ストップ・ロス/戦火の逃亡者 [映画感想−さ]
タイトルの「ストップ・ロス(STOP-LOSS)」とは、
戦地での兵士不足を解消するため、兵士が兵役満了となっても除隊させず、
強制的に兵役期間を延長し戦地に派遣するアメリカ軍の制度のこと。
こんな言葉があることを、これまでまったく知りませんでした。
ブランドン(ライアン・フィリップ)はイラクでの過酷な任務を終え、
仲間らと共に故郷のテキサスへ休暇のため帰還します。
彼と親友のスティーヴ(チャニング・テイタム)は戦地での活躍を称えられ勲章を受けますが、
失った仲間や戦闘に巻き込んでしまったイラクの民間人たちのことなどが、
彼らの心に深く傷を残していました。
ブランドンとスティーブはこの休暇後そのまま除隊することを決めていましたが、
休暇が明けた彼らは上官に呼び出され「ストップ・ロス制度」による兵役延長を申し渡され、
再びイラクへの配属指示が出されてしまいます。
それに納得できないブランドンは、思わずそのまま脱走してしまいますが・・・。
戦友
キンバリー・ピアースが『ボーイズ・ドント・クライ』以来、
およそ9年ぶりにメガホンを取った作品だというのに、日本では劇場未公開、
アメリカでも興行成績はふるわなかったのだそう。
それはこういった内容のためボイコット運動などがあったことが影響したようで、
アメリカ国内でさえ「ストップ・ロス」というシステムの実態はあまり把握されておらず、
この制度が発令され、実際に再び現地へ送り返された兵士の正確な数も明らかにされていないのだとか。
そしてもちろんブランドンのように軍に背く兵士も多数いて、
彼らを影で援助するシステムも出来上がっているのだそうです。
映画の冒頭ではイラクでの市街戦が生々しく描かれます。
突然敵からの銃撃を受ける、目の前で仲間を失う、無防備な老人や子どもを殺してしまう・・・。
そんな地獄からようやく帰り着くことが出来たのに、再びあの地獄へ戻らなければならない。
思わず逃げ出してしまうブランドンの気持ちは本当によくわかります。
一方スティーヴはその指令を受け入れ、すべてを置いて逃げ出したブランドンを許せません。
スティーヴも酔って不審な行動を取ったりと、相当心に傷を受けていることは間違いないのですが、
自分の居場所は、自分が"生きる"場所は戦地にしかないのだと思ってしまいます。
また、銃撃で手足や視力まで失ったロドリゲス(ヴィクター・ラサック)という兵士は、
ブランドンが戦地に戻ることに反対しますが、
「自分なら戻る。自分が死ねば家族がグリーンカードをもらえるから」と言いきります。
彼らいずれも間違っていないし、それぞれの判断を誰も否定出来ない。
どうしてこんなことになってしまったのでしょう?
