グッドナイト&グッドラック [映画感想−か]
劇場に観に行こうと思った時には終わっていました。
・・・このパターンが実に多くて本当に悲しくなるのですが、
確かにこういう内容では、日本ではなかなかお客さんは入らないかなあとも思いました。
1950年代初頭、ソ連との冷戦状態にあったアメリカは、
共産主義者排除のいわゆる「赤狩り」の嵐が吹き荒れていました。
マッカーシー上院議員が中心となって、学者やマスコミ、一般市民までもが標的となり、
少しでもリベラルな活動をしたり、政府に反抗的態度を取るものは密告され共産主義者と認定され、
職や地位を失います。
誰もが自分が標的にされるのを恐れ、口を閉ざしました。
CBSの報道番組『See It Now』のキャスター、エド・マローと番組スタッフたちは、
そんな世の中に違和感を持ちながらも、日々番組制作を行っていました。
そしてある日、マローが地方紙の小さい記事を見つけます。
それは、ある空軍兵士の身内が共産主義と疑われ、除隊されそうになっているというもので、
彼らはこの事件を番組で取り上げることを決意します。
彼らの目指したものは?
「赤狩り」と聞いて思い出すのはチャップリンやエリア・カザンといった映画人の名前ぐらい。
この当時を舞台にした映画などを観るとよく出てくるキーワードではあるのですが、
キチンと説明しろと言われると、それはちょっと、となってしまいます。
この作品は、このことをある程度把握していないとあまり理解できない内容だと思うし、
今の日本で、それをわかってこの作品について行ける人はかなり少数なのではと思います。
そういう意味で冒頭の「日本ではお客さん入らないよなあ」の感想になったわけですが。
実際のニュースフィルムなどを多用し、本物のマッカーシーの映像もたっぷりと見せます。
マッカーシーを役者にやらせるのではなく、本物の映像を使うことによって、
ドキュメンタリーを観ているような気分にさせられます。
このマッカーシーの映像を見る限り、この人の言動の矛盾点は明かであり、
これを見せられた視聴者も同じように彼に不信感を持つ結果となるのですが、
実際の番組作りがどのように行われたのか、
スタッフはどういう思いで番組を作り続けていたのか、ということは、
もちろんこれだけではわかりません。
抑えた演技で脇にまわったジョージ・クルーニー
共産主義者であると勝手に判断され、そのために立場を失っていく人たちがいることを見過ごせない、
そのこと自体は正しいことだと思います。
密告し合ったり、お互い疑心暗鬼になりながら日々を過ごすというのはどう考えても異常なことであり、
そのことに疑問を持ち、そしてそれを報道番組を作るものとして、
世間に知らしめようとする行為は実に正しいと思います。
ただそれが、マローをはじめとするスタッフたちの中でどのくらい切実なものとしていたのか、
どれほどの思いがあったのか、ということが、私には今ひとつ伝わりませんでした。
エド・マローを演じるデヴィッド・ストラザーンの、
終始何か思い詰めたような硬い表情が、何を憂いているのか、
そしてなぜ彼をここまで動かしたのか、ということがよくわかりませんでした。
これが実話であって、アメリカ人にとっては周知のことであるからなのかなとも思いましたが。
本物のエド・マローの写真を見ると確かに憂い顔で、ストラザーンはよく特徴を出していたと思います。
上映時間90分ほどで、無駄なものを一切そぎ落としたようなまとめ方であり、
その潔さはとても好ましいのですが、
ここまで説明が少ないと、私の理解力では追いつけない感じです。
もう一つわからなかった点は、ロバート・ダウニー・Jr.とパトリシア・クラークソンのカップル。
この二人のことだし、要所要所で意味ありげで、てっきり何かあると思っていたんですが、
最後に二人が夫婦であるということを理由に解雇される、というだけ?
"職場結婚禁止"というのも時代を感じさせるものなのかなとも思うのですが。
”秘密”のカップル
監督のジョージ・クルーニーの父親は実際にニュースキャスターで、
彼自身もジャーナリスト志望だったそうです。
この作品の前に監督した『コンフェッション』では、
テレビ番組『ゴングショー』の司会者チャック・バリスを描いていますし、
テレビというメディアに相当こだわりがあるのではと言われているようです。
両方を観て感じるのは、ジョージ・クルーニーという人は意外(?)にマジメな人なのではないかということです。
この作品も、もう少し娯楽寄りにすることも出来たと思うのですが、
そうはせず、淡々と事実のみを積み上げていくような作りで、
それはとても好感の持てるものなのですが、
結果的に私のような勉強不足、理解力不足な者には冷たい作りになっているとも思えます。
全編モノクロ作品。それも白は白、黒は黒とかなりコントラストがはっきりしていて、
これは、映画的な光と影ではなく、テレビのスコーンと明るい照明を意識したのではないかなと思いました。
そんな固い映像に紗をかけるかのように燻り続けるタバコの煙、煙、煙。
タバコ会社がスポンサーだったことが途中で示されますが、それにしても!
観ているだけで目やノドが痛くなりそうでした。
劇伴が一切なく、ダイアン・リーヴスのゆったりとしたジャズが要所要所で使われているのですが、
これがとても素晴らしい。
スタジオでライブ演奏している、という設定で、
イメージしたのはビリー・ホリデイかサラ・ヴォーンか。
さすが、身内にジャズシンガーを持つ監督ならではのこだわりでしょうか?
Good Night, and Good Luck.(2005 アメリカ)
監督 ジョージ・クルーニー
出演 デヴィッド・ストラザーン パトリシア・クラークソン ロバート・ダウニー・Jr.
