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アイム・ノット・ゼア [映画感想−あ]

ボブ・ディランを6人の俳優が演じる、とは?
時代時代で違う役者に演じさせることで、
ディランの音楽の変遷を描くのかと思ったら、まるで違っていました。
予めお断りしておくと、私はボブ・ディランはほとんど知りません。
昔好きだったミュージシャンのアイドルがディランで、
それで興味を持って聴いてみたことはありますが、
曲が自分の好みではなかったし、深く聴き込むまでには至りませんでした。
そんな私にはおそらくハードルの高い作品だろうなと思いましたが、
・・・確かに一筋縄ではいかない作品でした。

主人公を複数の役者が演じると聞いて思い出したのは『おわらない物語 アビバの場合』
監督もトッド・ソロンズだし・・・じゃなくてヘインズ!トッド違いでした。
かなーり違いますね。自分のいい加減さにアキレてしまいます。
でもトッド・ヘインズと聞いて改めて驚く。グラムの次はフォークの神様?
(その間に『エデンより彼方に』がありますが・・・それにしても不思議な映画ばかり作る人です)
『アビバ〜』で主人公を複数が演じた意図は、たとえ見かけが変わっても、
アビバという本質は変わらないといった意味があったと記憶しています。
では今作でディランを複数で演じさせた意図は何でしょう?


ジュード(ケイト・ブランシェット)
imnotthere_1.jpg


ストーリーを紹介するのはかなり困難だしあまり意味もないと思います。
実は6人の登場人物はそれぞれ名前も違い、誰一人ディランだとは名乗っておらず、
見た目も積極的に似せているわけじゃありません。
年齢、性別、人種に時代もバラバラで、それぞれの物語は複雑に交錯するし、
ディランに詳しい人でも、かなり混乱するんじゃないかなと思います。
6人の中で実際にディランらしいミュージシャンなのは、
クリスチャン・ベール演じるジャックとケイト・ブランシェットのジュード。
ほかはディランの曲や実際のエピソードなどを絡めながらも、
実はディランというよりディラン自身のヒーローだったりして、
一段と空想上の人物になっています。
マーカス・カール・フランクリン演じる黒人の少年ウディは、
ディランが敬愛するフォークシンガー、ウディ・ガスリーを名乗っています。
ベン・ウィショー演じるアーサーは詩人のアルチュール・ランボー。
リチャード・ギア演じるビリーはビリー・ザ・キッドという具合。
またもう1人、ヒース・レジャー演じるロビーは、
ディランの家族を登場させ、唯一彼のプライベートな部分を描いているのですが、
このロビーの職業は俳優というのもちょっと捻った設定です。


ジャック(クリスチャン・ベール)
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その他の登場人物で、私が乏しい知識の中でわかったのは、
アレン・ギンズバーグ、ノーマン・メイラー、
ブライアン・ジョーンズそしてビートルズ!といった人たちと、
ミシェル・ウィリアムズが演じてるのはイーディだなあとか、
ロビーとシャルロット・ゲンズブール演じるクレアが腕を組んで歩くシーンは、
ディランの有名なアルバムジャケットだ!とか・・・その程度です。
あとはもう何が何やらという感じだし、時間や場所は行ったり来たりするし、
でも、不思議に置いて行かれる感じはなく、
何か浮遊感のようなものを感じさせ、心地よくすらありました。
でも、ブルース・グリーンウッドが演じたBBCのキャスターとのエピソードなんて、
かなり念入りに描かれていましたが、実際こんなことがあったのでしょうか?
こんなあたりがわかっていると面白いだろうなあと、そんなところは残念。

出演者はいずれも素晴らしい演技を見せてくれます。
一番印象深いのはやはりケイト・ブランシェットでしょう。
本当にこの人に演じられないものはないのかも知れない。
鼻につくギリギリの上手さというか、素直に認めるしかないなりきりぶりです。
演奏シーンが意外にキマっていたのがクリスチャン・ベール。
この人も何をやらせても上手いんだなと思いました。
サウスポーでギターかき鳴らしてたマーカス少年も上手かった。
彼は実際に歌ってるようだし、大人びた物言いとかすごく良かったです。
ヒース・レジャーとシャルロット・ゲンズブールのパートは、
唯一のラブストーリーでもあり、その分感情移入しやすくもありました。
なんとなくヒース・レジャーのプライベートライフに重なってる気もしたし、
シャルロット・ゲンズブールは、やはりただならない存在感です。


ロビー(ヒース・レジャー)とクレア(シャルロット・ゲンズブール)
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こんな作品を作らせる、ボブ・ディランの偉大さを改めて思い知らされた気がします。
そして、ボブ・ディランという人が時代によってその音楽性や印象の変わっていった人であり、
トッド・ヘインズにはそれらを余すところ無くすべて描きたいという意図があったんだと思いますが、
とにかくディランという人を愛し、理解し、研究し尽くしていないと、
ここまで想像力を広げることは困難なのではないかと思います。
もちろん、これはトッド・ヘインズの才能あってのこと。
こんな素晴らしいものを見せられると、自分がボブ・ディランを知らないことが残念でならない。
自分が知っているアーティストだったらどれだけこれを楽しめたことだろうと思うと、
ただただ悔しいです。
寡作な監督ですが、トッド・ヘインズにはまた驚かされたい。
次は何を見せてくれるか、楽しみです。


I'm Not There.(2007 アメリカ)
監督 トッド・ヘインズ
出演 ケイト・ブランシェット ベン・ウィショー クリスチャン・ベール リチャード・ギア
   マーカス・カール・フランクリン ヒース・レジャー クリス・クリストファーソン
   ジュリアン・ムーア シャルロット・ゲンズブール ブルース・グリーンウッド
   ミシェル・ウィリアムズ デヴィッド・クロス



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