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マイケル・ジャクソン THIS IS IT [映画感想−ま]

もう説明は不要でしょう。今年6月に急逝したマイケル・ジャクソンのドキュメンタリー。
最初に公開の発表を聞いた時は、製作期間を考えると急ごしらえな印象だし、
全世界同時の2週間限定公開というのには、
何か商売っ気のようなものを感じたりもしたのですが、
9月のMTV Video Music Awardsでの予告編を観てこれは絶対に絶対に観なくてはと。
・・・いやはや、ものすごいものでした。


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内容は7月に予定されていたロンドン公演のリハーサルと、
公演で使用される映像の撮影の様子など。
リハーサル映像と言っても複数のカメラでかなりきちんと撮られており、
演出や演奏、振り付けなどはほとんど完成しているし、
また、これはマイケル自身の方針だったそうですが、
リハーサルといえどもフルコーラスできちんと演奏されるので、どの曲も見応えがあります。
ノドを気遣ってだと思いますが、歌唱自体は意識的に控えているものが多いのですが、
それでもつい本気で歌ってしまい「歌わせないでよ」なんて言う一幕もあったりして、
そういう、時々見えるマイケルの素顔が微笑ましく、また本当に正直な人なんだなと思いました。
そんな風に彼がつい乗せられてしまうのも無理はないと思うのが、
マイケルが1人で歌っている間、スタッフや休んでいるダンサーたちは、
観客となってステージの下でものすごく盛り上がる・・・というシーンが何度も登場するのです。
そりゃあ本物のマイケルが目の前で、本番でもないのに本気の歌とダンスを見せてくれるのだから、
これ以上贅沢なことはないし、興奮するのも無理はありません。
彼らがどんなにマイケルのことが好きなのかというのもよくわかるし、
そんな彼らが喜ぶ姿はマイケルにとっても嬉しかったはずです。


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また、コンサートの演出として使用される予定だった映像は、
これがどれもものすごくキチンと作られていて驚きました。
3D撮影された『スリラー』なんて、まさにあの『スリラー』のリメイク!と言えそうだし、
リタ・ヘイワースやハンフリー・ボガートと"共演"する『スムース・クリミナル』なんて、
頼むからどこかできちんと見せて欲しい!と思わせる完成度の高さ。
とにかく、ここまでこのコンサートにチカラが入っていたということに素直に驚かされたし、
これがすべて実現しなかった、本番は来なかったということを改めて考えると、
関係者全員、そして何よりマイケル自身、本当に無念だったと思います。

冒頭、厳しいオーディションを勝ち抜き選ばれたダンサーたちが、
それぞれ自分のマイケルへの思いや、このコンサートへの意気込みのようなものを語るのですが、
とにかく何よりマイケルと同じステージに立てることの喜びを、
何人かは涙を流しながら語っていたのが印象的でした。
全員素晴らしいダンサーたちで、リハーサルとは言っても当然本番同然に全力で踊っているし、
彼らのこの思いがすべてナシになってしまったというのは本当にかわいそうとしか言えません。
バックバンドやコーラスのメンバーもみんな素晴らしい実力を持った人たちばかりで、
マイケルの要望に即座に応え、これまた本番さながらの熱演を見せます。
特にギターの女の人がすごくカッコよかった!
マイケルの曲では『ビート・イット』や『ブラック・オア・ホワイト』など、
ギターの聴きどころのある作品が多いので、彼女がたびたび登場するのですが、
彼女には見入ってしまいました。


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それにしてもこの映像は、マイケルの死があって初めて世に出ることになったわけで、
もし、無事にロンドン公演が行われていたとしたら目にすることはなかったものでしょう。
それを考えると、ものすごく不謹慎かつ奇妙な話なのですが、
マイケルの死があって"よかった"のかも、と思ってしまいました。
おそらくロンドン公演は大成功し、おそらく映像化もされ、
テレビやDVDなどで観ることは出来たかも知れません。
リハーサル風景ももしかしたら特典映像とか、何らかの形で観ることは出来たのかも知れません。
でも、それだったらここまで多くの人に意識されることはなかったと思うし、
私自身もおそらく、テレビなどで放送されれば観たかも知れませんが、
DVDを買ってまでは観なかったでしょう。
ものすごいコンサートだなあ、マイケルやっぱりスゴイなあぐらいの感想で終わったかも知れません。

