素晴らしき哉、人生! [映画感想−さ]
クリスマス映画、というより私のオールタイムベスト。
アメリカ人に倣ってほとんど毎年、この時期に観ています。
アメリカの小さな田舎町、ベドフォード・フォールズ。
クリスマスイブの夜、町中の人々がジョージ・ベイリーという男のために祈りを捧げています。
この町に生まれ育ち、みんなに愛され信頼されていたジョージ。
しかし彼はあるミスを犯し、今まさに自殺を図ろうとしていたのでした。
人々の祈りは天へ届き、ジョージを助けるために天使が遣わされることになるのですが・・・。
ジョージは常に弱者の味方だった
初めて観たのはいつだったか。ジェームズ・スチュワートは大好きだったし、
名作と言われているこのクラシックムービーを一応観ておかなきゃぐらいの、
軽い気持ちで観始めて・・・打ちのめされました。
ストーリーなどまったく予備知識なくて、
家族が一番!みたいな、いかにもなアメリカンムービーを想像していたら、
まず、冒頭の天使たちの会話が星のまたたきで表されるという表現に、
昔の映画なのに斬新だなあ、とびっくり。
そこからただただ、夢中になって観た記憶があります。
ジョージを助けるためにやってくるのは”2級天使”クラレンス。
200年間翼をもらえない落ちこぼれ天使で、この件を成功させたら翼がもらえることに。
そのために、まずはジョージの予備知識を、ということで、
彼の少年時代から現在までが見せられるという構成です。
この回想部分で映画の3/4ぐらいを費やしているので、
時々天使たちの会話が合間に挟まらないと、
観ているうちに、当初の目的を忘れてしまいそうになります。
そんな彼の人生はというと、周りの事情に翻弄されてばかり。
渋々父親の仕事を継ぎ、大学行きも海外旅行も諦め、恋をして結婚して、
持ち前の真っ直ぐな性格で何度も訪れるピンチを乗り越え、
けれど最後に、死を考えるまでになってしまう事件が起きます。
そしてようやく天使クラレンスが私たちの目の前に初めて姿を現し、
ああそういえばそうだった、と思い出したら、ここから話は意外な方向に進みます。
ここからエンディングまでの、まさに"怒濤の"と言っていい話の展開は、
もう何度観ても胸がドキドキし、そして最後はただただ感動の涙が溢れるのです。
幼なじみのメアリーにはなかなか素直になれず・・・
ジョージという人が、とても出来た人物というわけでも、
あるいは単なるお人好しというわけでもないことにとても親しみを感じます。
自分の夢を諦めざるを得なかったことをいつまでもグズグズ考えてるし、
なかなか恋の告白もできない。
気に入らないことがあると人やモノに当たり散らしたり、ケンカもします。
彼が本当にリッパな人だったら、最後に起こる大変な事態に、
それでも何とか解決策を考え出すとか、あるいはさっさと橋から飛び降りたかも知れない。
悩み、苦しみ、楽天的でもあり融通の利かないところもあり・・・と、
人間くさいところがたくさんあるからこそ、
ジョージという人間に強く心を揺さぶられるのだと思います。
そして天使クラレンスがジョージの自殺を食い止めるために、
ジョージに見せる、彼が生まれてこなかった世界。
彼一人いなかっただけで、町は荒み、不幸な人生を送った人は数知れず。
それまで見せられていた彼の半生の中で登場したあらゆる出来事の、
ひとつひとつがすべて否定され打ち消されていきます。
クラレンスはジョージにこう言います。
「一人の命は多くの生活に関わっている。それが欠けるとすべてが変わる」と。
ここで私たちは、人が生きる意味を教えられるのです。
自分一人ぐらいいなくなったところで、何が変わるわけじゃない、と、
心が弱っているときは、つい思いがちです。
でも、誰にも関わらずこの世に産まれ、育った人などいない。
また、確かにこのジョージのいる/いない人生の違いほどは、
自分のいない世の中は、そんなに変わりはないかも知れない。
でもだからこそ、がんばってみようかなという気にもなる。
自分の人生がムダじゃないと気づかされることの心強さは、
心が弱っているときにはこれ以上ない励ましになるし、
悩みもなく絶好調でいる時でも、自分の在り方に間違いはないという、
確信を与えてくれると思います。
すべてを失いかけた彼がすがった先は・・・
ところで話がそれますが、この”ジョージが生まれてこなかった世界”の話。
