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インビクタス 負けざる者たち [映画感想−あ]

クリント・イーストウッドの新作は、アパルトヘイト後の南アフリカでの、
ネルソン・マンデラ大統領とラグビーワールドカップにまつわる実話。
イーストウッド作品は今や観る前から傑作だろうという安心感すらありますが、
さて、今作はどうでしょう。


1994年南アフリカ。
27年におよぶ牢獄生活より釈放されたネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)は、
その後行われた初の総選挙により大統領に選ばれます。
しかし、アパルトヘイト撤廃後も人種間での対立は依然残っており、
マンデラは国家がひとつになるためには互いに赦し合うことが大事であると主張しますが、
その考えはなかなか理解されません。
そんな中、ラグビーワールドカップが翌年には自国で開催されるにもかかわらず、
代表チーム「スプリングボクス」が弱小チームで、
白人の支持はあっても黒人には不人気であることを知り、
マンデラはワールドカップでの優勝こそが国家統一の良い機会になると確信、
チームのキャプテンであるフランソワ・ピナール(マット・デイモン)を官邸に呼び、
優勝のためには何が必要かを彼に尋ねます。


苦悩するマンデラ
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スポーツは観るものであり、その能力がゼロに等しい私などは、
職業としてスポーツを行う人とはいったいどういう人種なのか想像もつきません。
彼らが日々何を考え、どのように行動し、自分の技を磨き身体を鍛え、
チーム競技であれば協調性やチーム内での自分の立場も明らかにしなければならないのだろうとか、
個人プレーならすべての責任を自分一人で負うための精神力を養わなくてはならないのだろうなど、
いろんなことを想像するしかありません。
それでもそんな中で優劣が付き、勝者はたった1人、たった1チーム。
そこにどんな違いがあるのでしょう?もちろんその時の運というのも関わってくるのだろうし。

ちょうどバンクーバーオリンピックの直後だったこともあり、
そんなことを何度となく考えていた時に、この作品を観ることになりました。
弱小ラグビーチームがワールドカップで優勝する。
そんなことが実現してしまうなんて、まるでドラマのようですが本当の話。
でも、それがどのように達成されたかなんてことを今作では事細かく描いているわけではありません。
ある日突然ピナールはマンデラに呼び出され、チームの状態を尋ねられます。
またマンデラは選手全員の名前を記憶し、練習中のチームを突然訪ね、選手一人一人に言葉をかけます。
そんないろんな出来事ののち、少しずつ選手たちの意識は変わっていきます。
ほんのちょっとしたこと、やる気とかポジティブに勝ちを目指すこと。
それは本当にものすごく単純なことなのかも知れませんが、誰にでも出来ることじゃない。
力づける方も、それを受け止める方も。


ピナールは真意を知る
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そんな絵に描いたような理想論を正攻法で描いていく、
今作の真っ直ぐさに素直に胸を打たれました。
それはマンデラという実在の人物がいかに"不屈の人"であり、
けれどその胸の内に秘めたものは熱く強く、しかし柔軟で、
ラグビーを国を収める"道具"にする冷静さと、単純にそれを楽しめる純真さを併せ持っている。
マンデラ自身の人としての魅力があってこその物語であり、
もちろん脚色はあるのだとは思いますが、この既に出来上がっているストーリーを、
直球で描いていくイーストウッド自身の真っ直ぐさも強く感じさせられました。

マンデラが、映画で自分を演じるとしたら誰が良いかと聞かれた際に、
モーガン・フリーマンの名前を挙げたそうで、それ以来個人的に親交もあるらしく、
まったく違和感のないマンデラ像となっていました。
しっかりラグビー選手の身体を作り、言葉も習得してのマット・デイモンも安心のキャスティング。
イーストウッドの次回作にも出演するそうで、すっかり御大に気に入られたようです。
彼ら2人のほかのキャストもいずれも魅力的。
イーストウッド作品は、主役以外の脇にはあまり知られていない役者を使うことが多く、
また、舞台に合わせた現地の役者をキチンとキャスティングするので、
変な先入観などを持たせないのが良いなといつも思うのですが、
今回もマンデラのアシスタントの女性や、SP班の面々はとてもいい役者ばかりでした。
最初は反発し合っていた白人黒人混合SPチームのドラマは本当に面白く、
そうなるんだろうなあという通りの結末がまた清々しくすらありました。


