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レオポルド・ブルームへの手紙 [映画感想−ら]

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』に由来している、ということですが、
私の『ユリシーズ』体験は、今から10年ほど前に改訳版が発売になり、
意気込んで購入したものの、一巻目の途中で挫折。
本棚の端っこで、その立派な装丁の本が常にこちらを見つめ続けているので、
いつか再挑戦しよう、再挑戦しようと思いつつ・・・という情けない状況。
では『ユリシーズ』を読んだことがないとこの作品を理解できないかというと、
おそらくそういうことはないと思うのですが、
知っていたほうが、より深く堪能できるのかも知れません。
それでも私は、この美しい再生の物語を充分に味わうことができました。


殺人罪による15年の刑期を終えたスティーヴン(ジョセフ・ファインズ)。
ミシシッピ州の刑務所を出所した彼は、あるダイナーで働き始めます。
彼はレオポルド(デイヴィス・スウェット)という少年と服役中から手紙のやり取りをしていました。
出生時の不幸な出来事により、母親メアリー(エリザベス・シュー)の愛情を得られず、
孤独な日々を送るレオポルド。
スティーヴンはそんなレオポルドと会える日を待ち望んでいましたが・・・。


スティーヴンの再出発は
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映画はレオポルドの成長していく過程と、
スティーヴンのダイナーでの日々が交互に描かれていきます。
ある日、学校の授業で誰かに手紙を書くことになったレオポルドが、
ミシシッピ刑務所の受刑者宛ての手紙を書くことから2人の"交流"が始まり、
徐々に互いの人生が近づいていくわけですが、
この2つのドラマの流れと交わりの描き方が実に巧みで美しい。
どこで2人は出会うのか、どういう風に2つのストーリーは絡んでいくのか。
かなり早い段階で、その"秘密"には気づかされますが、
そのことに気づくとなお一層、小道具や登場人物たちの言葉の端々など、
随所にちりばめられた、この2人を結びつけるヒントと言えるものが見えて来て、
謎解きのような期待感も持てます。

結婚・出産のために家庭に入り、自分のキャリアを犠牲にしてしまっていたメアリー。
それなりに幸せな家庭生活を送っていましたが、
ちょっとした行き違いから家庭は崩壊します。
ペンキ職人ライアン(ジャスティン・チャンバース)の出現、
夫ベン(ジェイク・ウェバー)とのあいだに生まれる誤解と諍い、そして別れ。
そしてレオポルドの誕生。
この時点で、彼女の人生は停止してしまうのです。
レオポルドの存在は彼女にとって「罪の烙印」でしかなくなってしまう。
レオポルドは「僕の人生は生まれる前から始まった」と手紙に綴りますが、
停止した母の人生と入れ替わるように、彼の人生は始まるのです。

一方スティーヴンはダイナーでの仕事で人生の再出発を始めます。
ダイナーの主人ヴィック(サム・シェパード)、
タチの悪い常連客であり店のオーナーでもあるホラス(デニス・ホッパー)、
ホラスに執着されているウエイトレスのキャロライン(デボラ・カーラ・アンガー)らの中で、
静かに淡々と働くスティーヴン。
楽しい日々とは言えませんが、彼にはここで働くしか道はありません。


孤独な少年、レオポルド
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ジョセフ・ファインズがこんなに素晴らしいとは!
私は昔から彼がナインティナインの岡村クンに見えて仕方ないのですが(!)、
そんなことも途中から忘れさせてくれました。
胸の奥に抱えた深い悲しみ、絶望、そして見出す希望、
そんな感情の動きを、とてもとても静かな佇まいの中で表していました。
また、彼がデニス・ホッパー扮するホラスと絡む強烈なシーンがあるのですが、
この時の凄味といったら!完全にデニス・ホッパーが負けてます。

