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ゾディアック [映画感想−さ]

デヴィッド・フィンチャーは新作が楽しみな監督の1人。
残念ながら、あっという間に上映が終わってしまって劇場で鑑賞できず、
悔しい思いをした作品です。


1969年7月4日、カリフォルニア州バレーホで若いカップルが拳銃で襲われ、
直後「2人を殺した」と警察に通報が入ります。
それから約1ヶ月後、サンフランシスコ・クロニクル紙に1通の手紙が届きます。
それは犯人しか知りえない事件の詳細、不気味な暗号文、
そしてこの文章を1面に掲載しなければ次の事件を起こすという脅迫文でした。
記者のポール・エイブリー(ロバート・ダウニー・Jr.)と、
風刺漫画家のロバート・グレイスミス(ジェイク・ジレンホール)は、
この事件に深く興味を持ち、事件の解明に没頭していきます。
また、サンフランシスコ市警の刑事デイブ・トースキー(マーク・ラファロ)と、
ビル・アームストロング(アンソニー・エドワーズ)も執拗に事件を追いますが、
その後も殺人事件は続き、犯行声明の手紙も届き続け・・・。


漫画家・グレイスミス
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実際に事件が未解決であるため、当然ながら真犯人が登場するはずもなく、
これといってドラマティックな展開もありません。
ただひたすら"ゾディアック"と名乗る連続殺人犯の影を追い求め、
そしてそのことによって人生を狂わされていく男たちの姿を追い続けていきます。
新聞社の中で事件を追う2人組・・・ということで、エイブリーとグレイスミスの姿は、
『大統領の陰謀』のロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマンを彷彿とさせます。
ですがそれはあくまで"見た目"だけの問題。
記者と漫画家の関係性は仕事上では常に上下関係を作っているし、
2人のあいだに友情は芽生えそうで、結局は苦い別れ方をする点が妙にリアルに感じられました。

フィンチャーお得意のと言ってもいい、CGによる凝った映像は今回は控えめ。
時代設定が主に70年代ということもあって、
冒頭のワーナーブラザーズとパラマウントのロゴが古いタイプのものだったり、
全体に赤みがかった映像、衣装やヘアスタイル、小物などが完璧に70年代を再現しており、
その当時の作品ではないかと錯覚しそうになります。
そう言えばその当時の作品と言うと、劇中にも登場する『ダーティハリー』。
『ダーティハリー』はこのゾディアック事件をモデルにしているそうで、
なるほどスクールバスが登場するあたり、かなりそのまんまと言えそうです。
それにしても事件が始まったのが69年で『ダーティハリー』は71年の作品。
フットワーク良すぎというか、まだこの時点では思いっきり現在進行形。
ここで映画にしてしまうというのは、ハリーなみの無謀さというか。
劇中、この『ダーティハリー』を観るシーンが登場しますが、
トースキーの反応にものすごく納得しました。
名作も当事者にとってみれば、そりゃあやってられない!だったかも知れません。


新聞記者・エイブリー
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何人かの容疑者が登場し、彼らはそれぞれ限りなくその容疑者に近づきますが、
証拠不十分としていずれも決め手に欠け、"取り逃がし"てしまいます。
現代であればDNA鑑定やプロファイリングなんてことが登場するところでしょうが、
70年代当時、管轄の違う署と情報交換するのにFAXすらなかったりします。
筆跡鑑定も鑑定士が大きなルーペで見比べて、その鑑定士の経験による判断しかされません。
1つでNOが出てしまえば、そこでストップしてしまう。
そんなことの繰り返しは、事件を追うトースキーたちの神経をすり減らし、
それは観ているこちら側にももどかしさを与えます。
このもどかしさこそが、この作品でフィンチャーが描きたかったことなのではないでしょうか。

登場人物たちは、次第に事件を追うことから脱落していきます。
ある者は家族のために自ら身を引き、またある者は心身共に壊れてしまい、
ある者は事件を追う立場そのものを失います。
連続殺人が途切れると、未解決であっても世間の関心はやがて薄れ始めます。
それでも追わずにはいられない心理。
立場として終えなくなっても常に心のどこかで追い求め続けている彼らの姿に、
どうしてそこまで?と思わずにはいられませんが、そう問い掛けながら、
その止められない心理も充分にこちら側に伝わって来るのです。


