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帰らない日々 [映画感想−か]

予定が変わって急に時間ができたので、何か映画を観ることに。
時間の都合の良かったこの作品にしました。


大学教授のイーサン(ホアキン・フェニックス)は、
ある日、自動車事故で10歳の息子ジョシュ(ショーン・カーリー)を失います。
事故を起こした相手はそのまま逃走。
妻のグレース(ジェニファー・コネリー)、娘エマ(エル・ファニング)とともに、
悲しみに暮れる日々を送ることになります。
事故の捜査はなかなか進展せず、業を煮やしたイーサンは弁護士事務所に相談に向かいます。
そこで仕事を任されたのは弁護士のドワイト(マーク・ラファロ)。
実は彼こそが、そのひき逃げ犯だったのでした。


一瞬にして息子を失う
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『ホテル・ルワンダ』のテリー・ジョージ監督作で、
大好きなマーク・ラファロが主役級ということで興味はあったのですが、
あらすじを読んで、ちょっと話が出来過ぎなことが気になっていました。
頼んだ弁護士が犯人だった・・・なんて、安っぽいサスペンスドラマみたいに思えたのです。
でも見始めると、舞台が田舎町であることから、
弁護士事務所もアメリカとはいえそんなに数はなさそうだし、
なぜ弁護士に依頼するようになるのかのいきさつも丁寧に描かれているので、
まあいいかな、と思えるようになりました。
ただ、ドワイトの元妻ルース(ミラ・ソルヴィノ)までが家族と関係があったというのは、
さすがにちょっとどうかな、と。
このルースとの関係がいろんなことの発覚に繋がるきっかけではあるのですが、
そこはもうちょっと違う感じにして欲しかった気もしました。

ただ、そういった細かいことも出演者たちの素晴らしい演技で次第にどうでもよくなってきます。
ホアキン・フェニックスは常に怒りと悲しみを胸に抱えている。
まあ彼の得意なキャラクターと言えなくもないのですが。
マーク・ラファロも最初から最後まで苦しみととまどいの表情で、その複雑な心の内を表しています。
ジェニファー・コネリーの深い悲しみも重く胸に迫ってきます。


ドワイトも愛する息子と別れられない
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被害者側のイーサンとグレース。彼らの息子を失った悲しみの表し方はまったく違っています。
それは性格や性差、父としての立場、母としての思いの違いなどから来るものなのかも知れませんが、
これはとても興味深かったです。
イーサンは逃げた犯人を探し出すことに全身全霊傾けます。
ネットでひき逃げ事件をいろいろと調べるうちに、
法にはたくさんの穴があり、泣き寝入りする被害者が多いことを知り、
実際に遅々として進まない捜査に怒り、自力で犯人を捜そうとします。
一方グレースは、息子の死を自分のせいだとして自分を責め、
息子が苦しまずに死んだという警察官の言葉にも強く反応します。
また、娘エマのためには自分がしっかりしなくてはならないとも思い始めます。
事故の直後は、深い悲しみのため何もできなくなっていたグレースを、
イーサンは「一緒に乗り越えよう」と励ますのですが、
時間が経つにつれイーサンのほうこそがどんどん深みにはまっていきます。
どちらも悲しみと怒りは同じように持っているのですが、
その表し方、解決の仕方はこんなにも違ってくる。
その結果、夫婦にはだんだんと溝が出来始めます。
悲劇はどこまでも被害者を苦しめ続けていくのです。

加害者であるドワイトも、もちろん自分が犯した罪の重さに苦しみ続けます。
何度も自首しようとするのですが、ちょっとしたことでできなくなる。
彼は離婚して息子に週に1回しか会えないような生活をしています。
離婚の原因は詳しくは語られませんが、元々どこか心の弱い人なのでしょう。
そんな性格もあって、妻に愛想を尽かされたのかも知れません。
事故から逃げてしまったのも、息子との関係、社会的立場などを考え、
それらを失うことが恐ろしくてできなかったから。
ドワイトがしたことは当然許されることではないのですが、
彼を見ていると、もし自分が彼の立場になったらどうするだろう、
絶対に逃げたりしないと言い切れるのだろうか、と思います。