そうはいってもホッパーのイケスカナイ親父ぶりも相変わらず。
この役は彼以外に考えられないと言ってもいい。
普通ならここで"デニス・ホッパー風な役者"を考えるだけかも知れないのに、
そのまんまホッパーに依頼してOKが出た、みたいなことでしょうか。
一段と顔のしわが増えたサム・シェパードも、
頑固そうで、何か暗い過去を持っていそうな雰囲気で、まさに彼にピッタリの役。
ウエイトレスのキャロライン役のデボラ・カーラ・アンガーもスゴイ。
疲れきった表情、ホッパーとの大胆なシーンも彼女ならでは。
メアリーの妹役として登場するのはメアリー・スチュアート・マスターソン。
久しぶりに見ましたが、この役ももう少し知名度の低い女優さんでも充分な気がします。
とにかくこれ以上ないと言えるようなキャスティング。
よくこれだけの役者を集められたものだなと感心します。


メアリーの行いは罪なのか
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そして、レオポルドの母メアリーを演じるエリザベス・シュー。
永遠に癒えることのないメアリーの罪の意識。
すべてを失ったままただ生きる18年。その18年後に知る真実。
哀れという言葉だけで片付けるにはあまりに哀しい母親役でした。

監督のメヒディ・ノロウジアンという人は、この作品の前に短編を一本撮っているだけで、
これが長編デビュー作とのこと。
エミリー・モーティマーの出演したこの短編『Killing Joe』はオスカー候補にもなった作品。
機会があれば、ぜひ観てみたいものです。
元はCM畑の人だそうで、そのせいもあってか映像の作り方にこだわりが感じられ、
抜けるような青空、降りしきる雨、
2つのストーリーを行き来するゆったりと流れるようなカメラワークなど、
映像表現の豊かさをとても感じました。

少年レオポルドを取り巻く環境・・・父親の不在、不幸な母親、乱暴者の男は、
そのままスティーヴンの置かれた状況・・・ダイナー主人、ウエイトレス、最低な客と、
それぞれに重なり合います。
スティーヴンはその環境を受け入れ、救い、立ち向かいます。
そして最後のチャプターを書き上げた彼は、
こうしてようやく、レオポルドに会う準備ができるわけです。
2人が”出会う"ことで、それぞれが過去と決別し、自分の人生を歩み始めることになる。
過去のあらゆる出来事は清算され、新たな人生がそこで始まります。
どこまでも広がる青空、豊かなミシシッピー川の流れ。
人は必ず自分自身の力でやり直すことができる。
そんな希望と美しさに満ちた作品。未見の方、機会があればぜひ。


Leo(2002 イギリス/アメリカ)
監督 メヒディ・ノロウジアン
出演 ジョセフ・ファインズ エリザベス・シュー ジャスティン・チェンバース サム・シェパード
   デニス・ホッパー デボラ・カーラ・アンガー メアリー・スチュアート・マスターソン
   ジェイク・ウェバー デイヴィス・スウェット



レオポルド・ブルームへの手紙

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ロード・オブ・ウォー [映画感想−ら]

この数年、なぜかニコラス・ケイジの作品に手が伸びなくなっています。
一番最近観たのは『ニコラス・ケイジのウェザーマン』・・・でもこれは面白かった。
そう、観ると面白いし、ニコラス・ケイジやっぱりいいなあと思うのですが。
なんだか彼のキャラクターがどれも同じような気がしたり、
そのキャラにただ依存してるだけのような気もしたり。
『ナショナル・トレジャー』とか『ワールド・トレード・センター』のような、
いわゆる彼のハリウッド大作的なものに特に興味が持てず、
この作品もその手のものと同じかと思い、敬遠していましたが、
実際に観てみるとだいぶイメージが違いました。
考えてみれば、こんな危険な内容の作品をハリウッドでおおっぴらに作れるわけはないかも知れません。


