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Dr.パルナサスの鏡 [映画感想−た]

これまで製作中に何度もトラブルに巻き込まれ、そのたびに、
それらをバネにするかのような傑作を作り続けてきたテリー・ギリアム。
今作では重要な出演者であるヒース・レジャーの死という、
あまりにも大きな痛手を負いましたが、
3人の代役という荒技とも言える方法でこの不幸を乗り越え、見事に完成させました。
さて、その出来栄えは・・・?


2007年のロンドン。パルナサス博士(クリストファー・プラマー)は、
娘のヴァレンティナ(リリー・コール)、座員のアントン(アンドリュー・ガーフィールド)、
パーシー(ヴァーン・トロイヤー)と共に移動式の見世物小屋を引き、
不思議な鏡を使った"イマジナリウム"という出し物を行っていました。
パルナサス博士はその昔、悪魔のMr.ニック(トム・ウェイツ)との取引により、
永遠の命を手にしていましたが、ある理由により不死からの解放を求め、
再びMr.ニックと取引をし、その代償として、ヴァレンティナが16歳になったら、
彼女をMr.ニックに引き渡す約束をしていました。
その約束の誕生日を間近に控え博士は一人苦悩します。
そうとは知らないヴァレンティナはある日、
橋の下に吊るされていたトニー(ヒース・レジャー)という男を助けます。
一座に仲間入りしたトニーは持ち前の商才を発揮し見世物を繁盛させ、
貧しかった一座を助けますが・・・。


パルナサス博士
theimaginariumofdoctorparnassus_1.jpg


撮影途中でヒース・レジャーを亡くし、一時は製作中止も考えたということですが、
よくここまで作り上げたなと感心しました。感心なんて失礼な物言いですが。
でも見終わってみると、やはりどこか何か混乱するものを多少感じてしまいました。
どこまで最初から考えられていたのか、ヒース不在から捻りだしたのはどのあたりなのかなど、
変な気の回し方をついしてしまったり。

ヒースの"代役"を務めることになったのは、
テリー・ギリアムの盟友ジョニー・デップ、トニー役の候補だったというジュード・ロウ、
そしてヒースと親交のあったコリン・ファレルの3人。
鏡の向こうのファンタジー世界では姿が変わる、というアイデアにより、
3度登場するトニーの鏡の中でのシーンを3人が演じ分けるという大技に出たわけです。
でもこれ、ハッキリ言って別に3人じゃなくても良かった気がします。
撮影スケジュール的なものでもあったのか、
あるいは1人に絞れなかったのかなあなんてことも考えてしまいました。
鏡の中で人相が変わるなら、ほかの人が入っても変わって欲しかったし。
トニーと一緒に中に入ったお金持ちのご婦人が、
中の鏡に映った姿でしか変わってないのとか矛盾してるなあなんて気になってしまいました。


ヴァレンティナ
theimaginariumofdoctorparnassus_2.jpg


でもまあそんな細かいことは実際には本当にどうでもよいことで、
不思議なイマジネーションに溢れた映像はとにかく魅力的で、
昔のギリアム作品を彷彿とさせる濃密ファンタジーワールドには興奮しぱなしでした。
単に幻想的で美しい映像というのではなく、表現としては結構ベタだし悪意も満ちていて、
ギリアムお得意と言える巨大なアタマとか気球なんかも登場するし、
なんだかファンサービスしすぎじゃない?と思えるほどの充実ぶり。
ただ、お馴染みな世界とは言っても当然ながら発達したCG技術により、
『バロン』のような思いっきりな合成映像と違って妙にクリアで、
キレイ過ぎて他人行儀な感じも若干してしまいましたが。

