SSブログ
映画感想−た ブログトップ
前の5件 | 次の5件

つぐない [映画感想−た]

久しぶりに映画らしい映画を観た満足感に浸っています。
物語そのものの力強さもありますが、
映像の美しさ、その見せ方、そして俳優たちの演技の素晴らしさもあって、
何をどう言っていいのやらわからないぐらい打ちのめされました。
ちゃんと劇場で観るべきだったと今はものすごく後悔しています。


1935年のイングランド、夏のある日。
小説家を夢見る13歳のブライオニー(シアーシャ・ローナン)は初めての戯曲を書き上げ、
姉のセシーリア(キーラ・ナイトレイ)と使用人の息子ロビー(ジェームズ・マカヴォイ)は、
初めて互いの想いに気づきます。
そして、そんな2人の関係を知り戸惑うブライオニー。
その日の夜、ある事件が起こります。
事件を"目撃"したブライオニーは犯人がロビーだと証言、ロビーは連行されてしまいます。
それから4年後、ロビーは兵士として戦地へ赴き、セシーリアは彼との再会をただ待ち続け、
ブライオニーは自分のとった行動の意味に気づきます。


atonement_1.jpg


イアン・マキューアンの原作『贖罪』は未読。
書店で何度か目にしていたのですが、その分厚さと、
"贖罪"という言葉の重さに簡単に手に取ることが出来ず、
でもこの映画化された作品を観たら、読んでなくて良かったかも知れないと思いました。
純粋に何もない状態で映画自体を楽しむことが出来たのは、
今思うと幸せなことだった気がします。
エンディングを除いてほぼ原作に忠実に映像化されているそうですが、
そうは言ってもこぼれ落ちている部分はたくさんあるのではと思うし、
物語そのものをもう一度味わい、テーマである”贖罪”について、
もう一度深く考えたいので、ぜひこれから原作に挑戦したいと思っています。

それにしてもこの作品、映像の持つ力というものを強く感じさせてくれました。
ほんのちょっとしたことも漏らさない緻密さ、
一見、小手先ワザとも受け取られかねない編集や演出も、
最後まで観ればそれらすべてに理由があることがわかる多数の仕掛け。
廊下で光る髪飾りや図書室のランプ、懐中電灯などの印象的な光の使い方や、
川や噴水など何度も形を変え登場する水中シーンの美しさ、恐ろしさ。
同じシーンを別の視点から見せる、繰り返す、巻き戻す、
そのことから見えてくる現実と作者の意図。
見えたものや見えなかったもの、そこにあったものやなかったものを、
無駄なく、また想像力の余地を残しつつ感じさせてくれます。


atonement_2.jpg


そして何と言っても圧巻なのは、ロビーが戦地のフランスで仲間2人とたどり着く海岸のシーン。
何万人ものイギリス兵が祖国へ帰る船を海岸で待っている様子を、
ワンカット長回しですべて見せきります。
ロビーたちが海岸にたどり着いたところから始まり、ほかの兵士と会話し、
騒ぐ者や歌う者、しゃがみ込みあるいは倒れかかって来る者たちの間をすり抜け、
一方で馬が射殺され、武器が運ばれ、車両が破壊され・・・と、
海岸で行われているあらゆる出来事を1つのカットで見せていきます。
合唱する歌声はバックで流れる音楽の中に溶け込んでいき、
砂や泥、血や嘔吐物で溢れた景色なのに、美しささえ感じます。
長回しワンカット撮影は、その技術と労力だけで評価がプラスされがちなものですが、
このシーンはもちろん技術的な素晴らしさは言うまでもなく、
それ以上に、何も言葉では説明されないのに限りなく文学的で力強い。
これほどの映像を作り出すこのジョー・ライトという監督の力に、ただただ驚かされました。
前作の『プライドと偏見』でも長回しはたびたび登場したので、
彼のこだわりの部分なのかも知れませんが、
それがいずれもテクニックに走っているということではなく、
物語としてきちんと役目を果たしているところが素晴らしい。