ウクライナ移民のユーリー・オルロフ(ニコラス・ケイジ)。
NYで両親が開いたレストランを弟ヴィタリー(ジャレッド・レト)とともに手伝っていた彼は、
ある日、ギャング同士の銃撃戦に遭遇します。
この事件に衝撃を受けたユーリーは、武器売買をビジネスにすることを思いつきます。
ヴィタリーをパートナーにして始めた商売に、ユーリーは天性の才能を発揮。
みるみる頭角を現し、やがて世界有数の武器商人へと成長していきますが・・・。


戦争の神様・・・なのか?
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ユーリーは常に自分の利益を得ることのみを考えて生きています。
彼が売買で扱う武器がどのように使われるか、その結果がどうなるかについてまったく興味がありません。
それはどう考えても人として許せないことです。
けれどおそらく、彼に悪いことをしているという自覚はないでしょう。
一方に大量に余った武器がある。そしてそれを必要とするもう一方の国がある。
その橋渡しをすることに何の問題があるのか、と。
"武器"を例えば"食料"なんて言葉に代えれば人道的行動となるわけだし。
それが商売になるのであれば、それは資本主義の基本であるわけで。

また、ずっと片思いだったエヴァ(ブリジット・モイナハン)との出会いをセッティングし、
結婚までこぎ着けてしまいますが、彼女には一切自分の商売のことは語りません。
”出会いをセッティング”までは、お金持ちのロマンティックな演出でもあり得る話かも知れませんが、
彼女を騙していることには違いなく、ですがこのことにも彼に罪の意識はありません。
エヴァを手に入れること、それが彼の純粋な目的だったのだから。

そもそも、ユーリーの一家はユダヤ系であると偽ってウクライナからアメリカへ渡ってきており、
ずっと身分を偽って生きてきました。
そんなことも、彼の性格形成に少なからず影響しているのかも知れません。
けれども、一緒に仕事を始めた弟のヴィタリーは、兄とはずいぶん性格が違います。
たびたび遭遇する危険な状況、目撃する悲惨な現状から逃げるようにドラッグに走ってしまいます。
何度もリハビリ施設を出入りするヴィタリーは、
見た目にはユーリーより人生の落伍者に見えるかも知れません。
でも、彼の感覚こそ人としては正しいはずなのです。


ヴィタリーの心の中は
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ユーリーを追い続けるインターポールのジャック(イーサン・ホーク)。
何度も追いついては、ユーリーの巧みな偽装や理屈の前に、逮捕の機会を逃します。
貨物機で武器を輸送中に戦闘機で追跡、ユーリーは仕方なくアフリカの平野に不時着しますが、
ジャックたちが来る前になんとか武器を”処分”(このシーンは実に面白くかつ恐ろしい!)、
ようやく到着したジャックに手錠をかけられ、その場に一晩放置されることになります。
「24時間お前を拘束することで、武器の犠牲者たちの死を24時間先延ばしにできる」
とジャックは言って立ち去ります。
ものすごく説得力のある言葉。でも本当に犠牲者たちにとって救いなのかどうか私にはわかりません。
ユーリーにしてみれば、そんな24時間の先延ばしなど何の意味もないと思ったのではないでしょうか。

彼のそばで地元住民によって見事に解体されてしまう貨物機。
荒野で死んだ動物が朽ち果てたりハイエナなどに食い尽くされたりして、
自然に還っていくさまを表したかのような映像。
人の死も自然の摂理であり、死に方やタイミングに違いはあってもいつか必ず死ぬ。
自分がどうなろうと、何をしようがしまいが関係ない。
そんなユーリーの心を表しているようにも思いました。


