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ヒア アフター [映画感想−は]

突き放すような救いのない結末、遠くからの視線、冷静な口調、
クリント・イーストウッドのこのところの監督作は、
そのほとんどが苦くリアルな語り口のものが多く、
昨年の『インビクタス』のようなストレートな”感動作"ですらも、
どこか収まらない怒りのようなものが最後まで底に潜んでいるように感じました。
そんなイーストウッドの新作が"スピリチュアルもの"と聞いた時は、
以前インタビューでいろんなタイプの作品を作りたいと発言していたのを知ってはいましたが、
またずいぶんな方向にチャレンジするものだなと、
期待と不安の入り交じったものを感じていました。
さて、どんなに辛口なスピリチュアルを見せるのか、それとも・・・?


フランス人ジャーナリストのマリー(セシル・ドゥ・フランス)は、
休暇先で津波に遭遇し臨死体験を経験します。
彼女はその時に見た光景を忘れることが出来ず、仕事中も上の空になるほどで、
共に旅したディレクターのディディエ(ティエリー・ヌーヴィック)の勧めで、
しばらく仕事から離れることにします。
イギリスに住む双子の兄弟、ジェイソンとマーカス(フランキー&ジョージ・マクラレン)は、
薬物依存症の母親(リンゼイ・マーシャル)と3人で暮らしていましたが、
ある日、事故で兄のジェイソンが亡くなってしまいます。
悲しみに暮れるマーカスは兄との再会を求めて霊能者捜しを始めます。
アメリカ人のジョージ(マット・デイモン)はかつて霊能者として知られた人物でしたが、
自分のその才能を嫌悪し、今は新たな生き方を模索していましたが・・・。


手放したい
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死の淵を渡りかかった女性、双子の兄を事故で失った弟、
そして特別な能力に嫌気が差して、生き方を変えようとしている男。
この3人のエピソードが交互に語られ、やがて運命に導かれるように1つの場所へ引き寄せられます。
フランス、イギリス、アメリカとそれぞれに離れて暮らす3人がどのようにして出会うのか、
3人それぞれの描写を丁寧すぎるぐらい丁寧に描き、そうすることによって、
やがて来るその偶然の出会いが必然であると納得させられます。
随所に散りばめられた伏線、それらをきちんと回収し、
一見脇に逸れたようにみえるシーンもキチンと終幕へ向かうための要素だったとわかる上に、
そのわかった瞬間、それらを"運命だ"と言い換えても決して安っぽくならないところに、
イーストウッドの冷静で力強い演出力を強く感じさせられました。

マリーは臨死体験をしたことにより自分の中で何かが変わってしまいます。
自分が何であるのか、自分が見たものは何だったのかばかりを考えてしまい、
とても不安定な精神状態になってしまいます。
マーカスは双子の兄を失ったことでおそらく自分の身体の一部を失ったような、
まさに強い喪失感の中で暮らします。
この2人の不安定さ、何かが欠けてしまったことによるアンバランスさが、
映像にもどことなく滲み出し、悲しみと不安感は観ているこちらにも静かに伝わって来ます。
そしてジョージは逆に、人より余計な能力を持っていることにより、
やはりアンバランスな生き方をしていると言えます。
しかし彼がその能力を封印するということは、自分の存在意義を失うことでもある。
彼はそのポッカリ空いたスペースを埋めるかのように、肉体労働をし、料理教室に通う。
どうすればうまくバランスを取れるのか、3人は常にそれを求めて動き続けます。


知りたい
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亡くなった人の声を聴くことでその欲求が満たされるのかどうかはわかりませんが、
身近な大切な人を亡くした時、自分の中の何かが欠けてしまうような出来事に遭遇した時、
どうすればそれが満たされるようになるのか。
ジョージの元を訪れ、彼の力に頼ろうとする人たちの気持ちは痛いほどわかります。
しかしジョージは、そうすることが本当に彼らの救いになるのかと、
おそらくずっと疑問に思っていたんじゃないかなと思うし、
だからこそ彼は自分の能力を捨てようとしたのではないかと思います。
それに何より、自分が引き受けてしまう負担は果てしなく重い。
自分の能力を人に知られた時の好奇の目や、純粋に人と付き合うことも出来ない苦労は、
料理学校で出会うメラニー(ブライス・ダラス・ハワード)との一件でもよくわかります。
彼の純粋な思いは、インチキ霊媒師を何人も登場させることでも強く印象づけられます。