真実を告げられるのか。
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人の心の弱さ・・・イーサンとドワイト、2人ともどうしようもなく弱い。
ドワイトは逃げ、イーサンは復讐に向かい始める。
どちらも弱さから間違った道を進んでしまうのです。
でも何が正しい選択なのでしょう。これはとても簡単には答えが出せません。
ドワイトに関して言えば、必要だったのは"勇気"だったのかも知れません。
彼には自首する勇気がなかった。自分の家族を犠牲にする勇気、
そして"死"を選ぶ勇気もなかった。
それがあれば、もう少し何かが違っていたはずなのです。

どうしても、あの『ホテル・ルワンダ』の、と思ってしまうので期待も大きく、
その分、作品の完成度としてはいまいちかも知れません。
安易なサスペンスドラマにしなかったのはさすがですが、
登場人物それぞれのエモーショナルな部分が、単独で見ると素晴らしいのに、
それが作品全体に広がって形になっていないような、
そんなもったいなさみたいなものを感じました。
ただ、これを観て思うことは人によっていろいろあるでしょう。
子を持つ親であれば、両方の親の気持ちそれぞれにもっと深く感情移入してしまうかも知れません。


Reservation Road(2007 アメリカ)
監督 テリー・ジョージ
出演 ホアキン・フェニックス マーク・ラファロ ジェニファー・コネリー
   ミラ・ソルヴィノ エル・ファニング



帰らない日々 [DVD]

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タグ:映画

こわれゆく世界の中で [映画感想−か]

今年3月に急逝したアンソニー・ミンゲラ監督。
彼の最後の映画作品です。


ロンドンのキングス・クロス地区。
この地域の再開発のため、ここにオフィスを構えた建築家のウィル(ジュード・ロウ)。
彼は長年、スウェーデン系アメリカ人の映像作家リヴ(ロビン・ライト・ペン)と、
正式に結婚しないまま一緒に暮らしていますが、
このところ、彼女の自閉症気味の娘ビーのことで関係がうまくいかなくなっています。
そんな時、彼のこの新しいオフィスに2度も強盗が入ります。
仕方なく共同経営者のサンディ(マーティン・フリーマン)とともにオフィスの見張りをすることに。
そこに再び現れた窃盗団の一味の少年ミロ(ラフィ・ガヴロン)の跡を追い、自宅を突きとめたウィルは、
ミロの母親であるボスニア難民のアミラ(ジュリエット・ビノシュ)と出会うことになります。
仕立屋であるアミラの客を装い、何度もこの家を訪れるうちに、
ウィルはアミラに惹かれ始めます。


愛を求めた2人
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原題『Breaking and Entering』の意味は"不法侵入"です。
壊して、入る。確かにこの作品に於いてこの言葉はキーワードだったように思いました。
窃盗団の少年たちはまさにウィルのオフィスに不法侵入するわけですが、
この地区で生まれたというブルーノ刑事(レイ・ウィンストン)は、
こんな場所にオフィスを構えるほうが悪いと言い、捜査に非協力的な上、
この再開発自体になんとなく皮肉を込めた口調だったりします。
ウィルの"話し相手"になる売春婦オアーナ(ヴェラ・ファーミガ)は、
「壊して浄化すればいい。私たちはよそに移るだけ」と手厳しい。
地元住民にしてみれば、まず壊すことから始める都市開発もまた、
ある種の不法侵入と受け止められるのかも知れません。
そして、事件をきっかけに出会うことになるウィルとアミラ。
難民として苦労してきたアミラの固く閉ざされていた心をウィルは砕き、入り込んでしまうことになります。

一方、長年一緒に暮らしているウィルとリヴ。
映画の冒頭から、ウィルが運転する車内で会話もなく、
視線が決して重ならないという2人の様子で、
ウィルとリヴの関係が冷めかけていることが表されます。
リヴは娘ビーの状況に悩み、そのことでウィルに遠慮もあって結婚に踏み出せないでいます。
ウィルはウィルで、彼なりにビーを愛しているけれど、
ビーはなかなか心を開いてはくれないし、母と娘の輪の中に入って行くこともできません。
こんなに近くにいるのに、互いの気持ちは行き違ってしまうばかり。
できてしまった見えない壁を壊すことができず、
その結果、ウィルは他に愛を求めてしまうことになるのです。


