされ方もしているようだし、
・・・ということが考えられるのですが、それよりはおそらく今作で強烈な脇役として登場するのが、
ウィノナ・ライダーだということも関係あると思います。
落ちぶれた元プリマドンナという役柄はどうしてもウィノナのキャリアと実生活を彷彿とさせ、
そんな残酷な配役も十分ホラーに思えました。


Black Swan(2010 アメリカ)
監督 ダーレン・アロノフスキー
出演 ナタリー・ポートマン ミラ・クニス ヴァンサン・カッセル
   バーバラ・ハーシー ウィノナ・ライダー ベンジャミン・ミルピエ
   セニア・ソロ クリスティーナ・アナパウ 



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ファンタスティック Mr.FOX [映画感想−は]

以前こんな記事こんな記事を書きましたが(日付を見ると2009年8月&11月!)、
その後も日本公開のニュースはまったく聞こえて来ず、諦めかけていたところ、急に公開決定!


Mr.FOX(ジョージ・クルーニー)は人間の農家からニワトリやアヒルを盗むプロ。
しかし妻Mrs.FOX(メリル・ストリープ)の妊娠を機に泥棒稼業から足を洗います。
それから2年後(キツネ年で12年後)、Mr.FOXは新聞記者として働き、
妻と(キツネ年で)12歳になる、ちょっと変わり者の息子アッシュ(ジェイソン・シュワルツマン)
と共に幸せな穴ぐら暮らしをしていましたが、42歳(キツネ年で)になったMr.FOXは、
日々の生活に物足りなさを感じ、アナグマ弁護士のバジャー(ビル・マーレイ)の反対も聞かず、
見晴らしの良い丘の上の家を購入します。
しかしこの丘は近くにとてつもなく強欲で意地悪な3人の農場主が住んでいる危険地帯。
ところがMr.FOXは妻や息子に内緒でこっそり泥棒稼業を復活させ・・・。


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ウェス・アンダーソンは本当にニガテというか相性が悪くて、
ビル・マーレイの魅力(?)とヘンリー・セリックが担当したアニメパートが素晴らしい、
『ライフ・アクアティック』はまあまあ"好き"だったんですが、そのほかは、
どんなにお気に入り俳優が登場しようとどうしてもハマれない監督でした。
というわけで今回も大袈裟じゃなくヒヤヒヤしながらの鑑賞で、
これでダメなら本当に彼の作品とは決別しよう!ぐらいの気持ちで挑んだわけですが、
・・・いやあ、これはよかった!

まあ、ストップモーションアニメというだけで点数は甘くなってしまうのですが、
『ライフ・アクアティック』の潜水艦断面図に通じる地中の横穴などが、
蟻の巣穴観察のような楽しさで、とにかくずっと観ていたいぐらい楽しい!
室内インテリアの細かさなどはリカちゃんハウスに夢中だった少女時代を思い出し、
こんなドールハウスが欲しい!と本気で思ってしまいました。
よくまあここまで凝ったものを作ったなと、そのこだわりぶりはウェス・アンダーソンらしい。
らしいといえば、彼の作品でよく使われている横移動撮影がここでも多用されていて、
それがなにか紙芝居的なものを感じさせ、雰囲気にすごく良く合っています。
それは意識してのものなのか、あるいは横移動=人形劇的なものが元々好きで、
だからこういう作品を作ろうと思い立ったのか、そのあたりはよくわかりませんが、
もうずっとこの路線で行ってくれていいよ!と見終わって心の中で叫んでしまいました。


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『チャーリーとチョコレート工場』(あるいは『夢のチョコレート工場』!)の原作、
『チョコレート工場の秘密』などを書いたイギリスの作家、ロアルド・ダールの、
『すばらしき父さん狐』が原作だそうで、これは残念ながら未読ですが、
それらしい手作り感たっぷりの可愛いぬいぐるみ的ルックスは確かに童話的で、
けれどもストーリーは程良くダーク。
キツネ対人間の戦いというか騙しあいはチョコレート工場に通じるブラックさがあり、
当然人間側が悪役となってしまうのは仕方ないのかも知れませんが、
キツネたちの行動も、そりゃあこれじゃ人間怒っちゃうよなあと思ったり。