そしてこの作品の面白さは、3人それぞれのエピソードの丁寧な描き方から一転、
3人が出会ってからのかなり早い話の展開、そして意外な結末へとつながることです。
今作は最後の最後に「え?」というインサートと終わり方を見せます。
これには正直言って戸惑ってしまったし、実際議論の的にもなっているようですが、
ここに来てようやく、今作のテーマが単にスピリチュアルということだけではないことに気付きます。
つまり、ジョージがマリーをブックフェアで初めて見かけた時の彼の視線と表情、
それは臨死体験をした女性を霊能力者であるジョージが見つけたと、いうことではなく、
(そもそもジョージは相手に触れず何かを感じることは出来ないのです)
要するに"一目惚れ"だった!という、これはシャマランもびっくりの大どんでん返し!
しかしこの展開によって今作が途端に愛すべき作品となり、
そのハッピーエンドぶりはたちまち喜びで満ちてしまうのでした。


会いたい
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マット・デイモン演じるジョージの行動は最初から常に深刻なようでいて、
料理教室の様子や、後半普通に観光旅行を楽しんでいる様子にはどことなくユーモラスさがあり、
『グラン・トリノ』の前半、頑固爺さんの言動にも軽いユーモアが感じられましたが、
その雰囲気にも似ていて、このあたりはイーストウッドらしいなあと思いました。
そこに来てこのエンディング・・・これってマット・デイモンに萌える作品だったの?
と、思わず笑ってしまうような嬉しい驚き。
私は人の生死話には無条件に弱いし、元々霊的な話もキライではないので、
人が失った人を思うことからくる心の痛みを表す話には本当に弱くて、
今作もたびたび涙が溢れて仕方なかったのですが、
だからこそこのハッピーエンディングには何かホッとするものすら感じてしまうのでした。

マリーもマーカスもスピリチュアルな答えを求めながら、
結果的にジョージの霊能力そのもので救われると言うより、
このジョージの能力があったことにより互いに出会うことが出来て、
そして互いに心の空洞を埋めることが出来るようになる。
彼らがどうすることによって"救われる"のか。
心の空洞を埋めるのは失ってしまった誰かではなく、
未来に会うべくして会う誰かなのかも知れない、
本作の一番言いたいことはそういうことだったんじゃないかなと思いました。

ところで、ものすごく画期的な感想を書かれているブログを見つけたので、ご紹介します。
この方の説が正解かどうかはわかりませんが、何とも言えないものすごい説得力があるし、
この説を踏まえて、もう一度見直してみたいと思いました。
ああ、こういうのがあるから映画は面白いと思うし、
これが本当にイーストウッドの仕掛けたものだったら、やっぱりこの御大にはかなわない!

別の140字:#136 『ヒア アフター』って、こういうこと?


Hereafter(2010 アメリカ)
監督 クリント・イーストウッド
出演 マット・デイモン セシル・ドゥ・フランス
   フランキー・マクラレン ジョージ・マクラレン
   ジェイ・モーア ブライス・ダラス・ハワード マルト・ケラー
   ティエリー・ヌーヴィック リンゼイ・マーシャル デレク・ジャコビ



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ファンボーイズ [映画感想−は]

昨年夏、あるきっかけで今作の日本公開署名運動をしているサイトを知り、
早速当ブログにもリンクバナーを貼って勝手に地味に応援開始。
多少でもチカラになれば・・・と思っていたら、無事劇場公開が決定。
でも場所も時間も期間もあまりにも限定公開で劇場での鑑賞は叶わず。
上映嘆願署名運動もなかなか難しいものです。
確かにこういうのは日本公開は難しいのかなあ・・・。


