インソムニア [映画感想−あ]
公開当時、"ロビン・ウィリアムズがミスキャスト"とか、
"『メメント』のクリストファー・ノーランなのに!"といった悪い評判しか聞けず、
なんとなく観ないでしまっていました。
期待しないで観ると意外に・・・の法則とも言えるのですが、
これがなかなか見応えがある作品でした。
アラスカの田舎町で17歳の少女の変死体が発見され、
ロス市警のドーマー(アル・パチーノ)とハップ(マーティン・ドノヴァン)の2人の刑事が、
捜査の応援のためにやって来ます。
やり手で経験豊富なドーマーはここでもその手腕を発揮、犯人をおびき寄せる作戦に出ます。
思惑は的中し犯人が現れ、ドーマーは彼を追い詰めますが、
そこである誤ちを犯してしまいます・・・。
事件の糸口は
布地に血が染み込んでいくタイトルや、
被害者の少女が、殺されたあとに髪を洗われ爪を切られていたといったことから、
猟奇殺人的なイメージを持って見始めたのですが、それはまったく違っていました。
少女の殺人事件とその捜査中に起こるもう1つの事件、そしてドーマーが関わった過去の事件、
それに白夜による不眠(インソムニア)が重なりドーマーを追い詰めていく、
まさに心理ドラマと言えるものでした。
アラスカの白夜。眠らせてくれない夜は次第にドーマーの判断力を鈍らせ、精神を痛めつけていきます。
"明けない夜はない"という言い回しがありますが、そもそも夜がない。
眠らないということは、肉体に及ぼす問題も大きいですが、
何かを切り替えるタイミングを失うことでもあります。
また、夜の闇に隠してしまいたいことも常に太陽にさらされ続ける。
ドーマーは1つの嘘を隠すためにさらに嘘を重ねていく深みにはまっていきますが、
それは永遠に夜の来ない、終わりのない1日のようにどこまで続くのかわかりません。
犯人を追い詰めたかに見えたが・・・
今さら言うまでもないのですが、とにかくアル・パチーノの演技には見入ってしまいます。
あの眼力で相手を睨む、あるいは単に相手を見つめるだけでも、
途方に暮れて空を仰いだり物思いにふけっている時も、その瞳は力強い。
睡眠不足でだんだん朦朧としてくるそのぼんやりした瞳ですら深い。
すべてに胸の奥の複雑な思いが染み出しているようです。
ちょっとした仕草、ちょっとした間、ちょっとした言い回し、
そのひとつひとつに見応えがある、まさにパチーノ劇場。
一方、不評だった殺人犯フィンチ役のロビン・ウィリアムズですが、
確かに何が何でも彼でなくてはということはなかったかも知れません。
ただフィンチという人物が作家であることや、
一見、人の良さそうな"普通の人"であることが重要であり、
いかにもアヤシゲでサイコな犯人ではない”普通のおじさん”という雰囲気を、
よく出していたと思いました。
でもいつもの彼ならキレる時にはもうちょっとハデにキレてくれそうなのに、
今作ではそのキレ方がいまひとつだった気がします。
殺人の動機はそのキレるということが重要だったと思うし、
それをドーマーの前で思いっきり見せて欲しかった。そこはちょっと物足りませんでした。
真っ直ぐに事件に向かうエリー
ドーマーを信奉する地元警察の刑事エリーを演じるヒラリー・スワンク。
個人的にあまり得意でない女優さんなのですが、今作の彼女はとても良かったです。
真面目で素直で仕事熱心。熱心であるが故にいろんなことに気づいてしまう過程も無理がなかったし、
彼女はこのぐらいのタフさ加減が適切でいいです。
ドーマーもフィンチも完全な悪人ではなく、自分が犯したことに対する罪悪感を持ち続けています。
それでも真実をさらけ出すことは今さらできない。
自己の正当化のために相手を利用することによって罪はさらに塗り込められていく。
どうにか事件を”解決”させようとする2人のやりとりは見応えのあるものでした。
取り調べを受けるフィンチの一言一言に反応するドーマー。
それは言わない約束、そっちがそう来るならコレを言ってやる、という、
2人と、観ているこちら側しかわからない駆け引きのスリル!