また音の使い方も実に印象的。タイプライターの音で始まり、
それが驚くほど素晴らしくスコアの中に溶け込んでいきます。
なぜタイプの音が響き続けるのかは最後に納得させられるのですが、
それを劇伴に溶け込ませ、意味を持たせるという手法には驚かされました。
ほかにもライターの音、何かを叩く音、足音やドアの音など、
効果音がそのまま音楽の一部となったり、
バックのピアノの曲に合わせて実際にセシーリアがピアノの弦を弾いてみたりと、
どこまで意図して予め音楽が作られていたのか。
オスカー作曲賞受賞も納得の素晴らしさです。


atonement_3.jpg


キャストもすべて驚くほど良い演技を見せています。
なんと言っても13歳のブライオニーを演じるシアーシャ・ローナン!
少し大人びているようで、でもまだ十分に子どもであり、
その濁りのない、けれどもガラスのように冷たい瞳で真っ直ぐに世界を見つめる。
悪意のない、純粋無垢な心が大人たちの人生を狂わせてしまう恐ろしさを、
これ以上ない完璧さで表現していました。
それとジェームズ・マカヴォイはやはりいい役者だと再認識。
初めの頃は明るい未来が待ち受けていることから来る自信に満ち、
セシーリアを愛し、そしてブライオニーにも愛情ある眼差しを注いでいた男が、
奈落の底に突き落とされ、やがて戦地をさまよい歩く時にはその瞳は絶望で覆われている。
ラストの彼の表情には本当に胸を締め付けられる思いでした。

映画の最後に語られる"真実"によって、
ここまで私たちが見せられてきたものの意味が知らされるわけですが、
この一種のどんでん返しとも言える告白に、
あのシーンが、あのセリフは?と、あらゆることが次々と押し寄せてきました。
この複雑な構造の物語を2時間の中に見事に収めきった監督の力量にただ感服。
これでまだ長編2作目なんて!
ちなみに最後のシーンでインタビュアーに扮していたのはアンソニー・ミンゲラでしたが、
どういう経緯での出演かわかりませんが、作風も演出家としての力も、
ジョー・ライトはアンソニー・ミンゲラの正当な後継者になりそうだと感じました。


Atonement(2007 イギリス)
監督 ジョー・ライト
出演 キーラ・ナイトレイ ジェームズ・マカヴォイ シアーシャ・ローナン ロモーラ・ガライ
   ブレンダ・ブレッシン ヴァネッサ・レッドグレイヴ パトリック・ケネディ 
   ベネディクト・カンバーバッチ ジュノ・テンプル アンソニー・ミンゲラ



つぐない [DVD]

つぐない [DVD]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • メディア: DVD



贖罪〈上〉 (新潮文庫)

贖罪〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: イアン マキューアン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 文庫


タグ:映画
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

チェンジリング [映画感想−た]

1928年ロサンゼルス。
シングルマザーのクリスティン・コリンズ(アンジェリーナ・ジョリー)は、
電話会社に勤めながら女手一つで9歳の息子ウォルターを育てていました。
ある日、彼女は急に休日出勤を頼まれ、ウォルター1人を家に残し出社します。
仕事を終え急いで帰宅すると、そこに息子の姿はありませんでした。
警察の捜査も一向に進展しないまま5ヶ月が過ぎたある日、
ウォルターを無事保護したと知らせが入ります。
ロス市警のジョーンズ警部(ジェフリー・ドノヴァン)に付き添われ、
報道陣に囲まれながら息子を迎えに行くクリスティン。
しかしそこに現れたのは、ウォルターとは別人の少年でした。


本当の息子はどこに?
changeling_1.jpg


硫黄島二部作で父親に焦点をあてた作品を作ったので、
今度は母親・・・ということでもないでしょうが、
イーストウッドが純粋に1人の女性を主人公にした作品を作ったのは、
これが初めてではないでしょうか。
(『ミリオンダラー・ベイビー』も女性が主人公ではありましたが、
あれはイーストウッドとモーガン・フリーマンの話でもあったので。)
それでも内容はいつものイーストウッドならではと言える、
権力や組織と闘う個人という図式。
少年の失踪事件と連続殺人事件が絡み合い、
それはやがて腐敗したロス市警の告発へと繋がっていきます。