1998年のハロウィン。エリック(サム・ハティントン)は、
旧友のライナス(クリス・マークエット)、ハッチ(ダン・フォグラー)、
そしてウィンドウズ(ジェイ・バルチェル)たちと久しぶりに再開します。
かつてスター・ウォーズマニアとして彼らと付き合っていたエリックでしたが、
今は彼だけが定職に付いていて、相変わらずの仲間たちとの間には少し溝を感じていました。
しかしエリックは、この時初めてライナスが実は末期ガンに侵されていて、
余命3ヶ月であると知りショックを受けます。
そこでエリックは半年後に公開を控えている『スター・ウォーズ エピソード1』を、
ライナスのためにも公開前に観ようと思い立ち、
ルーカスフィルムのあるスカイウォーカーランチを目指しますが・・・。


エピソード1が観たい!
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スター・ウォーズネタ満載なマニア/オタク風味な作品かと思ったらそれほどでもなく、
確かにトリビアがネタとしてたびたび登場しますが、
別にその答えがわからなくても置いてけぼりにされるようなことは全然なくて、
それはあくまでもストーリーのアクセント程度であることがとても好ましく感じました。
もちろん、そういったことを知っていれば一層楽しめるとは思いますが、
極端にオタク風味を強くせず、すべてにおいてやりすぎていないところが、
普通によくある若者たちの成長物語として成立していて、
なんとも爽やかな話に仕上がっていました。
逆にスター・ウォーズ的世界を期待した人には物足りなさを感じたかも知れません。

設定がエピソード1公開半年前というのが絶妙で、熱狂的ファンではない私でさえも、
あの頃は確かにワクワクしていたことを思い出します。
ファンにとってみたら、あの「もうすぐ!」という時の思いというのは、
とびきり特別だったに違いありません。
エピソード1〜3という作品をすでに体験してしまった今となっては、
いろんな複雑な思いも沸き上がってきますし、ラストのセリフなんか、
うーんそれを言うかあ?という、皮肉とも取れるようにも思えましたが、
製作者たちはスター・ウォーズを愛しているからこそあの時の自分たちを、
そしてあの時の世界中のスター・ウォーズファンや、
そうでない人たちを冷静に描くことができたのだと思うし、
誰もがあの頃の自分に重ね合わせることが容易にできる作品を、
作り上げることができたのだと思います。


"トレッキー"と呼んではいけません
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ライナスの末期ガンという設定は、最初あまりにもサラッと語られるし、
とても病人には見えないぐらいピンピンしているので、
途中まではもしかしてウソなのかも?と思っていたぐらいなのですが、
それもことさらに"闘病もの"にしていないということなのかなと思いました。
このライナスの病気が彼のために全員が動くという動機付けとなっているわけだし、
そして"その日"にライナスはそこにいない、という結末を最初から予感させ、
このあっさりさが案外現実はこんな感じかも、と思わせる妙なリアリティと、
残されることになる仲間たちの今日までそして明日からを、
映画のテーマにして描くにはあまりにも大きな"スター・ウォーズ"という題材に、
うまく絡めたなあと感心してしまうことしきりでした。
最近のアメリカ映画に次々と佳作が生まれている、
サエない男たちの成長物語というジャンルに入れることもできると思います。

スカイウォーカーランチへの侵入がメインテーマですが、ほかにラブストーリーもあり、
『スター・トレック』ファンである"トレッキー"たちとの戦いもあり、
キュンとさせたり笑わせたりと実にいい意味でソツが無い。
メインキャラクター4人いずれも適役ですが、そこに紅一点絡むのがクリスティン・ベル。
いつもとヘアスタイルを変えて、美少女ヒロインとはちょっと違う、
いかにもこういったサークルの中にいそうな雰囲気をよく出していました。
セス・ローゲンの体当たり(?)な二役は、脇にまわってオイシイという、
『スーパーバッド 童貞ウォーズ』のパターン。
トレッキー役のほうは最初は彼だと気づかずセス・ローゲンっぽい人だなあと思ったぐらい、
これまでになく"役作り"していてものすごい熱演ぶりでした。
さらにもう1つの役の方は今となっては失笑モノのタトゥーが最高!
彼はこういう脇にまわってる方がイキイキしてる気がしないでもない。
まだこの頃はかなり太めだし、本当に怪しくアブナイキャラを演じていて笑わせてくれます。


