スラムドッグ$ミリオネア [映画感想−さ]
映画の評価は何によって左右するのか。
ストーリー、映像、俳優の演技・・・などなどいろんな要因が考えられますが、
こういう作品を観ると、舞台となる場所の持つパワー、
ある人種固有とも言える魅力なども大きな理由となることに気づかされます。
各所での高評価も納得の、まさに圧倒的な一本。
ジャマール(デヴ・パテル)はインドの国民的クイズ番組で、
全問正解まで残りあと1問というところまで勝ち進みます。
しかし番組は時間切れで最終問題は翌日となり、
スタジオを出たジャマールは、なぜか警察に連行されてしまいます。
スラム育ちで無学な彼がここまで正解したのには何か裏があるとして、
過酷な取り調べを受けるジャマール。
そこで彼は、なぜ正解を出し続けられたのか、その理由を話し始めます。
正解を出し続けられるその理由は
この作品がなぜここまで絶賛されたのか、
予告編や断片的な情報を聞いただけではまったく想像出来ませんでした。
またインドを舞台にしたこの物語の監督を、なぜダニー・ボイルが務めたのか、
もうイギリスやアメリカで撮りたいものがないということなのか、
巨大なインドの映画界の資金力うんぬんも関係してるのか・・・などなど謎は深まるばかり。
例えば『トレインスポッティング』の頃の情熱を再び!とでも考えたんだとしたら、
確かに今のイギリスに描きたいと思わせるものは少ないのかも知れません。
というよりこの作品を観た後ではこれほどのパワーを持った舞台を、
ほかに探す方が困難だと思わせられます。
とにかくムンバイという街の持つ力、そこで生きる人々の力を、
これでもかこれでもかと見せつけられる感じです。
最初はクイズに勝ち進んでいくこと自体が物語のメインで、
ジャマールが不正を行ったのか否かを暴いていく・・・みたいな話なのかと思ったら、
彼がなぜ正解していくのか、その1つ1つすべてに理由があり、
そのことによって同時に彼の半生が語られていくという構成となっていて、
その語り口、話の持って行き方が実に巧い。
現在の時点は警察の取調室であり、そこで番組のビデオを観るという、
スタジオの場面は既にフラッシュバックであり、
そこにジャマールの幼少期からの物語がさらに挟み込まれる。
クイズが進み賞金がアップしていくと同時にジャマールも成長していき、
やがて3つの物語が1つに収束していく。
時間や地点は当然往き来するわけですが、それがまったく難解ではないし、
こちらを何かミスリードさせようという意図があるわけでもなく、
その構成がすべて必然で、かつドラマチックという、
この巧みな作り方自体も評価された理由の1つでしょう。
兄弟はスラムを出る
ただ、話としてそううまく行くのかというツッコミが入りかねない点は多々あります。
ジャマールが初恋の人であるラティカ(フリーダ・ピント)と、
何度も別れては再会し・・・というのは確かにムリはあるし。
けれどもそこは愛のチカラとか運命とか、
そういうドラマティックな言い訳をしてもいいと素直に思えました。
ムンバイの街をリアルに描き、思わず目を背けたくなるような描写もあり、
ジャマールがなぜこのクイズ番組に出るに至ったか、
正解し続けるのかの謎解き的要素もありながら、
この作品は純粋にラブストーリーであり、
そんないろんな要素の絶妙なバランスが本当に素晴らしい。
過酷なスラムの実情がどこまで真実に近いのかはわかりませんが、
幼い子どもたちが貧しさの中で生きていく様子は、
ブラジルのストリートチルドレンを描いた、
『シティ・オブ・ゴッド』を思い出させました。
ただあちらは相当ヘビーかつバイオレンスで、
ジャマールの兄サリームを主人公にしたらかなり近づきそうですが、
こちらはラブストーリー要素も含め軽やかな印象。
それでもほとんどドキュメンタリーと言えそうな場面も多く、
かといって揺れるカメラでリアリティを出したりなんてこともせず、
躍動感あるカメラワークで写し撮ることによりドラマ性を出し、
素晴らしいエンタテインメントにしています。
きちんとラストにインド映画らしいダンスも登場させるあたり、
まったく完璧な娯楽作となってます。
ラティカは待っている
文字通りの"疾走感"がただごとじゃない美しい映像となり、
それが単にスタイリッシュな映像で終わってないところも大したものだと思いました。
私は『トレインスポッティング』に世間の評価ほど感動しなかったのですが、
・・・というよりドラッグ、赤ん坊、そしてあのトイレに嫌悪感すら感じたぐらいで、
(今回もまたトイレネタかい!と一瞬キレそうになりました・・・苦手なんです)
あれから十数年経って、ダニー・ボイルは一切変わっていなかったのか、
あるいはようやく新たな一歩を見出せたのか。
いい意味で得意のスタイリッシュ映像をインドという舞台を得て、
発展させ蘇らせることが出来たのか。
こんな傑作を生み出してしまって、さて今後ダニー・ボイルはどこへ向かうのでしょう?