Mr.FOXは一見クールでスマートなのですが、このまま普通の夫や父親でいたくなくて、
本来の仕事である泥棒稼業をこっそり再開します。
新聞記者でいろいろ理屈っぽいことを言ったりもするのに、
泥棒仕事の時はいかにも"ズルいキツネ"ぶり。
また、Mr.FOXの甥のクリストファソン(エリック・アンダーソン)が、
Mr.FOX家に居候することになるのですが、このクリストファソンが、
勉強もスポーツも何もかもソツなくこなすMr.FOXもビックリの知性派。
そんなクリストファソンやMr.FOXなど、一見クールな彼らがいざ食事となると、
野性味溢れる乱暴さでガツガツとそこらじゅうまき散らすように食べ散らかしたり、
何かあると「ガルルル・・・」と歯を見せて唸り声を上げたりして、
そのあたりのギャップがとにかくオカシイです。


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Mr.FOXのクールだけどいざとなると熱くなったりするキャラクターは、
声を担当しているジョージ・クルーニーが普段演じている役柄に微妙に重なるようで、
なかなか上手い起用だなあと感心しました。
冷静沈着だけどいざとなると・・・という妻がメリル・ストリープというのもなるほどだし、
イマイチ出来の悪い息子アッシュをジェイソン・シュワルツマンが演じるのもすごくピッタリ。
"アンダーソン組"のビル・マーレイやオーウェン・ウィルソン、
それにウィレム・デフォーの農場の用心棒ぶりとか本当に楽しい。
常連を(声のみなのに)使いながらいずれも適役というのは、
この作品がまったくいつもと変わらない、まぎれもないアンダーソン作品である、
ということなのかも知れないと思いました。
メインが父親と息子の関係という点もいかにも彼らしいし、
とにかくなんだかまるっきり私の苦手なアンダーソン・ワールド満開と言ってもいいのに、
こんなにすんなり受け入れられるのはなぜだろう?とずっと考えているのですが、
常に私が彼の作品から感じてしまってイヤな気分になっていた、
過剰なのに素っ気ない、いわゆるスノッブさのような彼の"スタイル"が、
人形アニメにすることで適度に薄まるのか、人形というフィルターがかかることで、
作り物くささがすんなり受け入れられるということなのかも、と思いました。
しつこく繰り返しますが、ずっとこの路線で行ってくれないかしら。


Fantastic Mr. Fox(2009 アメリカ)
監督 ウェス・アンダーソン
声の出演 ジョージ・クルーニー メリル・ストリープ ジェイソン・シュワルツマン
     ビル・マーレイ マイケル・ガンボン ウィレム・デフォー
     オーウェン・ウィルソン ジャーヴィス・コッカー



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すばらしき父さん狐 (ロアルド・ダールコレクション 4)

すばらしき父さん狐 (ロアルド・ダールコレクション 4)

  • 作者: ロアルド ダール
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 単行本


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ブラック・サンデー [映画感想−は]

「午前十時の映画祭 青の50本」にて鑑賞。
日本では1977年、劇場爆破予告のため公開直前に上映中止となっていた幻の作品。
それが大スクリーンで観られる!と期待大で劇場へ向かいました。


テロ組織"黒い九月"の女闘士ダリア・イヤッド(マルト・ケラー)は、
ベイルートの片田舎のアジトで仲間たちとテロの準備を行っていました。
しかし、カバコフ少佐(ロバート・ショウ)らイスラエルの特殊部隊がアジトを奇襲、
ダリアが録音した犯行声明のテープを入手します。
一方、なんとかその場から逃げ延びたダリアはアメリカへ。
実は彼女はベトナム帰還兵のマイケル・ランダー(ブルース・ダーン)と手を組み、
アメリカ国内でのテロを計画していたのでした。
その計画を察知したカバコフもアメリカへ渡り・・・。


