帰らない日々 [映画感想−か]
予定が変わって急に時間ができたので、何か映画を観ることに。
時間の都合の良かったこの作品にしました。
大学教授のイーサン(ホアキン・フェニックス)は、
ある日、自動車事故で10歳の息子ジョシュ(ショーン・カーリー)を失います。
事故を起こした相手はそのまま逃走。
妻のグレース(ジェニファー・コネリー)、娘エマ(エル・ファニング)とともに、
悲しみに暮れる日々を送ることになります。
事故の捜査はなかなか進展せず、業を煮やしたイーサンは弁護士事務所に相談に向かいます。
そこで仕事を任されたのは弁護士のドワイト(マーク・ラファロ)。
実は彼こそが、そのひき逃げ犯だったのでした。
一瞬にして息子を失う
『ホテル・ルワンダ』のテリー・ジョージ監督作で、
大好きなマーク・ラファロが主役級ということで興味はあったのですが、
あらすじを読んで、ちょっと話が出来過ぎなことが気になっていました。
頼んだ弁護士が犯人だった・・・なんて、安っぽいサスペンスドラマみたいに思えたのです。
でも見始めると、舞台が田舎町であることから、
弁護士事務所もアメリカとはいえそんなに数はなさそうだし、
なぜ弁護士に依頼するようになるのかのいきさつも丁寧に描かれているので、
まあいいかな、と思えるようになりました。
ただ、ドワイトの元妻ルース(ミラ・ソルヴィノ)までが家族と関係があったというのは、
さすがにちょっとどうかな、と。
このルースとの関係がいろんなことの発覚に繋がるきっかけではあるのですが、
そこはもうちょっと違う感じにして欲しかった気もしました。
ただ、そういった細かいことも出演者たちの素晴らしい演技で次第にどうでもよくなってきます。
ホアキン・フェニックスは常に怒りと悲しみを胸に抱えている。
まあ彼の得意なキャラクターと言えなくもないのですが。
マーク・ラファロも最初から最後まで苦しみととまどいの表情で、その複雑な心の内を表しています。
ジェニファー・コネリーの深い悲しみも重く胸に迫ってきます。
ドワイトも愛する息子と別れられない
被害者側のイーサンとグレース。彼らの息子を失った悲しみの表し方はまったく違っています。
それは性格や性差、父としての立場、母としての思いの違いなどから来るものなのかも知れませんが、
これはとても興味深かったです。
イーサンは逃げた犯人を探し出すことに全身全霊傾けます。
ネットでひき逃げ事件をいろいろと調べるうちに、
法にはたくさんの穴があり、泣き寝入りする被害者が多いことを知り、
実際に遅々として進まない捜査に怒り、自力で犯人を捜そうとします。
一方グレースは、息子の死を自分のせいだとして自分を責め、
息子が苦しまずに死んだという警察官の言葉にも強く反応します。
また、娘エマのためには自分がしっかりしなくてはならないとも思い始めます。
事故の直後は、深い悲しみのため何もできなくなっていたグレースを、
イーサンは「一緒に乗り越えよう」と励ますのですが、
時間が経つにつれイーサンのほうこそがどんどん深みにはまっていきます。
どちらも悲しみと怒りは同じように持っているのですが、
その表し方、解決の仕方はこんなにも違ってくる。
その結果、夫婦にはだんだんと溝が出来始めます。
悲劇はどこまでも被害者を苦しめ続けていくのです。
加害者であるドワイトも、もちろん自分が犯した罪の重さに苦しみ続けます。
何度も自首しようとするのですが、ちょっとしたことでできなくなる。
彼は離婚して息子に週に1回しか会えないような生活をしています。
離婚の原因は詳しくは語られませんが、元々どこか心の弱い人なのでしょう。
そんな性格もあって、妻に愛想を尽かされたのかも知れません。
事故から逃げてしまったのも、息子との関係、社会的立場などを考え、
それらを失うことが恐ろしくてできなかったから。
ドワイトがしたことは当然許されることではないのですが、
彼を見ていると、もし自分が彼の立場になったらどうするだろう、
絶対に逃げたりしないと言い切れるのだろうか、と思います。
真実を告げられるのか。
人の心の弱さ・・・イーサンとドワイト、2人ともどうしようもなく弱い。
ドワイトは逃げ、イーサンは復讐に向かい始める。
どちらも弱さから間違った道を進んでしまうのです。
でも何が正しい選択なのでしょう。これはとても簡単には答えが出せません。
ドワイトに関して言えば、必要だったのは"勇気"だったのかも知れません。
彼には自首する勇気がなかった。自分の家族を犠牲にする勇気、
そして"死"を選ぶ勇気もなかった。
それがあれば、もう少し何かが違っていたはずなのです。
どうしても、あの『ホテル・ルワンダ』の、と思ってしまうので期待も大きく、
その分、作品の完成度としてはいまいちかも知れません。
安易なサスペンスドラマにしなかったのはさすがですが、
登場人物それぞれのエモーショナルな部分が、単独で見ると素晴らしいのに、
それが作品全体に広がって形になっていないような、
そんなもったいなさみたいなものを感じました。
ただ、これを観て思うことは人によっていろいろあるでしょう。
子を持つ親であれば、両方の親の気持ちそれぞれにもっと深く感情移入してしまうかも知れません。
Reservation Road(2007 アメリカ)
監督 テリー・ジョージ
出演 ホアキン・フェニックス マーク・ラファロ ジェニファー・コネリー
ミラ・ソルヴィノ エル・ファニング
時間の都合の良かったこの作品にしました。
大学教授のイーサン(ホアキン・フェニックス)は、
ある日、自動車事故で10歳の息子ジョシュ(ショーン・カーリー)を失います。