母と息子の絆
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長く一緒に暮らしていても、できてしまった壁はどうすることもできず、
壁を避けて遠回りすれば、互いに違う方向に進んでしまう。
ウィルとリヴのカップルを見ていると、人が誰かと共に暮らすことの難しさ、
長く一緒にいることでできる壁ほど壊しにくいものだということがわかります。
結局2人は、不意に現れたアミラという第三者の存在によって思わぬ形で壁を壊すことになります。
そう、ウィルとアミラの不倫関係がこの作品でのメインの話だと思っていたら、
話はウィルとリヴのほうに戻ることになるのです。
一連の事件、出来事の決着の付け方は出来過ぎな気がしないでもないですが、
とりあえずそれぞれが良い形に収まり、それでもウィルとリヴの間にできた壁は壊されることはなく、
2人の視線は互いに違う方向を向いたまま・・・で終わるのかと思ったら、そう終わらない。
そう、壊さなくてはいけないのです。
相手に壁を壊す勇気がないのなら、自分から壊すしかない。
相手がその壁を檻だと言うのなら、それは取り払わなくてはいけない。

ラストのこの最後の一押しには、不意を突かれ、ググッとやられてしまいました。
きっとウィルはずっと愛が見つけられないままで終わるのだと思っていたのです。
これでいい。これでいいはずです。昨日今日出会った2人じゃないのだから。


本当に理解し合えるのか
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不満な点をいくつか。
ウィルがアミラに惹かれるというのがどうも唐突な感じがしました。
というか、これを言ったら実も蓋もないのですが、何故ジュリエット・ビノシュ!?
ここは映画的に、もうちょっと若くて幸薄そうな女優さんに演じて欲しかった気がします。
それともウィルが外に求めた愛は母のような愛だったということなんでしょうか?
逆に、アミラが息子を守るためにウィルを誘惑したというのなら納得いく気もするのですが・・・。
もう少し、何かウィルがアミラに惹かれる強いきっかけのようなものが見えて欲しかった。
ただ、彼女が息子に示す愛情、息子と一緒にいるときの快活な雰囲気はとても魅力的だし、
彼女の疲れ果てた表情だけで、これまでの苦労がすべて見えてしまいそうなほど。
そこに深いシンパシーを感じたということなのかも知れません。
それにしてもジュリエット・ビノシュは上手すぎます。
彼女の東欧訛りの英語がどれぐらい本物に近いのかわかりませんが・・・たぶん完璧なんでしょうね。
頭が下がります。

それから、最初のほうで登場する売春婦オアーナが、
前半のみでいなくなってしまうのも、ちょっと謎で残念でした。
ウィルがこのオアーナの誘惑には一切乗らないのが面白く、
彼女にリヴと同じ香水をプレゼントするというのも、ウィルの人間性がよく表れていると思いました。
カラダの関係はなくとも、ウィルはオアーナに充分癒されていたのですよね。

ジュード・ロウはこういう優柔不断な男はぴったり合ってます。
今回その美貌がイヤミになっていないのも大したものです。
ロビン・ライト・ペンは大好きな女優さん。
ほぼスッピンで小じわも丸わかりで、どうしようもない現実に疲れ果てた雰囲気をよく出していました。
それと、世間的評価は低いですが個人的に大好きな『銀河ヒッチハイク・ガイド』(!)の、
マーティン・フリーマンがいつも通りのいい味を出してくれていてウレシカッタ。

アンソニー・ミンゲラの演出はまったく無駄がなく、美しい映像、美しい音楽も完璧。
今作は彼自身のペンによるもので、今のロンドンが抱える人種問題や再開発など、
たくさんの要素が詰め込まれていて、それらを完璧に理解できない自分の勉強不足、
知識の足りなさ加減がちょっと悲しくなってしまいました。
でも何が悲しいって、こんなに素晴らしい監督の作品をもう観ることができないことですね。


Breaking and Entering(2003 イギリス/アメリカ)
監督 アンソニー・ミンゲラ
出演 ジュード・ロウ ジュリエット・ビノシュ ロビン・ライト・ペン
   ヴェラ・ファーミガ マーティン・フリーマン レイ・ウィンストン



こわれゆく世界の中で

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こわれゆく世界の中で (Blu-ray Disc)

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タグ:映画

グッド・ガール [映画感想−か]

先日観た『オレンジカウンティ』の脚本家であり、
俳優としても、ちょっとおかしな国語教師を演じていたマイク・ホワイト。
彼のフィルモグラフィーを調べていたら、この『グッド・ガール』を発見。
そしてこれも、いつ買ったのか記憶にないDVDとして我が家にあることを思い出し・・・。


