戦場でワルツを [映画感想−さ]
ゴールデングローブ賞外国語映画賞、全米映画批評家協会賞最優秀作品賞など多数受賞、
アカデミー賞では外国語映画賞にノミネートされ本命視されていましたが、
ご承知の通り『おくりびと』が受賞、その主演の本木雅弘が、
「今でも本命はこれだと思っている」と発言したことで話題?の今作。
そんな宣伝文句もどこかに吹き飛んでしまいそうな、素晴らしい作品でした。
2006年、映画監督のアリは旧友のボアズと再会、
彼が悪夢に悩まされている話を聞き、
それが共に体験した24年前のレバノン内戦から来る後遺症であり、
しかしアリ自身はその記憶をまったく失っていることに気付きます。
憶えているのはあるひとつのぼんやりとした情景だけ。
そのことを頼りに、アリはほかの仲間たちを訪ね、
失ってしまった記憶を取り戻そうと試みます。
夢なのか現実なのか
1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻というあまりにも遠く、
そのことについての知識はほとんどない自分にとって、
この作品の背景はかなりハードルが高く、観ている間も混乱することがしばしば。
しかし、残酷な戦闘シーンもアニメーションで描くことによって、
いい意味でのフィルターがかけられ、幻想的なシーンは美しく魅力的でもあり、
スクリーンから一瞬たりとも目を離せない状況を作り上げていました。
リチャード・リンクレイターが『ウェイキングライフ』や『スキャナー・ダークリー』で行った、
実写をキャプチャーしてアニメ化した映像に一見似ているのですが、
今作は実はまったく製法が異なり、実写したものをビデオ編集し、
そこから絵コンテに起こしてイラストを描き、一からアニメーションを作ったのだそうです。
どうしてそんな手間をかけたのか、監督曰く、
スクリーン上で暗い戦争の過去をただ語るだけの作品にはしたくなくて、
主人公が辿る「記憶の旅」を美しい映像で描きたかったのだそうです。
旧友の語る真実
戦争の記憶を失っているアリにとって、すべては夢の中の出来事のようにも思え、
また戦友たちの語る思い出は、聞かされる側としては当然想像するしかなく、
それはいずれにしてもクリアな映像なんかではありえない。
いわゆる一般的なアニメーション作品や、昨今のCG映像などとは異なり、
映像はどこかギクシャクしていて、でもそれが夢か現実かわからない不思議な印象を与え、
主人公アリが置かれた心情をよく表していると思いました。
実写でないことが残酷な戦争の場景を美化したり誤魔化したりしている、と言えなくもないですが、
人の目では見ることができないアングルから見せることが出来たり、
見せたいものがかえってクリアになっていて、作者からすればこの方法は、
伝えたいことをはっきり伝えることに成功していると思いました。
彼らが向かう先は
あまりにも平和な日本からは遠い場所の、
そしてすでに昔の出来事になってしまったこの戦争に対して、どう接したらいいのか。
アリたちはいずれも当時まだ十代で、何もわからないまま戦地へ向かった。
恐怖のあまり銃を乱射する、何も起こらない戦車での移動は彼らにピクニック気分を与え、
しかし次の瞬間、どこからか飛んできた銃弾で隣にいた仲間があっさりと死ぬ。
その場にいた彼らの混乱は、もしかしたら何も知らない私と同様な部分もあるかも知れない、
少しだけそんな気持ちにもなりました。
けれど本当のことは、当然それを体験した者にしかわからない。
そして、すべてが夢のようだと、いやこれは夢であって欲しいとすら思う展開の中、
最後に、私たちはどうしようもない現実を見せつけられます。
ものすごく不意を突かれた私は、ものすごく唐突に自分の目から涙が流れるのに気が付き、
そして何も知らず平和に生きている自分は、いったいここで何を見ているのだろうと、
確かに映画館の椅子に座っているのだけれど、
劇中にたびたび登場した、真っ暗な海に放り出されたような気分を味わいました。
タイトルにもなったショパンのワルツ、それ以上に印象的だったバッハのコンチェルト、
かと思うと唐突に響き渡るジョン・ライドン。
この戦争が、決して遠い過去の出来事ではないと思わされる瞬間でした。
こういうことがほんの20数年前にあったのだという事実を、
こうやって知ることは大事なことで、知ることが出来て本当に良かったと思う。
一人でも多くの人に観てもらい、何かを感じ取って欲しいです。
Vals Im Bashir / Waltz with Bashir(2008 イスラエル/ドイツ/フランス/アメリカ)
監督 アリ・フォルマン
出演 ロン・ベンイシャイ ロニー・ダヤグ アリ・フォルマン ドロル・ハラジ
イェヘズケル・ラザロフ ミキ・レオン オリ・シヴァン ザハヴァ・ソロモン
アカデミー賞では外国語映画賞にノミネートされ本命視されていましたが、