これまであらゆるスタイルの"強い女"を演じてきてきたアンジェリーナ・ジョリーですが、
今作ではか弱く、どこにでもいそうな普通の母親を演じています。
それでもなんとしても息子を取り戻したいという母親の強さは常に内に秘めていて、
そして次第にその強さを表面に出していきます。
このあたりで彼女のキャスティングが大正解だったと感じさせられ、
またいかにもイーストウッド好みの"強い女"だなあとも思わされました。


警察は取り合ってくれない
changeling_2.jpg


イーストウッド作品ですから元からハッピーエンドなど期待できないのですが、
クリスティンを襲う出来事はあまりにも非情で不幸、
これが実話であることにただただ恐ろしさのみを感じます。
80年以上前のこととはいえ、一般人で女性であることの立場の弱さ、
そしてそれを逆手に取り、あれこれと自分たちに都合の良い方向に持って行く、
ロス市警のやり口の汚さ。
彼女がどんなに息子は別人だと主張してもことごとく否定したあげく、
思い通りにならないとわかると、精神異常と決めつけ強制入院させてしまいます。
やがて明らかになる殺人事件も実に凄惨なものなのですが、
恐ろしさという点ではこの警察の態度も同じくらいの狂気を秘めていると思いました。
ただただクリスティンを否定し続けるジョーンズ警部、
彼女の家に"検査"に訪れる医師、精神病院の医師や看護婦。
それが仕事だからとか、誰かにやらされているといったことではなく、
良心の呵責などこれっぽっちも見せないこういった人々の描写は、
ある意味勧善懲悪ものの悪人の姿としてはわかりやすいもので、
このあたりの描き方にもイーストウッドらしさを感じてしまいました。

クリスティンを援助するグスタヴ・ブリーグレブ牧師(ジョン・マルコヴィッチ)や、
精神病院で出会うキャロル(エイミー・ライアン)、
そして牧場での殺人事件を担当することになるヤバラ刑事(マイケル・ケリー)など、
クリスティンの"助け"となる人々が徐々に登場することで、
事件が少しずつ明らかになり、クリスティンのみならず、
誰もが知りたい真実へと近づきそうになるのですが、
なかなかそこへたどり着かず、もどかしさを感じます。
最後はアメリカ映画お得意の法廷劇へと繋がり、
解決するかと思えば・・・そう簡単には終わりません。
それでもそういったあらゆる出来事により、微かな希望も残しています。
そう、イーストウッド作品に於いては、
常に正義は貫かれ、報われなければならないのです。


不正を暴き続けるブリーグレブ牧師
changeling_3.jpg


また、アンジーも来日時にインタビューで触れていたようですが、
日本人ならこの作品を観ると、
北朝鮮による拉致事件を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
終盤の、別の失踪事件を通して知らされる事実、
その"解決する現場"に居合わせるクリスティンの姿に、
北朝鮮から戻ってきた人と未だ帰りを待つ家族の様子、
何度も報道で目にしているあの風景が重なってしまいました。

ロサンゼルスの市庁舎で廃棄処分されそうになっていた古い記録の中から、
脚本家J・マイケル・ストラジンスキーが発見した、ある聴聞会の議事録。
ジャーナリスト出身の彼はそこからリサーチを始め、素晴らしい脚本に仕上げました。
それはイーストウッドやアンジーがインタビューで、
「実話でなければ出来すぎた話」と語るほどで、
「事実は小説より・・・」というのはまさにこういうことなのでしょう。
それでも、牧場でのいわゆる"ゴードン・ノースコット事件"は、
実際はここで描かれたよりももっと猟奇的で凄惨なものだったらしく、
またクリスティンの夫については、おそらく敢えて描かれておらず、
そういった"脚色"が、この物語が何を伝えたいのかを明白にしていて、
おそろしく無駄のない、完璧な作品に仕上がっています。
必見。


Changeling(2008 アメリカ)
監督 クリント・イーストウッド
出演 アンジェリーナ・ジョリー ジョン・マルコヴィッチ ジェフリー・ドノヴァン コルム・フィオール
   ジェイソン・バトラー・ハーナー エイミー・ライアン マイケル・ケリー デニス・オヘア


チェンジリング [DVD]

チェンジリング [DVD]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
  • メディア: DVD



チェンジリング [Blu-ray]