ん?どっかで観たような状況・・・
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ほかにスター・ウォーズファンにはグッと来ること間違いナシの出演者もいっぱいです。
"レイア姫"キャリー・フィッシャー登場シーンの美しさ優しさ懐かしさは、
ファンじゃなくても胸が熱くなること必至です。
"ランド・カルリシアン"ビリー・ディー・ウィリアムズの役(というか役名)はニヤリとさせるし、
"ダース・モール"レイ・パークもチラリですがビシッとキメてくれます。
ここになぜかカーク船長ことウィリアム・シャトナーが登場するのは笑ってしまうのですが、
彼がスカイウォーカーランチ侵入の手助けとなるというのも面白い。
ものすごくピッタリなんだけどなんでここに?のダニー・トレホの登場もうれしかった。
そしてスター・ウォーズがテーマと聞いて、おそらく何でもいいから出してくれと言って、
無理矢理出ることになったんだろうなあと思われるケヴィン・スミスの登場もまたまたニヤリ。

ところで私はエピソード1が公開された1999年5月に何をしていたかというと、
実はちょうどロサンゼルスを旅行していたのでした。
でもエピソード1を観ようとはまったく考えてなくて、
けれどもせっかくこのタイミングでここにいるのだからということになり、
さらにせっかくだからとチャイニーズシアターで鑑賞することに。
公開日から数日経った平日午後3時半の回ではありましたが、
客席にはライトセーバーを持ったお客さんもちらほら。
劇場の灯りが消えたところから拍手喝采の大盛り上がりで、
そんなお祭りの雰囲気を楽しめたことはとても良い経験でした。
内容に関しては字幕無し鑑賞のハンデは大きかったし、
その数日前に同じ劇場で観た『マトリックス』の衝撃があまりにも大きく、
「う〜ん、どうなんだろうね」と同行者と話したことを思い出します。
確かにいい時代、でした。


Fanboys(2008 アメリカ)
監督 カイル・ニューマン
出演 サム・ハティントン クリス・マークエット ダン・フォグラー ジェイ・バルチェル
   クリスティン・ベル クリストファー・マクドナルド セス・ローゲン



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ヒックとドラゴン [映画感想−は]

主人公ヒックの声を『トロピック・サンダー』のジェイ・バルチェル、
ほかに『スーパーバッド』のジョナ・ヒルとクリストファー・ミンツ=プラッセ、
『ウォーク・ハード』のクリステン・ウィグといった面々が声優陣として出演とあって、
最初はアパトー/フラットパック系のニュースとして知り、楽しみにしていたのですが、
日本での公開は3D作品ということもあって字幕上映は2Dのみで上映館も少数という、
最近よくあるパターンだと知ると、途端に興味を失ってしまっていました。
ところが始まってみるとあちこちでものすごい高評価しかも3D必見!という声多数で、
うーん、では観ておくかあと重い腰を上げたのでした。


はるか北の海にあるバーク島はバイキングたちが暮らす島。
この島では大昔から人間とドラゴンとの争いが続いていました。
鍛冶屋で修行中のヒックはこの島のバイキングたちのリーダーであるストイックの息子ですが、
ひ弱で頼りなく、父親の悩みの種となっていました。
しかしヒックは自分もいつかは立派なバイキングになることを夢見ており、
父親たちに混じって戦いに参加しますが、結局足手まといになるばかりでした。
しかしある日、自ら発明した武器を持って参戦。
するとこの武器で伝説のドラゴンであるナイト・フューリーを捕えることに成功します。
森の中で負傷して動けなくなったナイト・フューリーに止めを刺すべく近づくヒック。
しかし彼はこのドラゴンを殺すことができず・・・。


ドラゴンに乗る!
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印象的な登場人物、バイキングの丘の上での生活という設定も珍しい。
何種類も登場するドラゴンたちはこれまたどれも個性的で、
ドラゴンというと恐竜やトカゲ系のイメージを持ってしまうのですが、
確かにそんなドラゴンらしさも持ちつつ、犬や猫のような愛らしい動きも見せるのが新鮮でした。
よく知りませんがポケモンのキャラクターとして登場しそうな雰囲気。
トゥースこと伝説のドラゴン、ナイト・フューリーは丸っこい瞳が愛らしいのですが、
全身は黒くコウモリのような大きな翼を持っていて、とてもシャープでカッコイイ。
予備知識ナシで観たのでヒックと仲良くなるのは小さい子どもドラゴンなのかと勝手に想像していて、
(『リロ&スティッチ』のスティッチみたいな感じかなとなぜか思っていました)
予想を裏切るカッコ良さにちょっとシビレてしまいました。

