大いなる遺産 [映画感想−あ]
これまでに何度も映画・ドラマ化されているチャールズ・ディケンズの名作。
これはその中の、1946年デヴィッド・リーン監督作品です。
両親を亡くし、姉夫婦に育てられている少年ピップ。
ある日、両親の墓のある沼地で1人の脱獄囚を助けます。
それから1年後。ピップは近所に暮らす変わり者で知られる、
ミス・ハビシャムの家に呼ばれます。
彼を屋敷に迎え入れたのはエステラという名の美少女。
彼女に淡い恋心抱いたピップは、毎週この大邸宅を訪れるようになりますが、
14歳になり、義兄の鍛冶屋の見習いになることになり訪問をやめます。
そして6年後、20歳になったピップの元にロンドンから弁護士が訪ねて来て、
ピップがある人物の莫大な遺産を相続することになったと告げます・・・。
少年は脱獄囚を助ける
ディケンズの原作は恥ずかしながら未読。
98年にアルフォンソ・キュアロンが監督したものは観ましたが、
ハッキリ言っていまいちピンと来ない作品でした。
謎の夫人を演じるアン・バンクロフトのインパクトしか記憶にありません。
10年経って、もう一度観てみると違う感想も持てるかも知れませんが・・・。
さて今作ですが、舞台設定は原作通りの19世紀初頭。
当時のイギリスの階級社会が巧みに表現されており、
また、さすがデヴィッド・リーンと言えそうな優雅で細やかで、かつ大胆な映像は、
隅々まで実に魅力的で見応えがあります。
前半の少年ピップの視点で見る世界・・・裕福とは言えない自分の家と、
大きいけれど廃墟のような大邸宅の違い。傲慢だけれど惹かれてしまう少女の美しさ。
少年期の未熟さの中で過ごす世界は狭く、未知なるもので溢れています。
そして青年となったピップは莫大な遺産を相続し、ロンドン暮らしを始めることになりますが、
単に成長しただけでなく、暮らしのすべてがこれまでと異なり、
いろいろなものが見えて来て、また彼自身のものの見方も変わってきます。
謎の老女と美少女の正体は・・・
成長したピップがロンドン生活の中で少しずつ洗練され"紳士"となっていく過程、
エステラへの届かない想い、そして彼のパトロンがいったい誰なのか、
そのパトロンが明らかになってからの展開など実にドラマが多く、
どこか寓話的ですらあった少年期と違い、次々と起こる出来事はスリリングですらあります。
また登場人物それぞれが実に個性的で、見応えがあるのも作品を面白くさせていると言えます。
成長したピップを演じるジョン・ミルズは、田舎から都会へ出てきた青年の機微をうまく演じていますが、
この時すでに38歳で、さすがに20歳の青年を演じるのには額のシワが深すぎ。
この点だけが、この作品中ちょっと残念な部分でした。
ピップの親友ハーバートを演じるのはアレック・ギネス。
これは彼の映画デビュー作だそうで、彼もこの時すでに32歳ですが、
ジョン・ミルズよりはまだ青年に見えます。
サー・アレック・ギネス。若い!
バーナード・ミルズ演じる、人の良いピップの義兄ジョー、
フランシス・L・サリヴァンの合理的でエネルギッシュな弁護士ジャガーズ、
この2人の存在感も素晴らしい。
そして少女時代のエステラを演じるジーン・シモンズの美しさ。
強気で何かとピップに冷たく接する姿は若いヴィヴィアン・リーのようです。
デヴィッド・リーンというと『戦場にかける橋』や『アラビアのロレンス』など、
"超大作"を作る監督というイメージだったのですが、
初期のこういった"小品"も、格調高くきっちりと作ってあるのはさすがです。
でもそんな中に意外な構図が見え隠れしたり、細かい心の動きを音楽や効果音で表したりといった、
60年以上前の作品とは思えない大胆な演出も見られます。
沼地での光と影。風のざわめき。心の声。ホコリや蜘蛛の巣で覆われながらも美しい屋敷。
夜に漕ぎ出す小舟。雑踏の中をふらつきながら歩くピップ。
運命に翻弄され、すべて他者に振りまわされるように生きてきた彼が、
"幕引き"ではなく、”幕を開ける”ことによって自分自身の人生を歩み始めるラストの素晴らしさ。
クラシックの名品。機会があればぜひ。
Great Expectations(1946 イギリス)
監督 デヴィッド・リーン
出演 ジョン・ミルズ ヴァレリー・ボブソン ジーン・シモンズ バーナード・ミルズ
フランシス・L・サリヴァン アレック・ギネス
