あるスキャンダルの覚え書き [映画感想−あ]
ロンドン郊外にある労働者階級の中学校。
ベテラン教師のバーバラ(ジュディ・デンチ)は頑固であまり人を寄せ付けない性格のため、
生徒からも同僚からも疎まれる孤独な存在でした。
その学校に美術教師シーバ(ケイト・ブランシェット)が赴任して来ます。
一目でシーバに惹かれるものを感じたバーバラは、日々彼女のことを日記に書き記します。
ある学校内での出来事をきっかけに急速に親しくなり友情が芽生える2人。
しかしある日、バーバラはシーバと男子生徒が性的関係を持っている現場を目撃してしまいます・・・。
孤独なベテラン教師バーバラ
バーバラの孤独な日々の生活ぶりには思わず同情してしまいそうですが、
そんな風な人生を送っていることが当然とも思えるような彼女の偏狭さが徐々にわかって来ます。
シーバの不倫を知ったバーバラは、嫉妬や怒りを憶えながらどうにか感情を抑え、
その状況を逆手に取れば、シーバを自分のものにできると思いつきます。
シーバの秘密を守る約束をすることによって、彼女を支配し、
常に自分のものとしてそばに置いておけるのです。
報われない愛をこうすることによって得ることができると思う歪んだ感情、
それは恐ろしくもあり、同時に哀れさも感じさせます。
相手がなぜ自分を受け入れないのかが理解できないまま年を取ってしまったバーバラは、
愛を求めて受け入れられないでぐずってしまう子どものようでもあります。
充分に大人なのに、なぜ私の悲しみがわからないの?と相手に感情をぶつけてしまう。
自分の猫が死にそうなときに、シーバが一緒にいてくれないことが心の底から許せない。
そして平気でシーバを裏切る。
このあたりのジュディ・デンチの哀れでずる賢く、偏執的な老女の演技は凄まじいものがあります。
生徒との関係を断ち切れないシーバ
こんなバーバラにつきまとわれるシーバは被害者と言ってもいいぐらいなのですが、
彼女もいわゆる"身から出た錆"、フラフラとした性格がこの結果を生み出してしまっています。
若い頃はパンクスで、アーティストでもある彼女はたぶん、
かなりトンガった十代を送っていたと想像できます。
でも20歳で年の離れた夫と出会い、2人の子ども(しかも1人は障害を持っている)を育て、
この十数年はシーバにとっては自分らしくない日々を送っていたはずです。
そこに現れ、甘い言葉を囁く大人びた15歳の少年に、
心乱されてしまうのは仕方なかったと思います。
別にこの少年に新たな人生を賭けようとしたとかいうわけではなく、
彼といると、失ってしまったティーンの頃を蘇らせることができたのかも知れません。
「地下鉄とホームの隙間にいるような」自分が、ストンとハマってしまった場所。
それがこの少年との不倫だったのだと思います。
それぞれが犯す過ちは、すべて孤独から来たもの。
孤独であることが言い訳には決してならないのだけれど、
人はみんな孤独で、そして孤独の形もそれぞれ違う。
孤独を忘れるために孤独な人に近づき、
また孤独を紛らわせるために相手の孤独につけ込んでしまう。
それらが結局、孤独を癒すことにはならないという絶望感。それをどう解決していくのか。
ほんのちょっとしたきっかけで、誰もがこんな過ちを犯してしまうのかも知れません。
幸せな夫婦関係はやがて・・・
シーバの年の離れた夫リチャード(ビル・ナイ)。彼の受けた心の傷も大きいだろうと思います。
不倫相手の男子生徒スティーブン(アンドリュー・シンプソン)も、どんな思いでいたのか。
バーバラに無言で詰め寄る時の彼の表情に、単にシーバを欲求のはけ口にしていたというわけではなく、
15歳の少年なりの思いがあったのかもと感じさせます。
シーバをめぐる2人の男の心の動きももう少し見たかった気がします。
残念だった点はほかにもいくつか。
まず、フィリップ・グラスの音楽がとても合っているのだけれど、ちょっと使われすぎ。
いかにもなシーンで盛り上げるように流れてくると、
かえって何かのパロディのように思えて、そこでちょっと笑いそうになってしまいました。
ストーリーの要素が十代相手の不倫、同性愛、ストーカーなど、
作りようによっては安っぽくなりそうな話なので、
あまりこれをやられると、本当に安っぽいメロドラマになりそうです。
これもデンチとブランシェットの演技で重厚さを保つことができて救われているところですが。
それと、シーバの不倫が明らかになるきっかけになる男性教師の登場の仕方がちょっと唐突かな、とか。
まあでも、そんな細かいことも吹き飛んでしまいそうな2大女優の競演。
これがこの作品のすべて。
この2人の演技を堪能するために余計なことは端折ったと言われても納得しそうな作品です。
Notes on a Scandal(2006 イギリス)
監督 リチャード・エア
出演 ジュディ・デンチ ケイト・ブランシェット ビル・ナイ アンドリュー・シンプソン
ベテラン教師のバーバラ(ジュディ・デンチ)は頑固であまり人を寄せ付けない性格のため、
生徒からも同僚からも疎まれる孤独な存在でした。
その学校に美術教師シーバ(ケイト・ブランシェット)が赴任して来ます。