リハーサル風景を見せることによって、図らずもマイケルが何を訴え、
観客に何を見せたかったのか、どんな世界を描こうとしていたのかがわかるという、
ものすごく皮肉な結果になったと思います。
人に見せることを意識して撮られていないことでいろんな真実が見えるし、
ストレートにマイケルや関係者たちの真実が伝わって来ます。
本当はスタッフにマイケルの死が伝えられるシーンもあったそうなのですが、
それはカットされ、マイケルの死については内容で一切触れず、
リハーサル映像の映画化ということで完結させたのも良かったと思います。


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本当に一人でも多くの人に観て欲しいです。
マイケル・ジャクソンはよく知らないという人でも大丈夫。
演奏されるのはどこかで必ず耳にしている曲ばかりだし。
そして音楽や何かモノを作る仕事をしている人にはものすごく得るものが多いと思います。
・・・まあそんな小難しいことは抜きにして、単純に素晴らしいステージが観られます。
公開延長も決定しました。この感動はぜひ大きなスクリーンで体験して欲しいです。

あ、それとエンドロールの途中で帰っちゃダメですよ!
最後まで見どころがありますからね。


This Is It(2009 アメリカ)
監督 ケニー・オルテガ
出演 マイケル・ジャクソン



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マーシャル博士の恐竜ランド [映画感想−ま]

油断していたらどんどん上映館がなくなっていくんで慌てて観て来ました。
まあ確かに公開が短くてもしょうがないかも・・・。


リック・マーシャル博士(ウィル・フェレル)はタイムワープの研究者。
TVのトーク番組で失態を演じ、以来過食症気味で落ち込む日々。
しかしある日マーシャルの元に、彼の学説を支持するという、
ケンブリッジ大で学ぶホリー(アンナ・フリエル)が現れます。
2人はタイムワープを可能にする素粒子"タキオン"を感知するタイムワープ装置を携え、
時空の歪みが存在するという荒野を目指します。
そこでアヤシげな土産物屋を営むウィル(ダニー・マクブライド)の案内で、
アヤシげな洞窟内をボートで進むことに。
すると急に装置が反応を始め、3人は突然現れた滝から転落。
気が付くと見知らぬ砂漠に投げ出されて・・・。


3人はナゾの世界へ
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元は1970年代にアメリカで放映されていたTV番組だそうで、
その予備知識がなく観ていたら、ウィル・フェレルファンの私でも「?!」だったと思います。
でもおそらく、日本でそのことを知って観る人はかなり少数だと思うし、
夏休み明けの公開だったとはいえ、日本での紹介の仕方はどう見てもお子さま向け恐竜映画。
まあそう売るしかないだろうなと、よくこれを日本で公開することにしたなあと不思議に思います。
これを公開するなら『ステップ・ブラザース』のほうがよほど・・・いや、
そういう純粋なコメディより、恐竜登場でお子さま動員が見込まれる、
こっちのほうがまだ売れるということなのでしょう。

元のTV番組のことは当然まったく知らないので、
どれぐらいオリジナルに忠実なのかそうでないのかわかりませんが、
YouTubeにたくさん上がってるオリジナル版を見ると、結構雰囲気は忠実。
オリジナルはコマ撮り恐竜や合成バレバレのチープな特撮SFものというカンジで、
その昔の番組を知ってる人が観ると、妙にリアルになった恐竜や、
謎の生物"スリースタック"の登場はきっと嬉しくて楽しくて・・・なんでしょう。


チャカに出会った彼らは
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そんな昔の元ネタに反応出来ない私でもいくつか楽しめるポイントはありました。
随所にウィル・フェレルらしさが見え隠れしている点はそれなりに満足。
まずはお得意の音楽ネタ。タイムワープ装置がタキオンに反応すると流れるのは、
ミュージカル『コーラスライン』の曲。重要なシーンでしつこく繰り返し流れるオカシサ!
かと思うと急に男2人、シェールの『Believe』を歌ってみたり、
アヤシイ木の実で気持ちよくなってプールサイドに横たわる彼らのバックに流れるのは、
『想い出のサマー・ブリーズ』!なんて、いかにもウィル・フェレル映画らしい選曲。
パンフレットによると、この砂漠のモーテルシーンはほとんど彼らのアドリブだったそうで、
このあたりは完全にストーリーを忘れて好き勝手やってるカンジでした。