ミシェルの思い
彼らが志願兵となったのは、純粋に愛国心からの者もいれば、
家族のため、学費を稼ぐためなど理由は様々。
私なんかはどんな理由であれ自分から志願して戦争に行くなんてとつい思ってしまうですが、
それは平和な場所からボンヤリ対岸の様子を眺めている者の甘い考えなのでしょう。
しかし、あれほどベトナム戦争や湾岸戦争での兵士の後遺症が問題視されても、
戦地に向かう若者が何十万人もいるという現実。
ましてや、これほど意味のない戦争(戦争の意味の有無というのもおかしなことですが)なのに。
オバマ大統領がようやく2011年までのアメリカ軍全面撤退を表明しましたが、
つまりこれはまだ本当に現在進行形の話であるということに、
どうしようもない息苦しさを感じます。
脱走したブランドンの生きる道はただひとつ、
国を捨て、別人となり家族とも縁を切り生きていくこと。
彼の両親はそれでも息子が生きていてくれることを尊重し、彼の決断を支持します。
そしてブランドンが最後に取った行動は・・・。
この決断の厳しさに何ともやりきれないものを感じてしまいました。
しかしこれは彼が人として、正しく人として、そして今現在彼に出来る最善のことなのだと思いました。
トミーの決断
ブランドンの逃亡を手助けするのはスティーヴの恋人ミシェル(アビー・コーニッシュ)。
二人が恋愛関係になるという安易な展開に行きそうなのに、そうならないのが好ましい。
カットされたシーンにはもう少し二人が心を通わせ合う描写もありましたが、
おそらく敢えてそういうものは排除したのだと思います。
そしてもう一人重要な登場人物が、ジョセフ・ゴードン=レヴィット演じる兵士トミー。
戦地で目の前で親友を殺され、休暇中は酒に溺れ何度も問題を起こす。
彼のどこにも行き場のない悲しみにも胸が痛みます。
今作も彼目当てで観たのですが、マッチョな兵士たちの中で、
彼の線の細さがトミーというキャラクターを強く印象づけていました。
それでもブートキャンプに参加し5Kgも増量したんだそうで、
でも撮影中に肩を脱臼したりと、なかなか大変だったようです。
実際に戦地に赴く兵士たちはビデオカメラで戦場の様子を撮影するらしく、
その雰囲気をハンディカムの映像を多用することで出しています。
戦争に行って兵士がカメラを回す、そうかそういう時代なのだなと思いましたが、
しかし戦地を撮影する感覚というのはどういうものなのでしょう?
観光気分とか遊び気分と言ってはあんまりですが、
戦地から戻り、彼らはどんな思いでそのビデオを観るのか。
その行為を責めたりはしないけれど、やはり何かどこかおかしい気がする。
でもそれも現実。
良い作品です。機会があればぜひ。
Stop-Loss(2008 アメリカ)
監督 キンバリー・ピアース
出演 ライアン・フィリップ アビー・コーニッシュ チャニング・テイタム
ジョセフ・ゴードン=レヴィット キアラン・ハインズ ティモシー・オリファント
ヴィクター・ラサック ロブ・ブラウン ジョセフ・ソマー リンダ・エモンド
戦地での兵士不足を解消するため、兵士が兵役満了となっても除隊させず、
強制的に兵役期間を延長し戦地に派遣するアメリカ軍の制度のこと。
こんな言葉があることを、これまでまったく知りませんでした。
ブランドン(ライアン・フィリップ)はイラクでの過酷な任務を終え、
仲間らと共に故郷のテキサスへ休暇のため帰還します。
彼と親友のスティーヴ(チャニング・テイタム)は戦地での活躍を称えられ勲章を受けますが、
失った仲間や戦闘に巻き込んでしまったイラクの民間人たちのことなどが、
彼らの心に深く傷を残していました。
ブランドンとスティーブはこの休暇後そのまま除隊することを決めていましたが、
休暇が明けた彼らは上官に呼び出され「ストップ・ロス制度」による兵役延長を申し渡され、
再びイラクへの配属指示が出されてしまいます。
それに納得できないブランドンは、思わずそのまま脱走してしまいますが・・・。
戦友
キンバリー・ピアースが『ボーイズ・ドント・クライ』以来、
およそ9年ぶりにメガホンを取った作品だというのに、日本では劇場未公開、
アメリカでも興行成績はふるわなかったのだそう。
それはこういった内容のためボイコット運動などがあったことが影響したようで、
アメリカ国内でさえ「ストップ・ロス」というシステムの実態はあまり把握されておらず、
この制度が発令され、実際に再び現地へ送り返された兵士の正確な数も明らかにされていないのだとか。
そしてもちろんブランドンのように軍に背く兵士も多数いて、
彼らを影で援助するシステムも出来上がっているのだそうです。
映画の冒頭ではイラクでの市街戦が生々しく描かれます。
突然敵からの銃撃を受ける、目の前で仲間を失う、無防備な老人や子どもを殺してしまう・・・。
そんな地獄からようやく帰り着くことが出来たのに、再びあの地獄へ戻らなければならない。
思わず逃げ出してしまうブランドンの気持ちは本当によくわかります。
一方スティーヴはその指令を受け入れ、すべてを置いて逃げ出したブランドンを許せません。
スティーヴも酔って不審な行動を取ったりと、相当心に傷を受けていることは間違いないのですが、
自分の居場所は、自分が"生きる"場所は戦地にしかないのだと思ってしまいます。
また、銃撃で手足や視力まで失ったロドリゲス(ヴィクター・ラサック)という兵士は、
ブランドンが戦地に戻ることに反対しますが、
「自分なら戻る。自分が死ねば家族がグリーンカードをもらえるから」と言いきります。
彼らいずれも間違っていないし、それぞれの判断を誰も否定出来ない。
どうしてこんなことになってしまったのでしょう?
