英国王のスピーチ [映画感想−あ]
今年度アカデミー賞作品・監督・脚本そして主演男優の4冠に輝いた今作。
ようやく鑑賞。
1925年の大英帝国博覧会閉会式で、ジョージ6世(コリン・ファース)は、
父親ジョージ5世(マイケル・ガンボン)の代理として演説を行いますが、
吃音症である彼はうまくスピーチできず散々な結果に。
それから彼は何人もの専門家による治療を受けますが、なかなかうまくいきません。
数年後、ジョージの妻エリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)が、
言語療法士、ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)のオフィスを訪ね、
彼に夫の治療を依頼します。
ジョージをオフィスに通わせ、独自の療法で治療を行おうとするローグに、
ジョージは最初、反発しますが・・・。
悩める英国王
先にオスカーでの圧勝(と言っても4勝ですが)ぶりを見ていたので、
それなりに期待はしていたわけですが、ここまで"普通に佳作"だと、
なぜこれが(少なくとも『ソーシャル・ネットワーク』に)勝ったのかと、
そこにばかり思いが行ってしまい、純粋に楽しむことが出来なかったような気がします。
オスカーに於いて、実話ものであることの強みは常にあるものだし、
主演のコリン・ファース、脇に立つジェフリー・ラッシュとヘレナ・ボナム=カーターが、
それぞれ良い芝居をすることも最初からわかっているわけで、
映画のスタート時点から障害となるものはほとんど何も無いに等しい。
だからといってそのままオスカー受賞となるものなのか。
やはりその年の頂点に立つ作品であるのなら、何かそれ以上の、
プラスアルファの部分があるのかとヘンに期待してしまったわけです。
しかしこれが本当に、見事なくらい正統派の良い作品でした。
だからこそ、オスカー発表前に観ておけば良かったと、ちょっと後悔してしまったのでした。
こういうイギリス王室暴露話、しかもほんのちょっと昔の、
まだ関係者も生きている段階での製作に、イギリス王室の懐の深さや、
イギリス映画人の肝の据わり方を改めて感じてしまうわけですが、
そうなるとどうしても思い出すのは2006年の『クイーン』です。
あちらの設定はもっと最近のこと、しかもダイアナ妃の死という、
王室的に一番触れて欲しくないであろうスキャンダラスなネタを、
絶妙に絡めているあたりでとても刺激的なものになっていたし、
さらに堂々とした女王ぶりを見せるヘレン・ミレンの演技も素晴らしいものでした。
比較するのは無意味ですが、今作にあれほどの興奮は感じられませんでした。
悩める役者志望
では、どこがダメだったのかと言われたら本当にダメな所など無いに等しくて、
主要三人の演技はやはり素晴らしく、特にコリン・ファースはオスカー受賞も納得。
個人的には昨年の『シングルマン』で受賞して欲しかったとは思いましたが。
それから映像の美しさ、特にとてもわかりやすい特異な構図や色づかいは、
大きいスクリーンで観ることに十分な意味がある素晴らしいものでした。
ローグのオフィスの妙に広くがらんとした様子、ソファ、蓄音機、
ティーセットや作りかけのプラモデルが乗るテーブルの配置、
大きく開いた窓などはまるで舞台のセットのようで、
この空間を活かした構図にはどこか演劇的な美しさを感じました。
治療のあれこれは役者のトレーニングのようでもあり、
まさにそのまま舞台劇を観ているよう。
ストーリーもことさらに大袈裟にドラマチックな展開を見せたりせず、
登場する人々のほとんどが好人物に描かれているし、
王室という、私たちからしたら想像するしかない生活ぶりも丁寧に描かれていました。
公務部分などはこんな風に執り行われるのかと感心させられ、
特にジョージの父親のジョージ5世がおそらく認知症となってしまい、
王位を譲ることになった際の手続きの、形式張った様子の冷徹さ。
その一方、妻エリザベスや娘たちとの会話や暮らしぶりは、
軽口をたたいたり冗談を言い合ったりとまるで庶民と変わりません。
ジョージがローグの治療を受けるにあたり最初は頑なでなかなか受け入れようとしないのが、
徐々に心を開いていく様はベタでもありますが丁寧でキチンとドラマになっています。
妻エリザベスは王の妻という立場でありながら柔軟だし行動的で物言いもハッキリしている。
夫のために密かに医者や専門家を一人で探すというのは、
今ほど顔を知られることがない時代だったからこそ出来たことなのかも知れませんが、
まるで娘である現エリザベス女王を彷彿とさせるというか、
やはりこういうところがイギリス女性の強いところなのかなあと思わされたり。
悩める心強き妻
ローグは実は吃音治療に関しては無資格で、もういい年であるのになぜか役者を目指しており、
しかしオーストラリア人であることもあって役になかなかつけず失意の日々を送っていたりと、
かなりアヤシゲな人ではあるのですが、その胡散臭い感じをあまり前面に押し出さず、
妻や息子たちとのつつましい暮らしぶりを見せることで、最初から信頼のおける、
ジョージの良い味方になることがわかるように描かれていて、
このあたりは実在した人物であることの配慮から来るものかも知れないし、
結果、そこに若干物足りなさも感じはしましたが、
こういうところも上品で誠実な演出だなと思いました。
ほかに、どうしてもジョージの兄には見えないエドワード8世にガイ・ピアース。
調べたらやはりコリン・ファースのほうが7つも年上!