小さな田舎町のスーパーマーケットで働くジャスティン(ジェニファー・アニストン)。
単調な仕事。うんざりする同僚や客。
ペンキ職人の夫フィル(ジョン・C・ライリー)との仲もうまくいかず、
何かと彼に当たり散らしてしまう毎日です。
そんな中、彼女は店に新しく入ってきたホールデン(ジェイク・ジレンホール)と親しくなり、
やがて2人は深い関係へと発展してしまいます。


退屈で退屈で退屈で・・・
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ドラマ『フレンズ』ファンだった私としては、ジェニファー・アニストンが、
フレンズのレイチェルとはまるで正反対の暗い人妻役というのに興味があったし、
それとこの頃、ちょうどジェイク・ジレンホールが気になり始めていた(!)こともあって、
とにかく必見だった作品でした。
ほかに大好きなジョン・C・ライリーが典型的なアメリカのブルーカラー系の夫を演じています。
これまた大好きなズーイー・デシャネル(お、サリンジャーつながり!?なわけないか)が、
スーパーの同僚役として、若干コメディな担当で出演。
そしてマイク・ホワイトは今作も脚本担当ですが、ちょっと変わった警備員役で出演もしています。

この作品、一般的にはオフビートコメディぐらいの感じに紹介されていたのですが、
そんなことは全然なくて、予想以上に暗い展開でちょっと落ち込みそうにもなりました。
本当に悲しくなるぐらい田舎のスーパー。
イイ人なんだけど、無頓着な夫。
何もかもうんざりだけど、30歳になった今となっては何ができるでもない、
街を飛び出すわけにもいかない憂鬱な雰囲気を、
ジェニファー・アニストンがとにかくよく出しています。
頰杖をついてぼんやりどこかを眺めて、
何か考えているような、何も考えていないような表情。
不満だらけで常にいらだっているような様子。
そんな彼女の気持ち、痛いほどわかりそうな自分が悲しい・・・。


落ちてはいけない恋
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彼女の目の前に現れる”文学青年"ホールデン。
自分を"ホールデン"と名乗り、仕事中に『ライ麦畑でつかまえて』を読んでいる。
ジャスティンが『ライ麦〜』を知らないあたりも哀しいのですが、
それより、今さら文学青年だからサリンジャーなんてベタすぎ!と思っていたら、
ベタなのにはワケがあるのです。
このホールデン君、とにかく暗くてウツ気味、大学もドロップアウトしていて、
こんな風にしたのは両親のせいだと言い、
いつかは自分の小説で世間を見返してやりたい、と思ってるのですが、
どうやらそんな才能はなさそうだということがだんだんわかってきます。
そうなってくると、22歳でサリンジャーというのはなかなか絶妙なチョイス。
そこに、このホールデン君の哀しさを感じてしまうのです。

2人の不倫関係は当然のように秘密が保てず、いろんな問題が浮上します。
ジャスティンは罪の意識からホールデンとの距離を持とうとしますが、
ホールデンのほうはだんだん彼女に対し病的なまでの執着心を持ち始めます。
いろんな手を使ってなんとか1つずつ難局を乗り越えるジャスティンですが・・・やはりうまくいくわけはない。
この辺の危機の乗り越え方はブラックなコメディタッチと言えなくもないのですが、
いえいえ、そんな生易しいものではありません。
特に夫の親友ブッバ(ティム・ブレイク・ネルソン)との一件は・・・かなりキツイ。


夫と、仕事仲間ブッバ
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結果として、ホールデンがただ単純にかわいそうな子どもでしかなく終わってしまうのが、
ちょっと後味の悪さを残しました。
一難去ってまた一難のような展開は、いっそのことコメディ風味にしてくれたほうが救いがあったと思うのですが、
それは最初から目指していなかったのでしょう。
このどっちつかずの雰囲気が、結果としてうまくいったような、
田舎町の退屈さ、本当の答えなんか出ないやるせない感じも出していたように思います。

