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イカとクジラ [映画感想−あ]

『イカとクジラ』とはニューヨークにあるアメリカ自然史博物館にあるジオラマのことです。
薄暗い建物内にあるその巨大な物体は、大人でも何かわからない恐ろしさを感じます。
小さい子どもならなおのこと、軽いトラウマになる可能性もあります。
そんなタイトルの付いたこの作品。どれもこれもがリアルで重苦しい。
行き場を失った4人家族の物語です。


1986年ニューヨーク、ブルックリン。
16歳のウォルトと12歳のフランク兄弟の両親は共に作家。
しかし父は最近まったく作家として売れず、大学で教鞭を執っています。
一方母は「ニューヨーカー」誌でのデビュー間近で少しだけ前途は明るい。
何かと衝突を繰り返していた二人は、ついに離婚を決めます。
兄弟は両方の家を行き来する生活を強いられますが、
兄は母の不倫を知り父側に付き、弟はストレスのためか奇行を繰り返し始めます。


大人になりきれていない父と母
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同じ作家が主人公で、夫婦が不仲になって・・・という点で
トッド・ウィリアムズの(というよりジョン・アーヴィングの)
『ドア・イン・ザ・フロア』を少し思い出しました。
ベッドにブラとパンティを並べるシーンが出て来たりもして、
あれって男子はよくやることなのでしょうか?
ただ、『ドア・イン・ザ・フロア』の夫婦の不仲には悲しい理由がありましたが、
『イカとクジラ』の夫婦は決定的な理由があるわけではなく、
日々の細々した問題の積み重ねが完璧に夫婦仲を壊してしまっている。
それも、確実に夫の性格によるところが大きいと思われます。
世の夫婦間の問題は、概ねこういう日々の積み重ねによる破綻のほうが一般的でしょう。
ニューヨークのインテリ作家夫婦でなくとも、です。
それに振り回されるのはいつでも子どもたち。
特に思春期真っ只中の兄と、入口にいる弟にとって、
自分自身の悩みも重なり、ストレス以外の何ものでもありません。
兄はそれでもいくらか自己を確立し始めているので、自分の価値観で対処しようとはしますが、
幼い弟は発露を見出せず、飲酒に始まり、どんどん奇行が進んでいきます。


両親の不和は兄弟にも重くのしかかる
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兄のウォルトはそもそも父を尊敬しており、父親の言うことはなんでも鵜呑みにします。
母に「父親にそっくり」と言われるぐらい、彼も少し性格に難ありです。
一方弟のフランクは、年齢的なものもあるのでしょうが母親から離れたくありません。
父と母のあいだだけでなく、母と兄も何かと言い争いをしてしまう。
この弟にどれほどの心労があったことでしょう。

監督のノア・バームバックが実際に高校時代に経験した両親の離婚が元になっているそうです。
なのでウォルトは彼の分身だということになりますが、
それだけにリアルで、救いもなく、これといった解決もなされません。
いつまで経っても両親は変わらない。
そのあいだに立って、どちらに付くとか付かないとかいう次元でもなくなってくる。
一番楽しかった思い出を考えたとき、思い出すのは憎かったはずの母親との思い出だったりする。
そこで、怖かった"イカとクジラ"のジオラマをもう一度、この目で見ようとする。
そうすることで彼は一歩成長する・・・のかも知れません。

これまでなんとなく気が弱くマジメなオジサンというイメージだったジェフ・ダニエルズですが、
ヒゲをたくわえ、コーデュロイのジャケットを着ると、
あっという間にインテリ作家になってしまってるのがスゴイ。
とことんサイテーで情けない父親を演じています。
ローラ・リニーはいつもの愛らしい笑顔はほとんど見られず、
子どもを愛しながらも、でも自分も大切という、こちらも成長していない母親を演じています。
兄ウォルトを演じるジェシー・アイゼンバーグは、実際にNY生まれらしく、
早口で神経質そうで、自分も傷つきながらも簡単に相手を傷つける高校生になりきっています。
そして弟フランク役のオーウェン・クラインが素晴らしい。
彼はなんとあのケヴィン・クラインとフィービー・ケイツの息子!
似ているような、似ていないような・・・でも演技力はしっかり受け継いでいるようです。


The Squid and the Whale(2005 アメリカ)
監督 ノア・バームバック
出演 ジェフ・ダニエルズ ローラ・リニー ジェシー・アイゼンバーグ オーウェン・クライン
   ウィリアム・ボールドウィン アンナ・パキン ヘイリー・ファイファー ケン・レオン



イカとクジラ

イカとクジラ

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: DVD



タグ:映画
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コメント 2

ken

かなり生々しい設定と脚本がとても気に入りました。
世の中の男が全員、ベッドにブラとパンティを並べるかというと
答えはNOですw
それはともかく、オーウェンの芝居は抜群でしたね!
by ken (2008-05-04 01:22) 

dorothy

kenさん、コメント& nice!ありがとうございます。
ええっと、ベッドの上に〜の件、ちょっと安心しました。
オーウェンくん、よい子に育って欲しいです。
by dorothy (2008-05-04 02:44) 

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