それにしても、今作がオスカーで評価されたのは謎。
スターもいない、アメリカ映画ですらなく、
これまでならせいぜい外国語映画賞ぐらいかなという気がするのですが、
ここは素直にアカデミー会員を見直すべきなのでしょうか。
確かにこれを観たら『ベンジャミン・バトン』なんかまるっきり凡作と思えてしまいます。
この高評価があって日本での公開が叶ったと思うし、そこは本当に感謝したいです。
1人でも多くの人に観て欲しい、傑作。
Slumdog Millionaire(2008 イギリス)
監督 ダニー・ボイル
出演 デヴ・パテル フリーダ・ピント アニル・カプール イルファーン・カーン
ストーリー、映像、俳優の演技・・・などなどいろんな要因が考えられますが、
こういう作品を観ると、舞台となる場所の持つパワー、
ある人種固有とも言える魅力なども大きな理由となることに気づかされます。
各所での高評価も納得の、まさに圧倒的な一本。
ジャマール(デヴ・パテル)はインドの国民的クイズ番組で、
全問正解まで残りあと1問というところまで勝ち進みます。
しかし番組は時間切れで最終問題は翌日となり、
スタジオを出たジャマールは、なぜか警察に連行されてしまいます。
スラム育ちで無学な彼がここまで正解したのには何か裏があるとして、
過酷な取り調べを受けるジャマール。
そこで彼は、なぜ正解を出し続けられたのか、その理由を話し始めます。
正解を出し続けられるその理由は
この作品がなぜここまで絶賛されたのか、
予告編や断片的な情報を聞いただけではまったく想像出来ませんでした。
またインドを舞台にしたこの物語の監督を、なぜダニー・ボイルが務めたのか、
もうイギリスやアメリカで撮りたいものがないということなのか、
巨大なインドの映画界の資金力うんぬんも関係してるのか・・・などなど謎は深まるばかり。
例えば『トレインスポッティング』の頃の情熱を再び!とでも考えたんだとしたら、
確かに今のイギリスに描きたいと思わせるものは少ないのかも知れません。
というよりこの作品を観た後ではこれほどのパワーを持った舞台を、
ほかに探す方が困難だと思わせられます。
とにかくムンバイという街の持つ力、そこで生きる人々の力を、
これでもかこれでもかと見せつけられる感じです。
最初はクイズに勝ち進んでいくこと自体が物語のメインで、
ジャマールが不正を行ったのか否かを暴いていく・・・みたいな話なのかと思ったら、
彼がなぜ正解していくのか、その1つ1つすべてに理由があり、
そのことによって同時に彼の半生が語られていくという構成となっていて、
その語り口、話の持って行き方が実に巧い。
現在の時点は警察の取調室であり、そこで番組のビデオを観るという、
スタジオの場面は既にフラッシュバックであり、
そこにジャマールの幼少期からの物語がさらに挟み込まれる。
クイズが進み賞金がアップしていくと同時にジャマールも成長していき、
やがて3つの物語が1つに収束していく。
時間や地点は当然往き来するわけですが、それがまったく難解ではないし、
こちらを何かミスリードさせようという意図があるわけでもなく、
その構成がすべて必然で、かつドラマチックという、
この巧みな作り方自体も評価された理由の1つでしょう。
兄弟はスラムを出る
ただ、話としてそううまく行くのかというツッコミが入りかねない点は多々あります。
ジャマールが初恋の人であるラティカ(フリーダ・ピント)と、
何度も別れては再会し・・・というのは確かにムリはあるし。
けれどもそこは愛のチカラとか運命とか、