個人的に不安だった吹き替えは、いわゆるタレント起用をしていないのが好ましくて、
特に主人公ヒック役の声や台詞回しは実に自然でとても良かったです。
(上映前に見せられた『○ュレック』の予告編なんて、あれ主人公シュ○ックじゃなくてハマちゃんだよ!)
3Dに関しては後ほど述べますが、ヒックの父親たちのヒゲや着物の毛皮などが人形アニメのようにリアルで、
星空や空に舞うホコリなどは3Dならではの美しさで、しばしばうっとりするほどでした。

ストーリーに関しては良く言えば簡潔、あまりにトントン拍子過ぎるかなと思いましたが、
98分という全体の長さやアニメーション作品としてはそれはある程度仕方ないのかも知れません。
子どもだけでなく大人の鑑賞にも堪えるものになっていると思いましたが、
それでももうちょっと深く掘り下げて欲しいとか、不満に思う点も多々ありました。


ドラゴンを倒す!
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冒頭から描かれる、家畜を襲うドラゴンを"害虫"として"駆除"する表現が乱暴で、
こんなに激しい戦闘状態がしょっちゅうでは毎回相当に死人も出るだろうしとか、
でもまあそこはこういう設定、こういう世界観なのだろうと納得し、
けれどそここそがこの話の最後まで納得いかない理由のひとつとなってしまうのでした。
これだけ敵対する関係である人間とドラゴンたちという図式を最初に見せて、
だからこそヒックとトゥースが心を通わせることになるのがドラマだとは思うのですが、
そこに至る経緯もわりにあっさりとしたもので、もう少し時間をかけるか、
あるいは決定的なきっかけとなるような何かがもう少し欲しい気がしました。
(とは言え、最初にヒックとトゥースが"触れ合う"シーンは単純にジーンとしてしまいましたが。)
私はてっきり、バイキングとしてはひ弱なヒックには何か特別な力が備わっていて、
だからドラゴンと心を通わせられるのは彼だけなのかも、と思っていたのですが、
まあ彼だけが"気がついた"ということでは特別ではあったんだとは思いますが、
この程度だったら誰かがとっくにドラゴンを飼い慣らせていたんじゃないかなと思ったり。

トゥースとの関係を通してヒックがドラゴンの扱いを取得していき、
ほかのドラゴンたちも手なずけられるようになっていく。
しかしドラゴンがどうやって生きているのか、その"生態系"が明らかになった時点で、
人間たちのとる行動は果たしてアレでいいのか、本当の"敵"は巨大なアレ1匹のみで、
アレを倒せばすべて丸く治まるって、ドラゴンたちはそもそもその程度の存在なのか、
そのへんの大雑把さもちょっと引っかかってしまうのでした。
ヒック以外の人もいつの間にかあっさりドラゴンに乗れるようになるし。
まあでも、童話的世界ではこういうのはよくあることだと思うし、
厳しく言い過ぎな気がしないでもありません。
でもついそんなことを気にしてしまうのは、せっかく映像やキャラクターがこんなに素晴らしいのに、
それでこんな風に展開するのかあという、なんとも惜しいなあという気がしてしまったからです。


息子が心配・・・。
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とはいえ、ラストでヒックが受け入れなければならない"運命"・・・これは衝撃でした。
それまでの納得いかなさや諸々のことがここですべて吹っ飛んだというか、
もしかしたら私はここで「えっ?」とか「うっ」とか実際に声が出ていたかも知れません。
子どもも観るアニメーション作品でここまでハードな表現はほかにあるのでしょうか?
あまりアニメを観ない私はまったく例が浮かびませんが、こういうのはアメリカらしいとも言えるし、
また逆にアメリカ映画でよくここまでやったなとも思いました。
というかこれはドリームワークスだからでディズニーやピクサーでは敢えてこうはしないのでは。
『カールじいさんの空飛ぶ家』でカールじいさんが暴力を振るい相手を流血させただけで、
「ピクサー初の流血!」と話題になっていましたが、
それを考えるとこれはよくやった!と変に感心してしまう、スゴイ展開だと思いました。