ある日目の前にやって来た王子様と手に手を取って逃げ出すなんて、そう簡単にはいかない。
かといって夫を殺して・・・なんて展開も、そうそうあることではない。
最後、一応の解決というか、落ち着くところに落ち着くのですが、
決してハッピーエンドではなくて、こういう風にして生きていくしかないんだろうなという、
深いあきらめ感で溢れています。
それはホールデンの書く、細部は微妙に違っても結論がいつも同じという、どうしようもない小説と同じ。
これが救いようのない現実なのでしょう。
ただ、なるようにしかならない明日を受け入れることは、そんなに真っ暗闇じゃない。
そんな風にも受け取れる終わり方でした。


The Good Girl(2002 アメリカ/オランダ/ドイツ)
監督 ミゲル・アルテタ
出演 ジェニファー・アニストン ジェイク・ジレンホール ジョン・C・ライリー
   マイク・ホワイト ズーイー・デシャネル ジョン・キャロル・リンチ ティム・ブレイク・ネルソン



グッド・ガール

グッド・ガール

  • 出版社/メーカー: パラマウント ジャパン
  • メディア: DVD


タグ:映画

キッスで殺せ [映画感想−か]

たまに無性に観たくなる、不思議な魅力を持った作品です。
カルトムービーとして有名なものですが、
表向きはいわゆるフィルムノワールと言われるジャンルで、
原作はミッキー・スピレーンのマイク・ハマーもの。
・・・ということですが、私はほとんどこのジャンルの本は読まないので、
原作と比べてどうこうとかは一切わかりません。
また、マイク・ハマーと言えば濱マイク?・・・こちらも1本も観ていません。


ロサンゼルスの私立探偵マイク・ハマーが、深夜、クルマを走らせていると、
突然、裸足でトレンチコートを纏っただけの女がクルマの前に立ち塞がります。
強引なヒッチハイクをしてきたクリスティーナというその女を乗せ、しばらく走っていると、
突然謎の男たちに捕まり、2人は拷問を受けたあげく、クルマごと川に突き落とされます。
マイクはなんとか助かりますが、クリスティーナは死亡。
マイクはFBIの取り調べを受けますが何も答えず、助手のヴェルダと共に独自に調査を始めます。


謎の女その1 クリスティーナ
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この作品を初めて観たのは今から10年ほど前。
これと、デヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』を、
何の予備知識もなく、偶然同じ時期に観てしまいました。
『キッス〜』を先に観たので、『ロスト〜』を観たとき、
「あ、キッスで殺せだ!」と気がついてしまったのですが、
偶然とはいえ、この順番で観たのは正解だったと思いました。
最初に『キッス〜』を観たとき、普通の探偵ものだと思っていたら話が思わぬ方向へ進んでいき、
最後はただただ呆気にとられてしまい、相当ショックを受けたのですが、
その後、リンチがこの作品へのオマージュとして『ロスト〜』を作ったことを知り、
逆に、なるほどこれは確かにリンチ的であるのかも、と妙に納得したものです。

私立探偵、謎めいた美女たち、ピストルや闇に光るナイフ、危険な裏社会・・・などなど、
一見普通のフィルムノワール風(と言っても、フィルムノワールの定義はよくわからないので、
個人的にフィルムノワールという言葉から感じるもの、という意味です)なのですが、
話のオチにとんでもないものが登場すると、まさにトンデモ映画と言える色あいとなり、
リンチ的不条理さを感じずにはいられませんでした。
その"とんでもなさ"もあって、この作品がカルトと呼ばれてしまうのだと思うのですが、
とにかく最初から最後まで目が離せない不思議な緊張感、
話がどこに進んでいくのかがまるで見えず、見えたと思ったら思いっきり崖から突き飛ばすかのように、
あっけなくオチを付けて幕を下ろす、そのやり方になんとも言えない魅力を感じている気がします。


謎の女その2 リリー
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主人公マイク・ハマーは、まあ男前と言えなくもないのですが、
それほど女たちを引きつけるような人には見えません。
でも、あちこちで「Kiss me〜」と言われてしまうのですね。
最初のほうでFBIに取り調べを受けるところが、彼の人となりを紹介する格好になってるのですが、
それがひどい言われようで、こんなに言われてはそりゃあ協力したくなくなるよなあ、と思うのですが、
これがあながちウソでないというのがだんだんわかってきます。
強引で自分勝手。かなり暴力的。なんだかとっても胡散臭い。
でも、もつれたヒモをほぐし、たぐり寄せる能力は大したものです。
とっさの判断力もキチンと備わってます。
面白いのは、この人、なんだかわからない武器というか、
瞬時に相手を痛めつけるワザを持っているんですね。
でも、これがなんだかわかりません。
相当屈強な相手が一発でやられてしまい、そばで見ていた仲間が怯えてしまうという、
それってどんな攻撃方法だったのかすごく知りたい!