そういうドラマティックな言い訳をしてもいいと素直に思えました。
ムンバイの街をリアルに描き、思わず目を背けたくなるような描写もあり、
ジャマールがなぜこのクイズ番組に出るに至ったか、
正解し続けるのかの謎解き的要素もありながら、
この作品は純粋にラブストーリーであり、
そんないろんな要素の絶妙なバランスが本当に素晴らしい。
過酷なスラムの実情がどこまで真実に近いのかはわかりませんが、
幼い子どもたちが貧しさの中で生きていく様子は、
ブラジルのストリートチルドレンを描いた、
『シティ・オブ・ゴッド』を思い出させました。
ただあちらは相当ヘビーかつバイオレンスで、
ジャマールの兄サリームを主人公にしたらかなり近づきそうですが、
こちらはラブストーリー要素も含め軽やかな印象。
それでもほとんどドキュメンタリーと言えそうな場面も多く、
かといって揺れるカメラでリアリティを出したりなんてこともせず、
躍動感あるカメラワークで写し撮ることによりドラマ性を出し、
素晴らしいエンタテインメントにしています。
きちんとラストにインド映画らしいダンスも登場させるあたり、
まったく完璧な娯楽作となってます。
ラティカは待っている
文字通りの"疾走感"がただごとじゃない美しい映像となり、
それが単にスタイリッシュな映像で終わってないところも大したものだと思いました。
私は『トレインスポッティング』に世間の評価ほど感動しなかったのですが、
・・・というよりドラッグ、赤ん坊、そしてあのトイレに嫌悪感すら感じたぐらいで、
(今回もまたトイレネタかい!と一瞬キレそうになりました・・・苦手なんです)
あれから十数年経って、ダニー・ボイルは一切変わっていなかったのか、
あるいはようやく新たな一歩を見出せたのか。
いい意味で得意のスタイリッシュ映像をインドという舞台を得て、
発展させ蘇らせることが出来たのか。
こんな傑作を生み出してしまって、さて今後ダニー・ボイルはどこへ向かうのでしょう?
それにしても、今作がオスカーで評価されたのは謎。
スターもいない、アメリカ映画ですらなく、
これまでならせいぜい外国語映画賞ぐらいかなという気がするのですが、
ここは素直にアカデミー会員を見直すべきなのでしょうか。
確かにこれを観たら『ベンジャミン・バトン』なんかまるっきり凡作と思えてしまいます。
この高評価があって日本での公開が叶ったと思うし、そこは本当に感謝したいです。
1人でも多くの人に観て欲しい、傑作。
Slumdog Millionaire(2008 イギリス)
監督 ダニー・ボイル
出演 デヴ・パテル フリーダ・ピント アニル・カプール イルファーン・カーン
スラムドッグ$ミリオネア (ダニー・ボイル監督) [DVD]
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タグ:映画
まだ観ていませんが観たくなりました。
個人的にはグラン・トリノがアカデミー獲れなかったのが?だったのですけど
アカデミーの会員の方々も、ちゃんと仕事しているのでしょう。
by ねじまきけんいち (2009-05-10 09:32)
ねじまきけんいちさん、こんにちは。
良かったらぜひご覧になってみてください。
アカデミー賞の受賞条件はいろいろあるみたいですが、
これはどんなウラ事情があったのか、本当に謎です。
『グラン・トリノ』は昨年末という公開時期が悪かったのでしょうか。
『チェンジリング』と票が割れたなんてことも言われてましたね。
by dorothy (2009-05-11 23:16)