けれども世紀の大恋愛の末に王室を追われた元英国王の、どこか頼りなげで、
いかにも王位より愛を選んだ男という雰囲気をとてもよく出していました。
厳格ですが後に認知症となり国政に携われなくなる父親ジョージ5世にマイケル・ガンボン、
チャーチルというよりどう見てもティモシー・スポール(!)なティモシー・スポール、
作品中、唯一の憎まれ役と言えそうな大主教役にデレク・ジャコビなど、
イギリス映画の名優がたくさん登場して、彼らの演技もとにかく安心して楽しめました。
本当に上質な、普通に良い映画。だからこそのプラスアルファが欲しかったというのは、
贅沢な話なのかも知れません。
The King's Speech(2010 イギリス/オーストラリア)
監督 トム・フーパー
出演 コリン・ファース ジェフリー・ラッシュ ヘレナ・ボナム=カーター
ガイ・ピアース ジェニファー・イーリー マイケル・ガンボン
デレク・ジャコビ ティモシー・スポール アンソニー・アンドリュース
ようやく鑑賞。
1925年の大英帝国博覧会閉会式で、ジョージ6世(コリン・ファース)は、
父親ジョージ5世(マイケル・ガンボン)の代理として演説を行いますが、
吃音症である彼はうまくスピーチできず散々な結果に。
それから彼は何人もの専門家による治療を受けますが、なかなかうまくいきません。
数年後、ジョージの妻エリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)が、
言語療法士、ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)のオフィスを訪ね、
彼に夫の治療を依頼します。
ジョージをオフィスに通わせ、独自の療法で治療を行おうとするローグに、
ジョージは最初、反発しますが・・・。
悩める英国王
先にオスカーでの圧勝(と言っても4勝ですが)ぶりを見ていたので、
それなりに期待はしていたわけですが、ここまで"普通に佳作"だと、
なぜこれが(少なくとも『ソーシャル・ネットワーク』に)勝ったのかと、
そこにばかり思いが行ってしまい、純粋に楽しむことが出来なかったような気がします。
オスカーに於いて、実話ものであることの強みは常にあるものだし、
主演のコリン・ファース、脇に立つジェフリー・ラッシュとヘレナ・ボナム=カーターが、
それぞれ良い芝居をすることも最初からわかっているわけで、
映画のスタート時点から障害となるものはほとんど何も無いに等しい。
だからといってそのままオスカー受賞となるものなのか。
やはりその年の頂点に立つ作品であるのなら、何かそれ以上の、
プラスアルファの部分があるのかとヘンに期待してしまったわけです。
しかしこれが本当に、見事なくらい正統派の良い作品でした。
だからこそ、オスカー発表前に観ておけば良かったと、ちょっと後悔してしまったのでした。
こういうイギリス王室暴露話、しかもほんのちょっと昔の、
まだ関係者も生きている段階での製作に、イギリス王室の懐の深さや、
イギリス映画人の肝の据わり方を改めて感じてしまうわけですが、
そうなるとどうしても思い出すのは2006年の『クイーン』です。
あちらの設定はもっと最近のこと、しかもダイアナ妃の死という、
王室的に一番触れて欲しくないであろうスキャンダラスなネタを、
絶妙に絡めているあたりでとても刺激的なものになっていたし、
さらに堂々とした女王ぶりを見せるヘレン・ミレンの演技も素晴らしいものでした。
比較するのは無意味ですが、今作にあれほどの興奮は感じられませんでした。
悩める役者志望
では、どこがダメだったのかと言われたら本当にダメな所など無いに等しくて、
主要三人の演技はやはり素晴らしく、特にコリン・ファースはオスカー受賞も納得。
個人的には昨年の『シングルマン』で受賞して欲しかったとは思いましたが。
それから映像の美しさ、特にとてもわかりやすい特異な構図や色づかいは、
大きいスクリーンで観ることに十分な意味がある素晴らしいものでした。
ローグのオフィスの妙に広くがらんとした様子、ソファ、蓄音機、
ティーセットや作りかけのプラモデルが乗るテーブルの配置、
大きく開いた窓などはまるで舞台のセットのようで、
この空間を活かした構図にはどこか演劇的な美しさを感じました。
治療のあれこれは役者のトレーニングのようでもあり、