一目でシーバに惹かれるものを感じたバーバラは、日々彼女のことを日記に書き記します。
ある学校内での出来事をきっかけに急速に親しくなり友情が芽生える2人。
しかしある日、バーバラはシーバと男子生徒が性的関係を持っている現場を目撃してしまいます・・・。
孤独なベテラン教師バーバラ
バーバラの孤独な日々の生活ぶりには思わず同情してしまいそうですが、
そんな風な人生を送っていることが当然とも思えるような彼女の偏狭さが徐々にわかって来ます。
シーバの不倫を知ったバーバラは、嫉妬や怒りを憶えながらどうにか感情を抑え、
その状況を逆手に取れば、シーバを自分のものにできると思いつきます。
シーバの秘密を守る約束をすることによって、彼女を支配し、
常に自分のものとしてそばに置いておけるのです。
報われない愛をこうすることによって得ることができると思う歪んだ感情、
それは恐ろしくもあり、同時に哀れさも感じさせます。
相手がなぜ自分を受け入れないのかが理解できないまま年を取ってしまったバーバラは、
愛を求めて受け入れられないでぐずってしまう子どものようでもあります。
充分に大人なのに、なぜ私の悲しみがわからないの?と相手に感情をぶつけてしまう。
自分の猫が死にそうなときに、シーバが一緒にいてくれないことが心の底から許せない。
そして平気でシーバを裏切る。
このあたりのジュディ・デンチの哀れでずる賢く、偏執的な老女の演技は凄まじいものがあります。
生徒との関係を断ち切れないシーバ
こんなバーバラにつきまとわれるシーバは被害者と言ってもいいぐらいなのですが、
彼女もいわゆる"身から出た錆"、フラフラとした性格がこの結果を生み出してしまっています。
若い頃はパンクスで、アーティストでもある彼女はたぶん、
かなりトンガった十代を送っていたと想像できます。
でも20歳で年の離れた夫と出会い、2人の子ども(しかも1人は障害を持っている)を育て、
この十数年はシーバにとっては自分らしくない日々を送っていたはずです。
そこに現れ、甘い言葉を囁く大人びた15歳の少年に、
心乱されてしまうのは仕方なかったと思います。
別にこの少年に新たな人生を賭けようとしたとかいうわけではなく、
彼といると、失ってしまったティーンの頃を蘇らせることができたのかも知れません。
「地下鉄とホームの隙間にいるような」自分が、ストンとハマってしまった場所。
それがこの少年との不倫だったのだと思います。
それぞれが犯す過ちは、すべて孤独から来たもの。
孤独であることが言い訳には決してならないのだけれど、
人はみんな孤独で、そして孤独の形もそれぞれ違う。
孤独を忘れるために孤独な人に近づき、
また孤独を紛らわせるために相手の孤独につけ込んでしまう。
それらが結局、孤独を癒すことにはならないという絶望感。それをどう解決していくのか。
ほんのちょっとしたきっかけで、誰もがこんな過ちを犯してしまうのかも知れません。
幸せな夫婦関係はやがて・・・
シーバの年の離れた夫リチャード(ビル・ナイ)。彼の受けた心の傷も大きいだろうと思います。
不倫相手の男子生徒スティーブン(アンドリュー・シンプソン)も、どんな思いでいたのか。
バーバラに無言で詰め寄る時の彼の表情に、単にシーバを欲求のはけ口にしていたというわけではなく、
15歳の少年なりの思いがあったのかもと感じさせます。
シーバをめぐる2人の男の心の動きももう少し見たかった気がします。
残念だった点はほかにもいくつか。
まず、フィリップ・グラスの音楽がとても合っているのだけれど、ちょっと使われすぎ。
いかにもなシーンで盛り上げるように流れてくると、
かえって何かのパロディのように思えて、そこでちょっと笑いそうになってしまいました。
ストーリーの要素が十代相手の不倫、同性愛、ストーカーなど、
作りようによっては安っぽくなりそうな話なので、
あまりこれをやられると、本当に安っぽいメロドラマになりそうです。
これもデンチとブランシェットの演技で重厚さを保つことができて救われているところですが。
それと、シーバの不倫が明らかになるきっかけになる男性教師の登場の仕方がちょっと唐突かな、とか。
まあでも、そんな細かいことも吹き飛んでしまいそうな2大女優の競演。
これがこの作品のすべて。
この2人の演技を堪能するために余計なことは端折ったと言われても納得しそうな作品です。
Notes on a Scandal(2006 イギリス)
監督 リチャード・エア
出演 ジュディ・デンチ ケイト・ブランシェット ビル・ナイ アンドリュー・シンプソン
タグ:映画
こんばんは。
>この2人の演技を堪能するために余計なことは端折ったと
確かにそんな感じがありますね。
特にC・ブランシェットは上手いなと改めて思いました。
by hash (2008-08-19 22:40)
hashさん、コメント& nice!ありがとうございます。
ケイト・ブランシェットは強い女を演じることが多そうなイメージですが、
今回はちょっと弱々しい感じで、それが新鮮でした。
by dorothy (2008-08-19 23:42)