お得意の下ネタがそんなに際どくないのはさすがにお子さま客を意識してか、
3人が異次元で出会う類人猿パクニ族のチャカ(ヨーマ・タッコン)が、
ホリーの胸や博士の下半身を触るぐらいのかなり小学生レベルなカンジで、
それはそれで結構ベタで笑えましたが。
ドラッグぽい描写は教育上よろしくないかもしれませんが、
まああれぐらいは今時の子だと平気なのでしょう。
ただそういう風に、100%子ども向けということでもなく、
じゃあ大人に向けたギャグがあるかというと、それもかなり微妙。
どっちを向きたいのかがいまいちハッキリしなくて、
そこが中途半端な印象にしてしまっていたと思いました。


T-REXを手なずけられる・・・か?
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アンナ・フリエルは『プッシング・デイジー』のチャックとほとんど変わらない、
強気で物怖じしない役どころを体当たりで好演。
スリースタックのボス(?)ザ・ザーンの声はなんとレナード・ニモイ。
70年代SFの精神にピッタリな人というキャスティングだったそうで、なんとも豪華です。
声の出演ではもう1人、IMDbを見て気がついたのが、
『プリズンブレイク』のケラーマンことポール・アデルスタイン。
宇宙飛行士の役って・・・?と、これまた意外な出演。

ウィル・フェレルとダニー・マクブライド、
そしてヨーマ・タッコンには十分笑わせてもらったと思ったのですが、
終わってみるとそれほどお腹抱えて笑ったー!という満足感、満腹感はなくて、
やはり中途半端な印象で残念です。
ストーリーは二の次でSFXを見せていくという点では『ナイトミュージアム2』と同じなわけですが、
こちらはキャストが少ないということの物足りなさなのか、私の思い入れが足りないのか。
オリジナルでなくリメイクということの縛り、というのもあるのかも知れません。
でも、元ネタだけいただいてもっと無茶苦茶したっていいと思うし。
同じように昔のTV番組のリメイクだった『ゲットスマート』とかすごく面白かったし。
うーん、なかなか難しいものです。


Land of the Lost(2009 アメリカ)
監督 ブラッド・シルバーリング
出演 ウィル・フェレル アンナ・フリエル ダニー・マクブライド ヨーマ・タッコン



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マーゴット・ウェディング [映画感想−ま]

ニコール・キッドマン主演でも日本では劇場未公開。
ジャック・ブラックも出てるのに!DVDスルー・・・これはありえるか。
よほどつまらないとか訳のわからない内容なのかと思いましたが、そんなこともなく、
ただ確かに、多少とっつきにくい印象ではあります。


作家のマーゴット(ニコール・キッドマン)は、
妹ポーリン(ジェニファー・ジェイソン・リー)の結婚式のため、
息子のクロード(ゼイン・パイス)を連れて生家を訪ねます。
マーゴットはポーリンと長く疎遠だったことから再会はぎこちなく、
また夫ジム(ジョン・タートゥーロ)とうまくいってないことや、
ポーリンの婚約者マルコム(ジャック・ブラック)が無職で品がないこと、
隣家と諍いが絶えないことなど、あらゆることに苛立ちを募らせていきます。


母と息子
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監督・脚本は『イカとクジラ』のノア・バームバック。
今作では、その『イカとクジラ』でローラ・リニーが演じた母親と、
オーウェン・クラインが演じた息子を改めて主役に持って来たような話です。
『イカとクジラ』の母親も作家で、夫とうまくいかず性格は自己中心的。
今作のマーゴットはあの母親を一層極端に突き詰めた感じで、
クロードも『イカとクジラ』での、兄と違って弱気で母親が好きな弟によく似ています。

