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私がクマにキレた理由 [映画感想−わ]

またもやイマイチ居心地のよくない邦題・・・。
そのせいであまり興味の無かった作品だったのですが。


アニー(スカーレット・ヨハンソン)は大学で人類学を専攻し、優秀な成績で卒業。
金融関係への就職を目指し面接へ向かいます。
ところがちょっとしたことでその面接に失敗。
セントラルパークで将来について思い悩んでいたところ、
5歳の少年グレイヤー(ニコラス・リース・アート)と、
その母ミセスX(ローラ・リニー)に偶然出会います。
グレイヤーの子守(ナニー)を探していたミセスXは、
アニーをナニー志望と勘違いしてしまいますが、
アニーもなぜかその気になってしまい、X家に住み込みで働くことになり・・・。


私って何?
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冒頭、アッパーイーストサイドに住むリッチな人たちの生態を、
博物館のジオラマにして見せるシーンがあって、これが実に的確で面白い。
アニーの専攻が人類学であることから、人間観察という視点で物語が語られていきます。
そういうわけで全編、このアニーのナレーションで話が進むのですが、
グレイヤーの両親を"ミスターX""ミセスX"とし、最後まで本名を明かさなかったり、
(名刺や表札、手紙などすべて徹底して"X"表記!)
グレイヤーにも仲良くなるために別の名前を付けてみたり、
X家と同じアパートの上階に住む、アニーが親しくなるカレを、
"Harvard Hottie"(ハーヴァードのイイ男!)として、
これまた名前はずっと伏せられたままだったりという、ちょっと変わった文学的演出。
・・・と思ったら、原作の『ティファニーで子育てを』がそうだからだそうで、
この原作ではアニーの名前もそのまんま"ナニー"なのだそうです。
なぜそうするかはそれぞれアニーのナレーションで説明されるのですが、
ミセスXがずっとアニーのことをナニーとしか呼ばないことの裏返しというか、
皮肉な表現とも言えそうです。


手に負えない悪ガキかと思いましたが
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まったく、この作品に出てくる"ミセスXたち"にはあきれてしまいます。
こういう人種が普通にいるという、その異常な世界を実感させられました。
「母親とナニーの会」の様子なんて、なんだか奴隷制度の時代みたいで気持ちが悪い。
お金持ちが慈善事業に励んだりすることはもちろん悪いことではないですが、
その陰で子どもたちは確実に犠牲になっていると思うし、
マイノリティの職としてナニーという存在は必要かも知れませんが、
人間性が完全に無視された世界ってどうなのだろう?と思う。これが現代の話なんて!

そんなちょっとイヤな現実を見せつつも、基本はコメディ。
でも、随所に登場する印象的な演出が、単なるコメディに終わらせていません。
アニーが赤い傘でマンハッタン上空を漂う印象的なシーンが何度か登場するのですが、
これはズバリ『メリー・ポピンズ』のオマージュとのこと。
確かにメリー・ポピンズ=ナニーだ!
劇中アニーがグレイヤーに一番長い英単語として、
「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」を教えるシーンも登場します。
監督のシャリ・スプリンガー・バーマンとロバート・プルチーニは、
『アメリカン・スプレンダー』の監督。
『アメリカン〜』も独特の雰囲気を持った作品でしたが、
そう考えると今作のちょっと変わった作りも納得です。


母親業0%、ミセスX
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キャストがいつもとタイプの違う役柄を演じていることも興味深いです。
スカーレット・ヨハンソンのこういう普通の女の子役というのは、意外と珍しいかも知れません。
『イン・グッド・カンパニー』での役がこれに近かったかな?
ミセスX役のローラ・リニーは『イカとクジラ』などでも、
自己中心的で困った母親を演じたりもしていますが、ここまでイヤミな役は珍しいと思います。
ポスト・メリル・ストリープと言われ続けている彼女ですが、
こういう"悪役"もそろそろ似合って来る年代になってきた感じです。
メリル・ストリープの迫力には、まだちょっと及びませんが。
高慢、傲慢、自分勝手で自己中心的で・・・というミセスXの性格ですが、
彼女には彼女なりの深い悩みがあり、自分でどうすることもできなくなっているというのも事実。
そこにアニーと同様、観ているこちら側も哀れみのようなものを感じてしまいます。

ミスターXはポール・ジアマッティ。
彼もいつもはサエない中年男なんて役が多いですが、
今回はお金持ちだし愛人はいるし・・・と、かなり意外。
ミスターXは最初、なかなか顔を見せてくれない演出なのですが、
いよいよ顔を見せたときは「おおっ!」と思ってしまいました。
ポール・ジアマッティが出ていることは知ってたのですが何の役かは知らず、
まさか彼が・・・と思ってビックリ。
意外、ではないですが、期待以上なのはアニーの親友役リネットのアリシア・キーズ。
『スモーキン・エース 暗殺者がいっぱい』でも芸達者なところを見せていましたが、
今回の彼女もすごくいいです。仕草やセリフの言い回しが自然で、いちいちカッコイイ!


"ハーヴァードのイイ男"との関係は・・・
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"ハーヴァードのイイ男"はクリス・エヴァンス。
ちょっとキャラクターとしては弱いかな、と思いましたが、
お金持ちのおぼっちゃまだけどイイ人に育った成功例としての感じの良さを出していました。
アニーがナニーの仕事をなかなか辞められなかったのは、
グレイヤーに対するシンパシーが大きかったからだと思いますが、
このハーヴァードのカレの存在もあったと思います。
彼こそグレイヤーの十数年後の姿。ここでグレイヤーを見捨ててしまったら、
彼のどうしようもない友人たちのように育ちかねない。
できればこんな風にイイ人に成長して欲しい。
そんな思いもあったんじゃないかと思いました。

ナニーという職業を通して初めて社会を経験して、
そして"クマにキレ"て、アニーは成長していきます。
大学を卒業してすぐに自分の道を決めるなんて、本当は簡単にできることじゃない。
大概は面接でマニュアル通りの自己PRをして、うまいこと会社に入って、
そうやってなんとなく進む道を決めてしまうのかも知れません。
アニーがあまり深く考えることもなくナニーの仕事を選んだのは、
ちょっと無責任というか、考えナシにも思えましたが、
結果的にはナニーという回り道をすることで自分の道を見つけることになり、
それは決して無駄ではなかったはずです。
最後のキレ方もグッドジョブ!・・・ちょっと都合良く行きすぎではありましたが。
(あのテープ、普通なら事前にチェックしますよね)
なんにしても、クマはそんなに重要じゃないですよ・・・ね?


The Nanny Diaries(2007 アメリカ)
監督 シャリ・スプリンガー・バーマン ロバート・プルチーニ
出演 スカーレット・ヨハンソン ローラ・リニー ポール・ジアマッティ ニコラス・アート
   アリシア・キーズ クリス・エヴァンス ドナ・マーフィー




私がクマにキレた理由 (特別編)〔初回生産限定〕 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • メディア: DVD


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ぷーちゃん

こんばんは、
”クマ”に監視なんてさせないから、
1日スカーレットと一緒にいられたらなぁ。。。
by ぷーちゃん (2009-07-28 02:56) 

dorothy

こんなキュートなナニーなんて、グレイヤー少年、うらやましいですネ。
コメント& nice!ありがとうございました。
by dorothy (2009-07-29 03:14) 

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