優勝へ!
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イーストウッド作品はどちらかというと人間の暗部や暴力などを描く印象が強く、
これまで、見終わって爽快感を得るようなものは少なかったと思います。
ところが今回は、希望とか理想とか人の良心といったものを本当にストレートに描いていて、
そのことに一番驚かされました。
実話であることがもちろんその大きな理由ではあると思いますが、
ここ数年、精力的に新作を作り続けている彼が、
ここに来て新たな方向へ向かっているという事実に、
これまで以上に嬉しく頼もしい気持ちにさせてもらいました。
彼にはこれからもどんどん、あらゆる題材のいろんな作品を作ってもらいたい。
必ず傑作を作り出してくれる監督がいる、この時代に感謝!


Invictus(2009 アメリカ)
監督 クリント・イーストウッド
出演 モーガン・フリーマン マット・デイモン トニー・キゴロギ パトリック・モフォケン
   マット・スターン ジュリアン・ルイス・ジョーンズ アッジョア・アンドー
   マルグリット・ウィートリー レレティ・クマロ パトリック・リスター ペニー・ダウニー



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あいつはママのボーイフレンド [映画感想−あ]

昔の少女マンガのようなタイトルだなあと思ったら、
出演がアントニオ・バンデラス、メグ・ライアン、コリン・ハンクスにセルマ・ブレアって!
思わず観てしまいましたよ、ええ。


FBI捜査官のヘンリー(コリン・ハンクス)は、
悲しみに暮れる母親マーサ(メグ・ライアン)を一人残し、海外赴任へ。
3年後、任務を終え家に戻ると、そこには見知らぬ女性が・・・と思うと、
それは3年間ですっかりダイエットし若返ったマーサでした。
自らマーティと名乗り、生まれ変わったと宣言する母親。
そのあまりの変化に衝撃を受けるヘンリー。
息子よりはるかに若いボーイフレンドと遊び歩く母親に、
せめて年の近い恋人を、と思っていた矢先、マーティは、
街でトミー(アントニオ・バンデラス)という男と出会います。


マーサ改めマーティ
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もはやアントニオ・バンデラスとメグ・ライアンでも日本公開されない時代なのかあと思ってたら、
これ、アメリカでもDVDスルーなんですね、びっくり!
そんなに悪いとも思えませんでしたけど。
やはりアメリカでもメグ・ライアンの需要はないのでしょうか。
しかもメグ・ライアンの息子役がコリン・ハンクスなんて、いろいろ感慨深いですよ。
それすらも話題にもならなかったのかなあ。
まあでも、劇場でお金出して観るのは考えてしまうかも知れません。
コメディとしてはユルいし、強盗モノとしても全然ドキドキしないし。

何よりメグ・ライアンの"劣化"がどうしても見ていて痛々しくて、
彼女が出てくると、内容とは関係ないことばかりつい考えてしまいます。
母親役なんて年相応だし、こういう軽いノリは昔となんら変わりないのに、
どこでどう間違ってしまったのか。
すんなりゴールディ・ホーンの辿っている道を辿れないのはなぜだろう?


トミーの正体は?
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冒頭で彼女はものすごいデブメイクで登場します。
『愛しのローズマリー』とか『ナッティ・プロフェッサー』みたいな感じ。
こんな超デブホワイトトラッシュを演じるというのもチャレンジングだけど、
なんだか「こんなことまでしちゃうのかあ」という哀しさをチラッと感じてしまいました。
若い頃の彼女は、わりと素の自分そのままの役を演じることが多かった気がしますが、
おしゃれでちょっとクールな雰囲気は、同性異性を問わず虜にしていたと思います。
でも、不倫〜離婚でイメージダウンしてしまったのか、スクリーンから見かけなくなって、
途中『イン・ザ・カット』なんてのに出てしまったり顔が変わってしまったりとか、
この10年ぐらいで、過去の栄光をすっかりナシにしてしまった感じで、
うまく女優として年をとれなかったのが可哀相です。
彼女も出演したロザンナ・アークエットの『デブラ・ウィンガーを探して』で、
女優の30歳代以降のキャリアの積み方の難しさ哀しさが語られていましたが、
彼女は見事に失敗してしまった典型だなあと思います。
まあまだこれからどうなっていくかはわかりませんが。


