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ペルセポリス [映画感想−は]

フランス在住のイラン人漫画家マルジャン・サトラピの、
自伝的グラフィック・ノベルをサトラピ自ら映画化。
イランのこと、イラン人のこと、どれぐらい知ってますか?


マルジャンはイランに住むブルース・リーが大好きな元気いっぱいの少女。
1978年、彼女が9歳の時に革命によりイスラム政権が誕生。
それと共に生活は一変、ベール着用を義務づけられ、自由はどんどん奪われていきます。
やがてイラクとの戦争も始まりますが、それでもマルジャンはロックを愛し、
相変わらずの反骨精神で教師らから目を付けられ、心配した両親は彼女をウィーンへ留学させます。
13歳のマルジャンを迎えるヨーロッパは果たして彼女を幸福にするのでしょうか。


シャーを倒せ!
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観るまでは革命や戦争、厳しい戒律に縛られた生活などが主に描かれるのかと思ってましたが、
もちろん、そういった描写もたくさん登場しますが、
基本的には主人公マルジャンという1人の少女が恋をしたり、
笑ったり悩んだり傷ついたりしながらの成長物語で、
当たり前のことなんですが、それは私たち日本人や西欧の人々とほとんど変わりありません。
ただもちろんなんでもおおっぴらにできるわけじゃなく、
外では常にベールを被り、その被り方も細かく注意されるし、お化粧もオシャレな服もダメ。
そんな状況の中で明るくたくましく生きている人々の様子は実に興味深いです。

マルジャンの少女時代は元気ハツラツで微笑ましく、
また一方で善悪の判断のつかないままの子どもらしい残酷さを見せたりもして、
それを家族が深い愛情で包み、正しい方向へ導いていきます。
中でもマルジャンが大人になってからも何かと彼女の力になるおばあちゃんが魅力的。
彼女が常にマルジャンに言い続ける「公明正大に生きなさい」という言葉は、
簡単なようで、でもマルジャンだけでなく誰にとってもなかなか容易なことではなく、
胸に響く言葉として残りました。
一緒にマルジャンと映画館でゴジラを観てくれるこのおばあちゃん、ホントステキです。
ジャスミンのエピソードは実際にスクリーンを通して匂ってきそうな美しさ。
昔の人って、こういうちょっとした工夫をしていたなと、
自分のおばあちゃんのことを思い出したりしました。


Punk is not ... DED !?
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そんな生活から一転、マルジャンはウィーンへと旅立ちます。
そこは自由の国で、物に溢れ、趣味も恋愛もまったく縛られることはありません。
でも、彼女は自分がフランス人だと偽ってみたり、
失恋でボロボロになったりと、ここでもまた行き詰まってしまいます。
自由の国であるはずなのに、行き場のない現実。
悩みのない友人たち、どうしようもない恋人たち、
平和である中での悩みというのも実はやっかいなもの。
このあたりは結構理解出来る部分ではあるんですが、
元々このマルジャンという人は相当気が強く、
なんと言ってもパンクの精神!を持った人なので、すぐにいろんな人と衝突するし、
終いには大家さんとケンカしてホームレスになりかかったり。
もうちょっと肩の力を抜いてもいいんじゃないかなあと思いますが、
これはイランで生まれ育ったうんぬんは関係なく、
彼女の持って生まれた性格で、しょうがないことでしょう。

その後イランに戻った彼女は、周囲の好奇の目にさらされたり、
戦争は終わっても相変わらず変わらない戒律まみれの状況に嫌気が差し、
一時ウツ状態に陥りますが、なんとか復活。
(サバイバーの『Eye of the Tiger』が彼女を救う!)
元気を取り戻した彼女はまたいろんなところにつっかかっていきます。
彼女は自分の本能で「なぜ?」と思うことを素直にぶつけていく。
なぜ女だからアレもダメ、コレもダメと言われなきゃいけないの?と。
この作品で彼女はイランという国の在り方にいろいろと疑問を呈しますが、
それは何か政治的イデオロギーみたいなものでこの国をなんとかしようということじゃなく、
生まれ持った反骨精神と本能的なものに突き動かされて行動し、
そして笑い飛ばしている感じで、これは観ていて心地よいものでした。


西欧の自由もまた彼女を悩ませる
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幼い頃からフランス語を学び、ウィーンへあっさりと留学するぐらいなので、
マルジャンの家庭はかなり裕福だったんじゃないかと思われ、
一般的なイラン人の暮らしぶりとはかなり違うんじゃないかなという違和感は感じました。
また何と言っても全編フランス語なのもちょっと違和感。
ウィーンに行ってからたまにドイツ語が挟まったりはしますが、
イランでもウィーンでもみんなフランス語なのはちょっと混乱します。
まあフランス映画なんでそれは当然なことでしょうけど。
声優は成長したマルジャンがキアラ・マストロヤンニ、
その母親役を実際に母親であるカトリーヌ・ドヌーヴが演じ、
おばあちゃんをこれまたフランスの名女優ダニエル・ダリューがあてています。
IMDbを見たら英語版はおばあちゃんがジーナ・ローランズ、
父親はショーン・ペン、アヌーシュおじさんがなんとイギー・ポップという、
これまたえらく興味深いキャスティング。これも観て(聴いて)みたいかも。

最後にアニメーションについて。
冒頭や途中に出てくる現在の部分のみカラーで、基本はすべてモノクロ。
単純で省略されたような絵はマンガ的ですが、
これが切り絵のような美しさを見せたり、結構ダイナミックなカットもあったり、
ひらひらと舞う雪や蝶や花びらなどは夢のよう。
ノイズのない白、深みのある黒、柔らかいグレー、
さすがフランスのアニメだなあと思わせる洗練された映像でした。
あまりにも知らなすぎる国であるイランのこと、ほんの少しわかった気がしました。


Persepolis(2007 フランス)
監督 ヴァンサン・パロノー マルジャン・サトラピ
声の出演 キアラ・マストロヤンニ カトリーヌ・ドヌーブ ダニエル・ダリュー サイモン・アブカリアン



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  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • メディア: DVD


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