ジャックはどこまでも追い続けるが・・・
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世の中にはいろんな種類のビジネスがあって、そのビジネスで成功する人としない人がいる。
成功はもちろん悪いことではなく、誰もが成功を目指すはずです。
では、その成功の影で犠牲になる人はどうすればいいのか。
それが人の生死に関わることだとしたら。
そこに思いが至らないユーリーという人は、どう弁護しても絶対悪であることは間違いありません。
いや、悪ではなく、何かの大きく欠如した人なのでしょう。
でも本当に憎むべきは、彼のような人間が生まれてしまう背景、需要があるという事実。
そこにこそ目を向けるべきなのでしょう。
資本主義の中で暮らす私たち、アメリカの同盟国である日本に住む私たちも、
この罪に少なからず加担していると言っていい。
じゃあどうすれば?・・・たぶん、何ができるのかは誰もすぐには答えられない。
ただ、こういった事実を知っていることと知らないのとでは、大きな差がある。
そんなことをブラックなユーモアを交えつつ教えてくれたアンドリュー・ニコル、
そして、いつも通りの困り顔で演じたニコラス・ケイジに感謝したいです。


Lord of War(2005 アメリカ)
監督 アンドリュー・ニコル
出演 ニコラス・ケイジ ブリジット・モイナハン ジャレッド・レト イーサン・ホーク イアン・ホルム



ロード・オブ・ウォー

ロード・オブ・ウォー

  • 出版社/メーカー: 日活
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ロケッティア [映画感想−ら]

昔、観たかったけど観てなかったシリーズ!
・・・というほど観たくてたまらなかったわけでもないですが、
以前、NHK-hiで放送された時になんとなく録画していたものを鑑賞。


第二次世界大戦勃発直前の1938年。ロサンゼルス。
スタントパイロットのクリフ(ビル・キャンベル)は試験飛行中、
ギャングとFBIの抗争に巻き込まれ、愛機を失ってしまいます。
落ち込むクリフと相棒のエンジニア・ピーヴィー(アラン・アーキン)は、
飛行機格納庫の中で謎の"ロケットパック"を発見します。
それはFBIに追われていたギャングの1人が密かに隠したものでした。
使用法もよくわからないまま、それを背負ってみるクリフ。
数日後、航空ショーで仲間を助けるためにそのロケットパックで飛行することになってしまい、
その存在が一気に世間に知られてしまいます。
一躍"ロケッティア"として有名になった彼は、ギャング団とFBI、
それにハリウッドスターのシンクレア(ティモシー・ダルトン)にまで命を狙われるようになり、
そして事態は予想外の方向へ・・・?


おそるおそる背負ってみると・・・
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元はアメリカンコミックだそうですが、
いわゆるアメコミでの敵とのバトルのような展開はありません。
主人公は偶然ロケットパックを手に入れ、果敢にもそれを背負い飛んでみますが、
やたらとそこら中にぶつかり破壊しながら飛び回るだけで、
逃げるために飛ぶ、あるいは恋人ジェニー(ジェニファー・コネリー)を救出するために飛ぶ・・・だけです。
敵側も、このロケットパックを奪うことだけが目的。
原作では、このあと悪と闘うヒーローになったりするんでしょうか?
闘うといっても、できることは飛ぶことだけだしなあ・・・。

まさに80年代ムービー・・・といっても1991年製作ですが。
それは、モロ合成バレバレな映像などが強く感じさせます。
飛んでいる飛行機にロケッティアが飛んで近づいて行くところなんかは、
さすがにちょっと見ていてツライ。
よく言えば味があるというか、懐かしさも感じられますが。
でも、最初にクリフがロケットパックを背負い、
人々の頭上や街の上空、山を越え湖を越え・・・の飛行シーンはとても気持ちよい映像です。
さすが『遠い空の向こうに』のジョー・ジョンストン作品だと思いました。


若い・・・
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時代設定などからも『インディ・ジョーンズ』のようなアドベンチャーものに雰囲気は近いです。
ディズニー作品なだけに残酷なシーンなどないのでお子さま向けのようにも思われそうですが、
第二次世界大戦前という設定や、ハリウッドネタも結構出てくるので、
その辺はお子さまにはちょっと難しいかも知れません。
ハワード・ヒューズが何者かなんて説明は一切ありませんし。
ところでこのハワード・ヒューズ役、なんとびっくり『LOST』のロックことテリー・オクィンじゃないですか!
当然ですが若くて・・・毛がアル。
こういうちょっと昔の映画を観ると、こんなお楽しみが待っているから楽しい!