母親を救える・・・か?
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アントニオ・バンデラスとメグ・ライアンが互いに一目惚れ、というのが、
ストーリー上、結構大事な点なんですが、どうもそのあたりに説得力を感じられなかったのは、
私がこういうメグ・ライアン自身について思いを巡らせてばかりだったせいなのでしょう。
(ついでにバンデラスの奥さんはメラニー・グリフィスだなあとか考えてしまったし。)
そしておそらく、2人とも若い頃なら甘いラブストーリーも当然似合っただろうけど、
中年カップルの恋愛話というには、2人とも昔を引きずっているというか、
何か物足りなく、もうちょっと潔く中年の恋を演じてほしかった感じです。
例えば『恋愛小説家』とか『恋愛適齢期』といった中年恋愛もの、
つまりジャック・ニコルソンやダイアン・キートンやメリル・ストリープの域には、
2人はまだまだ達してないし、達する時が来るのかどうかもわからないし、
要するにミスキャストなのか、演出がなってないのかというのもわかりませんが。

セルマ・ブレアはヘンリーの婚約者エミリー役で、同じくFBI捜査官。
ヘンリーが海外赴任から帰ってきて母親に紹介するだけかと思ったら、
なぜかそのまま一緒に住んじゃってるのがヘン。
セクシー下着でヘンリーを誘っちゃうあたり、らしくってイイのですが、
そもそもこの2人がFBI捜査官ってのはちょっとねえ。
しかし息子が母親のベッドルームを盗聴する恐ろしさって!しかも同僚にも聴かれてるなんて。
「お前の母ちゃんホットだなあ」とか言われるのって、すっごいイヤだろうなあ。
で、皆が言うほどメグ母さんがホットじゃないのがイタイ。
ああせめて、このマーティ母さんの役がほかの人だったら。でも誰だったら?
女優さんにとって40歳代をどう乗り切るのかって、本当に難しいことなんでしょう。
でもね、昔のメグ・ライアンの輝きを知ってる者からしたら、応援せずにはいられない。
頑張って欲しいものです。


My Mom's New Boyfriend(2008 ドイツ/アメリカ)
監督 ジョージ・ギャロ
出演 アントニオ・バンデラス メグ・ライアン コリン・ハンクス セルマ・ブレア



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アバター [映画感想−あ]

IMAX 3Dにて鑑賞。
劇場でさんざん予告編を見せられていた時にはまるで観る気になれなかったのですが、
昨年暮れに『カールじいさんの空飛ぶ家』を観に行った時に、
予告編と内容の一部の3D映像を観て初めて「あれ、ちょっと観たいかも!」と思ったのでした。
各所での大絶賛も後押ししてすっかり観る気になり、
それも「観るならゼッタイIMAX」ということらしく、
運良くIMAX上映館のある川崎は近いので行ってきました初IMAX。


戦争での負傷で下半身不随になった海兵隊員ジェイク・サリー(サム・ワーシントン)は、
急死した双子の兄の代理として急遽惑星パンドラでの"アバター計画"に参加することになります。
それは、パンドラの先住民ナヴィと地球人との遺伝子操作によって作られた、
"アバター"の身体を借りて、パンドラの希少な鉱物を採掘すること。
早速パンドラのジャングル内に潜入したジェイクのアバターは、
そこでナヴィの女性ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と出会いますが・・・。


ジェイク
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ストーリーはほとんど期待できないという事前情報もあり、
あくまで新しいアトラクションを体験しにいくというスタンス。
結論から言うと、この映像は確かにスゴイ!
デジタル3Dは『カールじいさん〜』が初体験でしたが、
あれは全編アニメーションな上にそんなにモノが飛び出すような作りではなく、
それが逆に個人的には上品で気に入ったところでした。
ですがこちらは最初から結構飛び出してるというか、手前の物が前に出ている感じとか、
「おーいかにも3Dな感じだぞー」と、ちょっと違和感も感じたりしていました。
とは言ってもこれ見よがしな感じではないし、そうこうしているうちに、
そんな映像の作りにあっという間に慣れてしまい、
映画って元々みんなこんななんじゃないかという気にすらなってしまったのです。

地球人パートと惑星パンドラパートでは、やはりパンドラの映像のほうが、
3Dとしても圧倒的に美しく、3Dになっている意味も大きい。
元々キラキラしたものに弱いので、ネオンのようと言われれば確かにそうなんですが、
光り輝く植物の映像はうっとりしながら観ていました。
クラゲのような森の精(でしたっけ?)とか、小さい虫とかホコリのようなものがふわふわ浮いているのは、
本当にスクリーンからはみ出すように見えて、思わず手を差し出したくなる感じ。
実際にあんな人たちが、あんな森があるとしか思えない。なんだか呆れるぐらい美しい世界です。