決行!
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最初はテロリストが美女であるということに映画的演出を感じたし、
もっとエンタテインメントで、且つシンプルに悪:テロ組織、
善:アメリカという図式で話が進むのかと思っていたら、
これが一筋縄でいかない複雑な作りで実に面白かったです。
面白い、とあっさり言ってしまうのもなんですが、何より興味深いのは、
テロを起こす側に加担するのがアメリカ人で、それに立ち向かうのがイスラエル人という、
このあたりが最初は私のアタマではよく理解出来ず、
それでも物語が進むにつれて徐々に理解出来てくると、
物語の奥深さにどんどん引きずり込まれていきました。
実在したテロリストグループ"黒い九月"という名前がそのまま登場し、
それはおそらく当時、今思う以上にリアリティのあった話なのではないかと思うと、
途端に緊張感もあふれてきました。

そうは言っても銃撃戦の激しさや、いよいよテロ決行の日の緊張感たっぷりの映像、
飛行船がスタジアムに徐々に近づいて行く映像のダイナミックさ、
カバコフが飛行船を阻止しようと奮闘する様子は本当に手に汗握りますし、
深夜のボートと巡視船のチェイスや、貨物船船長が電話線を使った爆弾で殺されたり、
ダリアが看護婦に化けてカバコフの命を狙いにやってくるシーンなど、
サスペンス演出もとてもよく出来ていてまさに一時も目を離せません。
そういう意味では十分にエンタテインメントな作品であると言えます。


心の傷
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カバコフ、マイケル、ダリアの主要三人の個性もとても強くて、
特に一番、良い意味でわかりやすく明らかにサイコな悪役のマイケルには、
彼がこうなってしまった事情が丁寧に描かれていて、
シンパシーすら感じてしまいそうになります。
ベトナムで長く捕虜生活を送り、ようやく帰国すれば妻子には見放される。
彼がセラピーのために行った復員専門病院のようなところでぞんざいな扱いを受ける様子など、
この当時アメリカではどのように受け止められたのかとても気になります。
また、マイケルとダリアが単に恋愛関係で繋がっているというわけではなく、
おそらくそれは互いの目的のためという理由のほうが強くて、
だからどちらもほんの少しのことで脆く崩れそうになります。
相手を信じ、疑い、利用する様に凄まじく深い業のようなものを感じるし、
セスナ格納庫の爆弾テストの際のマイケルの妄執と、
それを見たダリアの怯えは観ていてとても息苦しく、
そしてこのシーンが何より映像的に美しいということに、
この作品全体を通した狂気が象徴的に表れているなと感じました。


止める!
bracksunday_1.jpg


クライマックスの飛行船バトルは合成バレバレな映像は仕方ないとしても、
数万人ものエキストラをスタジアムに集めたらしい映像は迫力満点だし、
最後までどうやって解決するのか、おそらくテロは失敗するのだろうと思っていても、
こんな状態になっていったいどうするんだろう?と本当にドキドキのしぱなしでした。
この、まさにパニック・イン・スタジアムなシーンは、
ここだけでもとても見応えがあり、人々のパニックぶりはとにかくリアルで、
十分にケガ人続出だろうなと思えるし、そしてあまりにリアルなこの状況で、
もしテロが成功していたらどんなに恐ろしいことになるか・・・と、
想像するだけで震えが来てしまいます。

そして何より恐ろしいと思ってしまうのは、公開からすでに30年以上経っていながら、
中東問題は未だ解決していないということ。
上映中止となった1977年当時のリアリティはどれほどのものだったかわかりませんが、
今現在もまだこういうことがいつ起こってもおかしくないし、
実際、10年前には911テロが起こってしまった。
映画が未来を予測していたとかいったことを安易に言いたくはないし、
物語自体は原作を書いたトマス・ハリスがジャーナリストであったことから、
ある程度予測のついた上で書き上げたものかも知れないと想像出来ます。
しかし、こういったことがいつ起こってもおかしくないという状況が、
いまだに続いているということが何より恐ろしい現実だし、
この映画のどのシーンよりも震えが来る事実だと思いました。
34年も前に作られた大傑作。機会があればぜひご覧ください。
可能ならば大きなスクリーンで。


Black Sunday(1977 アメリカ)
監督 ジョン・フランケンハイマー
出演 ロバート・ショウ ブルース・ダーン マルト・ケラー
   フリッツ・ウィーヴァー スティーヴン・キーツ クライド・クサツ



ブラック・サンデー [DVD]

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  • 出版社/メーカー: パラマウント ジャパン
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