さて、最後に3Dについてですが、今回は109シネマズにてMASTERIMAGEという3D方式で鑑賞。
3Dメガネが一回限りの軽いものなのはありがたいのですが、とにかく映像が暗くて困りました。
夜のシーンが結構あるのですが、全体に薄暗くて表情などがほとんどわからない場面も多く、
途中何度かメガネを外して観ると、実際には明るくてちゃんと表情もわかるのです。
この方式は明るいという話をどこかで読んでいたのでちょっとガッカリでした。
要所要所で3Dの恩恵を受けられる美しいシーンはあるのですが、
期待したドラゴン飛翔シーンも暗さとこぢんまり感で感動とはほど遠く、
きちんと映像が観られないイライラを何度も感じてしまいました。
これはこの方式が悪いのか、映写の問題なのか、自分の目が悪いのか、
余計なストレスを感じながらでは映画自体に入っていけず、変な疲労感だけが残ってしまいました。
ほとんどの人がそういう不満もなく3Dで観て感動しているということは、
私に問題アリという可能性が高いのでしょう。
機会があったら2Dでゆっくりじっくり鑑賞し直したいです。
・・・って『アリス・イン・ワンダーランド』の時にも思ったような気がする。
3Dじゃなく、普通に映画を楽しみたい。3Dブーム(ブーム、ですよね?)早く終わってくれないかなあ。
良いこともあると思うけど、映画の楽しみ方をイビツにしてしまってる気がします。


How to Train Your Dragon(2010 アメリカ)
監督 ディーン・デュボア クリス・サンダース
声の出演 田谷隼 田中正彦 岩崎ひろし 寿美菜子
     淺井孝行 宮里駿 南部雅一 村田志織



ヒックとドラゴン ブルーレイ&DVDセット

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パッセンジャーズ [映画感想−は]

見そびれていた『パッセンジャーズ』ようやく鑑賞。
あまり評判よくないみたいで心配だったのですが・・・。


新米セラピストのクレア(アン・ハサウェイ)は、
ある飛行機事故での生存者5人のセラピーを担当することになります。
しかしグループカウンセリングはなかなかうまくいかず、
参加者は回を追うごとに一人ずつ減っていってしまいます。
また、生存者の一人であるエリック(パトリック・ウィルソン)は、
最初からクレアとの個別でのカウンセリングを希望。
常に躁状態のエリックはなかなか事故当時の話をせず、
突飛な行動を繰り返しクレアを悩ませます。
そんな生存者たちとのカウンセリングの中で、
次第にクレアは、事故の原因が航空会社の過失によるもので、
それを組織ぐるみで隠蔽しようとしているのではないかと疑い始めますが・・・。


クレアの疑念
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かなり早い段階で、いわゆる「オチ」は「こんなことかな?」と、
おそらく誰でも気が付くと思うし、そしてその予想は裏切られることなく、
まあ「思った通り」となります。
この予想通りの結末を面白いと思うか、そんなのありきたりでつまらないと思うかで、
評価が分かれてしまうんだろうなと思います。
では私はどうだったかというととても楽しめたし、
最後は涙が溢れて溢れて止まらなかったぐらいです。

確かに言ってしまえば"シャマランのアレ"風なわけで(厳密に言うとちょっと違いますが)、
「またそれ?」と言われても仕方ない。
ただ"シャマランのアレ"風の話というのはそれ以前からあって、
そして以降も手を変え品を変えではないですがいろいろと出てくる。
だからもうその手にはウンザリ、という人にはホント、ウンザリなんでしょうけど、
単純にこういうのがスキ!な私にはいくらでも大歓迎なのです。
今後、このような「同じネタ」(という言い方も品がないですが)で同じような作品が作られたとしても、
きっと私は「まただよ〜」と思いながらもボロ泣きし続けると思うのです。