ハードボイルドに美女はつきものだと思うのですが、
何人か登場する女性陣は、どうもどの人も印象が薄く、ハッキリ言って美女がいないのです。
一番キレイだと思ったのは、ギャングの親分の邸宅にいてマイクをすんなり家に入れる謎の美女。
でもこの人、それだけの役なんですね。
その次は事の発端となったクリスティーナ・・・かなあ。
彼女の元ルームメイトのリリーは、まあそういう設定であったと思うのですが。
どこかトロそうなしゃべり方といい、見ていてちょっとイライラしてしまいました。
で、一番美女であって欲しいマイクの助手ヴェルダが、どうも・・・残念。
ここはグレース・ケリーかイングリット・バーグマンばりの美女にして欲しかったところですが、
それだとお上品すぎて、マイクの本業である浮気調査の役には立たないかな?


マイクの"相棒"ヴェルダ
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登場人物の中では、脇で唯一和ませてくれる自動車修理工のニックが良い。
必ず「バ・バ・ブーン!」を会話の中に入れてしゃべる憎めないメキシカンオヤジ・・・なんですが。

製作された50年代当時のアメリカの不安感・・・赤狩りとか核の恐怖とか、
そういったものが込められている、と専門家たちは言いますが、
そんな細かいことより、何かとんでもなく面白いものを作ってやろう!
という意気込みがあったのでは、ということが感じられ、この作品をとても愛おしく思います。
アタマのタイトルロールが下から上へ流れていくのとか、当時としたら斬新だったのでは?
それらがすべて成功しているとも思えませんが、なぜか惹きつけて止まない魅力を持っています。
また何年かしたらきっと観たくなる。アヤシイ箱の中を覗いてみたくなる。


Kiss Me Deadly(1955 アメリカ)
監督 ロバート・アルドリッチ
出演 ラルフ・ミーカー アルバート・デッカー ポール・スチュワート ジャック・ランバート
   マキシン・クーパー ギャビー・ロジャース ニック・デニス クロリス・リーチマン ジャック・イーラム



フィルム・ノワール セレクション キッスで殺せ!

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フィルム・ノワール傑作選

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  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
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ゴーストワールド [映画感想−か]

先日の『JUNO/ジュノ』の記事で『ゴーストワールド』を思い出した・・・と書いたので、
久しぶりに観てみることにしました。


LA郊外に住むイーニド(ソーラ・バーチ)とレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)。
高校を卒業したけれど、進路は何も決まっていません。
とりあえずレベッカはコーヒーショップで働き始めたけれど、
イーニドは自分が何をしたいかまるでわからないし、そもそも仕事なんかしたくない。
そんなある日、退屈しのぎに新聞の広告欄で見つけた男にいたずら電話をかけることにした2人。
呼び出したダイナーに現れたのは、冴えない中年男シーモア(スティーヴ・ブシェミ)。
ブルースレコードのコレクターで、世間とうまく馴染めない彼に何かを感じたイーニド。
2人は少しずつ親しくなっていきますが・・・。


イーニドとレベッカ
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劇場で観たとき、そのあまりの内容にドップリ落ち込んでしまった、その記憶が蘇ってきました。
同じように落ち込み、これは私の映画だ!と思った人が当時かなりいたはずです。
また、イーニド、レベッカ、シーモアのそれぞれを、
これはまさにあの人のことだ!と身近で思いつく人がいたり。

私にも、高校時代に知り合い、卒業後は進路もそのあとの就職先もまるで違ってしまいましたが、
長い間、とても親しく付き合っていた友人がいました。
でもある時ちょっとしたことがあって、それをきっかけにまったく会わなくなってしまいました。
私達はまさにイーニドとレベッカのようで、高校時代はクラスメイトとは距離があったし、
映画や音楽の趣味にヘンなこだわりがあったりしていました。
彼女は絵を描くのが得意で、そういう意味でも私よりイーニド度が高かった。
私のイーニド度も結構なものだったと思うのですが、
結果的にはレベッカになって行ったのだと思います。
それが、その友人と距離ができてしまった原因にもなってしまった。
そういった経験からも、このイーニドとレベッカを客観視できませんでした。