まさにそのまま舞台劇を観ているよう。
ストーリーもことさらに大袈裟にドラマチックな展開を見せたりせず、
登場する人々のほとんどが好人物に描かれているし、
王室という、私たちからしたら想像するしかない生活ぶりも丁寧に描かれていました。
公務部分などはこんな風に執り行われるのかと感心させられ、
特にジョージの父親のジョージ5世がおそらく認知症となってしまい、
王位を譲ることになった際の手続きの、形式張った様子の冷徹さ。
その一方、妻エリザベスや娘たちとの会話や暮らしぶりは、
軽口をたたいたり冗談を言い合ったりとまるで庶民と変わりません。
ジョージがローグの治療を受けるにあたり最初は頑なでなかなか受け入れようとしないのが、
徐々に心を開いていく様はベタでもありますが丁寧でキチンとドラマになっています。
妻エリザベスは王の妻という立場でありながら柔軟だし行動的で物言いもハッキリしている。
夫のために密かに医者や専門家を一人で探すというのは、
今ほど顔を知られることがない時代だったからこそ出来たことなのかも知れませんが、
まるで娘である現エリザベス女王を彷彿とさせるというか、
やはりこういうところがイギリス女性の強いところなのかなあと思わされたり。
悩める心強き妻
ローグは実は吃音治療に関しては無資格で、もういい年であるのになぜか役者を目指しており、
しかしオーストラリア人であることもあって役になかなかつけず失意の日々を送っていたりと、
かなりアヤシゲな人ではあるのですが、その胡散臭い感じをあまり前面に押し出さず、
妻や息子たちとのつつましい暮らしぶりを見せることで、最初から信頼のおける、
ジョージの良い味方になることがわかるように描かれていて、
このあたりは実在した人物であることの配慮から来るものかも知れないし、
結果、そこに若干物足りなさも感じはしましたが、
こういうところも上品で誠実な演出だなと思いました。
ほかに、どうしてもジョージの兄には見えないエドワード8世にガイ・ピアース。
調べたらやはりコリン・ファースのほうが7つも年上!
けれども世紀の大恋愛の末に王室を追われた元英国王の、どこか頼りなげで、
いかにも王位より愛を選んだ男という雰囲気をとてもよく出していました。
厳格ですが後に認知症となり国政に携われなくなる父親ジョージ5世にマイケル・ガンボン、
チャーチルというよりどう見てもティモシー・スポール(!)なティモシー・スポール、
作品中、唯一の憎まれ役と言えそうな大主教役にデレク・ジャコビなど、
イギリス映画の名優がたくさん登場して、彼らの演技もとにかく安心して楽しめました。
本当に上質な、普通に良い映画。だからこそのプラスアルファが欲しかったというのは、
贅沢な話なのかも知れません。
The King's Speech(2010 イギリス/オーストラリア)
監督 トム・フーパー
出演 コリン・ファース ジェフリー・ラッシュ ヘレナ・ボナム=カーター
ガイ・ピアース ジェニファー・イーリー マイケル・ガンボン
デレク・ジャコビ ティモシー・スポール アンソニー・アンドリュース
英国王のスピーチ コレクターズ・エディション [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
- メディア: Blu-ray
英国王のスピーチ コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]
- 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
- メディア: DVD
>そのまま舞台劇を観ているよう
確かにこれは感じました。むしろ舞台劇の方が合ってるかもしれませんね。
by chokusin (2011-04-08 21:49)
chokusinさん、こんにちは。
ローグが役者志望ということで意識的にローグのオフィスをああいう風に見せてるのかな?と思ってしまいました。舞台化しても面白いかも知れませんね。
by dorothy (2011-04-09 04:23)
これは観る予定です♪
by ぷーちゃん (2011-04-14 21:36)
ぷーちゃんさん、こんにちは。
感想楽しみにしてます!
by dorothy (2011-04-16 03:53)