ベンジャミン・バトン 数奇な人生 [映画感想−は]
今年度アカデミー賞最多13部門ノミネート。
発表前に観ておかねばと行ってまいりました。
1918年。ニューオーリンズで1人の男の子が産まれます。
その赤ん坊はまるで老人のような容貌で、母親は出産後まもなく死亡。
妻の死と赤ん坊の様子にショックを受けた父親(ジェイソン・フレミング)は、
赤ん坊を老人養護施設の入口に置き去りにしてしまいます。
この施設で働くクイニー(タラジ・P・ヘンソン)がその赤ん坊を見つけ、
自分が育てることを決意。
ベンジャミンと名付けられた赤ん坊は成長するにつれて、
普通の人間とは逆に少しずつ若くなっていきます。
そして年齢的には少年期となったある日、7歳の少女デイジー(エル・ファニング)と出会います。
青年ベンジャミン
冒頭、病院のベッドに横たわる老女が登場します。
シワとシミだらけの顔は瞬間誰かわからないほどですが、
その声と、話の様子でそれがケイト・ブランシェット演じるデイジーだとわかります。
彼女は娘のキャロライン(ジュリア・オーモンド)に一冊の日記を読むように言います。
それはベンジャミン(ブラッド・ピット)がその生涯を綴った日記であり、
その日記を元に物語が進んでいく構成です。
老人として生まれ、年を経るごとに若返っていくというのは確かに奇妙。
けれども語られていく話は、特に"数奇"というほどの人生とは思えません。
いろんな場所へ行き、いくつかの仕事をし、いくつかの恋愛も経験しますが、
(ロシアでのエリザベス(ティルダ・スウィントン)とのエピソードはなかなか見せます!)
そういったことは特別ドラマチックということでもなく、
見た目が若返っていくこと以外は、普通に一人の男の生涯を描いている感じです。
観ていると、ベンジャミンに振りまわされ、自身も成功や不幸な出来事も経験し・・・と、
むしろデイジーのほうがよほど"数奇な人生"という気がしました。
若きデイジー
ベンジャミン自身は自分のその状況をどう思って生きているのかが、
あまり見えてこないのですが、
デイジーがベンジャミンに「若返っていくってどういう気分?」と聞くと、
ベンジャミンは「ほかと比べようがないからわからない」みたいに答えます。
ほかの人とは違うというだけで、確かに彼にとってはこれしかない人生だし、
受け入れていくしかないんだと思いますが、でももうちょっと葛藤というか、
「どうして自分だけ違うんだ?」みたいな部分も見せてくれても良かったかなと思います。
おそらくそういう部分をあえて排除したんだろうなと思うのですが、
例えば、子どもの頃に近所の子どもたちの中に入ろうとするといじめられる、
なんていうベタな表現も出来たでしょうけど、そういうのは一切なし。
遠くから子どもたちを眺めるだけです。
一般に子どもが子どもに興味を持つ心理というのはどういう風に現れるのかわかりませんが、
ベンジャミンもほかの子どもに興味を持ち、一緒に遊びたいと思ったはず。
でも身体はうまく動かせないし、見た目が確実に違うことを意識しているでしょう。
そんな時にどう思ったかをもうちょっと表して欲しかった。
また、そんなベンジャミンの様子に対し、
周囲の人々があまりにすんなりと受け入れてしまうのもちょっと違和感を感じました。
それを言ったらどうしようもない、と言われそうだし、
ファンタジーとしてはこれでいいのかも知れませんが、
そのあたりがあまりに端折りすぎな気がしてしまいました。
そういうことをつつき出すと気になる部分はたくさん出てくるし、
・・・そもそも老人として生まれたといっても身体のサイズは赤ちゃんだし、
その理屈でいけば最後は身体は大人のままの赤ん坊になるべきだと思うのですが。
母親クイニー
ニューオーリンズが主な舞台ですが、人種差別などの表現は一切ありません。
振り返ってみると、この作品に悪意のある人は一切出てきません。
黒人だけでなくピグミー族やインディアンなども登場させ、
世の中にはいろんな種類の人間がいるということで、
ベンジャミンの存在を、そういったマイノリティの1つだと言いたいのかなとも思いました。
そんななのでニューオーリンズを舞台にした理由がよくわからない。
日記を読んでいる現代では、ハリケーン・カトリーナがまさに直撃しようとしていて、
これも最後に何かをもたらすのかと思いましたが・・・うーむ。