か、かっこいい・・・
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ティモシー・ダルトンのいやったらしい感じ(エロール・フリンがモデルとか?)もたまりません。
ジェニファー・コネリーは20歳ぐらいですが、若くてキレイで今と違ってムッチムチ!
まさに花を添える役柄です。

あまりにもヒネリのない、そのまんまな作品ですが、
1930年代という時代設定なので、映像の作り方以外は古さを感じさせないし、
お休みの日の午後にぼんやり観たりするのにはよい作品かも知れません。
欲を言えば、もうちょっと飛行シーンがいっぱいあって欲しかったかも。
ツッコミどころとしては、頭を守るヘルメットも大事だけど、
下半身が燃えないような工夫も必要だったと思いますね。
どう見てもお尻から下は丸焦げですよ。


The Rocketeer(1991 アメリカ)
監督 ジョー・ジョンストン
出演 ビル・キャンベル ジェニファー・コネリー アラン・アーキン ティモシー・ダルトン
   ポール・ソルヴィノ テリー・オクィン



ロケッティア

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  • 出版社/メーカー: ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント
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リトル・チルドレン [映画感想−ら]

パトリック・ウィルソンその2です。
実はこれを観るために『ハードキャンディ』を観たようなものなのでした・・・。
でも、一番の目的はケイト・ウィンスレット。大好き!


ボストン郊外の住宅地に越してきたサラ(ケイト・ウィンスレット)。
娘と公園に出かけては、近所の主婦たちとの違和感を感じて日々を過ごしています。
そこに、息子を連れて現れたブラッド(パトリック・ウィルソン)。
司法試験受験のため無職である彼は、映像作家の妻キャシー(ジェニファー・コネリー)の代わりに、
主夫として息子の面倒を見ています。
周りの主婦たちに密かに"プロムキング"と呼ばれていたブラッド、
彼と偶然話すきっかけができたサラは、ちょっとしたいたずら心から、
彼女たちの前でブラッドにキスしてしまいます。


子ども1と2、サラとブラッド
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ブラッドは妻に養われている立場に居たたまれなさを感じ、
何かを変えたいと思っています。
サラは周りの主婦たちと自分は違うと思いながら、
実際は娘の面倒をみるだけの日々を送るしかないことにいらだちを感じています。
ある日、夫がネットポルノに夢中になっている現場を見てしまい、
それがきっかけとなって、ブラッドへ気持ちが傾いていきます。
ここまでは、よくある不倫モノという感じですが、
そこに2人の男、ロニーとラリーの存在が絡んできます。

ロニー(ジャッキー・アール・ヘイリー)は性犯罪の前科があり、
服役してこの街に戻ってきたばかり。
近所に犯罪者がやって来たことに街は騒然としており、
元警官のラリー(ノア・エメリッヒ)はそのロニーに執拗に嫌がらせをします。
彼も実は過去に事件を起こしており、そのことが彼をいっそうロニーへの行動へ向かわせているといえます。


子どもその3、ロニー
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この作品の登場人物たちは、それぞれに悩み、どこにも行けない苛立ちを抱えています。
それは特別珍しいことでもなく(ロニーは別ですが)それほど深刻なものとも思えません。
彼らの行動や言動はどこか子供じみていて、そこからこのタイトルは来ているのだと思いますが、
それぞれが年齢的にはもう大人で、家庭もあるのに、
未だに自分探しをしているようであり、その様子はまるで十代のようです。
特に一番の子どもはブラッド。
司法試験に何度も失敗し、今度もダメだと思っている彼は、
勉強をサボって少年たちのスケートボードをぼんやり眺めたりしますが、
本当は彼らの仲間に入っていきたいと思っていたりする。
ラリーに誘われて入ったフットボールチームでは過去の栄光を思い出し、
これで何かが開けそうな気になってみたりしますが、当然何も変わりはしません。
サラは大学院まで出たのに、ただの主婦になってしまった自分がイヤで、
周りの誰とも私は違うと思い、でも何も変えることはできず、
自分の娘の扱いすらうまくできません。
2人の不倫関係は、それぞれの現状の不満から逃げ出す口実であるだけのようで、
そこに愛情があるようには見えません。
ただその場にいたくない、そこから逃げ出したいという、
これも子どもっぽい考えなのです。


