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メアリー&マックス [映画感想−ま]

人形アニメと聞くと思わず「えっ何!?」と立ち上がってしまうほど、
この手のストップモーションアニメが大好きなので、
これもその存在を知った瞬間に必見!と思っていたわけですが、
これがまたどうして、なかなかに強力な作品でした。


メルボルン郊外に住む8歳の少女メアリーは、
仕事と趣味にばかり没頭している父親とアルコール依存症の母親との3人暮らし。
額にあるアザのせいで学校ではいじめに遭い、孤独な毎日を送っていた彼女は、
ある日ふとアメリカに住む誰かに手紙を出そうと思い立ち、
電話帳から変わった名前の人を探し出して手紙を送ります。
その相手はニューヨークに住む、人付き合いが苦手で、
同じく孤独な日々を送っていた44歳のマックス。
遠くオーストラリアから突然届いた一通の手紙に動揺しながらも、
彼はメアリーに返事を書きますが・・・。


ポンポン
maryandmax_1.jpg


観る前になんとなく情報が耳に入って来てはいたので、
これが単なるカワイイとかファンタジーとかいうような人形アニメでないことは、
最初から覚悟してはいたのですが、いやはやここまでとは考えていませんでした。
登場人物ほぼ全員が何かしら悩みや問題を抱えています。
それは身体的なものだったり精神的なものだったりいろいろなのですが、
そのせいもあってか、家族や友人に恵まれず孤独に暮らしている人ばかりです。
そんなストーリーの重さや人形たちのハッキリ言って可愛くはない、
どこかしらちょっとグロテスクですらある様子から、
最初から気楽に観ることを許さないようなダークさを感じてはいたのですが、
そうは言っても人形の仕草や表情、細密なセットの作りなど、
それらはダークではあっても愛らしさも十分持ち合わせていて、
その動作のひとつひとつを、最初のうちは楽しんで観ていたのですが、
かなり早い段階からこれが人形アニメであることはどうでもよくなっていって、
というか人形アニメであることも忘れてしまって、
その重いストーリーの中にどっぷりハマりこんでしまいました。

例えば『ウォレスとグルミット』のような作品だと、
コマ撮りの素晴らしさや楽しさ、キャラクターの愛らしさなどを常に意識し、
ストップモーションの出来栄えに驚嘆しながら観ている気がするのですが、
今作に関しては、そのストーリー自体に心が持っていかれてしまった感じです。
でもこの重さをもし生身の人間が演じていたとしたら、
もっとヘビーでいたたまれないものになっていたかも知れないし、
この作品を十分に"楽しめ"たのはやはり人形アニメだったからなのかもという気もします。


赤ちゃんはどこから?
maryandmax_2.jpg


額のアザ、いじめ、両親との関係など8歳の少女にとっては十分につらい現実の中、
それでもメアリーは明るく、前向きに生きています。
彼女が思いつきで始めた文通は遠い場所に暮らすマックスの生活も変えていきます。
アスペルガー症候群であるマックスは、そのことがもたらす悩みを抱えながらも、
それをきちんと受け止め、なんとかそれと付き合いながら都会の片隅で生きています。
二人は手紙のやり取りの中で、相手の文章に一喜一憂します。
特にマックスは、メアリーの8歳の少女らしい真っ直ぐな文章に喜び、驚き、
時にその驚きが彼を深く苦しめることもありますが、
それでもメアリーからの手紙を楽しみ、そして自分について語ります。
まったく見ず知らずの、遠い国に住む親子ほどに年の離れた二人が、
自分に出来る範囲で相手を思い、文章や贈り物を届け続けます。
そこに、人と人が付き合っていくことの楽しさや難しさがいくつも見えます。
メアリーは幼い子どもだし、マックスはアスペルガーという”病い”を抱えている。
そのことが、いわゆる普通の大人同士の付き合いとは違う、
ウソ偽りのない真っ直ぐな関係を育んでいきます。
おそらく今の自分がこういう関係を望んだとしても、
決して誰とも築くことが出来ないんじゃないかという寂しさを感じ、
二人がとても羨ましく思えました。