事故を起こした相手はそのまま逃走。
妻のグレース(ジェニファー・コネリー)、娘エマ(エル・ファニング)とともに、
悲しみに暮れる日々を送ることになります。
事故の捜査はなかなか進展せず、業を煮やしたイーサンは弁護士事務所に相談に向かいます。
そこで仕事を任されたのは弁護士のドワイト(マーク・ラファロ)。
実は彼こそが、そのひき逃げ犯だったのでした。
一瞬にして息子を失う
『ホテル・ルワンダ』のテリー・ジョージ監督作で、
大好きなマーク・ラファロが主役級ということで興味はあったのですが、
あらすじを読んで、ちょっと話が出来過ぎなことが気になっていました。
頼んだ弁護士が犯人だった・・・なんて、安っぽいサスペンスドラマみたいに思えたのです。
でも見始めると、舞台が田舎町であることから、
弁護士事務所もアメリカとはいえそんなに数はなさそうだし、
なぜ弁護士に依頼するようになるのかのいきさつも丁寧に描かれているので、
まあいいかな、と思えるようになりました。
ただ、ドワイトの元妻ルース(ミラ・ソルヴィノ)までが家族と関係があったというのは、
さすがにちょっとどうかな、と。
このルースとの関係がいろんなことの発覚に繋がるきっかけではあるのですが、
そこはもうちょっと違う感じにして欲しかった気もしました。
ただ、そういった細かいことも出演者たちの素晴らしい演技で次第にどうでもよくなってきます。
ホアキン・フェニックスは常に怒りと悲しみを胸に抱えている。
まあ彼の得意なキャラクターと言えなくもないのですが。
マーク・ラファロも最初から最後まで苦しみととまどいの表情で、その複雑な心の内を表しています。
ジェニファー・コネリーの深い悲しみも重く胸に迫ってきます。
ドワイトも愛する息子と別れられない
被害者側のイーサンとグレース。彼らの息子を失った悲しみの表し方はまったく違っています。
それは性格や性差、父としての立場、母としての思いの違いなどから来るものなのかも知れませんが、
これはとても興味深かったです。
イーサンは逃げた犯人を探し出すことに全身全霊傾けます。
ネットでひき逃げ事件をいろいろと調べるうちに、
法にはたくさんの穴があり、泣き寝入りする被害者が多いことを知り、
実際に遅々として進まない捜査に怒り、自力で犯人を捜そうとします。
一方グレースは、息子の死を自分のせいだとして自分を責め、
息子が苦しまずに死んだという警察官の言葉にも強く反応します。
また、娘エマのためには自分がしっかりしなくてはならないとも思い始めます。
事故の直後は、深い悲しみのため何もできなくなっていたグレースを、
イーサンは「一緒に乗り越えよう」と励ますのですが、
時間が経つにつれイーサンのほうこそがどんどん深みにはまっていきます。
どちらも悲しみと怒りは同じように持っているのですが、
その表し方、解決の仕方はこんなにも違ってくる。
その結果、夫婦にはだんだんと溝が出来始めます。
悲劇はどこまでも被害者を苦しめ続けていくのです。
加害者であるドワイトも、もちろん自分が犯した罪の重さに苦しみ続けます。
何度も自首しようとするのですが、ちょっとしたことでできなくなる。
彼は離婚して息子に週に1回しか会えないような生活をしています。
離婚の原因は詳しくは語られませんが、元々どこか心の弱い人なのでしょう。
そんな性格もあって、妻に愛想を尽かされたのかも知れません。
事故から逃げてしまったのも、息子との関係、社会的立場などを考え、
それらを失うことが恐ろしくてできなかったから。
ドワイトがしたことは当然許されることではないのですが、
彼を見ていると、もし自分が彼の立場になったらどうするだろう、
絶対に逃げたりしないと言い切れるのだろうか、と思います。
真実を告げられるのか。
人の心の弱さ・・・イーサンとドワイト、2人ともどうしようもなく弱い。
ドワイトは逃げ、イーサンは復讐に向かい始める。
どちらも弱さから間違った道を進んでしまうのです。
でも何が正しい選択なのでしょう。これはとても簡単には答えが出せません。
ドワイトに関して言えば、必要だったのは"勇気"だったのかも知れません。
彼には自首する勇気がなかった。自分の家族を犠牲にする勇気、
そして"死"を選ぶ勇気もなかった。
それがあれば、もう少し何かが違っていたはずなのです。
どうしても、あの『ホテル・ルワンダ』の、と思ってしまうので期待も大きく、
その分、作品の完成度としてはいまいちかも知れません。
安易なサスペンスドラマにしなかったのはさすがですが、
登場人物それぞれのエモーショナルな部分が、単独で見ると素晴らしいのに、
それが作品全体に広がって形になっていないような、
そんなもったいなさみたいなものを感じました。
ただ、これを観て思うことは人によっていろいろあるでしょう。
子を持つ親であれば、両方の親の気持ちそれぞれにもっと深く感情移入してしまうかも知れません。
Reservation Road(2007 アメリカ)
監督 テリー・ジョージ
出演 ホアキン・フェニックス マーク・ラファロ ジェニファー・コネリー
ミラ・ソルヴィノ エル・ファニング
タグ:映画
この映画はやはり「ホテル・ルワンダ」という大看板が邪魔になってますね。
致し方ないことだけど、比較してしまうと正当な評価を与えられない気がします。
自分に子供がいたら、まったく受け止め方は違ったでしょうね。
by ken (2008-09-04 20:33)
kenさん、コメントありがとうございます。
『ホテル・ルワンダ』が特別な1本だったのでしょうか。
次の作品に期待ですね。
by dorothy (2008-09-05 02:30)