子どもその4、ラリー
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ラリーは仲間たちに溶け込み、一方でロニーを追い詰めることに必死ですが、
その様子はなんだかガキ大将のようでもあります。
地域を守ることを言い訳にして威厳を保ち、
実際は自分の過去をなんとか誤魔化そうとしているように見えます。
そしてロニー。
幼児性愛による犯罪者で世間に入っていくことはできない。
唯一の理解者は彼の母親であり、母の庇護の元で生きていくしかない彼は、
まさに大きな子どもです。
母親の薦めで新聞の出会い欄に応募し、
1人の女性(ジェーン・アダムス!彼女はどうしていつもこんな役!?)とデートしますが、
とんでもないことでぶちこわしにしてしまったり。


唯一の大人?キャシー
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ケイト・ウィンスレットはどうしてこんなに素晴らしいのでしょう。
イライラしたり落ち込んだり泣いたり、彼女の行動1つ1つが胸に深く染みます。
パトリック・ウィルソンは彼の得意分野と言えそうな、
ハンサムでいいカラダで性格も良くて、でも煮え切らなくて頼りなくて・・・という適役。
ジャッキー・アール・ヘイリーのオスカー助演候補も頷ける不気味で哀しい演技は必見です。
ノア・エメリッヒも、理不尽な性格で周囲に迷惑をかけますが、実は孤独を抱えている、
かなりめんどくさく鬱陶しい男を熱演しています。
そしてジェニファー・コネリー。
ブラッドがサラにためらうことなく「妻は美人だ」と言い切れる美貌、
仕事もできて息子を心から愛す完璧な妻。
彼女の心理をもう少し表して欲しかったです。

不倫関係を続け、その関係を正当化したいサラとブラッドは、
当然の成り行きとして街を出ようとします。
一方、暗い過去を持ちながらも街から出ることができないロニーとラリー。
彼ら4人が交錯するラスト。
それはこちらの予想を軽く裏切る素晴らしさで、
それぞれが自分の素顔をさらけ出し、あるいは本心と向き合うことになり、
このことで彼らがほんの少し、大人への道を踏み出すことができるような、
かすかな希望と痛みに溢れています。
彼らとなんら変わらないという自覚を持つ私も、
充分すぎるぐらい痛みを感じてしまいました。


Little Children(2006 アメリカ)
監督 トッド・フィールド
出演 ケイト・ウィンスレット パトリック・ウィルソン ジェニファー・コネリー
   ノア・エメリッヒ ジャッキー・アール・ヘイリー



リトル・チルドレン

リトル・チルドレン

  • 出版社/メーカー: NIKKATSU CORPORATION(NK)(D)
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ラブソングができるまで [映画感想−ら]

ヒュー・グラントとドリュー・バリモアのラブコメディ。
この2人は人生いろいろあったしってことで、もう一生この路線で行く気なのでしょうか?
さて、今作もほとんど先の読める安心内容・・・なのですが。


80年代に一世を風靡したポップバンド、その名も"PoP!'。
ツインボーカルの1人だったアレックス(ヒュー・グラント)は、
今はすっかり世間から忘れられた存在でしたが、
ある日、現在人気絶頂の歌姫コーラ(ヘイリー・ベネット)から新曲の依頼を受けます。
またとないチャンスと曲作りを始めるアレックスですが、歌詞作りが難航。
そんな作業中の彼の家に、観葉植物の手入れをしにソフィー(ドリュー・バリモア)がやって来ます。
何気なく彼女が口にした歌詞に才能を感じたアレックスは、彼女に作詞を依頼します。