最初に観た時、なんだかすごく知ってる話だなあと思ったんですが、
そう、これより前に『バック・トゥ・ザ・フューチャーPart2』を観ていたのですね。
あの作品で、ビフが変えてしまう未来がひどいことになっている・・・という、
まさにあれの元ネタはこれだったのかあ、と、観ていて気がついたのですが、
こちらを先に観ていたら、あちらも一層楽しめたということなんですね。
この作品に慣れ親しんでいるアメリカ人は、そこを踏まえてあのPart2を楽しんだのかあ、と、
知らなかったことがちょっと悔やまれました。
さて話を戻して、奇跡の物語は天使がジョージに不思議な体験をさせたという、
そのことだけじゃなく、実はこの後に待ち構えているのです。
でもそれは、これまでの彼の生き方、行いが起こした結果であって、
”奇跡”ではないかも知れない。当然起こるべくして起こったこととも言えます。
そこで改めて、人生をどう生きるかということを教えられるのです。
ジョージが橋の上で"メリー・クリスマス!!"と叫んでからラストまでは、
世の中にこれ以上ない、恐ろしいぐらいのハッピーエンド。
映画の、物語としての奇跡を目にする瞬間です。
2級天使は翼を手に入れられるのか
フランク・キャプラのこのハッピーエンド主義を、
偽善だとか甘いと思う人もいるようです。
でも、ここまでハッピーエンドを突き詰めるなんてそうそうできることではない。
人の好意というものを、とにかく畳み掛けるように見せていくラスト。
前半の、長いとすら思えたジョージの半生物語にさりげなく登場していた人々が、
そこに一斉に集い、そのすべてがあったからこそのこの結末とわかる、
その小ネタの回収ぶりは完璧です。
また、最初から最後まで徹底して悪人である銀行家ポッターを、
悔い改めさせることも、罰することもしないことに批判があったという話も聞きました。
でも、それはかえって現実的な気がするし、そこに監督の冷静さも感じました。
アメリカで毎年クリスマスの時期にテレビで放映されるそうですが、
今年もたくさんの人が観たことでしょう。
ジョージの会社の"低所得者に住宅を"というのは、
今だとサブプライムローンを想像させてしまうのですが、
発想は似ていても、おそらく出発点や志しのようなものはずいぶん違うのではないでしょうか。
サブプライムショックの今のアメリカで、
この映画がどのように受け止められるのかも興味のあるところです。
そして同じように大変な年の瀬を迎えている私たち日本人にも、
この作品が何かのチカラになるんじゃないかと思います。
そうなってくれる映画の奇跡を信じたいです。
It's a Wonderful Life(1946 アメリカ)
監督 フランク・キャプラ
出演 ジェームズ・ステュアート ドナ・リード ライオネル・バリモア
トーマス・ミッチェル ヘンリー・トラヴァース
アメリカ人に倣ってほとんど毎年、この時期に観ています。
アメリカの小さな田舎町、ベドフォード・フォールズ。
クリスマスイブの夜、町中の人々がジョージ・ベイリーという男のために祈りを捧げています。
この町に生まれ育ち、みんなに愛され信頼されていたジョージ。
しかし彼はあるミスを犯し、今まさに自殺を図ろうとしていたのでした。
人々の祈りは天へ届き、ジョージを助けるために天使が遣わされることになるのですが・・・。
ジョージは常に弱者の味方だった
初めて観たのはいつだったか。ジェームズ・スチュワートは大好きだったし、
名作と言われているこのクラシックムービーを一応観ておかなきゃぐらいの、
軽い気持ちで観始めて・・・打ちのめされました。
ストーリーなどまったく予備知識なくて、
家族が一番!みたいな、いかにもなアメリカンムービーを想像していたら、
まず、冒頭の天使たちの会話が星のまたたきで表されるという表現に、
昔の映画なのに斬新だなあ、とびっくり。
そこからただただ、夢中になって観た記憶があります。
ジョージを助けるためにやってくるのは”2級天使”クラレンス。
200年間翼をもらえない落ちこぼれ天使で、この件を成功させたら翼がもらえることに。
そのために、まずはジョージの予備知識を、ということで、
彼の少年時代から現在までが見せられるという構成です。
この回想部分で映画の3/4ぐらいを費やしているので、
時々天使たちの会話が合間に挟まらないと、
観ているうちに、当初の目的を忘れてしまいそうになります。