なぜマーゴットとポーリンが疎遠になったかというと、
作家であるマーゴットは、過去に身内の出来事を自作のネタにしてしまったから。
そのことでポーリンは離婚を経験していたりするのにマーゴットには当然罪の意識はない。
とにかくこのマーゴットの性格はかなり困りもので本人に悪気はなく、
むしろ相手のことを一生懸命考えてるのかも知れないし、ヘンな正義感やお上品さもあり、
でも結局最後は自分の気持ちを優先させてしまうというのか、
自己正当化してしまうというのか、何にしても気持ちが相手に届かないのです。
そしてそんな自分がイヤでイヤでしょうがない。
ああ、こういう人っているなあと思う。実にやっかいなヒトです。


姉妹
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性格的なことを言えば、ポーリンも気分屋で自分勝手なところはあるし、
マルコムもだらしなくて短気で自意識過剰。
マーゴットの浮気相手の作家やその娘もいい加減だし、
隣家の住人はあらゆる意味でかなりアブナそうな一家だし・・・でも、
そんな中でも結局マーゴットが一番モンスターに見えます。
そんな彼らが協調しあうことはありえないので、
そんなこんなをずっと見せられているこちらもイライラしたり不安になったりします。
でも人間関係って結構こんな感じかも知れません。
特に自分を出してしまいがちな身内に対してはどうしてもこうなりがちかも知れない。
それが証拠に、強く言い争っても数分後には互いに大笑いしあっていたり、
でもやっぱりどうしてもわかりあえなかったり。
姉妹ってこんな感じなのかも、と、一人っ子の私には想像するしかないのですが。

マーゴットとポーリンの過去にどんなことがあったのか。
例えばもう1人の姉妹のベッキーとの確執は断片的にしか語られず、
またマーゴットにはもう1人ジョシュという息子がいるようなのに、
その子の説明もまるでナシ。そんな説明のまったくないところが逆にリアルで、
観てるほうはこの困った人間関係の中にポンと放り込まれた感じで実に居心地が悪く、
断片的に見えたり聞こえてくる話の中で物語が進んでいくのが何とも言えず・・・巧い。
説明がないことで1人1人の言動を一生懸命に汲み取ろうとするし、
そして結局は何もわからないままで終わってしまう。
それを訳がわからないと否定してつまらないと思ってしまうと、確かにツマラナイ。
でも、人間描写としては実に良くできていると思いました。
人の心の中なんて実際、誰もわかりはしないものだから。


もうすぐ結婚・・・できる?
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ニコール・キッドマンのマーゴットはなかなかのハマリぶり。
こういう冷たくて神経質そうな役はやっぱり似合ってます。
ジェニファー・ジェイソン・リーがいつまでも若々しい印象でびっくり。
ニコールの妹役だけど、実際には彼女の方がだいぶ年上のはず。
尖ってたり風変わりな役どころの多い人ですが、今回は自然な演技で感じが良かった。
いつの間にかノア・バームバックの奥さんになっていたんですね。
そんなところも影響があるのかしら?
ジャック・ブラックは若干浮いてるようなハマってるような・・・。

古いレンズを使い極力自然光で撮影されたそうで、
薄暗く古めかしい映像が時代をわからなくさせていて、
携帯電話が出てくることでようやく現代とわかる感じ。
そんな映像が何か全体に不安定で不安げな印象を持たせています。
どこかで"ベルイマン風"という評価を読みましたが、
そのあたりは不勉強でよくわかりませんが、
私は昔のウディ・アレン風かな、と思いました。毒や笑いが薄めの。
舞台劇風というのか、相変わらずの私小説風で、
バームバックは監督作はずっとこの路線でいくのでしょうか。
個人的にはこういうのは面白くて好きなので続けて欲しい気がします。
次はどうしようもない作家の父親のほうを主役で観てみたいな。


Margot at the Wedding(2007 アメリカ)
監督 ノア・バームバック
出演 ニコール・キッドマン ジェニファー・ジェイソン・リー ゼイン・パイス
   ジャック・ブラック ジョン・タートゥーロ



マーゴット・ウェディング [DVD]

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ミルク [映画感想−ま]

アメリカで初めて、自らゲイであることを公表し公職に就いたハーヴィー・ミルク。
これはゲイの権利を勝ち取るために戦い続けた、
そんな彼の熱い戦いの記録かと思いきや、不思議なくらい優しさに満ちた作品でした。