これはその中の、1946年デヴィッド・リーン監督作品です。
両親を亡くし、姉夫婦に育てられている少年ピップ。
ある日、両親の墓のある沼地で1人の脱獄囚を助けます。
それから1年後。ピップは近所に暮らす変わり者で知られる、
ミス・ハビシャムの家に呼ばれます。
彼を屋敷に迎え入れたのはエステラという名の美少女。
彼女に淡い恋心抱いたピップは、毎週この大邸宅を訪れるようになりますが、
14歳になり、義兄の鍛冶屋の見習いになることになり訪問をやめます。
そして6年後、20歳になったピップの元にロンドンから弁護士が訪ねて来て、
ピップがある人物の莫大な遺産を相続することになったと告げます・・・。
少年は脱獄囚を助ける
ディケンズの原作は恥ずかしながら未読。
98年にアルフォンソ・キュアロンが監督したものは観ましたが、
ハッキリ言っていまいちピンと来ない作品でした。
謎の夫人を演じるアン・バンクロフトのインパクトしか記憶にありません。
10年経って、もう一度観てみると違う感想も持てるかも知れませんが・・・。
さて今作ですが、舞台設定は原作通りの19世紀初頭。
当時のイギリスの階級社会が巧みに表現されており、
また、さすがデヴィッド・リーンと言えそうな優雅で細やかで、かつ大胆な映像は、
隅々まで実に魅力的で見応えがあります。
前半の少年ピップの視点で見る世界・・・裕福とは言えない自分の家と、
大きいけれど廃墟のような大邸宅の違い。傲慢だけれど惹かれてしまう少女の美しさ。
少年期の未熟さの中で過ごす世界は狭く、未知なるもので溢れています。
そして青年となったピップは莫大な遺産を相続し、ロンドン暮らしを始めることになりますが、
単に成長しただけでなく、暮らしのすべてがこれまでと異なり、
いろいろなものが見えて来て、また彼自身のものの見方も変わってきます。
謎の老女と美少女の正体は・・・
成長したピップがロンドン生活の中で少しずつ洗練され"紳士"となっていく過程、
エステラへの届かない想い、そして彼のパトロンがいったい誰なのか、
そのパトロンが明らかになってからの展開など実にドラマが多く、
どこか寓話的ですらあった少年期と違い、次々と起こる出来事はスリリングですらあります。
また登場人物それぞれが実に個性的で、見応えがあるのも作品を面白くさせていると言えます。
成長したピップを演じるジョン・ミルズは、田舎から都会へ出てきた青年の機微をうまく演じていますが、
この時すでに38歳で、さすがに20歳の青年を演じるのには額のシワが深すぎ。
この点だけが、この作品中ちょっと残念な部分でした。
ピップの親友ハーバートを演じるのはアレック・ギネス。
これは彼の映画デビュー作だそうで、彼もこの時すでに32歳ですが、
ジョン・ミルズよりはまだ青年に見えます。
サー・アレック・ギネス。若い!
バーナード・ミルズ演じる、人の良いピップの義兄ジョー、
フランシス・L・サリヴァンの合理的でエネルギッシュな弁護士ジャガーズ、
この2人の存在感も素晴らしい。
そして少女時代のエステラを演じるジーン・シモンズの美しさ。
強気で何かとピップに冷たく接する姿は若いヴィヴィアン・リーのようです。
デヴィッド・リーンというと『戦場にかける橋』や『アラビアのロレンス』など、
"超大作"を作る監督というイメージだったのですが、
初期のこういった"小品"も、格調高くきっちりと作ってあるのはさすがです。
でもそんな中に意外な構図が見え隠れしたり、細かい心の動きを音楽や効果音で表したりといった、
60年以上前の作品とは思えない大胆な演出も見られます。
沼地での光と影。風のざわめき。心の声。ホコリや蜘蛛の巣で覆われながらも美しい屋敷。
夜に漕ぎ出す小舟。雑踏の中をふらつきながら歩くピップ。
運命に翻弄され、すべて他者に振りまわされるように生きてきた彼が、
"幕引き"ではなく、”幕を開ける”ことによって自分自身の人生を歩み始めるラストの素晴らしさ。
クラシックの名品。機会があればぜひ。
Great Expectations(1946 イギリス)
監督 デヴィッド・リーン
出演 ジョン・ミルズ ヴァレリー・ボブソン ジーン・シモンズ バーナード・ミルズ
フランシス・L・サリヴァン アレック・ギネス
タグ:映画
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