物語の語り口は実にスムーズでテンポも良く、矛盾を感じつつも不思議に説得力もあって、
166分という長さもそれほど長いと感じませんでした。
CGや特殊メイクを駆使した出演者たちの年齢表現は驚きの一言。
老人メイクは今や珍しいものではありませんが、
それでも老女のケイト・ブランシェットはほとんど面影もなく、
別の女優にやらせてもいいんじゃないかと思うぐらいです。
またデイジーの少女時代はさすがにエル・ファニングら子役が演じてるのですが、
声はケイト・ブランシェットがすべて当てていたと知ってびっくりです。
ベンジャミンの、顔は老人なのに身体は子ども・・・の映像も、
まったく違和感のない首のすげ替えであきれるばかりです。
人妻エリザベス
そして話題の若いブラピ。予告編でもチラッと出ていたんで想像はついてましたが、
いざ登場すると笑っちゃうぐらいの美しさでした。
それとケイト・ブランシェットの若い時の美しさもまさに絵に描いたようで、
そしてそれらがすべて自然で、CG技術の発達のすさまじさをしみじみ感じさせられました。
内容はもちろんですが、映像のこだわりでもいつもスゴイものを見せてくれる、
さすがのデヴィッド・フィンチャーだなと、この点は十分堪能させていただきました。
結局この作品はストーリーうんぬんより、
だんだん若返っていくベンジャミンや若く美しいデイジーを、
いかに映像として見せていくかということがメインだったのかも知れません。
・・・と、映像の素晴らしさをいろいろ書きましたが、
実は今回事情があって、これを某○急系のシネコンで観ました。
ここがびっくりするぐらいボンヤリした絵で、コントラストが甘く、
暗いシーンではほとんど何をやってるかわからないくらい。
スクリーンは大きいので、字幕ばかり明るく目立ってとても疲れました。
せっかく映像にこだわった作品なのに、これにはガックリ。
よく調べずに行った自分が悪いんですが・・・。
この東○系のほかのシネコンには行ったことがあるんですが、
特別キレイということもないけれど、ここまでひどくはなかった。
今回たまたまプリントが良くなかったのでしょうか。
ほかの劇場で確かめたい気もしますが、もう一度観る時間もお金も情熱もない。
いろんな意味で残念な作品になってしまいました。
というわけでオスカーはどうでしょう?
視覚効果賞やメイクアップ賞あたりは行くかも知れませんが、
作品・監督・主演男優賞はたぶんないと思います。残念ですが。
The Curious Case of Benjamin Button(2008 アメリカ)
監督 デヴィッド・フィンチャー
出演 ブラッド・ピット ケイト・ブランシェット ティルダ・スウィントン タラジ・P・ヘンソン
ジャレッド・ハリス ジェイソン・フレミング ジュリア・オーモンド エル・ファニング
発表前に観ておかねばと行ってまいりました。
1918年。ニューオーリンズで1人の男の子が産まれます。
その赤ん坊はまるで老人のような容貌で、母親は出産後まもなく死亡。
妻の死と赤ん坊の様子にショックを受けた父親(ジェイソン・フレミング)は、
赤ん坊を老人養護施設の入口に置き去りにしてしまいます。
この施設で働くクイニー(タラジ・P・ヘンソン)がその赤ん坊を見つけ、
自分が育てることを決意。
ベンジャミンと名付けられた赤ん坊は成長するにつれて、
普通の人間とは逆に少しずつ若くなっていきます。
そして年齢的には少年期となったある日、7歳の少女デイジー(エル・ファニング)と出会います。
青年ベンジャミン
冒頭、病院のベッドに横たわる老女が登場します。
シワとシミだらけの顔は瞬間誰かわからないほどですが、
その声と、話の様子でそれがケイト・ブランシェット演じるデイジーだとわかります。
彼女は娘のキャロライン(ジュリア・オーモンド)に一冊の日記を読むように言います。
それはベンジャミン(ブラッド・ピット)がその生涯を綴った日記であり、
その日記を元に物語が進んでいく構成です。
老人として生まれ、年を経るごとに若返っていくというのは確かに奇妙。
けれども語られていく話は、特に"数奇"というほどの人生とは思えません。
いろんな場所へ行き、いくつかの仕事をし、いくつかの恋愛も経験しますが、
(ロシアでのエリザベス(ティルダ・スウィントン)とのエピソードはなかなか見せます!)