1978年11月、サンフランシスコの市政執行委員ハーヴィー・ミルク(ショーン・ペン)は、
自分が暗殺されることを予感し、1人テープレコーダーに向かい自分の人生を振り返り始めます。
1972年5月、ニューヨーク。ハーヴィーは誕生日の夜に、
20歳年下のスコット(ジェームズ・フランコ)と出会います。
2人は新たな人生を求めてサンフランシスコへ移住。小さなカメラ店を始めます。
すると、次第に店やその周囲に多くの同性愛者たちが集まり始め、
いつしかハーヴィーはコミュニティの中核となっていきます。
周りで起こる社会問題の改善に努め、次第に政治への道を歩み始めます。
数度の落選、恋人や仲間との出会いや別れを経験し、
1977年、ついに彼は市政執行委員に当選します。


微笑みの人
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ガス・ヴァン・サントがハーヴィー・ミルクの映画を作ると聞いても、
特に不思議に思わなかったのですが、
そのミルクをショーン・ペンが演じると知った時はさすがに驚きました。
その昔、ドキュメンタリー作品『ハーヴェイ・ミルク』が公開された頃、
私は映画チラシをせっせと集めてはファイリングするという趣味を持っていました。
観たもの、まだ観ていないものを50音順にファイルするという几帳面なことをしていたのですが、
不思議と観た作品より観ていないもののほうが印象深く、
その観てないファイルの中にあった「ハ」行のトップ、
それが『ハーヴェイ・ミルク』のチラシでした。
ニッコリ微笑む男性のイラスト、そして"ミルク"という名前が不思議で、
人なつこい笑顔がとてもステキな男性。
でもこのミルクという人がどんな人なのかは一切知らず、
単館上映のドキュメンタリーという敷居の高さもあって、
ついにこの映画を観ることはありませんでした。
ただ、ミルクという人のあの笑顔はずっと印象に残っていて、
その笑顔がショーン・ペンにどうしても置き換わらなかったのです。
ショーン・ペンと言えばどちらかと言えば硬派で強面な印象だし。
ところがこの作品のスチールを見ると、とにかくニコニコ満面の笑みだらけ!
さすがは演技派ということなのかと思っていましたが・・・。


ミルクを支えるスコット
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冒頭、ジェームズ・フランコ演じるスコットと出会い、
いきなりキスシーンとなってしまったりするのですが、
この時点でもう既に何の不思議も違和感も感じませんでした。
ショーン・ペンが男性とキスすることに違和感を感じないなんて!
これは別な意味で衝撃でした。
ショーン・ペンは完璧にミルクとなり、常に微笑みを絶やさず、
激しい演説の時もどこかゲイらしい仕草をさりげなく見せる。
それがいかにも演技していますということではなく、
よく言われる表現ですが、まるでミルクが彼に取り憑いたかのようでした。
こんな"演技"を見せられては、オスカーをはじめとした主演男優賞受賞も納得です。
とにかくこれはショーン・ペンの映画。これまでで一番彼らしくない役かも知れないのに、
個人的には、これほど自然に彼の演技がスッと入って来たのは初めてかも知れません。

ほかのキャストもみんな良い演技を見せていて、そして誰も彼も実にキュート!
大好きなジェームズ・フランコ君は、あのトローンとした笑顔が実に愛らしく愛おしい!
ミルクと出会った頃は若くて可愛くて、ミルクと本当にラブラブな感じで、
やがてミルクと距離を置くようになってからもミルクを見つめる眼差しが愛情に満ちていて、
この2人は本当に深い信頼関係で結ばれていたことがわかり、
この作品を純粋に美しいラブストーリーとしても見ることも出来ました。
スコットのあとにミルクの恋人になる、ディエゴ・ルナ演じるジャックも、
相変わらず負けず劣らずカワイイのですが、彼は性格に難ありで、
でも彼のキャラクターがあったことで一層スコットとの関係の深さを感じさせてくれました。