ネイティリ
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ただやはり残念なのは、ストーリー自体やキャラクターの魅力が私には今ひとつ伝わらず、
もう少し工夫やヒネリがあって欲しかった。
どうしてどれもこんな地球上の生物もどきなんだろう、とか、
みんなで祈りを捧げるところなんかいかにも類型的というのか、
大昔からあるどこかの部族の儀式といった感じで、
そのへんがつまらないなあと思い出すとなかなか内容に入っていけませんでした。
こんなに圧倒的に美しい映像でそうなんだから、普通に2Dで観たら恐ろしく退屈な作品だと思います。

3Dの映像を見せることが第一の目的だと言うのであれば、
敢えてストーリーはシンプルに、凝ったものにしないほうがいいのかも知れません。
でも目新しさはないとはいえ、地球人対ナヴィ族の戦いは何度も盛り上がるところがあるし、
ジェイクが少しずつナヴィとして馴染んでいく様子も結構見せてくれるので、
キチンとストーリーも映像に負けない新しいものを作って欲しかった。
あの長い三つ編みみたいなモノがコネクター(?)になってて、
動物や植物などあらゆるものに接続出来るのは面白かった。あれはちょっと欲しいかも!
でもこれ、時代設定は2154年ということなんですが、
150年も先の話なのに、人の見かけとか生活ぶりなんかが全然進化していないのもヘン。
武器なんかもっと進化してても良さそうなのに今とそんなに変わらない風だし、
シガニー・ウィーバー演じるグレイス博士はタバコをひっきりなしに吸ってるとか、
すごくベタな朝ごはん食べてたり、うーんどうなの?というものばかり。
一番思ったのはジェイクの車椅子、あんなのこそスゴイ進化してそうなのに!
いっそのこと地球ではなく、全部よその星の話だという、
『スター・ウォーズ』的設定にしてくれたら良かったかも知れません。


グレイスたちの作戦は
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そんな細かいことに気を取られつつの161分という上映時間はさすがに長い。
字幕を追うのも疲れてしまうし、終わった時にはさすがにグッタリしてしまいました。
もう少し短くしてくれないとこちらの身が持たないという感じです。
軽くて明るい3Dメガネでもやはり長時間の使用は疲れてしまうし、
メガネ2重使用の人は本当に大変だろうと思います。

まあそれでも、テーマパークのアトラクションの超豪華版というか進化形というか、
単純にスゴイものを観たなあという満足度は満点です。
『タイタニック』の時も、CGがとにかくスゴイらしいから観ておくべき!と言われたものですが、
13年経った今作もまさにそんな感じ。観ておくべき、観てソンはないと思います。
ただ、映画としてこれが傑作かというと・・・これがゴールデングローブ作品賞というのは「?」です。



Avatar(2009 アメリカ)
監督 ジェームズ・キャメロン
出演 サム・ワーシントン ゾーイ・サルダナ シガニー・ウィーバー スティーヴン・ラング
   ジョエル・ムーア ジョヴァンニ・リビシ ミシェル・ロドリゲス ラズ・アロンソ
   ウェス・ステューディ CCH・パウンダー




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イングロリアス・バスターズ [映画感想−あ]

久しぶりの100%タランティーノ映画は第二次大戦下のナチスを描くという、
戦争ものという新しいジャンルへの挑戦・・・と見せかけて、
リアルな史実の中にとんでもないイマジネーションを投下するという、
これはもう、彼にしか描けない世界。
もちろん、多少なりとも歴史的知識がないと理解出来ない部分は多いと思うし、
アタマ空っぽにして、というわけにはいきませんが、
それでも得意のこれでもかこれでもかのセリフの応酬、
来るぞ来るぞ・・・の残酷描写までの緊張感など、
始まってしまったら最後、タランティーノの世界に身を任せてしまうしかありません。