チェンジリング [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
  • メディア: Blu-ray


タグ:映画
nice!(3)  コメント(4)  トラックバック(2) 
共通テーマ:映画

テネイシャスD 運命のピックをさがせ! [映画感想−た]

ジャック・ブラックは好きだけど、
彼のバンド"テネイシャスD"の音楽はあまりピンとこなかったので、
なかなか観る気になれなかった作品でしたが・・・。


ミズーリ州の田舎町で厳格な家庭に育ったロック大好き少年JB。
しかし彼の父親(ミートローフ)はロックは悪魔の音楽と決めつけ、
JBにロックを聴くことを禁じます。
落ち込むJBの前に現れたのは"ロックの神様"ディオ。
彼の啓示を受けたJBはギター抱えて家を飛び出し、
長年?かかってようやくハリウッドにたどり着きます。
すっかり大人になったJB(ジャック・ブラック)は、
そこで天才的なギターテクニックを持つKG(カイル・ガス)と出会います。
2人は運命に導かれ、バンド"テネイシャスD"を結成。
そしてある日2人は、偉大なロックスターが皆同じピックを持っていたという事実を知ってしまい・・・。


名曲作曲中
tenacious_d_1.jpg


観る前から十分予想されたことですが、徹底的にバカで低レベル。
下ネタとかデブネタとか、笑いのレベルが本当に小学生並みです。
こういうのが生理的に受け付けない人は絶対にダメでしょう。
冒頭で子どもの頃のJBがギターかき鳴らして歌う歌詞の時点で、
JBのお母さんみたいになっちゃう人は、そこで観るのを止めたほうがいいです。
大人になってもこのまんまなので。

元々テネイシャスDというバンドがあって、彼らのTVシリーズも放送されていて、
バンド自体の存在あっての作品とも言えるので、
このバンドに興味がないとあまり楽しめないかも知れません。
でもこの手の音楽が好きな人には出演者が豪華で楽しめると思うし、
『スクール・オブ・ロック』や『ハイ・フィデリティ』での、
ロックバカなジャック・ブラックが好きな人は大満足だと思います。


熱狂の?ステージ!
tenacious_d_2.jpg


最初のリトルJBの歌から始まって、曲はほとんどがテネイシャスDのオリジナル。
見事にミュージカルというかロックオペラになっています。
メタル調の曲をアコギで熱唱する時点でおかしいんですが、
これが結構イケてるし笑えるし、意外に聴かせてくれます。
JBの相棒のカイル・ガスという人、見た目もこんなでネタフリとして十分過ぎるんですが、
本当にギター上手だし、いろんな意味で卑怯!です。

フー・ファイターズのデイヴ・グロールがロックの悪魔として登場するんですが、
あまりにも悪魔メイクが過ぎて、言われなければ絶対誰だかわかりません。
わからないと言えば、JBがキノコを食べてラリラリになってしまうシーンで、
毛むくじゃらのビッグフットみたいなのが登場するんですが、
これは歌声と眉毛のあたりのゴツイ感じでジョン・C・ライリーだとようやくわかります。
あとエイミー・アダムスやJBの弟分?コリン・ハンクスも本当にチラッと出ています。
でも何と言ってもベン・スティラーとティム・ロビンス!
ベン・スティラーの楽器店店員は本当にこういう人いそうだなあという、
何年バイトやってるの?という風貌が最高!
ティム・ロビンスもジャック・ブラックのためなら何だってやってくれますね。
こういうの本当に好きなんだろうなあという気合いの入り方でした。


ミートローフ!とリトルJB
tenacious_d_3.jpg


ミートローフやディオは最初しか出てこないのが残念。
それとリトルJBがすっごくカワイイ!
本当にジャック・ブラックを小さくしたみたいなんです。
演じてるトロイ・ジェンティル君は『ナチョ・リブレ』でもJBの子ども時代を演じ、
でもこの2年後には『Mr.ボディガード/学園生活は命がけ!』で、
どう見てもセス・ローゲンの分身ライアンを演じています。
いずれにしてもデブキャラとして今後もフラットパック&ジャド・アパトー組の、
重要なメンバーになっていきそうです。