運動はやがて頂点へ
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エミール・ハーシュ演じるクリーヴは若く頼もしく、
メガネとヘアスタイルとポッチャリした体型で、化けっぷりは一番ビックリ。
紅一点のアン・クローネンバーグを演じるアリソン・ピルは、
いかにも当時のゲイの女性らしい雰囲気。
『ハサミを持って突っ走る』に引き続いてのゲイ役だなあのジョセフ・クロスをはじめ、
カワイイ男の子満載なのはガス・ヴァン・サント作品毎度のお楽しみですが、
確かテキサスから電話して自殺を告げる男の子、顔がハッキリ見えなかったのですが、
ネットで調べたらやはりかなりの美形でした!
脚本のダスティン・ランス・ブラックのオスカー受賞時のスピーチを聞くと、
この少年のエピソードは自分を投影していたのかなと思いました。
都会以外に住む同性愛の人たちの苦悩と、勇気を出してカムアウトすることの大切さ。
このテキサス少年のシーンはとても象徴的でした。

そしてジョシュ・ブローリン演じるダン・ホワイト。
あらゆる出来事の末にミルクに銃を向けることになる彼の苦悩は少しわかりにくく、
後でいろいろ調べてようやく補完できました。
ホワイトがなぜそこまで追い詰められてしまったのかを予めわかっていたら、
もう少し彼の行動や心情が理解出来たかも知れません。そこが少し残念でした。
おそらくアメリカでダン・ホワイトに関しては周知のことであり、
この作品では敢えて描写を控えめにしたのかも知れません。


ダン・ホワイトの思いは
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ガス・ヴァン・サントはこのところ『エレファント』や『パラノイドパーク』のような、
素人を多く起用した実験的とも言える作品ばかりを作っていたので、
久しぶりにメインストリームな作品となったわけですが、
実話であることもあってか、それほど映像や演出などに凝ったところはなく、
まったく正統派の作りという感じです。
でも何度か登場する鏡やガラスを使った映像、美しい音楽の使い方、
そしてラブシーンの自然さはさすが彼らしいと思いました。
全体を通しての柔らかな空気感が、悲劇の実話であるのに、
思い詰めたところや刺々しさを感じさせない。
ミルクたちを見つめる眼差しが、とても優しさに満ち溢れている感じを受けました。
それは『エレファント』などにも通じる、客観的な優しさというのか、
冷静なのに暖かい、そして何より希望に満ち溢れている。
そこが観ていてとても心地よかったです。

つい数日前、カリフォルニア州でまた同性婚禁止が決定がされました。
このミルクの時代から30年も経っているのに、まだ戦いは続いている、
そんな現実に愕然とさせられます。
ミルクは40歳の誕生日に「これまで何も成し得ていない。自分を変えたい」と言って、
そこからすべては始まりました。
自分を変えることの大切さ、そして変えることは可能であること、
この作品はそれを、ミルクの優しい微笑みと共に教えてくれました。
そして力を合わせることの強さ、大切さも伝えていました。
現実はまだまだ厳しそうですが、この作品にはアメリカという国の希望が見える。
ガス・ヴァン・サントの伝えたかったことは、そういうことなのかも知れません。


Milk(2008 アメリカ)
監督 ガス・ヴァン・サント
出演 ショーン・ペン エミール・ハーシュ ジョシュ・ブローリン ジェームズ・フランコ
   ディエゴ・ルナ アリソン・ピル ジョセフ・クロス



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まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響 [映画感想−ま]

ポール・ニューマンが監督、妻のジョアン・ウッドワードが主演、
73年のカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した作品。
なんとも不思議なタイトルに惹かれて鑑賞しました。


夫に去られ、娘2人と暮らすベアトリス(ジョアン・ウッドワード)は、
ルーズな性格でほとんど家事もせず娘たちの教育にも無関心。
部屋の間貸しや電話セールスなどで生計を立てています。
長女のルース(ロバータ・ウォラック)は、
そんな母親の性格を受け継いでいることを自覚して1人悩み、
次女のマチルダ(ネル・ポッツ)は科学の実験に没頭、
家のことには無関心を装っていますが・・・。