なので、ラストはそこまでの心理戦からするとやや乱暴な気もしましたが、
ドーマーがフィンチの中に見た、自分と同じ部分とそうでない部分の違い。
それをエリーに伝えることができるか否かという点に於いては、完璧なラストと言っていいと思いました。
Insomnia(2002 アメリカ)
監督 クリストファー・ノーラン
出演 アル・パチーノ ロビン・ウィリアムズ ヒラリー・スワンク マーティン・ドノヴァン
"『メメント』のクリストファー・ノーランなのに!"といった悪い評判しか聞けず、
なんとなく観ないでしまっていました。
期待しないで観ると意外に・・・の法則とも言えるのですが、
これがなかなか見応えがある作品でした。
アラスカの田舎町で17歳の少女の変死体が発見され、
ロス市警のドーマー(アル・パチーノ)とハップ(マーティン・ドノヴァン)の2人の刑事が、
捜査の応援のためにやって来ます。
やり手で経験豊富なドーマーはここでもその手腕を発揮、犯人をおびき寄せる作戦に出ます。
思惑は的中し犯人が現れ、ドーマーは彼を追い詰めますが、
そこである誤ちを犯してしまいます・・・。
事件の糸口は
布地に血が染み込んでいくタイトルや、
被害者の少女が、殺されたあとに髪を洗われ爪を切られていたといったことから、
猟奇殺人的なイメージを持って見始めたのですが、それはまったく違っていました。
少女の殺人事件とその捜査中に起こるもう1つの事件、そしてドーマーが関わった過去の事件、
それに白夜による不眠(インソムニア)が重なりドーマーを追い詰めていく、
まさに心理ドラマと言えるものでした。
アラスカの白夜。眠らせてくれない夜は次第にドーマーの判断力を鈍らせ、精神を痛めつけていきます。
"明けない夜はない"という言い回しがありますが、そもそも夜がない。
眠らないということは、肉体に及ぼす問題も大きいですが、
何かを切り替えるタイミングを失うことでもあります。
また、夜の闇に隠してしまいたいことも常に太陽にさらされ続ける。
ドーマーは1つの嘘を隠すためにさらに嘘を重ねていく深みにはまっていきますが、
それは永遠に夜の来ない、終わりのない1日のようにどこまで続くのかわかりません。
犯人を追い詰めたかに見えたが・・・
今さら言うまでもないのですが、とにかくアル・パチーノの演技には見入ってしまいます。
あの眼力で相手を睨む、あるいは単に相手を見つめるだけでも、
途方に暮れて空を仰いだり物思いにふけっている時も、その瞳は力強い。
睡眠不足でだんだん朦朧としてくるそのぼんやりした瞳ですら深い。
すべてに胸の奥の複雑な思いが染み出しているようです。
ちょっとした仕草、ちょっとした間、ちょっとした言い回し、
そのひとつひとつに見応えがある、まさにパチーノ劇場。
一方、不評だった殺人犯フィンチ役のロビン・ウィリアムズですが、
確かに何が何でも彼でなくてはということはなかったかも知れません。
ただフィンチという人物が作家であることや、
一見、人の良さそうな"普通の人"であることが重要であり、
いかにもアヤシゲでサイコな犯人ではない”普通のおじさん”という雰囲気を、
よく出していたと思いました。
でもいつもの彼ならキレる時にはもうちょっとハデにキレてくれそうなのに、
今作ではそのキレ方がいまひとつだった気がします。
殺人の動機はそのキレるということが重要だったと思うし、
それをドーマーの前で思いっきり見せて欲しかった。そこはちょっと物足りませんでした。
真っ直ぐに事件に向かうエリー
ドーマーを信奉する地元警察の刑事エリーを演じるヒラリー・スワンク。
個人的にあまり得意でない女優さんなのですが、今作の彼女はとても良かったです。
真面目で素直で仕事熱心。熱心であるが故にいろんなことに気づいてしまう過程も無理がなかったし、
彼女はこのぐらいのタフさ加減が適切でいいです。
ドーマーもフィンチも完全な悪人ではなく、自分が犯したことに対する罪悪感を持ち続けています。
それでも真実をさらけ出すことは今さらできない。
自己の正当化のために相手を利用することによって罪はさらに塗り込められていく。
どうにか事件を”解決”させようとする2人のやりとりは見応えのあるものでした。
取り調べを受けるフィンチの一言一言に反応するドーマー。
それは言わない約束、そっちがそう来るならコレを言ってやる、という、
2人と、観ているこちら側しかわからない駆け引きのスリル!
なので、ラストはそこまでの心理戦からするとやや乱暴な気もしましたが、
ドーマーがフィンチの中に見た、自分と同じ部分とそうでない部分の違い。
それをエリーに伝えることができるか否かという点に於いては、完璧なラストと言っていいと思いました。
Insomnia(2002 アメリカ)
監督 クリストファー・ノーラン
出演 アル・パチーノ ロビン・ウィリアムズ ヒラリー・スワンク マーティン・ドノヴァン
タグ:映画
こんばんは。
確かヨーロッパ映画のリメイクですよね。
白夜という背景が珍しく、結構面白いサスペンスだと思います。
公開当時の評判が悪かったとは知りませんでした。
by hash (2008-09-11 01:49)
hashさん、こんばんは。
ノルウェーの作品のリメイクだそうですが、当然そちらは未見です。
リメイクなので関係ないかも知れませんが、C・ノーラン作品として考えると、
闇と光の在り方、登場人物が善悪の狭間で揺れるといったことが、
後のバットマン〜ダークナイトに繋がっているような気もしました。
・・・考え過ぎかな?
コメント& nice!ありがとうございました。
by dorothy (2008-09-11 02:41)