エリックの秘密
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こういう話のどこがそんなに好きなのか、なぜそんなに泣いてしまうのかと言うと、
オチとかどんでん返しでびっくりは関係なく、それで泣くわけではもちろんなくて、
つまりこの手のものは人の生死に関わる話であって、
その時、登場人物たちはどうしてそんな行動をとるのだろう?とか、
どうして彼らはそんな思いに至ったのだろうというのが見えてくると、
もし自分だったらどうするだろう?人はどう思うのだろう?と、
そんないろんな思いがドッと押し寄せてきて、一気に我が身と置き換えて観てしまうからです。
自分がこの登場人物たちの誰の立場にもなる可能性があり、
状況の違いはあっても・・・つまり、人の生死に関わることは必ず誰もが直面することで、
家族や友人などの死に直面する時、そしてもちろん自分自身が死ぬ時、
その時どうなるのかを想像させられてしまうからです。

人の死でも自分の死でも、おそらく誰もがその瞬間、
何かしら心残りなことがあるんじゃないのでしょうか。
あの時ああすればよかったとか、こうしてあげてればよかったとか、
後悔の念を持ってしまったりするんじゃないのかなと想像します。
それが不慮の事故などで命を落とすようなことであればその思いはもっと強いかも知れません。
そんなことを考えるとただただ胸はひどく痛むし、そこで思うことは、
せめて後悔することをなるべく少なくしよう、
例えば誰かと日々別れる時に喧嘩したり誤解したままでいないようにしようと思います。
ついつい忘れてしまうそんなことを、こういう話は思い出させてくれるのです。


真実はどこに
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内容そのものを細かく言えないのがもどかしいですが、
・・・まあもう一年以上前に公開されたものだしかまわないかな?とも思うのですが、
やはりそこはあまり語らないようにしたいと思います。
映画の作りとしてはサスペンス風で、ただ登場人物たちの言動は、
最初からどこかしら何か違和感を感じさせ、不思議な空気をうまく漂わせていて、
けれども強引で無理矢理な展開を見せることもなく、終わって振り返ってみれば、
「ああ、あそこでああだったのはそういうことか」と気付かされるポイントが、
きちんと各所に散りばめられていて、十分よく出来ていると思いました。
ただ、あらゆる謎の説明がついた瞬間「じゃあなんでクレアは・・・?」と思ったんですが、
生存者たちのそれぞれの事故当時の記憶が曖昧、ということでいいのかな?と理解しました。
登場人物たちそれぞれの立場によって、口調や相手を見つめる視線の違いがあり、
その辺の表し方もなかなか上手いなあと思いました。
クレアとエリックは当然恋仲となってしまうわけですが、
そうなってしまう"理由"も最後に明かされるし、
航空会社のアーキン(デヴィッド・モース)が悪人なのかどうかとか、
どこか影のある生存者の一人、シャノン(クレア・デュヴァル)の事情など、
最後に知らされる事実がいちいち胸に迫って来てしまいました。
確かにトンデモ話の部類に入るような話かも知れませんが、
私はもう、シツコイですがこういうのは大好き。大甘の点数を付けてしまいます。
まあアン・ハサウェイとパトリック・ウィルソンが主役の時点で私には合格なんですけどね。


Passengers(2008 アメリカ)
監督 ロドリゴ・ガルシア
出演 アン・ハサウェイ パトリック・ウィルソン アンドレ・ブラウアー
   ダイアン・ウィースト デヴィッド・モース ウィリアム・B・デイヴィス
   ライアン・ロビンズ クレア・デュヴァル ドン・トンプソン



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ハート・ロッカー [映画感想−は]

かなりハードで観るのに体力が必要、という噂を聞き、
なかなか観に行く元気が出なかったのですが、
いよいよ上映館が減り始めて、慌てて体力付けて行ってきました。


2004年、イラク・バグダッド郊外。アメリカ軍の爆発物処理班リーダーとして、
ウィリアム・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)が着任します。
無謀なやり方で爆弾処理を行うジェームズに、
同じチームのサンボーン三等軍曹(アンソニー・マッキー)や、
エルドリッジ特技兵(ブライアン・ジェラティ)は不安を感じますが・・・。