だらしない母、ベアトリス
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元はピュリッツァー賞受賞の舞台劇だそうで、
何か特別ドラマチックな事件が起こるというような話ではなく、
少ない登場人物たちの心理劇という雰囲気です。
だらしなくて攻撃的で、どうしようもない母親ベアトリス。
家のことは一切せず、いつもくわえタバコにローブ姿。
お店を開きたいなど夢ばかり語り、人に対してはただただ攻撃的。
こんな母親を持った娘はかわいそうと思ってしまいます。
ただベアトリスもかわいそうな人ではあります。
夫に捨てられその夫も今は亡く、男や世の中を信用していない。
生きるハリのようなものがなく、楽しみといえば新聞の広告欄を読むことぐらい。
持って生まれた性格と、どうにもならない日々の生活。
彼女の行き詰まっている感じは、なんとなくわかります。

姉のルースは男の子やオシャレに興味を持ち始める年頃で、
学校ではチアリーディングをやったり、
人前で母親をマネた1人コントをしてみせたりと一見活発なのですが、
精神的に追い詰められると発作を起こすなど脆い部分も持っています。
母親ベアトリスの若い頃を知る人が昔の彼女を描写すると、
チアリーダーだったとか人前でコントを披露していたとか、
まるっきり今のルースのよう。
それを聞いた彼女は落ち込み、そして母親を責めます。
この年頃の女の子にとって母親に似ているというのは、
自分の将来が見えてしまう気分になるし、おそらく相当イヤなものだと思います。
母親が大好きならそれほどでもないかも知れませんが、
自分のことは棚に上げて何かと口うるさいこの母を鬱陶しく思っているルースにとって、
自分の中に母親と同じ性質を見出してしまう絶望感はかなりのものだと思います。


母娘3人
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妹のマチルダは気が弱く、科学のことにしか興味がない。
教師から譲り受けたうさぎを飼い、放射線を浴びせたキンセンカを育て、
やがてそのキンセンカで学校主催の科学フェアの決勝進出を果たします。
映画のタイトルはこの彼女の科学実験から来てるのですが、
キンセンカの種子に大量にガンマ線をかけたもの、中程度の量のもの、
そしてほんの少しかけたもののそれぞれの成長を比較し、
実験の結果から導かれる結論を発表します。
ガンマ線の影響は大きく、花は育たないか、あるいは突然変異を見せる。
その結果は、彼女自身にも変異を与えるのです。

強烈な個性を持った母親の元で暮らす2人の娘。
やがてそれぞれ母親に対して新たな意識を持ちます。
夜の裏庭で母娘3人それぞれの視線と複雑な思いが絡み合うラスト、
マチルダは自ら導き出した結論を胸に静かに夜空を見上げます。
彼女の心を震わす"原子"という言葉を思い、自分の内なる原子も感じ、
自分がどう生きるべきかを考えます。


マチルダの研究は
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マチルダを演じるネル・ポッツは、ポールとジョアンの実際の娘。
青い瞳はパパ似、口元はママ似でしょうか。
静かですがキラリと光る演技を見せてくれています。
ルース役のロバータ・ウォラックは、なんとあの『荒野の七人』や、
最近では『ホリデイ』でも元気なところを見せていたイーライ・ウォラックの娘!
彼女は今もTVドラマなどを中心に活躍しているようです。
今作では思春期の女の子らしさや軽妙なコントなども見せる一方、
てんかん発作の持病を持つという複雑な役を演じていて、とても印象的でした。

WOWOWのカンヌ国際映画祭特集でのTV放送。
ネットなどで調べてもこの作品の情報はほとんど見つけられません。
ポール・ニューマンは生涯5本の長編映画を監督していて、
これはその内の3作目。その落ち着いた演出は、
登場人物たちのそれぞれの内に秘めた思いを静かに導き出しています。
日本では劇場未公開で、当然DVDも未発売。
こういうのをシレッと放送してくれるからWOWOWはやめられない。
DVD発売される予定はあるのでしょうか?
再放送かDVD発売されたアカツキにはぜひ観て欲しい佳作です。


The Effect of Gamma Rays on Man-in-the-Moon Marigolds(1972 アメリカ)
監督 ポール・ニューマン
出演 ジョアン・ウッドワード ネル・ポッツ ロバータ・ウォラック

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