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ダウト ~あるカトリック学校で~ [映画感想−た]

今年のアカデミー賞で主演・助演賞候補を4人も出した今作。
それも納得のすさまじい演技合戦でした。


1964年、ニューヨーク。ブロンクスにあるカトリック学校で、
唯一の黒人男子生徒ドナルド(ジョセフ・フォスター二世)が、
授業中、フリン神父(フィリップ・シーモア・ホフマン)に呼び出されます。
戻って来たドナルドの様子に不審なものを感じた、
新人教師のシスター・ジェイムズ(エイミー・アダムス)は、
校長のシスター・アロイシス(メリル・ストリープ)にそのことを告げます。
厳格で常に規律を重んじるシスター・アロイシスは、
フリン神父とドナルドの間に不適切な関係があるのではと疑いを持ち、
神父を問い詰めますが・・・。


2人は疑いを持つ
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元々は舞台劇で、それも納得の登場人物たちのセリフの応酬は、
思わず見とれ、聞き惚れてしまいそうでした。
シスター・アロイシスはフリン神父をとことん追求するため、
その結果、ただひたすら口論となるのですが、
その凄まじさは一瞬たりともこちらの姿勢を崩すことを許さないほどで、
それぞれ自分の主張をし、あるいは沈黙し、
密室で起こった”らしき"事柄について言い争います。
2人の間に挟まれたシスター・ジェイムズもまた、
自分が目にしたことと彼らが語ることに疑いを持ち、
どちらを信じるべきなのかと2人の間を揺れ動き、
また元々の素直な性質から、自分の考えもハッキリとぶつけます。
最初に3人が話し合いを持つ校長室でのやりとりは、
そのセリフの1つ1つ、動きの1つ1つからとにかく目が離せません。
シスター・アロイシスが神父に話を切り出すまでの、
誰がどこに座るとか紅茶の砂糖がどうとか、
ボールペンの登場の仕方など細々したことを見せて、
目配せや言いよどみを経て、ついに核心に触れるまでの3人それぞれの様子が、
あきれるほど無駄が無く、ただただ上手いとしか言えません。
こんなすごい演技合戦は、久しく観てなかった気がします。


疑いは真実なのか
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観ているこちら側も誰が真実を言い誰がウソをついているのか、
観ている間、常に気持ちが揺らぎます。
シスター・アロイシスの頑なさにはまったくあきれてしまうほどですが、
老いたシスターたちへの接し方などを見ると、
単純に彼女が今作における悪役だとは思えません。
シスター・ジェイムズの純真さは揺るぎないようで、
けれどもシスター・アロイシスを恐れ、また尊敬するあまり、
次第に生徒への接し方が変わって来たり、
この問題を早く終わらせようと目をつぶることを選びそうになる弱さを持っています。
そしてフリン神父はいつまでも真実を語らず、シスター・アロイシスを"不寛容"と責める。
でもそれは正しい言い分なのか。彼が”寛容”だという証拠も提示されるわけではありません。
そこに来て、第4の登場人物であるドナルドの母親が登場します。
彼女の口から出てくる言葉はおそらく一番真実に近く、衝撃的です。
それを聞いて、また観ているこちら側は混乱させられます。
結局何があったのか。そしてシスター・ジェイムズのように、
それならそれでいいんじゃないか、と思ってしまいそうになります。

その”何があったか"を解き明かすことは実はまったく重要なことではなく、
彼らが持たずにいられない互いへの疑いの気持ち、相手の言動に揺れる気持ちを、
激しい口論の裏側で表しているのだと思いました。
疑う心から真実を見えなくし、彼らにとって重要なものである信仰も揺るがし、
個人の性質もあからさまに否定されてしまう。
また1964年という時代設定も大きな意味を持っていて、
公民権運動やケネディ暗殺を神父の説教などで語らせ、
変わりつつある時代であるということを示し、
それがそのまま、伝統を重んじるシスター・アロイシスと、
学校も変わらなければという進歩的な考えを持つフリン神父という図式でも描いている。
こういう時代背景や宗教観などの予備知識がないとちょっとわかりにくいかも知れません。
でもそこがわかると、この作品が言わんとしていることがすんなりと入って来そうです。


母親が語る真実は
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メリル・ストリープとフィリップ・シーモア・ホフマンが素晴らしいであろうことは、
予めわかっていることですが、改めてその凄さをとことん見せつけられました。
2人の一騎打ちは、これ以上ないすべてが正解の演技。
そんな2人を前にして思わぬ大健闘なのがエイミー・アダムス。
『魔法にかけられて』がもしかしてピークかも?と思ってたし、
それより前に私にとっては『タラデガ・ナイト オーバルの狼』なんかのヒトですからビックリです。
そしてドナルドの母を演じたヴィオラ・デイヴィス。
登場時間は非常に少ないながらとても強い印象を残しました。
いずれも受賞はしませんでしたが、オスカーノミネートは本当に納得。

そんな素晴らしい俳優たちばかりなのに、
映画そのものとしては少々不満が残りました。
俳優たちの演技の素晴らしさに比べて、映像から受ける強いものがほとんど感じられません。
一番気になったのは、時々出てくる傾いたカメラアングル。
何か不安感を出したかったのかも知れませんがほとんど効果はなく、
むしろ不自然さを感じてしまいました。
監督のジョン・パトリック・シャンリィは元々脚本家で、
彼が舞台劇として脚本を書いた今作の映画化にあたり、
自らメガホンを取ったということらしいのですが、
監督はほかの人に託したほうが良かったのではないかと思いました。
これだけ役者が揃ってストーリー自体も素晴らしいのに、そこがとても残念でした。


Doubt(2008 アメリカ)
監督 ジョン・パトリック・シャンリー
出演 メリル・ストリープ フィリップ・シーモア・ホフマン エイミー・アダムス ヴィオラ・デイヴィス



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