1941年、ナチス・ドイツ占領下のフランス。
ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)は田舎のとある農家を訪れ、
この家に匿われていたユダヤ人一家を虐殺。
娘のショシャナ(メラニー・ロラン)だけがなんとかこの場を逃れます。
その同じ頃、アメリカ人のレイン中尉(ブラッド・ピット)率いる、
"イングロリアス・バスターズ"と呼ばれる連合軍特殊部隊は、
次々とナチス兵を血祭りにあげ、ドイツ軍に恐れられていました。
1944年、ショシャナは映画館主となり、あることがきっかけで、
ナチスのプロパガンダ映画のプレミア上映をこの映画館で行うことになります。
ショシャナはこの上映会で復讐を遂げる計画を考え、
そしてイングロリアス・バスターズもまたその劇場での殺戮作戦を練りますが・・・。


名誉なき野郎ども
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ナチスという"絶対悪"を登場させ、しかしそれよりも最悪なバスターズの描写、
ショシャナは美しくか弱そうでありながら、相当に乱暴な復讐を計画する。
ほとんど善人なぞ登場せず、誰もがためらうことなく敵を殺す。
それが戦争というものの残酷なところ・・・とでも言いたいのか、
いや、これはいつものタランティーノらしいと言えるし、
でも、なんだかそれでいいのかな、という気もするのは、
100%フィクションではないというのが心のどこかで引っかかってしまうのかなと思いました。
別にヒトラーはじめ全部皆殺し!な展開をどうこう言うつもりはないですが・・・。

今回も映画愛に溢れたオマージュやら引用やらで溢れているらしく、
詳しくない私にとってはわかる部分も限られますが、
わかる人にはたまらない世界だろうなという想像はつきます。
では、そんな知識がなくとも楽しめるか・・・というとよくわからない。
もっともタランティーノ作品は昔から好きな人にはたまらなく愛すべき作品ばかりだし、
好きじゃない(という人はあまり知らないのですが)人は最初から相手にもしてない気がする。
私は話の運び方や音楽やキャスティング、延々と続く無駄話、
そしてその先に訪れる残酷で無情な殺し合いなどは、
(それが私のよく知らない引用で構成されているものだとしても)
タランティーノの世界として確立していて唯一無二なものだと思うし、
その圧倒的な作品の持つ力は認めざるを得ないというか・・・単純に素晴らしいと思います。
そういう意味では、これは驚くほど完璧に、かつこれまで以上に完成された、
タランティーノ作品の素晴らしい進化形、完成型となったなと思いました。


ユダヤハンター
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時間軸の前後などはほとんどありませんが、いくつかの物語が同時進行で語られ、
それでもチャプター分けされているのでかなりわかりやすい親切設計。
その中でも第四章の地下の居酒屋シーンでの、緊張感とユーモア、映画的小ネタ、
そして予想通り壮絶な銃撃戦になだれ込んで行くあたりは見応えがあり面白かったです。
でもアタマの皮剥ぎとか銃弾のグリグリ押しなんていうのは生理的に受け付けず、
『レザボアドッグス』の耳削ぎシーン以来、タランティーノ作品を観る時は、
必要以上の緊張感・・・今度はどんなイタいシーンが!?を強いられ、
そしてそれらは二度と観たくないシーンとして、ビデオ鑑賞の際は早送り必至。
そういう苦手なイタさと闘いながらの鑑賞が楽しいのかというととても微妙で難しいところです。
ホント、これを普通に「ブラピの新作!」として普通にデートなんかで観ちゃいけないと思うし、
(そんな人はいない?いやいるでしょう。)
これ観ると『バーン・アフター・リーディング』でのブラピの扱いなんてまるっきり可愛らしい。
こっちのブラピの「ボンジョルノ!」のほうが断然バカ度は高いです。

そう、今回は意外に笑える要素は少なく、
荒唐無稽であり殺し合い方も相当バカそうでありながら、
何か深刻さというか、底辺に暗さのようなものがずっと潜んでいる気がしました。
遊びや感情的なものを廃して、いかに敵を殺すかに誰もが執心し、
そして殺しは実行されながらも思惑はどれも少しずつずれていくという、
虚しさから来る暗さのようなものも感じられました。
この暗さや深刻さにはもしかして私の気付かないことや、
あるいはよくわからない理由やこだわりもあるのかも知れません。
もしかしてここでまた映画的知識の必要性もあるのかも、なんて思い始めると、
結果的に作品鑑賞においてのハードルがまた上がってしまうような気もするし、
なんだか単純に笑って観ていられるような描写をもう少し入れて欲しかった気もします。
まあナチスを描くのに単純なバカ騒ぎばかりもしてられないかもですが。
でもタランティーノ作品って昔はもっと単純にスカッと、
「面白かった〜!」って感じじゃなかったでしょうか?
まあ彼もいつまでもそんなばかりじゃない、ということかも知れませんが。