ストーリーに関しては「ええっとそれってどういうこと?」と、
途中何度か混乱しそうになりましたが、これは私のアタマの固さというか、
おそらく集中力の無さだと思います。
というのも、つい「あージョニデに変わった〜」なんてことを考えてしまって、
その瞬間、気持ちが違うところに行ってしまっているのです。
きっと何ヶ所かで肝心な何かを見落としてしまっていると思います。
さらに映像の凄さに「ああ楽しいなあ」と浸ってしまって、ボーッとしちゃったりとか。

でもそんな自分に反省しつつも改めていろいろ考えると、全体にものすごく漠然とですが、
何か突き抜けてない、語りきってないような感じを受けました。
これまでのギリアム作品の、多少の矛盾などもゴリゴリと押し切るようなパワーが、
今回はあまり感じられず、結果的にうまい具合に流されていったような、
妙にあっさりと終わってしまったような印象を受けました。
これももしかしてヒースを失ったことが原因なのかなとも思いますが、
ストーリー自体の変更点がそれほどあったとは思えないし、意識的にか無意識にか、
ヒースに対する遠慮のようなものでもあったのかも知れないなと想像してみたりしました。
もちろん、監督の原点回帰だとか『バロン』風だとか言っても"新作"なのだし、
監督自身の変化ということも十分考えられるのですが。


トニーとパーシー
theimaginariumofdoctorparnassus_3.jpg


ヒースのことばかりどうしてもクローズアップされていたので、
観るまではてっきり彼が主役だと思っていたら、タイトル通り主役はパルナサス博士なのですよね。
それと悪魔役のトム・ウェイツ。彼のとぼけた悪魔ぶりは本当に最高で、
この2人の駆け引き、まさに浮世離れしていて見応えがありました。
そして驚きは、パーシー役のミニ・ミーことヴァーン・トロイヤー!
ここまで重要な役というのは初めてなんじゃないでしょうか。
「別の小人を探せばいい」というセリフ、そのまんま「ほかにはいないよ!」と返したい!
そしてなんといっても魅力的だったのは、ヴァレンティナ役のリリー・コール。
美人というのとはちょっと違う独特な顔立ちと、モデルならではのスタイルの良さは、
ものすごく神秘的かつ異次元的な存在で、この不思議な映像世界に見事に溶け込んでいました。

ヒース・レジャーに関しては、これが遺作かという思いで観てしまうと、
どうしても特別な見方をしてしまいそうなのですが、普通に好演だったという印象。
でも、だからこそ改めて彼にものすごくいろんな可能性を感じてしまい、
もっともっといろんな彼の芝居が観たかったなあという、残念な気持ちでいっぱいになります。
けれども、おそらく誰よりもヒース・レジャー本人が残念というか、無念だったはず。
この作品ですべてを演じ、完成させたかっただろうなと思います。
その、叶わなかった完成版を観ることが出来ないことが悲しい。
このような別の形で完成させることも大事だったと思うけれど、
完成させて欲しくなかったような気もする、なんとも複雑な気持ちでいます。
もちろんそう考えられるのは、これが出来上がって観ることが出来たからなのですが。
なんだろう、マイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』に対する思いにも通じるものがある気がしました。


The Imaginarium of Doctor Parnassus(2009 イギリス/カナダ)
監督 テリー・ギリアム
出演 クリストファー・プラマー ヒース・レジャー リリー・コール トム・ウェイツ
   ヴァーン・トロイヤー アンドリュー・ガーフィールド ジョニー・デップ
   ジュード・ロウ コリン・ファレル ピーター・ストーメア



Dr.パルナサスの鏡 プレミアム・エディション [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
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コメント 2

ジジョ

こんにちは☆
>濃密ファンタジーワールド
鼻血がでそうでしたね〜♪大好きです^^

>完成させて欲しくなかったような気もする
わかります〜。
複雑な気分はありますね、、
by ジジョ (2010-02-13 05:16) 

dorothy

ジジョさん、こんにちは。
あの鏡の中、一回入ってみたい!けど、
自分の欲望が具体的に見せられるのはちょっと怖いかも・・・です。
by dorothy (2010-02-14 02:13) 

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