いろいろありながらも続いていく二人の文通。しかしマックスと違いメアリーは成長していきます。
年齢と共にさらに別の悩みも増え、しかし彼女は変わらず前向きに生きている。
やがて大学生となったメアリーは、マックスのためという"思い込み"である行動を取り、
その結果、マックスを深く傷つけてしまいます。
信頼しあっていた関係でも、ちょっとした気持ちのズレが取り返しのつかないことをしてしまう。
特にメアリーがとった行動は誰もが陥りやすい過ちで、だからこそメアリーの気持ちもわかるし、
そしてマックスの思いも、ここまで観て知った彼の様子から痛いほどわかってしまう。
そうなってしまった事実に本当に心が痛みます。


万引きダメ
maryandmax_3.jpg


そしてメアリーもおそらく初めてと言っていい、深い挫折を味わうことになります。
彼女はおそらく憎しみはなくとも"自分はこうはならない"と思っていたであろう、
自分の母親と同じようにお酒に溺れ始めます。
それがどんどん彼女を不幸に追いやり、やがて絶望の末に彼女がとる行動。
そこで流れる曲が『ケ・セラ・セラ』。
"なるようになる"という楽天的なこの歌が使われる皮肉さに、
胸が押しつぶされそうなくらいの痛みをおぼえ、また唐突に、
『17歳のカルテ』でスキーター・デイヴィスの『The End Of The World』が、
同様なシーンのバックで流れていたことを思い出しました。
こちらは『ケ・セラ・セラ』とは違い文字通り悲しい曲ではあるのですが、
いずれも絶望のシーンに流れる美しい音楽という意味では、
私にとってこんなに意地の悪い演出はありません。
このあたりから本格的に決壊した私の涙腺は、そのままエンディングまで溢れ続け、
それでもその結末はハッピーエンドとは言えないかもしれないけれど、
ずっと続いていた胸の痛みがそこで「ああよかった」という、
シンプルでホッとする、安堵のような不思議な感情に変わり、
この美しいエンディングをいつまでも抱きしめていたい気持ちでいっぱいでした。

病とか恵まれない境遇といったものは確かに不幸なことなのかも知れません。
けれどそれが不幸であるか否かは他人が勝手に決めることなのかも知れないし、
大事なのは本人がどう思ってるかであり、他人にはどうすることも出来ないし、
してはいけないことなのかもと思いました。
相手のために良かれと思ったことが必ず良い結果になるとは限らない。
また、これが一番自分を幸せにすると思ったことも意外にも違う結果に終わったりもする。
シミ取り手術が成功しても幸福は訪れず、粉々になったチョコレートの贈り物が心を温めたりする。
人との付き合い方、そして「人を愛するにはまず自分を愛せよ」という、
誰もが知っているようでうっかり忘れてしまっていることを、
メアリーとマックスが優しく優しく教えてくれました。


Mary and Max(2009 オーストラリア)
監督 アダム・エリオット
声の出演 トニ・コレット フィリップ・シーモア・ホフマン エリック・バナ
     バリー・ハンフリーズ ベタニー・ホイットモア



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堀越ヨッシー

dorothyさん、こんにちは。
dorothyさんのレビュー、さすがです!。オイラの文章力とは雲泥の差があって、実に読み応えのある記事でした(^皿^)。
 
おっしゃるようにオイラも最初こそクレイアニメということを意識して見ていましたが(窓の雨粒とか芸が細かい!)、途中からそんなことはどうでもよくなったような気がしますね。それほどドラマの世界にどっぷりと浸ってしまいました。逆に人形アニメだったからこそ、ドラマからこれほど強い印象を受けたのかもしれません。この作品、実写向きではないとはオイラも感じましたが、一方でこれは舞台向きの作品なのでは!?とも思ったりしました。
 
こんな素敵な作品に出会えるから、映画ファンは止められませんね!(^皿^)。
by 堀越ヨッシー (2011-05-27 07:05) 

dorothy

ヨッシーさん、こんにちは。
いえいえ、全然さすがじゃないです。言いたいことがありすぎて逆に単なるストーリーの説明になっちゃった感じで。

確かにこれは演劇的かも知れませんね。舞台をオーストラリアとニューヨークに2分割して...とか想像するとちょっとわくわくします。
でもこれ、リアルに目の前で演じられたら私の涙腺は決壊どころか爆発してしまうかもしれない!w
by dorothy (2011-05-27 18:49) 

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