そんな彼の人生はというと、周りの事情に翻弄されてばかり。
渋々父親の仕事を継ぎ、大学行きも海外旅行も諦め、恋をして結婚して、
持ち前の真っ直ぐな性格で何度も訪れるピンチを乗り越え、
けれど最後に、死を考えるまでになってしまう事件が起きます。
そしてようやく天使クラレンスが私たちの目の前に初めて姿を現し、
ああそういえばそうだった、と思い出したら、ここから話は意外な方向に進みます。
ここからエンディングまでの、まさに"怒濤の"と言っていい話の展開は、
もう何度観ても胸がドキドキし、そして最後はただただ感動の涙が溢れるのです。
幼なじみのメアリーにはなかなか素直になれず・・・
ジョージという人が、とても出来た人物というわけでも、
あるいは単なるお人好しというわけでもないことにとても親しみを感じます。
自分の夢を諦めざるを得なかったことをいつまでもグズグズ考えてるし、
なかなか恋の告白もできない。
気に入らないことがあると人やモノに当たり散らしたり、ケンカもします。
彼が本当にリッパな人だったら、最後に起こる大変な事態に、
それでも何とか解決策を考え出すとか、あるいはさっさと橋から飛び降りたかも知れない。
悩み、苦しみ、楽天的でもあり融通の利かないところもあり・・・と、
人間くさいところがたくさんあるからこそ、
ジョージという人間に強く心を揺さぶられるのだと思います。
そして天使クラレンスがジョージの自殺を食い止めるために、
ジョージに見せる、彼が生まれてこなかった世界。
彼一人いなかっただけで、町は荒み、不幸な人生を送った人は数知れず。
それまで見せられていた彼の半生の中で登場したあらゆる出来事の、
ひとつひとつがすべて否定され打ち消されていきます。
クラレンスはジョージにこう言います。
「一人の命は多くの生活に関わっている。それが欠けるとすべてが変わる」と。
ここで私たちは、人が生きる意味を教えられるのです。
自分一人ぐらいいなくなったところで、何が変わるわけじゃない、と、
心が弱っているときは、つい思いがちです。
でも、誰にも関わらずこの世に産まれ、育った人などいない。
また、確かにこのジョージのいる/いない人生の違いほどは、
自分のいない世の中は、そんなに変わりはないかも知れない。
でもだからこそ、がんばってみようかなという気にもなる。
自分の人生がムダじゃないと気づかされることの心強さは、
心が弱っているときにはこれ以上ない励ましになるし、
悩みもなく絶好調でいる時でも、自分の在り方に間違いはないという、
確信を与えてくれると思います。
すべてを失いかけた彼がすがった先は・・・
ところで話がそれますが、この”ジョージが生まれてこなかった世界”の話。
最初に観た時、なんだかすごく知ってる話だなあと思ったんですが、
そう、これより前に『バック・トゥ・ザ・フューチャーPart2』を観ていたのですね。
あの作品で、ビフが変えてしまう未来がひどいことになっている・・・という、
まさにあれの元ネタはこれだったのかあ、と、観ていて気がついたのですが、
こちらを先に観ていたら、あちらも一層楽しめたということなんですね。
この作品に慣れ親しんでいるアメリカ人は、そこを踏まえてあのPart2を楽しんだのかあ、と、
知らなかったことがちょっと悔やまれました。
さて話を戻して、奇跡の物語は天使がジョージに不思議な体験をさせたという、
そのことだけじゃなく、実はこの後に待ち構えているのです。
でもそれは、これまでの彼の生き方、行いが起こした結果であって、
”奇跡”ではないかも知れない。当然起こるべくして起こったこととも言えます。
そこで改めて、人生をどう生きるかということを教えられるのです。
ジョージが橋の上で"メリー・クリスマス!!"と叫んでからラストまでは、
世の中にこれ以上ない、恐ろしいぐらいのハッピーエンド。
映画の、物語としての奇跡を目にする瞬間です。
2級天使は翼を手に入れられるのか
フランク・キャプラのこのハッピーエンド主義を、
偽善だとか甘いと思う人もいるようです。
でも、ここまでハッピーエンドを突き詰めるなんてそうそうできることではない。
人の好意というものを、とにかく畳み掛けるように見せていくラスト。
前半の、長いとすら思えたジョージの半生物語にさりげなく登場していた人々が、
そこに一斉に集い、そのすべてがあったからこそのこの結末とわかる、