復讐に燃える
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今作でカンヌ映画祭最優秀男優賞を受賞した、
ランダ大佐役クリストフ・ヴァルツがとにかく素晴らしい。
ちょっとジェームズ・ウッズをあっさりさせたような風貌(違う?)、
その完璧にイヤったらしい悪役ぶりはたまらないものがあります。
ショシャナ役のメラニー・ロランの美しさ、力強さもただごとじゃない。
はっきり言って今作でブラッド・ピットは主役じゃないです。
でもあの役をほかの誰でもなく彼が演じることがポイントなのだとは思いました。
バカで田舎モノで残酷で・・・ってものすごく適役ですもん。もちろんいい意味で。
スパイ女優役のダイアン・クルーガー、冒頭で登場する農夫役のデニス・メノシェ、
一見好青年のナチスの英雄ダニエル・ブリュール、
どれもこれもどうしてこんなにトホホな顔ばかり集めたの?のバスターズの面々・・・と、
とにかくキャストが誰も彼も素晴らしい。
よくこういう魅力的な俳優たちを各国から集めて来たものだと思います。
バスターズの中で特に印象的な"ユダヤの熊"ドニー役のイーライ・ロスは、
その濃い顔つきもうまく味となっていて良かったんですが、
この役は当初、アダム・サンドラーが演じるはずだったとか。
うーん、サンドラーがバットでボコボコするのはものすごく観たかった!
ブラピとのツーショットも観たかった!ちょっと残念。

褒めてるんだか貶してるんだかわからない感想になってしまいましたが、
要するにいろんなことを語りたい、考えたいと思わせるのは、
タランティーノ作品の特徴だと思うし、私がいつも受ける感想です。
こういうのはやはり誰にも真似出来ない、この力強さには本当に圧倒されるし、
手放しで最高!とは言えないし言いたくなかったりもするのだけれど、
映画の面白さという点では、やはりこれ以上のモノはそうそうないと思います。


女優はミスを犯す
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最後にもうひとつ。Twitterでの大森望さんの発言をここに再掲。

 イングロは途中まで面白いけど、映画でナチと戦う話かと思ったら、
 フィルムを××してあんなすばらしい映画館を××する時点で台なし。
 というか映画の敵だろ! QT許せん! と思いました。


コレすっごく思った!映画愛に溢れてるとかいうことだったのに・・・と。
可燃性フィルムの話は映画をネタにした映画や小説なんかではよく登場するけれど、
その都度その怖さと、意識的に燃やすことのもったいなさを感じてしまいます。
何かどこか引っかかってスッキリしないのは、実はこの部分だったりして?


Inglourious Basterds(2009 アメリカ/ドイツ)
監督 クエンティン・タランティーノ
出演 ブラッド・ピット メラニー・ロラン クリストフ・ヴァルツ イーライ・ロス
   ミヒャエル・ファスベンダー ダイアン・クルーガー ダニエル・ブリュール
   ティル・シュヴァイガー ジャッキー・イド B・J・ノヴァック オマー・ドゥーム
   マイク・マイヤーズ ジュリー・ドレフュス ロッド・テイラー



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イースタン・プロミス [映画感想−あ]

クローネンバーグの前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』は、
これまでの彼の作風とどこか違った"まっとう"な作品で、
しかしやはりその恐怖感は、ほかにない独特のものでした。
ネチョネチョ、グニャグニャ、頭ドカーン!なのが結構好きだった私は、
その意外さに驚きつつ、でもその素晴らしい出来に心から感動。
というわけで今作もすごく楽しみでした。


クリスマス間近なロンドンのロシア人街で1人の少女が倒れ、救急搬送される。
少女は妊娠しており、運ばれた病院で出産と同時に死亡。
助産婦のアンナ(ナオミ・ワッツ)は、少女のバッグの中から一冊の日記を見つけ、
こっそりと家へ持ち帰りますが、ロシア語で書かれた日記を彼女は読むことが出来ません。
しかし中に挟まれていたカードを元に、あるロシア料理店を探し当てます。
その店でアンナは店主のセミオン(アーミン・ミューラー=スタール)と、
彼の息子キリル(ヴァンサン・カッセル)、運転手のニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)に出会います。
彼女はセミオンに事情を話すと、セミオンは日記の翻訳を買って出ますが・・・。