スペシャリスト
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揺れるカメラ、ザラザラした映像、メインキャストもあまり有名でない人ばかりだし、
ストーリーも特に映画的なドラマが起こるわけではないので、
雰囲気はドキュメンタリー映画のようです。
あらゆるパターンの爆弾処理や銃撃戦などが登場するのですが、
私はそれほど緊張の連続という感じはしなくて、
本当にドキドキしたのは最初の爆弾処理ぐらい。
予備知識なく観たので、この最初のシーンに登場する兵士が、
なんだかガイ・ピアースみたいな人だなあと思ったら、
エンドロールで本当に彼だったと知りびっくり。
このファーストシーンは当然どう展開するのかわからず確かにハラハラさせられ、
そして美しいと言ってもいいぐらいの爆発映像にはさすがに衝撃を受けました。

しかしこのあと、主人公であるジェームズが登場。
自信たっぷり、爆発物を前にして「どうせ死ぬなら気持ちよく死にたい」と、
重たい防御服を脱いで処理にあたるなど、かなり無茶したりするんですが、
彼が主人公であるとわかっているせいか、失敗することなく処理出来るのだろうなという、
まるでジェームズがブルース・ウィリスであるかのようなヘンな安心感を持ってしまいました。
緊張感が思いがけず続かなかったのは、そんなヘンな理由からだったのだと思います。


持久戦
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冒頭で「戦争はドラッグだ」というテロップが登場します。
ジェームズはまさに戦地で感覚が麻痺し、死など恐れない男なのかと思っていたら、
その後あらゆる事態に直面し、そして明らかな失敗を重ねてしまいます。
最初の頃は薄ら笑いで爆発物に向かい、仲間たちの言うことも聞かない、
本当にイヤなヤツといった雰囲気で登場する彼が、だんだん弱さを見せ始めます。
ジェームズはどうなってしまうのか、彼の仲間たちも、
そして映画自体もどこへ向かうのか、と思うのですが、
ドキュメンタリータッチに作られたことを守るかのように、
特にドラマチックな展開を見せることはありません。
実際にはいくつか事件が起こったり、あるいは何も起こらなかったりして、
その都度ジェームズは身も心も痛めつけられるのですが、
映像も演出もどこかクールに淡々と描かれるので、何かもう一歩響いて来ない感じがしてしまいました。

ジェームズはやがて任期を終え、家族の元に帰ります。
その"現実"のシーンは短く、彼と家族の様子が淡々と描かれ、
最後に彼の気持ちが彼自身の口から語られ、そして彼は決断します。
このあたりの描き方もものすごくアッサリしていて、わかりやすいというか、
ちょっとありがちな印象で意外性がないのがまたちょっと残念。
彼がこの後どうするのかも容易に想像がつくし、ここももうちょっとドラマが欲しい気がしました。


そして・・・爆発!
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どんな目に遭っても、常に死と隣り合わせの生き方であろうと、
彼にとって戦地は、戦場は居心地が良く、爆弾処理は得意であり好きなことであり、
戦争とは自分を活かせる、生かせる場所なのでしょう。
他人から見ればなんで好き好んでとか、考えられないと思えることだけれど、
ジェームズにとっては生きがいとなってしまっている。
それがいいとか悪いとか誰にも簡単に決められないことですが、
ただやはり、それは異常なことだと思うし、十分に悲劇だと思います。

映画はそんなジェームズの生き方を淡々と描くことで、これがいいとも悪いとも断定しません。
観る側に結論を委ねているのかも知れないし、それが作品のテーマでもないのかも知れない。
しかしそのわかりにくさ、そして素っ気なさのようなものが、
かえって映画としての在り方をちょっと見えにくくしている気もしました。
それは私の理解力の無さなのかも知れませんが、結局どう受け止めればいいのか、
こんな人もいるよね、戦争は良くないよね、というぐらいで終わってしまいそうで、
それではあんまりな気もします。
そんな感想でいいのかなあという、何か煮え切らない思いで終わってしまいました。


The Hurt Locker(2008 アメリカ)
監督 キャスリン・ビグロー
出演 ジェレミー・レナー アンソニー・マッキー ブライアン・ジェラティ ガイ・ピアース
   レイフ・ファインズ デヴィッド・モース エヴァンジェリン・リリー クリスチャン・カマルゴ



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