ご承知の通り『おくりびと』が受賞、その主演の本木雅弘が、
「今でも本命はこれだと思っている」と発言したことで話題?の今作。
そんな宣伝文句もどこかに吹き飛んでしまいそうな、素晴らしい作品でした。
2006年、映画監督のアリは旧友のボアズと再会、
彼が悪夢に悩まされている話を聞き、
それが共に体験した24年前のレバノン内戦から来る後遺症であり、
しかしアリ自身はその記憶をまったく失っていることに気付きます。
憶えているのはあるひとつのぼんやりとした情景だけ。
そのことを頼りに、アリはほかの仲間たちを訪ね、
失ってしまった記憶を取り戻そうと試みます。
夢なのか現実なのか
1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻というあまりにも遠く、
そのことについての知識はほとんどない自分にとって、
この作品の背景はかなりハードルが高く、観ている間も混乱することがしばしば。
しかし、残酷な戦闘シーンもアニメーションで描くことによって、
いい意味でのフィルターがかけられ、幻想的なシーンは美しく魅力的でもあり、
スクリーンから一瞬たりとも目を離せない状況を作り上げていました。
リチャード・リンクレイターが『ウェイキングライフ』や『スキャナー・ダークリー』で行った、
実写をキャプチャーしてアニメ化した映像に一見似ているのですが、
今作は実はまったく製法が異なり、実写したものをビデオ編集し、
そこから絵コンテに起こしてイラストを描き、一からアニメーションを作ったのだそうです。
どうしてそんな手間をかけたのか、監督曰く、
スクリーン上で暗い戦争の過去をただ語るだけの作品にはしたくなくて、
主人公が辿る「記憶の旅」を美しい映像で描きたかったのだそうです。
旧友の語る真実
戦争の記憶を失っているアリにとって、すべては夢の中の出来事のようにも思え、
また戦友たちの語る思い出は、聞かされる側としては当然想像するしかなく、
それはいずれにしてもクリアな映像なんかではありえない。
いわゆる一般的なアニメーション作品や、昨今のCG映像などとは異なり、
映像はどこかギクシャクしていて、でもそれが夢か現実かわからない不思議な印象を与え、
主人公アリが置かれた心情をよく表していると思いました。
実写でないことが残酷な戦争の場景を美化したり誤魔化したりしている、と言えなくもないですが、
人の目では見ることができないアングルから見せることが出来たり、
見せたいものがかえってクリアになっていて、作者からすればこの方法は、
伝えたいことをはっきり伝えることに成功していると思いました。
彼らが向かう先は
あまりにも平和な日本からは遠い場所の、
そしてすでに昔の出来事になってしまったこの戦争に対して、どう接したらいいのか。
アリたちはいずれも当時まだ十代で、何もわからないまま戦地へ向かった。
恐怖のあまり銃を乱射する、何も起こらない戦車での移動は彼らにピクニック気分を与え、
しかし次の瞬間、どこからか飛んできた銃弾で隣にいた仲間があっさりと死ぬ。
その場にいた彼らの混乱は、もしかしたら何も知らない私と同様な部分もあるかも知れない、
少しだけそんな気持ちにもなりました。
けれど本当のことは、当然それを体験した者にしかわからない。
そして、すべてが夢のようだと、いやこれは夢であって欲しいとすら思う展開の中、
最後に、私たちはどうしようもない現実を見せつけられます。
ものすごく不意を突かれた私は、ものすごく唐突に自分の目から涙が流れるのに気が付き、
そして何も知らず平和に生きている自分は、いったいここで何を見ているのだろうと、
確かに映画館の椅子に座っているのだけれど、
劇中にたびたび登場した、真っ暗な海に放り出されたような気分を味わいました。
タイトルにもなったショパンのワルツ、それ以上に印象的だったバッハのコンチェルト、
かと思うと唐突に響き渡るジョン・ライドン。
この戦争が、決して遠い過去の出来事ではないと思わされる瞬間でした。
こういうことがほんの20数年前にあったのだという事実を、
こうやって知ることは大事なことで、知ることが出来て本当に良かったと思う。
一人でも多くの人に観てもらい、何かを感じ取って欲しいです。
Vals Im Bashir / Waltz with Bashir(2008 イスラエル/ドイツ/フランス/アメリカ)
監督 アリ・フォルマン
出演 ロン・ベンイシャイ ロニー・ダヤグ アリ・フォルマン ドロル・ハラジ
イェヘズケル・ラザロフ ミキ・レオン オリ・シヴァン ザハヴァ・ソロモン
この映画、とっても評判良いみたいですね。
dorothyさんのコメントも絶賛だし、
DVDの発売を楽しみに待ちます。♪
by ぷーちゃん (2009-12-16 16:40)
ぷーちゃんさん、こんにちは。
ぜひDVD化したら観てください。
by dorothy (2009-12-18 01:46)