KGはやたらと女の子が気になってしょうがなくて、
もてたくて音楽やってますみたいな感じなんですが、
JBはまったく女の子には興味ナシ。ひたすらロック道を極めたくてしょうがない。
全体に下ネタは登場しますが女っ気をまるっきり排除しています。
あまりに男臭さ満点過ぎて、これ観て楽しめる女の人って、
私ぐらいしかいないんじゃないでしょうか。
でもフラットパックものは大抵こんな感じですね。
そこがなんか潔くて好きだったりします。
そうだ、アタマのTHXロゴのパロディ"THC"も見事にサラウンドしてくれてイイ!ですよ。
でもやっぱりオナラネタだったりするんですけどね・・・。


Tenacious D in The Pick of Destiny(2006 アメリカ)
監督 リアム・リンチ
出演 ジャック・ブラック カイル・ガス ロニー・ジェイムス・ディオ ティム・ロビンス
   デイヴ・グロール ベン・スティラー JR・リード ミートローフ トロイ・ジェンティル



テネイシャスD 運命のピックをさがせ!プレミアム・エディション [DVD]

テネイシャスD 運命のピックをさがせ!プレミアム・エディション [DVD]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • メディア: DVD



テネイシャスD 運命のピックをさがせ!コレクターズBOX (初回限定生産) [DVD]

テネイシャスD 運命のピックをさがせ!コレクターズBOX (初回限定生産) [DVD]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • メディア: DVD


タグ:映画
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

チェ 39歳別れの手紙 [映画感想−た]

いろんな意味で私にはハードルの高かった『チェ 28歳の革命』の続編。
観に行くのもそれなりに覚悟がいるし、かといって観たくないわけでもなく、
むしろ早く観たくてしょうがない、といった気分でこの一週間ほどを過ごしていました。


1965年3月、エルネスト・"チェ"・ゲバラ(ベニシオ・デル・トロ)は、
世間から忽然と姿を消します。
フィデル・カストロは共産党中央委員会で、ゲバラからの"別れの手紙"を公表します。
ゲバラはすべての地位を捨て、新たな革命の旅へ出ることを決意していたのでした。
容姿を変え、妻アレイダ(カタリーナ・サンディノ・モレノ)や子どもたちと最後の時を過ごし、
1966年11月、ゲバラはボリビアに入国します。


チェ最後の革命の旅は
che_part2_1.jpg


前作では55年からのキューバ革命と64年のニューヨークを、
時間軸を前後させて描いていましたが、
今回はこういった演出は一切なし。時間通りに話が進んでいきます。
前作の感想で、キューバでの状況説明の少なさをニューヨーク部分で説明しているようだ、
と書いたのですが、今回それがないことでいよいよわかりにくくなるか・・・と思ったら、
意外にも、前作より話に集中することができました。
とは言ってもやはり登場人物の関係性や、
ゲバラが(地理的にも思想的にも)どこへ向かおうとしているのか、
そういった細かい説明は今回もまったくと言っていいほどありません。

そもそも、ゲバラをボリビアへと向かわせたのはどういうことだったのか。
国連で演説をしたのが64年。そして翌年に失踪。
この間に彼が何を考え、彼やその周囲にどんなことがあったのかを知りたかった。
キューバで革命を成功させても、まだ世界には多くの不正があり、
貧困に苦しむ人々が大勢いて、それらを見過ごすことはできなかったのはわかります。
結果的に、彼はこのボリビアで命を落とすことになるのですが、
そうならず、仮にここでの革命を成功させたとしても、
彼はまた新たな地へと旅立ったことでしょう。


変装してボリビアへ
che_part2_2.jpg


前回同様、今作でもゲバラ本人の思いや考えが最後までよく見えませんでした。
最後の最後、政府軍に捕らえられてからようやく素顔がほんの少し見えた気がします。
それまでは相変わらず負傷兵を救い、農民の子どもの治療をし、
彼本人は喘息の発作に苦しみ続けます。
キューバの時に比べ兵士たちの士気は低く、農民も味方にはなりません。
ことごとく作戦が失敗し次々と仲間を失っていく中、彼がどんな思いだったのか、
今度こそもう少し見えるのではないかと思ったのですが、
残念ながら、私には感じることができませんでした。