そういったことは特別ドラマチックということでもなく、
見た目が若返っていくこと以外は、普通に一人の男の生涯を描いている感じです。
観ていると、ベンジャミンに振りまわされ、自身も成功や不幸な出来事も経験し・・・と、
むしろデイジーのほうがよほど"数奇な人生"という気がしました。
若きデイジー
ベンジャミン自身は自分のその状況をどう思って生きているのかが、
あまり見えてこないのですが、
デイジーがベンジャミンに「若返っていくってどういう気分?」と聞くと、
ベンジャミンは「ほかと比べようがないからわからない」みたいに答えます。
ほかの人とは違うというだけで、確かに彼にとってはこれしかない人生だし、
受け入れていくしかないんだと思いますが、でももうちょっと葛藤というか、
「どうして自分だけ違うんだ?」みたいな部分も見せてくれても良かったかなと思います。
おそらくそういう部分をあえて排除したんだろうなと思うのですが、
例えば、子どもの頃に近所の子どもたちの中に入ろうとするといじめられる、
なんていうベタな表現も出来たでしょうけど、そういうのは一切なし。
遠くから子どもたちを眺めるだけです。
一般に子どもが子どもに興味を持つ心理というのはどういう風に現れるのかわかりませんが、
ベンジャミンもほかの子どもに興味を持ち、一緒に遊びたいと思ったはず。
でも身体はうまく動かせないし、見た目が確実に違うことを意識しているでしょう。
そんな時にどう思ったかをもうちょっと表して欲しかった。
また、そんなベンジャミンの様子に対し、
周囲の人々があまりにすんなりと受け入れてしまうのもちょっと違和感を感じました。
それを言ったらどうしようもない、と言われそうだし、
ファンタジーとしてはこれでいいのかも知れませんが、
そのあたりがあまりに端折りすぎな気がしてしまいました。
そういうことをつつき出すと気になる部分はたくさん出てくるし、
・・・そもそも老人として生まれたといっても身体のサイズは赤ちゃんだし、
その理屈でいけば最後は身体は大人のままの赤ん坊になるべきだと思うのですが。
母親クイニー
ニューオーリンズが主な舞台ですが、人種差別などの表現は一切ありません。
振り返ってみると、この作品に悪意のある人は一切出てきません。
黒人だけでなくピグミー族やインディアンなども登場させ、
世の中にはいろんな種類の人間がいるということで、
ベンジャミンの存在を、そういったマイノリティの1つだと言いたいのかなとも思いました。
そんななのでニューオーリンズを舞台にした理由がよくわからない。
日記を読んでいる現代では、ハリケーン・カトリーナがまさに直撃しようとしていて、
これも最後に何かをもたらすのかと思いましたが・・・うーむ。
物語の語り口は実にスムーズでテンポも良く、矛盾を感じつつも不思議に説得力もあって、
166分という長さもそれほど長いと感じませんでした。
CGや特殊メイクを駆使した出演者たちの年齢表現は驚きの一言。
老人メイクは今や珍しいものではありませんが、
それでも老女のケイト・ブランシェットはほとんど面影もなく、
別の女優にやらせてもいいんじゃないかと思うぐらいです。
またデイジーの少女時代はさすがにエル・ファニングら子役が演じてるのですが、
声はケイト・ブランシェットがすべて当てていたと知ってびっくりです。
ベンジャミンの、顔は老人なのに身体は子ども・・・の映像も、
まったく違和感のない首のすげ替えであきれるばかりです。
人妻エリザベス
そして話題の若いブラピ。予告編でもチラッと出ていたんで想像はついてましたが、
いざ登場すると笑っちゃうぐらいの美しさでした。
それとケイト・ブランシェットの若い時の美しさもまさに絵に描いたようで、
そしてそれらがすべて自然で、CG技術の発達のすさまじさをしみじみ感じさせられました。
内容はもちろんですが、映像のこだわりでもいつもスゴイものを見せてくれる、
さすがのデヴィッド・フィンチャーだなと、この点は十分堪能させていただきました。
結局この作品はストーリーうんぬんより、
だんだん若返っていくベンジャミンや若く美しいデイジーを、
いかに映像として見せていくかということがメインだったのかも知れません。
・・・と、映像の素晴らしさをいろいろ書きましたが、
実は今回事情があって、これを某○急系のシネコンで観ました。
ここがびっくりするぐらいボンヤリした絵で、コントラストが甘く、
暗いシーンではほとんど何をやってるかわからないくらい。
スクリーンは大きいので、字幕ばかり明るく目立ってとても疲れました。
せっかく映像にこだわった作品なのに、これにはガックリ。
よく調べずに行った自分が悪いんですが・・・。
この東○系のほかのシネコンには行ったことがあるんですが、
特別キレイということもないけれど、ここまでひどくはなかった。
今回たまたまプリントが良くなかったのでしょうか。
ほかの劇場で確かめたい気もしますが、もう一度観る時間もお金も情熱もない。
いろんな意味で残念な作品になってしまいました。
というわけでオスカーはどうでしょう?
視覚効果賞やメイクアップ賞あたりは行くかも知れませんが、
作品・監督・主演男優賞はたぶんないと思います。残念ですが。
The Curious Case of Benjamin Button(2008 アメリカ)
監督 デヴィッド・フィンチャー
出演 ブラッド・ピット ケイト・ブランシェット ティルダ・スウィントン タラジ・P・ヘンソン
ジャレッド・ハリス ジェイソン・フレミング ジュリア・オーモンド エル・ファニング
ベンジャミン・バトン 数奇な人生 (ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット 出演) [DVD]
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