ミシェルの思い
彼らが志願兵となったのは、純粋に愛国心からの者もいれば、
家族のため、学費を稼ぐためなど理由は様々。
私なんかはどんな理由であれ自分から志願して戦争に行くなんてとつい思ってしまうですが、
それは平和な場所からボンヤリ対岸の様子を眺めている者の甘い考えなのでしょう。
しかし、あれほどベトナム戦争や湾岸戦争での兵士の後遺症が問題視されても、
戦地に向かう若者が何十万人もいるという現実。
ましてや、これほど意味のない戦争(戦争の意味の有無というのもおかしなことですが)なのに。
オバマ大統領がようやく2011年までのアメリカ軍全面撤退を表明しましたが、
つまりこれはまだ本当に現在進行形の話であるということに、
どうしようもない息苦しさを感じます。
脱走したブランドンの生きる道はただひとつ、
国を捨て、別人となり家族とも縁を切り生きていくこと。
彼の両親はそれでも息子が生きていてくれることを尊重し、彼の決断を支持します。
そしてブランドンが最後に取った行動は・・・。
この決断の厳しさに何ともやりきれないものを感じてしまいました。
しかしこれは彼が人として、正しく人として、そして今現在彼に出来る最善のことなのだと思いました。
トミーの決断
ブランドンの逃亡を手助けするのはスティーヴの恋人ミシェル(アビー・コーニッシュ)。
二人が恋愛関係になるという安易な展開に行きそうなのに、そうならないのが好ましい。
カットされたシーンにはもう少し二人が心を通わせ合う描写もありましたが、
おそらく敢えてそういうものは排除したのだと思います。
そしてもう一人重要な登場人物が、ジョセフ・ゴードン=レヴィット演じる兵士トミー。
戦地で目の前で親友を殺され、休暇中は酒に溺れ何度も問題を起こす。
彼のどこにも行き場のない悲しみにも胸が痛みます。
今作も彼目当てで観たのですが、マッチョな兵士たちの中で、
彼の線の細さがトミーというキャラクターを強く印象づけていました。
それでもブートキャンプに参加し5Kgも増量したんだそうで、
でも撮影中に肩を脱臼したりと、なかなか大変だったようです。
実際に戦地に赴く兵士たちはビデオカメラで戦場の様子を撮影するらしく、
その雰囲気をハンディカムの映像を多用することで出しています。
戦争に行って兵士がカメラを回す、そうかそういう時代なのだなと思いましたが、
しかし戦地を撮影する感覚というのはどういうものなのでしょう?
観光気分とか遊び気分と言ってはあんまりですが、
戦地から戻り、彼らはどんな思いでそのビデオを観るのか。
その行為を責めたりはしないけれど、やはり何かどこかおかしい気がする。
でもそれも現実。
良い作品です。機会があればぜひ。
Stop-Loss(2008 アメリカ)
監督 キンバリー・ピアース
出演 ライアン・フィリップ アビー・コーニッシュ チャニング・テイタム
ジョセフ・ゴードン=レヴィット キアラン・ハインズ ティモシー・オリファント
ヴィクター・ラサック ロブ・ブラウン ジョセフ・ソマー リンダ・エモンド
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