冷徹
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とにかく、ヴィゴ・モーテンセンの佇まいが尋常じゃない。
どうしてこんなに冗談のような迫力満点のオールバックなの?!
黒ずくめな出で立ちのまあカッコイイことといったら!
氷のように冷たい瞳はいつもの彼と変わらないようでいて、
いつも以上に刺さるように鋭い。
終始無表情、英語とロシア語をボソリボソリと話し、
全身に施されたタトゥー、ただの運転手でありながら死体処理も手際よくこなし、
キリルをなだめ、セミオンの信頼も得、アンナの心にも忍び込んでくる。
このニコライの存在自体があまりにも完成されていて、
彼の存在だけで、この作品が面白くないわけはないと確信してしまいました。
このニコライという男はいったい何を考え、どこを目指しているのか。
一見、単に非情なヤクザ者のような、マシンのような男でありながら、
実は・・・というドラマがキチンと用意されていて、どんどん引き込まれていきます。


非情
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そしてこの作品、素晴らしいのは彼だけではありません。
ロシア料理店を営むセミオンは実はロシアンマフィアのボスで、
彼と息子キリルの関係、この父子の言動の深さ、恐ろしさ、哀しさといったら!
一見穏やかで人の良さそうなセミオン。その笑顔の裏に隠されたもの、
息子に対する愛憎、手段を選ばない非情ぶり・・・などなど、
何も知らずに近づいてしまうアンナに「関わっちゃダメ!」と心の中で叫びそうになります。

そしてキリルという男。常に虚勢を張り、キレやすく、たびたび酒に溺れる。
シーンごとにあらゆる表情を見せ、彼の内面の複雑さが痛いほど伝わって来ます。
小さい子どもへ向ける優しい眼差し、ニコライを見つめる熱い眼差し、
その表情のひとつひとつの切なさといったら!
これほど瞳の奥にいろんなものを見せることができる、
ヴァンサン・カッセルに本当に驚かされました。
このキリルがすべての出来事の鍵を握っていると言ってもよく、
彼が起こしたこと、起こしていないこと、それに対するセミオンの父親としての思いが、
あらゆる不吉な影を引き寄せるのです。


悲哀
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"普通の人"であるアンナがニコライたちの世界に絡んでいくのが、
単に好奇心からといったことではなく、彼女にも悲しい過去があり、
そのことが彼女を動かしたと言ってもよく、その辺の話の運び方もうまいと思いました。
アンナの家族の微笑ましくも頼もしい普通さも、緊張感の中でどこかホッとさせます。
家族と言えばセミオンの家族のいかにも"ファミリー"な感じも凄い。
国は違ってもマフィアの一家というと、こういうゴッドファーザー的な感じになるのでしょうか。

それにしても印象的なのは、登場する殺しの道具がすべて刃物であること。
冒頭に登場するマフィアものお約束と言ってもいいような床屋のシーンから、
話題のサウナでの大格闘シーンまで、どれも刃物ばかり。
私はこの刃物というものがとにかく苦手なので、たびたび目を伏せ耳を塞いで・・・でしたが、
容赦ない残酷描写はクローネンバーグらしいと言えばらしいかも知れません。
(彼らしいと言えば、生まれたての赤ん坊のリアルさもクローネンバーグしてる!)
銃が一切登場しないのは、実際イギリスのロシアンマフィアはこうなのかどうかわかりませんが、
当然ながら銃で撃たれることや銃そのものに接することの少ない日本人の私からすると、
刃物の痛みのほうがリアルに感じられ、映画自体の持つ痛みとともに、
いつまでも胸の奥に深い傷を残すようでした。
あっけない、と言ってもいいラストも『ヒストリー〜』と同様、
冷たく突き放されるようで、これまた容赦ない幕切れ。痺れました。


Eastern Promises(2007 イギリス/カナダ/アメリカ)
監督 デヴィッド・クローネンバーグ
出演 ヴィゴ・モーテンセン ナオミ・ワッツ ヴァンサン・カッセル
   アーミン・ミューラー=スタール イエジー・スコリモフスキー シニード・キューザック



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イースタン・プロミス [DVD]

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  • メディア: DVD


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