その小ネタの回収ぶりは完璧です。
また、最初から最後まで徹底して悪人である銀行家ポッターを、
悔い改めさせることも、罰することもしないことに批判があったという話も聞きました。
でも、それはかえって現実的な気がするし、そこに監督の冷静さも感じました。
アメリカで毎年クリスマスの時期にテレビで放映されるそうですが、
今年もたくさんの人が観たことでしょう。
ジョージの会社の"低所得者に住宅を"というのは、
今だとサブプライムローンを想像させてしまうのですが、
発想は似ていても、おそらく出発点や志しのようなものはずいぶん違うのではないでしょうか。
サブプライムショックの今のアメリカで、
この映画がどのように受け止められるのかも興味のあるところです。
そして同じように大変な年の瀬を迎えている私たち日本人にも、
この作品が何かのチカラになるんじゃないかと思います。
そうなってくれる映画の奇跡を信じたいです。
It's a Wonderful Life(1946 アメリカ)
監督 フランク・キャプラ
出演 ジェームズ・ステュアート ドナ・リード ライオネル・バリモア
トーマス・ミッチェル ヘンリー・トラヴァース
恥ずかしながら未見です。...なかなか機会がなくて(汗)。
昔、アニメ版の「バットマン」のクリスマスエピソードの中で、ロビンがバットマンに対して「街の見回りを早く終わらせてテレビで『素晴らしき哉、人生』を見ようよ」って台詞がありましたが、そのくらいこの作品はアメリカ人にとって馴染みのある作品なのでしょうね。日本で言うと「忠臣蔵」みたいなものでしょうか?...違うか(苦笑)。
元々この時期になると気になる作品ではありましたが、dorothyさんのレビューを読んで、ますます見たくなってきました。でも、今年はもう無理みたい。来年は是非ッ!(...と意気込みだけはいつもあるんですけどね)。
by 堀越ヨッシー (2008-12-25 09:02)
ヨッシーさん、こんばんは!
クリスマスイブの話ではありますが、いつ観てもいいと思います。
機会があったらぜひ!
ちょっと落ち込みモードの時がオススメですが・・・そんな時はない!?
>テレビで『素晴らしき哉、人生』を見ようよ
ああ、そういうトリビア好き!
バットマン&ロビンにとっても、ゆっくりTVが観られる=街が平和だってことですよね〜。
by dorothy (2008-12-26 00:55)
僕もこの作品は傑作だと思います。
特に、「一人の命は大勢の人生に影響しているんだ…」の件は
何度観ても泣けますね。
それにしてもヨッシーさんのバットマントリビアも面白いですねえ。
by ken (2009-01-08 01:49)
kenさん、コメント& nice!ありがとうございます。
こういうクラシックものには、
ヨッシーさんのバットマントリビアのようなのがたくさんあるんでしょうね。
そういうのを知っててニヤリ、みたいなのも映画の楽しみですよね。
by dorothy (2009-01-08 02:20)
少し前、drothyさんのプロフィールを見て
今日たまたま、近くの美術館、(ここでDVDやLDなんかが)
で見ました。気になっていたので、ひょっとしたらと思い。
クラレンスが現れてからのクライマックスは、
胸が熱くなり、ほんと感動しながら観ていました。
正直、込み上げる涙を堪えるのが大変でした。
これからも、いい作品紹介を宜しくお願いします。
”Isn't Life Wonderful”サイコー♬
DVDアマゾンに発注しちゃった。ワンコインだったし。(>。∂)
by ぷーちゃん (2010-05-15 18:24)
ぷーちゃんさん、こんにちは。
良かったでしょ〜!これ観るとちゃんと生きなきゃなーって思いますよ。
私も最近また自分を見失いつつあるんでw 観てみるかなあ。
しかしワンコインですか。イイ時代です。
by dorothy (2010-05-15 19:50)
大好きな映画です。落ち込んだ時に見たりします。
フランク・キャプラでは『スミス都へ行く』もいいですね。
by galapagos (2010-07-31 14:53)
galapagosさん、はじめまして。
『スミス都へ行く』私も大好きです。
これからもキャプラタッチには時々助けてもらうことになると思ってます。
by dorothy (2010-08-01 01:07)