刑事・トースキー
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この作品の原作者でもあるグレイスミスを演じるジェイク・ジレンホール。
新聞社にいたとはいえ、風刺漫画家というまったく事件と関わりのない彼の立場は、
そのため観ているこちら側と同等とも言え、
彼のもどかしさはそのまま観客側の思いを代弁しているようでもあります。
ラストの”対面シーン"は、盛り上がりの少ないこの作品の中で、
何かがぐらりと動かされるシーンでした。
新聞記者エイブリーを演じるロバート・ダウニー・Jr.。
一見ハデでアタマも切れますが、偏見と売名行為とも取れる行動でその立場を失い、
やがて酒やクスリに溺れていきます。
自身の実生活とも重なるような役をきっちりやってのけていて、
本当に最近の彼の仕事ぶりは素晴らしい。
刑事トースキー役のマーク・ラファロ。
常にどこか不安げで、常に苛立ちを抱えているような、
これも彼の得意とするところと言えそうです。
髪型やファッションなどが一番時代を反映していて、これは観ていて楽しくすらありました。

ほかに4人目の男とも言える、トースキーの相棒アームストロング役のアンソニー・エドワーズ。
カツラが不自然(!)なのがちょっと気になってしまいましたが・・・。
こんな小さなポジションでいいの?と思えるダーモット・マローニー、
個人的に勝手に”カナダのデ・ニーロ”と呼んでいるイライアス・コティーズと、
容疑者の1人を演じるジョン・キャロル・リンチの存在感も忘れられません。

フィンチャーで連続殺人とくれば、イヤでも『セブン』を連想させますが、
映像表現に共通するものは当然ながら随所に見受けられるのですが、
『セブン』と圧倒的に違う点は、これが事実に基づいた話であり、
フィンチャー自身が相当リサーチし、ドキュメンタリーを作るかのように丁寧に、
まさに"渾身の"と言える作品となっていること。
『セブン』的な驚きや盛り上がりを望むとすれば、この作品はただただ長く、
退屈でどうしようもなくつまらない作品と言えるのかも知れません。
実際、この作品に対する評価はそういうものが少なくありません。
ただおそらく、フィンチャー自身が目指したものはそういう娯楽作品ではなかったはずです。
もう一度『セブン』を作る気はなかったでしょう。
2時間38分の長尺は、登場人物たちの経験した20年以上もの年月を味わうに充分な時間とも言え、
良い意味での後味の悪さを堪能できる、素晴らしい作品でした。


Zodiac(2007 アメリカ)
監督 デヴィッド・フィンチャー
出演 ジェイク・ジレンホール マーク・ラファロ アンソニー・エドワーズ ロバート・ダウニー・Jr.
   ブライアン・コックス ジョン・キャロル・リンチ クロエ・セヴィニー イライアス・コティーズ
   ドナル・ローグ ダーモット・マローニー フィリップ・ベイカー・ホール クレア・デュヴァル




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堀越ヨッシー

デヴィッド・フィンチャー大好きなんですが、オイラも「ゾディアック」は劇場公開を見そびれてしまいました。で、レンタルで見たんですが、これがなかなか見応えのあるドラマで、改めて劇場で見なかった事を後悔した次第です。確かに地味な作品ではありますが、要所要所にフィンチャーらしい恐怖の演出が盛り込まれていて、ドキドキもんでした。キャストも地味(苦笑)ですが、皆実力派だし、見ていてぐんぐんドラマに引き込まれてしまいました。
やっぱフィンチャーの映画は面白い!、これからも要チェックな監督ですね!(^皿^)。
by 堀越ヨッシー (2008-10-27 07:19) 

dorothy

堀越ヨッシーさん、コメント& nice!ありがとうございます。
フィンチャー監督の新作『ベンジャミン・バトン』が今から楽しみ!
今度は絶対に劇場で観たいです。
by dorothy (2008-10-28 01:09) 

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