ジェフ・ダニエルズ ジョージ・クルーニー フランク・ランジェラ
・・・このパターンが実に多くて本当に悲しくなるのですが、
確かにこういう内容では、日本ではなかなかお客さんは入らないかなあとも思いました。
1950年代初頭、ソ連との冷戦状態にあったアメリカは、
共産主義者排除のいわゆる「赤狩り」の嵐が吹き荒れていました。
マッカーシー上院議員が中心となって、学者やマスコミ、一般市民までもが標的となり、
少しでもリベラルな活動をしたり、政府に反抗的態度を取るものは密告され共産主義者と認定され、
職や地位を失います。
誰もが自分が標的にされるのを恐れ、口を閉ざしました。
CBSの報道番組『See It Now』のキャスター、エド・マローと番組スタッフたちは、
そんな世の中に違和感を持ちながらも、日々番組制作を行っていました。
そしてある日、マローが地方紙の小さい記事を見つけます。
それは、ある空軍兵士の身内が共産主義と疑われ、除隊されそうになっているというもので、
彼らはこの事件を番組で取り上げることを決意します。
彼らの目指したものは?
「赤狩り」と聞いて思い出すのはチャップリンやエリア・カザンといった映画人の名前ぐらい。
この当時を舞台にした映画などを観るとよく出てくるキーワードではあるのですが、
キチンと説明しろと言われると、それはちょっと、となってしまいます。
この作品は、このことをある程度把握していないとあまり理解できない内容だと思うし、
今の日本で、それをわかってこの作品について行ける人はかなり少数なのではと思います。
そういう意味で冒頭の「日本ではお客さん入らないよなあ」の感想になったわけですが。
実際のニュースフィルムなどを多用し、本物のマッカーシーの映像もたっぷりと見せます。
マッカーシーを役者にやらせるのではなく、本物の映像を使うことによって、
ドキュメンタリーを観ているような気分にさせられます。
このマッカーシーの映像を見る限り、この人の言動の矛盾点は明かであり、
これを見せられた視聴者も同じように彼に不信感を持つ結果となるのですが、
実際の番組作りがどのように行われたのか、
スタッフはどういう思いで番組を作り続けていたのか、ということは、
もちろんこれだけではわかりません。
抑えた演技で脇にまわったジョージ・クルーニー
共産主義者であると勝手に判断され、そのために立場を失っていく人たちがいることを見過ごせない、
そのこと自体は正しいことだと思います。
密告し合ったり、お互い疑心暗鬼になりながら日々を過ごすというのはどう考えても異常なことであり、
そのことに疑問を持ち、そしてそれを報道番組を作るものとして、
世間に知らしめようとする行為は実に正しいと思います。
ただそれが、マローをはじめとするスタッフたちの中でどのくらい切実なものとしていたのか、
どれほどの思いがあったのか、ということが、私には今ひとつ伝わりませんでした。
エド・マローを演じるデヴィッド・ストラザーンの、
終始何か思い詰めたような硬い表情が、何を憂いているのか、
そしてなぜ彼をここまで動かしたのか、ということがよくわかりませんでした。
これが実話であって、アメリカ人にとっては周知のことであるからなのかなとも思いましたが。
本物のエド・マローの写真を見ると確かに憂い顔で、ストラザーンはよく特徴を出していたと思います。
上映時間90分ほどで、無駄なものを一切そぎ落としたようなまとめ方であり、
その潔さはとても好ましいのですが、
ここまで説明が少ないと、私の理解力では追いつけない感じです。
もう一つわからなかった点は、ロバート・ダウニー・Jr.とパトリシア・クラークソンのカップル。
この二人のことだし、要所要所で意味ありげで、てっきり何かあると思っていたんですが、
最後に二人が夫婦であるということを理由に解雇される、というだけ?
"職場結婚禁止"というのも時代を感じさせるものなのかなとも思うのですが。
”秘密”のカップル
監督のジョージ・クルーニーの父親は実際にニュースキャスターで、
彼自身もジャーナリスト志望だったそうです。
この作品の前に監督した『コンフェッション』では、
テレビ番組『ゴングショー』の司会者チャック・バリスを描いていますし、
テレビというメディアに相当こだわりがあるのではと言われているようです。
両方を観て感じるのは、ジョージ・クルーニーという人は意外(?)にマジメな人なのではないかということです。
この作品も、もう少し娯楽寄りにすることも出来たと思うのですが、
そうはせず、淡々と事実のみを積み上げていくような作りで、
それはとても好感の持てるものなのですが、
結果的に私のような勉強不足、理解力不足な者には冷たい作りになっているとも思えます。
全編モノクロ作品。それも白は白、黒は黒とかなりコントラストがはっきりしていて、
これは、映画的な光と影ではなく、テレビのスコーンと明るい照明を意識したのではないかなと思いました。
そんな固い映像に紗をかけるかのように燻り続けるタバコの煙、煙、煙。
タバコ会社がスポンサーだったことが途中で示されますが、それにしても!
観ているだけで目やノドが痛くなりそうでした。
劇伴が一切なく、ダイアン・リーヴスのゆったりとしたジャズが要所要所で使われているのですが、
これがとても素晴らしい。
スタジオでライブ演奏している、という設定で、
イメージしたのはビリー・ホリデイかサラ・ヴォーンか。
さすが、身内にジャズシンガーを持つ監督ならではのこだわりでしょうか?
Good Night, and Good Luck.(2005 アメリカ)
監督 ジョージ・クルーニー
出演 デヴィッド・ストラザーン パトリシア・クラークソン ロバート・ダウニー・Jr.
ジェフ・ダニエルズ ジョージ・クルーニー フランク・ランジェラ
タグ:映画
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