そういった演出は一切排除することが目的だったのでしょう。
ソダーバーグはインタビューで「一切脚色はない」と言い切っています。
エンドロールを見れば、というより”聞け"ば、その強い意志は充分に伝わってきます。
まさに疑似ドキュメンタリーを作るつもりで製作し、その点では成功していると思います。
それでは、この作品を作る目的は何だったのか。
その目的は結局のところよく見えませんでした。
ゲバラの何を描きたかったのか。ゲバラのいた時代、
そして彼の起こした革命そのものを忠実に再現することから見えてくる何かを、
観る側は懸命に掴まなくてはいけないのかも知れません。


女性戦士タニア
che_part2_3.jpg


ゲバラの諜報部員として働く女性戦士タニアをフランカ・ポテンテが演じていましたが、
流暢なスペイン語を話し、とても印象的でした。
タニアという人がそもそもドイツ人だったそうで、その意味では彼女はまさに適役。
ほんのワンシーンだけマット・デイモンが出演していましたが、
ジェイソン・ボーンとマリーは残念ながら(?)出会えませんでしたね。
前作同様、戦士たちのキャラクターがわかりにくく、
まあこれは私の理解力の無さ、顔認識が非常に苦手なアタマだからなんですが、
今回は政府軍側もたくさん登場するので、大変厳しい思いをしました。

ベニシオ・デル・トロは当然ながら一貫して険しく重苦しい表情なのですが、
一ヵ所だけ、ボリビアの子どもたちと戯れるシーンで、
唯一、まさにこぼれるような笑顔を見せます。
おそらくこの笑顔は演出ではなく、彼の演技でもなく、
素の状態だったのではないかと思いました。
それが不思議なことに私の知っているチェ・ゲバラ本人の、
魅力的な、人を惹きつけて止まないあの笑顔に一番似ているように思いました。


Che: Part Two(2008 アメリカ/フランス/スペイン)
監督 スティーブン・ソダーバーグ
出演 ベニシオ・デル・トロ デミアン・ビチル フランカ・ポテンテ ルー・ダイアモンド・フィリップス
   カタリーナ・サンディノ・モレノ ロドリゴ・サントロ マット・デイモン



チェ ダブルパック (「28歳の革命」&「39歳別れの手紙」) [DVD]

チェ ダブルパック (「28歳の革命」&「39歳別れの手紙」) [DVD]

  • 出版社/メーカー: NIKKATSU CORPORATION(NK)(D)
  • メディア: DVD






チェ コレクターズ・エディション (2枚組) [Blu-ray]

チェ コレクターズ・エディション (2枚組) [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: Blu-ray


タグ:映画
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

チェ 28歳の革命 [映画感想−た]

『トラフィック』でのアカデミー賞監督賞&助演男優賞コンビ、
スティーヴン・ソダーバーグとベニシオ・デル・トロ。
2人が再びタッグを組み取り組んだのは、偉大なる革命家チェ・ゲバラの半生。
2部構成総上映時間4時間25分の大作、その第1部です。


1955年。アルゼンチン人の医師エルネスト・ゲバラ(ベニシオ・デル・トロ)は、
南米大陸の旅の途中のメキシコで、フィデル・カストロ(デミアン・ビチル)と出会います。
独裁政権に苦しむ祖国キューバの状況を憂い、
平等社会の実現を目指すカストロの意志に共鳴したゲバラは、
この政府軍との戦いに参加することを決意、キューバへ渡ります。


ゲバラとカミロ(サンティアゴ・カブレラ)
che_part1_1.jpg


昔、我が家の本棚に『ゲバラ日記』という本がありました。
幼かった私には"ゲバラ"という言葉の持つ響きがどこか可笑しく、
それとは対照的な"革命"という文字、
そしてあの有名な、不思議に魅力的な強い眼差しを持つ男性の肖像画、
それらがどれもこれも興味深く、でも結局その本を手に取ることはないままでした。
やがて、あの肖像画をポスターやTシャツなどでよく見かけるようになっても、
彼がいったい何者なのかはよくわからないまま。
そんなゲバラの人物像に初めて具体的に接することになったのは、
映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』でした。

その程度の知識しか持ち合わせていないままでは、
おそらくかなりの部分の理解ができないのでは、と予想されたことですが、
この作品の説明のなさ加減は相当に手強いものでした。
上映前にゲバラに関する簡単な説明が流されましたが、
このくらいはここに来ている人は知ってることだろう、という程度でしたし、
かなりの予備知識、元々ゲバラに対して相当興味を持っているような人でないと、
この2時間強を乗り切るのは大変だと思いました。