PoP! 最高!
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冒頭の、デュラン・デュランとかワム!みたいな、
あまりにも80年代ど真ん中な"PoP!"の曲とPVっぷりがもうたまりません。
てっきりロンドンが舞台だと思っていたらニューヨークなのですね。
今はすっかり落ちぶれたアレックスに、「あの人は今」的な番組への出演依頼が来るのですが、
この辺のやりとりは、80年代の音楽シーンをリアルに体験した人にはおかしくってしょうがないでしょう。

で、本題に入っていくと・・・。
アレックスとソフィーが恋に落ちるというのは最初からわかっていることなんですが、
その辺の動機や盛り上がりがいまひとつ不満。
ドリュー・バリモアは相変わらずハッピーという言葉を絵に描いたような、
ちょっとどこかずれた、でも憎めない女の子として登場します。
ですが、彼女の過去の恋愛と、その後に起こった出来事が途中発覚し、
そのことで事件が起き、2人に愛が芽生える・・・わけですが、
その過去の出来事がアレックスにわかる過程にあまり説得力がなく、
ソフィーに対してイマイチ共感もできないのです。
ちょっとフシギちゃんなだけかと思っていたけど、性格的に好きになれないかも、
この性格だったらそうなっても仕方ないかも・・・と思うようになってしまうと、
そこからどうもこの話に気持ちが入らなくなってしまったのです。


素晴らしい曲が生まれる・・・?
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ロマンチックコメディですから主人公2人が恋に落ちるのは当然なのですが、
コレと言ってグッと来るエピソードもありません。
こういう作品が予定調和であることは元からわかっていることで全然問題ではないのですが、
だからこそ、もっと印象的なシーンがあったりしてもいいんじゃないかな、と思いました。
2人の周囲の人々のキャラクターも、もう少し活躍して欲しかった。
ソフィーの姉が元々アレックスの熱狂的ファンだったというのに、
妹が憧れだったスターとそうなってしまったら、もっと大ごとになってもよさそうなのに、とか、
ヘンに物わかりの良いアレックスのマネージャーも、ただ人が良いだけだし。
それと、どこかでPoP!のもう1人のボーカル、コリンが登場するんじゃないかと期待したんですが。

そんな中、唯一コーラの存在感は面白かった。
"ブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラ以来の大スター"と言われ、
仏教に凝っちゃって、曲はいずれもインド風アレンジ。最後は必ず合掌してお辞儀。
自分の信念は貫いてるけど意外に素直だったり、
本当に物事わかってるんだろうか?という不安な気持ちにもさせる、
ちょっと薄め顔のクールビューティ。
この作品、彼女のデビュー作ということでは後々まで語られるものとなるかも知れません。
ラストの彼女のライブシーンなんて、ものすごいお金のかけ方です。


クールビューティと元アイドル
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何がどう悪いのかよくわからないのですが、
ヒュー・グラントとドリュー・バリモアがテンポ良くセリフをしゃべってるだけではどこか物足りない。
そう、なんだかすべてにおいて情熱が感じられませんでした。
ヒュー・グラントの歌とダンスは素晴らしかったので、まあそれが見られただけでも良かったかな。
どうせなら、80年代懐古趣味をもっと押し出しても良かったのかもと思います。
例の「あの人は今ボクシング」番組をちゃんと見せてくれても良かったと思うし、
バンド仲間や当時一緒に活躍した設定の人が登場するとか。
そっちのほうで盛り上げてくれれば、それはそれで楽しめたかも、と思いました。


Music and Lyrics(2007 アメリカ)
監督 マーク・ローレンス
出演 ヒュー・グラント ドリュー・バリモア ヘイリー・ベネット ブラッド・ギャレット
   クリステン・ジョンストン キャンベル・スコット



ラブソングができるまで 特別版

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  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
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ラブソングができるまで

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