イーニドとシーモア
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イーニドは、嫌いなもの、イヤなことはとにかくハッキリしています。
反対に好きなこと、自分がどうしたいか、何が楽しいのかが自分でまったくわからない。
そして、そんな自分が大嫌い。
もうこのあたり、まったく私なのです。特に十代の頃の。
キライなものの理由・・・大抵それはバカだから。薄っぺらだから。嘘っぱちだから。
そんなことを敏感に感じ取ってしまう彼女は、
だけど自分だって中身はそれほどのものじゃないということも感じている。
だからそんな自分がイヤでイヤでしょうがないのだと思います。
そのどこにもやりきれない気持ちをぶつける術を知らない毎日から、
ある日フッと消えてなくなりたいと思っている。
ああ本当に、書いていてイヤになるくらい私にもそんな気持ちがありましたし、
いまだにあるような気もする・・・。
でも、十代にそういう思いをする人は少なくない気がします。
他人と折り合いを付けることが負けのような気がするし、
考えれば考えるほど、どんどん深みにはまってしまう感じ。
客観的に見ればすごく些細なことなのに。

さて、そこで『JUNO/ジュノ』です。
ちょっと普通とは違う性格、個性的な好みや物事を斜めから見るような物言い、
いつも女の子2人組でつるんでいたりといったところなどは一見この作品に似ているような気がします。
でも圧倒的に違うのは、ジュノは自分の趣味嗜好がハッキリしていて迷いがない。
将来のことはあまり考えていないようだけど、まだ彼女が16歳で、
イーニドより若干若くて進路に悩む状況ではないということもあります。
この年頃の1年2年はとっても長い。ジュノも妊娠を経て、高校を卒業するときにはどうなっているのか。
彼女なら、ちゃんと乗り切れそうな気もします。
ジュノのそういう前向きな姿勢が、広く人々に受け入れられたのでしょう。

人は、何かとんでもない事態になったときは、思いも寄らない力を発揮するものなのかも知れません。
ジュノには予想外の妊娠がありましたが、イーニドには、そんなとんでもないことが起こらなかった。
きっとイーニドは、そういうとんでもないことを心待ちにしていたと思います。
自分でどうしようもない現実からフワッとさらってってくれるような事件。
シーモアにちょっとだけ希望を見出しかけていたのかも知れませんが、
それも、彼を深く知ってみればそうじゃなかったと気づいてしまいます。

そうして彼女は、ずっとバスを待っていた老人がバスに乗る瞬間を目撃します。
『ゴーストワールド』は、ラストの解釈がいろいろ分かれていますが、
仮にあれを前向きなハッピーエンドだと考えても、何かザラッとした後味の悪いものが残ってるし、
だけど単純に"天国行き"のバスとも思えない。
イーニドにとって何がハッピーエンドなのか。彼女はとりあえず何か1つ答えを見出したことはわかりますが、
その答えがキチンと説明されるわけではないので、観ているこちら側はよくわからないまま。
イーニドに対する評価が観る人によって分かれるのと同じで、
すべて観る側に委ねるエンディングなのかな、と思いました。


2人に連れ回されるジョシュ(ブラッド・レンフロ)
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ブラッド・レンフロが出ていましたね。それはすっかり忘れていました。
なんだかどうでもいいような役でしたが、いろいろ複雑な思いで見てしまいました。
撮影当時15歳だったスカーレット・ヨハンソン。
だんだんと大人っぽく変わっていって、最後はどう見ても20歳ぐらいに見えます。
その後の彼女の活躍を思えばさすが、ということでしょうか。
そして一番胸に迫るのは、やはりスティーヴ・ブシェミ。
彼のラブシーンを見る日が来るなんて!!と、劇場で頭を抱えそうになったものです。
シーモアみたいな人も身近にいるなあ・・・と思いながら観ていたのでなお一層。
本当に攻撃力の高い作品です。


Ghost World(2001 アメリカ)
監督 テリー・ツワイゴフ
出演 ソーラ・バーチ スカーレット・ヨハンソン スティーヴ・ブシェミ
   イリーナ・ダグラス ボブ・バラバン ブラッド・レンフロ 



ゴーストワールド【廉価2500円版】

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  • 出版社/メーカー: アスミック
  • メディア: DVD



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