ニューヨークで彼を迎えるのは・・・
che_part1_2.jpg


淡々とただ状況だけを見せていくような描き方は、まるでドキュメンタリーのようです。
64年のニューヨークと55年〜59年までのキューバでのゲリラ戦が交互に描かれ、
当然、主人公のゲバラを中心にして話は進むわけですが、
戦地パートでは、彼が主人公だからといって、
彼だけをクローズアップしてみせたりといったこともなく、
彼が先陣を切って闘うというようなシーンもあまりありません。
そのため彼の表情もわかりにくく、その時どんなことを思っていたかといった、
ゲバラ自身の感情の動きのようなものが見えにくい。
同じような格好をした彼らゲリラ軍が1つの画面上にたくさん登場すると、
とっさにどれがゲバラかわからなかったりするほどでした。

逆に革命を成功させてから数年後であるニューヨークのパート、
国連での演説やインタビューなどでは彼の考えや思いを語らせます。
これを時折挟み込むことによって、
戦地での状況や思いを語らせるのと同じような役割を持たせていると言えます。
ニューヨークシーンをモノクロ、戦地をカラーにして、
時間軸を行き来させながら見せるのが唯一の演出とも言えそうで、
これがなければ本当に、撮りっぱなしのフィルムをただただ見せられてるようです。


後に妻となるアレイダ(カタリーナ・サンディノ・モレノ)
che_part1_3.jpg


事実をありのままに伝えることも当然大事だと思います。
カストロを始め、まだ存命者も多い中での映画化なので、
脚色しにくい事情もあることでしょう。
でも、ニュースフィルムをただ再現するのではないのだから、
もう少し映画的な演出も欲しかった。
戦闘シーンを増やせとか、ドラマチックな音楽で盛り上げろとは言いませんが、
何か印象的なエピソードなどがもう少しあっても良かった気がします。
例えば、ゲバラが負傷した仲間は決して見捨てない、
その一方で、卑劣な行動に出た仲間は容赦なく処刑するといったような描写などは、
彼の性格が伝わってきそうです。
とにかく読み書きを勉強しろとか、最後のほうのクルマのエピソードなんかも面白い。
こういうちょっとしたことでゲバラの人間性や、
彼がその時どんな思いだったのかが垣間見える気がします。
最初からそういうことは一切描かないというスタンスだったと、
言われてしまえばそれまでなんですが、
ソダーバーグならそのあたりもう少し違うアプローチも出来たんじゃないかと思い、
少し残念です。
第2部『チェ 39歳別れの手紙』を観てみないと何とも言えませんが、
今作に対する不満な気持ちが、かえってこの第2部を観たい気持ちにさせています。

観る前にサンティアゴ・カブレラ(ヒーローズ!)や、
ロドリゴ・サントロ(ラブ・アクチュアリー・・・というよりLOSTのパウロ!?)
なんて名前がチラッとアタマの中にはあったのに、
始まってしまうと、もう誰が誰やら。
カタリーナ・サンディノ・モレノはショートカットもカワイイですね。
・・・なんて、キャストがどうこう言う間も与えない堅い作りでした。
この緊張感を憶えているうちに、早く次を観たいと思っています。


Che: Part One(2008 アメリカ/フランス/スペイン)
監督 スティーヴン・ソダーバーグ
出演 ベニシオ・デル・トロ デミアン・ビチル カタリーナ・サンディノ・モレノ
   ジュリア・オーモンド ロドリゴ・サントロ サンティアゴ・カブレラ 



チェ ダブルパック (「28歳の革命」&「39歳別れの手紙」) [DVD]

チェ ダブルパック (「28歳の革命」&「39歳別れの手紙」) [DVD]

  • 出版社/メーカー: NIKKATSU CORPORATION(NK)(D)
  • メディア: DVD






チェ コレクターズ・エディション (2枚組) [Blu-ray]

チェ コレクターズ・エディション (2枚組) [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: Blu-ray


タグ:映画
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画
前の5件 | 次の5件 映画感想−た ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。